大型株が小型株をアウトパフォームする理由

1979年に取引が開始されて以来、小型株指数のRussell 2000指数は、中型株・大型株指数のRussell 1000指数とS&P500®指数の両方に、大方のパフォーマンスを同調させて来ました(図1、2)。ただし、過去40年に渡って小型株と大型株のパフォーマンスは全体的に同調したものであった一方、2020年初めの4ヶ月には小型株が大型株を5%近くアンダーパフォームするなど、両者の同調性に過去、大きな変化が生じた期間がなかったわけではありません。

図1:1979年以来、S&P 500® 指数とRussell 2000指数のパフォーマンスは同様だった

図2:Russell 1000指数とRussell2000指数の全体的なパフォーマンスは4年間、同様だった

2020年以前、厳しい経済環境の下では、小型株がアウトパフォームする場合も多く見られました(図3)。

  • 1979-82:高インフレと金利の大幅な変動、さらに景気後退が二番底に向かう局面で、失業率は5.5%から10.8%に上昇しました。こうした局面で、Russell2000指数はS&P500®指数を、76%もアウトパフォームしています。
  • 1990年-93年:Russell2000指数は景気後退の期間中、そしてそれに続いたS&L(貯蓄貸付組合)危機や湾岸戦争を背景に景気回復が遅れる中にあって、S&P500®指数を48%アウトパフォームしています。
  • 1999年-2013年:Russell 2000指数は、2001年9月11日の「ITバブル崩壊」、2つの戦争、世界的な金融危機、そしてどちらかと言うとかなり遅い景気回復を背景としたこの期間に、S&P500®指数を114%アウトパフォームしたのです。こうした小型株の力強いパフォーマンスには、例えば、2003年-07年の景気拡大がピークに達したことを受けた2005年から2007年の様に、それが途切れている時間帯も見られます。  

図3:経済環境が厳しい時間帯では、小型株が大型株をアウトパフォームする場合が多い

景気の拡大期には、大型株が小型株をアウトパフォームする場合が多く見られます。2003年-07年の景気拡大・晩期にも、短期間にアウトパフォーする場面を見せていますが、以下に示した注目すべき3つの局面では、一段と優れたパフォーマンスを残しています。

  • 1983年-90年: 1980年代の好景気を背景に、S&P 500®指数はRussell 2000指数を91%アウトパフォーム
  • 1994年-99年: 1990年代の景気拡大を背景に、S&P 500®指数はRussell 2000指数を92%アウトパフォーム
  • 2013年-20年:2010年代の景気回復期・後期、S&P500®指数は2019年12月末までに、Russell2000指数を29%アウトパフォームし、その後、2020年初めの3か月で、さらに20%アウトパフォーム

Russell2000指数とその姉妹指数であるRussell 1000指数の間でも、この指数とS&P500®指数では採用銘柄の重複が多いことから、パフォーマンスのパターンは同様となっています(図4)。興味深いのは、2020年のここまでの段階で、どうして小型株は大型株に大幅に出遅れているのか、と言うことです。

図4: 景気の拡大期には多くの場合、大型株が小型株をアウトパフォームしてきた

可能性の1つは、業種に対する加重が、両指数で大きく異なっていることです。中・大型株を採用するRussell 1000指数に比べ、Russell 2000指数ではテクノロジーに対する加重が低く設定されています(12.4% vs 23/5%)。同様に、Russell2000指数では、一般消費財と生活必需品への加重も低くなっています。一方で、金融サービスやヘルスケア、素材、工業株(Russellでは「producer durables(耐久財生産者)」と呼ぶ)などの業種への加重は、高く設定されています。その他の業種については、両指数の加重割合は同様です(図5)。

図5:小型株では、ヘルスケアや金融サービス、ITへの加重が低い

結果的に、業種への加重の違いで小型株がアンダーパフォームしている事実を説明するのは難しい、と言えます。Russell1000指数の加重をRussell 2000指数の業種に適用し、業種への加重をRussell 1000指数と同じにして、Russell 2000指数の仮説上のパフォーマンスを計算すると、業種への加重をRussell1000指数と同様にした仮説Russell 2000は、ほぼ同じパフォーマンスとなります(図6)。言い換えると、2020年の最初の4ヶ月間に小型株が大型株をアンダーパフォームしている理由を、業種への加重の違いによって説明できるのは、ほんの一部(10%)に過ぎない、と言うことです。

図6:Russell1000指数と2000指数の業種加重の違いでは、パフォーマンスの差を説明できない

実際、年初から5月5日までで、Russellの業種では、9業種中8業種に対して、小型株はアンダーパフォームしています。指数がアウトパフォームしている業種は公益だけで、それもたった0.9%に過ぎません。他の全ての業種に対しては、小型株が中・大型株をアンダーパフォームしていて、例えば一般消費財に対して37%、テクノロジーに対して12%、金融サービスに対して10%など、業種によっては大きく差を開けられる結果ともなっています。

図7:Russell 2000指数は、9業種中8業種にアンダーパフォームしている

2020年5月5日までの段階で、小型株の業種はほぼ全て、中・大型株よりも大きな打撃を受けています。抱くべき疑問は、何故かです。経済封鎖による影響は、小型株の方が中・大型株よりも大きかったのでしょうか?または、ボラティリティーの高まりや原油価格、金利の動向など、特定の市場要因が悪材料となったのでしょうか?

こうした疑問に答えるため、Russell 2000指数とRussell 1000指数の1日あたりの価格収益率の違いを、次の4つの要素で回帰分析しました。

  1. S&P500® 指数オプションから算出されるボラティリティーを指数化したVIX指数の日中変化
  2. WTI原油の日中価格(期近限月で、取引最終日から10日前に次の限月に移行)変化
  3. 米国2年債利回りの日中変化
  4. 米国2年債-10年債の利回り差における日中変化

VIX指数が上昇した日には、大型株がアウトパフォームする傾向があり、その逆も同様です。VIX指数が1ポイント上昇すると、Russell1000指数を2000指数が、平均して7bpt(ベーシス・ポイント)アンダーパフォームしています。大きな差には思えないかもしれませんが、VIX指数は14ポイントから85ポイントまで上昇し、本稿で使っているモデルによると、Russell2000指数は1000指数を、最大で4.5%もアンダーパフォームする結果になっています。従って、2月19日から3月23日までの間に発生した株式市場の下げで、小型株が中・大型株よりも大きな不振を見せたのは、小型株の流動性が低かったからで、買いを誘発するため、価格下落は大きくなる必要があったと考えられます。一方で、株式市場が3月に底打ちして以来、およそ85ポイントでピークを打ったVIXは、5月初めの段階で31ポイントまで低下しています。それでも、小型株は大型株との差を埋め切れていません。

金利要因は、Russell 2000の小型株とRussell 1000の大型株の間の差異について、そのごく一部を説明するに過ぎません。ただ、金利の低下は小型株にとって、より好材料となっているようです。

しかし、全体的には、小型株が中・大型株をアンダーパフォームしている理由について、ここでの回帰分析が説明しているのは10%ほどに過ぎません。業種への加重が異なることを付け加えても、残りの80%は説明できないのです。従って、結論としては、小型株が全体として、COVID-19危機、そしてそれに関連したロックダウンにより、中・大型株よりも大きな打撃を受けている、ということになります。

金融市場において、過去は必ずしも未来の前兆ではありません。ただし、過去の厳しい経済状況では、小型株がそうした危機を乗り越え、景気回復の初期段階に素早く反応したのは事実です。1990年や2001年、2008年-09年など、過去3度の景気後退の全てで、小型株にはそうしたパフォーマンスが見られました。しかし、現在のパンデミックは過去の状況とは大きく異なります。今回は、経済への外因性ショックと人道危機によって、経済活動の急激な落ち込みがもたらされています。過去3度の景気後退は内因性であり、金融の不均衡、そして恐らく、景気後退に至る以前の過度にタイトな金融政策が背景となっていました。これらの景気後退は、数週間ではなく、数か月、数年にわたって発生し、企業の規模を問わず、これに適応するための時間が与えられました。従って、これからやってくる景気回復に向けて、小型株が中・大型株をアウトパフォームできるかは、まだ分からないと言えます。


 

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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