トウモロコシが風にそよぎ、(トウモロコシで育った)ホットドッグがグリルで焼かれる。夏になると、アメリカでは農業が話題の中心になります。夏の間、米国の穀物や油糧種子は天候、作付、収穫、貯蔵といった要因から影響を受けるため、この季節は一年で最も市場の変動が大きくなります。
畑作物の季節性とボラティリティ
トウモロコシや大豆などの畑作物は季節性があり、年間を通して需給に基づく周期的なパターンがあります。米国では、トウモロコシと大豆は春に種が蒔かれ秋に収穫されます。実際の種まきと収穫の時期は、その年の気象条件によって異なります。
CMEに上場のトウモロコシ先物には、3月限、5月限、7月限、9月限、12月限があります。この上場サイクルは、作物の生育のサイクルと重要な関係があり、通常は収穫が11月となるため、12月限の先物はその年の新作物が対象になります。というのも、12月限先物で現物受渡しとなる大部分がその年に収穫されたものだからです。一方、7月限先物は、「旧作」の最終受け皿とみなされており、その現物の受渡し対象となる穀物は前年の秋に収穫されて貯蔵されていたものです。新作物を対象とする先物限月に対して前年の収穫物を引き渡すことは可能ですが、その年の供給全体に占める割合は小さいため、最新の収穫量がトウモロコシ価格に最も大きな影響を与えます。良い収穫を得るには、真夏の「開花期(silking)」や「登熟期(doughing)」の安定した気候条件が不可欠です。
米国における穀物生育段階:トウモロコシ
大豆先物の限月は、1月限、3月限、5月限、7月限、8月限、9月限、11月限です。大豆の生育に重要な開花とさやの着生は7月から始まり、全国的に8月末には終了します。大豆の収穫はほとんどが10月に行われ、大豆先物11月限がその年の新作物となります。大豆の先物価格は、旧作物の鮮度が落ち供給が逼迫する夏のシーズンにピークを迎える傾向があります。
米国における穀物生育段階:大豆
夏の間に旧作物の在庫が減少するにつれて、生育段階にある新作物の成長度合いの重要度が増してきます。気温や降水量などの気象条件は特に、作物の生育と収穫に大きな影響を与えます。播種から収穫までの期間に予想外の干ばつ、洪水、酷暑などに見舞われると、大豆の供給へ甚大な影響を及ぼし、先物価格のボラティリティも急騰します。
新作物を対象とする限月の価格変動は旧作物対象の限月とは異なる動きをします。例えば、夏の異常気象は直近の収穫に影響を及ぼすため、その影響は旧作物よりも新作物の限月の方が大きくなることがあります。ただし、その異常気象が河川交通を妨げてしまう場合は原資産の運搬に支障をきたすため、旧作物の限月にも影響が及ぶ場合があります。
トウモロコシと大豆の先物のボラティリティが高い時期は、一年のうち第2四半期と第3四半期の間、すなわち6月後半から7月初旬にかけてです。オプション価格のインプライド・ボラティリティから算出されるボラティリティ指数(CVOL)の週次平均を見ると、足元ではトウモロコシ先物(CVL)も大豆(SVL)も 昨年の週次平均と同じ水準で推移しています。昨年はいずれの指数も6月に大きく上昇し、年半ばにピークに達しました。
CVOLの週次平均推移:トウモロコシ(CVL)と大豆(SVL)
ボラティリティがピークに達する6月後半は、USDA(米国農務省)による「作付面積報告書」の発表と時期が重なりますが、このレポートはアメリカ全土の農家が行った作付面積の確定推計であり、USDAが年間に発表する報告書の中で最も影響力があるものです。それに先立ち3月の最終営業日に発表される「作付計画報告書」には、今期栽培する主要作物の作付予定が載っており、後日発表される作付面積報告書を見れば計画の進捗度合いがわかるようになっています。アナリストの事前予想が報告書の公表後の価格に影響を与えるのは、他の多くの経済指標の場合と同じです。つまり、実際の作付面積がアナリスト予想を下回ると価格に上昇圧力がかかり、予想を上回ると価格下落圧力がかかる傾向にあります。
作付決定に密接に関係する天候とその結果生じる作物の生育状況は、当然のことながら夏の時期のボラティリティを高める主な要因となっています。米国海洋大気庁(NOAA)は、今年も全米各地で平均を上回る気温になると予測しています。
シーズン見通し:2025年6月-8月期
近年では秋になると、猛暑とそれに伴う干ばつのためミシシッピ川の水位が記録的な低さとなり、国内で最も重要な内陸水運による穀物輸送に支障が出ています。今年も、乾いた川底の記憶がまだ新しい中、多くの注目が川に集まっています。
その他需給要因
季節性と生育期のリスクは、畑作物のマーケットにとって極めてファンダメンタルな要因ではありますが、それも需給に絡む一因でしかありません。
過去5年の生育サイクルの中で、トウモロコシの年間総消費量のうち、12~19%を輸出が占めていました。輸出の需要は相手国との貿易関係次第の面がありますが、2025年は関税の問題にすべての視線が注がれています。また、米国のトウモロコシはその大部分が国内生産ですが、バイオ燃料に対する政策もトウモロコシの需要を見極める上で重要です。2024年から2025年にかけての販売年度で見ると、国内の消費量の約36%はバイオマスエタノールの生産に使われており、この比率は自動車用燃料の混合義務や国際航空燃料をめぐる方針およびエタノール製造施設のキャパシティなどの影響を受けます。
穀物と油糧種子のファンダメンタルに関する詳細な分析は、こちらの商品分析とコメントをご覧ください。
相場観による取引や精緻なヘッジに
当社の農産物分野の先物・オプション商品は、ボラティリティの高まる時期においても、繊細な相場観を表現したり、精緻なリスクヘッジをかけたりすることのできるツールです。たとえば、7月限のトウモロコシや大豆といった流動性の高い期近限月の先物は、短期的な相場の方向性に対応した取引が可能ですし、当社の新商品である差金決済型のマイクロトウモロコシ先物やマイクロ大豆先物では、同一のベンチマーク価格を10分の1の取引サイズで売買できます。新作物を対象とした商品としては、短期新作穀物オプションや週次新作穀物オプション、ならびに通常の11月限大豆先物や12月限トウモロコシ先物に対して決済される従来型の新作穀物オプションがあり、これらを利用して生育状況を見ながら新作物に対するポジションを構築することも可能です。さらに、月曜から金曜まで利用可能な期近限月のトウモロコシおよび大豆先物オプションを利用すれば、オーバーナイトの流動性リスクも効果的に管理することができます。リスクプロファイルや相場観にかかわらず、詳細はこちらでご確認ください。