ストラングル、アイアンコンドル、ストラドルは個人トレーダーの間で広く利用されている代表的なオプション戦略です。トレーダーは通常、満期まで30~40日ほどあるオプションのプレミアムを売り、原資産株価の変動や満期接近に応じてスプレッド・ポジションを管理します。
しかし、米国のオプション市場の多くは夜間に取引が行われないため、トレーダーは企業の発表や地政学的イベントなどの時間外の出来事によって生じるガンマリスクにさらされます。こうしたイベントで原資産株価が大きく変動すると、取引終了時点ではデルタ・ニュートラルに近かったポジションでも、各オプションレッグに対するガンマの影響で大きなデルタ・エクスポージャーを抱える可能性があります。
解決策の一つとして、個別株先物が挙げられます。個別株先物は週5日、ほぼ24時間取引が可能であるため、現物株オプション市場が閉まっている時間帯でもデルタ・エクスポージャーを管理できます。本稿では、TSLAの現物株オプションを用いたショート・ストラングルを例に、その活用方法を説明します。
なお、本稿のオプション戦略の分析には、米国の主要オプション取引所のウェブサイトで提供されているオプション計算ツールを使用しました。また、計算結果の妥当性を確認するため、米国のブローカー・ディーラーが提供するリアルタイム価格も参照しています。
仮想ポジション:本稿で取り上げるTSLAの仮想ポジションでは、満期日を5月29日とし、権利行使価格430のコールを5枚売り、権利行使価格330のプットを5枚売るショート・ストラングルを構築します。
図1: 引け前におけるテスラ株オプションのショート・ストラングルのデルタ・エクスポージャー
| 約定時 | 原資産 | 373.24 | 満期までの日数 | 36 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 数量 | コール/プット | デルタ | ガンマ | ロー | セータ | ベガ | 理論プレミアム | |
| -5 | プット | 0.79 | -0.03 | 27.86 | 304.30 | -144.83 | 22.07 | |
| -5 | コール | -0.84 | -0.03 | -29.34 | 324.40 | -141.05 | 20.98 | |
| ポジション | -0.05 | -0.05 | -1.48 | 628.70 | -285.88 | 43.05 |
出典:CMEグループ
- 約定時点で、ポジションはほぼデルタ・ニュートラルです。
- プットのデルタは約16、コールのデルタは約17です(上記のデルタ値は5枚の契約を反映した数値です)
- この仮想取引で、43.05(4,305.00ドル)のプレミアムを受け取ります
ここで、現物株式市場および現物株オプション市場の取引終了後に、テスラ社が発表を行い、結果として株価が4%下落すると仮定します。
本例では、以下の前提条件も置いています。
前提条件1:テスラ先物(STSLA)の価格には、付録の計算に基づく仮想的な値を使用し、約定時点の価格を376.70としています。また、先物価格の下落率は原資産株式の下落率と同じであると仮定しています。
前提条件2:株価下落に伴い、インプライド・ボラティリティが上昇すると仮定しています。
同じオプション計算ツールを用いて、価格の4%下落とインプライド・ボラティリティの上昇以外のすべての入力条件を同一に保ったまま分析を行いました。その結果、理論値は以下のとおりです(図2を参照)。
図2:時間外の発表後におけるショート・ストラングルのデルタ・エクスポージャー。
| 株価が4%下落すると仮定 | 原資産 | 358.31 | 満期までの日数 | 36 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 数量 | コール/プット | デルタ | ガンマ | ロー | セータ | ベガ | 理論プレミアム | |
| -5 | プット | 1.25 | -0.03 | -40.91 | 404.48 | -186.08 | 39.18 | |
| -5 | コール | -0.50 | -0.02 | 17.14 | 231.82 | -105.16 | 11.42 | |
| ポジション | 0.75 | -0.05 | -23.77 | 636.30 | -291.24 | 50.60 |
出典:CMEグループ
この価格下落により、次の影響が生じています。
- プットの価値上昇幅がコールの価値下落幅を上回った結果、このポジションの理論上の損益は43.05 - 50.06 = -7.01となり、701ドルの損益悪化となっています。
- さらに、ガンマの影響により、ポジションのデルタはほぼデルタ・ニュートラルの状態から0.75へ変化しており、株価のさらなる下落に対するエクスポージャーが高まっています。
トレーダーはどのような対応が可能か?
個別株先物はほぼ24時間取引できるため、オプション市場が閉まっている時間帯でも、このポジションに対してテスラ先物(STSLA)を1枚売ることができます。ポジションのデルタは0.75から-0.25へ低下します(テスラ先物1枚の契約サイズは100株であるためです)。
図3:テスラ先物(STSLA)を利用した時間外における戦略のデルタ・エクスポージャーの軽減
| TSLA先物を361.77で1枚売り | 原資産 | 358.31 | 先物 | 361.77 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 数量 | コール/プット | デルタ | ガンマ | ロー | セータ | ベガ | 理論プレミアム | |
| -5 | プット | 1.25 | -0.03 | -40.91 | 404.48 | -186.08 | 39.18 | |
| -5 | コール | -0.50 | -0.02 | 17.14 | 231.82 | -105.16 | 11.42 | |
| -1 | 先物 | -1.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | |
| ポジション | -0.25 | -0.05 | -23.77 | 636.30 | -291.24 |
出典:CMEグループ
ここで、市場がさらに3%下落したと仮定します。
図4:TSLA先物のショートポジションにより時間外での追加の3%下落を軽減。
| さらに3%下落したと仮定 | 原資産 | 347.56 | 先物 | 351 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 数量 | コール/プット | デルタ | ガンマ | ロー | セータ | ベガ | 理論プレミアム | ||||
| -5 | プット | 1.67 | -0.04 | -53.38 | 482.77 | -199.00 | 61.69 | ||||
| -5 | コール | -0.39 | -0.02 | -12.64 | 191.19 | -78.19 | 8.34 | ||||
| 先物なし | 1.28 | -0.05 | -66.01 | 673.95 | -277.19 | 70.02 | 理論損益 = | -26.975 | $ (2,697.50) | ||
| -1 | 先物 | -1.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | |||||
| 先物あり | 0.28 | -0.05 | -66.01 | 673.95 | -277.19 | 10.77 | 理論損益 = | -$2,697.50+$1,077 | $ (1,620.50) |
出典:CMEグループ
図3の表から分かるように、テスラ先物(STSLA)のショートポジションは、追加的な株価下落で生じる潜在的な損失の一部を軽減しただけでなく、ポジション全体をよりデルタ・ニュートラルに近い状態に維持する効果ももたらしました。
付録
ベーシス計算の概要
スポット価格が373.24ドルの場合のテスラ先物(STSLA)の理論価格はコスト・オブ・キャリー(Cost of Carry)モデルで算出しました。テスラは現在配当を支払っていないため、先物価格はスポット価格と契約期間中の無リスク金利に基づいて決定されます。
変数
2026年4月27日時点の市場データに基づく前提条件は以下のとおりです。
- スポット価格($S$):373.24ドル
- 無リスク金利($r$):約3.69%(米国3カ月物国債利回り)
- 配当利回り($d$):0.00%
- 満期までの時間($T$):変動 (通常は3カ月、6カ月または12カ月)
計算式
先物価格の算出には連続複利ベースの以下の計算式を使用しました。
$$F = S \times e^{(r - d)T}$$
仮想的な先物価格
先物価格は契約期間の長さに応じて以下のように変化します。
| 契約期間 | 期間(T、年換算) | 無リスク金利(r) | 仮想的な先物価格 |
|---|---|---|---|
| 3カ月 | 0.25 | 3.69% | $376.70 |
| 6カ月 | 0.50 | 3.71% | $380.23 |
| 1年 | 1.00 | 3.68% | $387.23 |
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