FRBによるボラティリティ抑制の有無について

インプライドボラティリティは、3月のピーク以降、国債、株、通貨および貴金属を含む幅広い市場において大幅に縮小しています。一部の資産クラスにおけるインプライドボラティリティは、コロナ以前の過去最低水準に戻りました。他の多くについては、3月の高水準は十分に脱しているものの、依然として注目に値します。

米国債の満期10年以下のイールドカーブについては、インプライドボラティリティは、依然の低水準に戻っています(図1・図2)。6月上旬までに、2年、5年および10年債のオプションは、米国でコロナが発生する以前の昨年12月と今年1月に近い水準で取引されました。FRBによる直接的な短期金利の管理を勘案すれば、これについて合点がいくでしょう。FRBは、景気回復に伴う低金利の維持を示唆し利上げを警戒する投資家に安心感を与えることによって、短期金利のボラティリティを管理してきました。加えて、FRBの量的緩和を通じた国債の大量買入れによっても、ボラティリティが抑制されてきました。

対照的に、30年満期のインプライドボラティリティは、以前より大幅な高水準にとどまっています。FRBが当面低金利を維持することで市場に安心感を与えることが可能である一方、こうした安心感は、カーブ上で10年のポイントを超えるものについては、影響を及ぼしません。加えて、FRBによる超長期債の買入れがなされる一方、今後市場に投入される米国長期債の大量供給分を量的緩和による買入れによって吸収することは不可能でしょう。なぜなら、米国の財政赤字が今後数か月で5%から20%を超えると予想されているためです。イールドカーブのショートエンドにおけるオプション投資家は、FRBによる2年、5年、10年物イールドの抑制に合理的な自信を持っていますが、30年債については異なります(図2)。

図1:以前の水準に戻った2年、5年債インプライドボラティリティ

図2:10年物債券オプションのインプライドボラティリティがコロナ以前の水準に戻る一方、30年物は戻らず

おそらく驚くべきことではありませんが、S&P500® やNASDAQ 100といった株式市場指数のオプションも、これまでの水準をはるかに上回っています(図3)。これらは3月の高水準から大幅に下落したものの、コロナ以前の2~3倍の水準にとどまっています。重要点として、株式指数のインプライドボラティリティがコロナ以前の概ね2.5倍の水準にあるのみでなく、株式市場が2月から3月にかけての損失の大半を取り戻しているにもかかわらず、高水準にとどまっていることが指摘されます。

株式市場が将来のキャッシュフローの価値を現在の状況に織り込もうとする限りにおいて、高い株式指数ボラティリティと30年債オプションの原因は、同じ場所から生じている可能性があります。株式市場の反発の大部分は、長期債イールドの急落に起因した可能性があります。これによって将来の配当、収益、その他のキャッシュフローの正味現在価値が上昇しました。より簡単に言うと、カーブ全体における債券イールドの下落によって、株式・その他の投資に対する債券の魅力が減少しました。30年債のイールドがもし急上昇した場合、株式市場に対する重要な下支えが失われかねません。

図3:コロナ以前を大幅に上回る水準で推移する株式指数インプライドボラティリティ

貴金属および通貨市場についても同様の状況となっています。株式指数先物と30年物国債と同様に、そのオプションのインプライドボラティリティもまた、直近の高水準を脱した一方で以前の水準を大幅に上回っています(図4~図7)。株式同様、金および銀も金利に反応しています。どちらも通貨に準ずるものとして、低金利の恩恵を受けます。貴金属も量的緩和に敏感に反応します。2009年から2011年にかけて実施された二度の量的緩和ラウンドによって、金および銀の価格が高騰しました。ただし、2012年から2013年においてとりわけFRBによる資産買入れの先細りが明らかとなったため、三度目の量的緩和はそれ以前の効果に及びませんでした。

図4:コロナ以前を大幅に上回る水準で推移する金・銀オプションのインプライドボラティリティ

図5:コロナ以前の概ね1.5倍の水準で推移するユーロ・ポンドオプションのインプライドボラティリティ

より大局的な観点での疑問もあります。FRBや他の中央銀行は、金融資産におけるリアライズドまたはインプライドボラティリティの水準をどのように見ているのでしょうか。金融資産における高いボラティリティは、経済成長の足かせとなります。オプションのインプライドボラティリティとは、結局のところ、投資家の先行き不透明感を反映したものです。将来の景気・金融の先行きに対する投資家の見通しが不透明であるほど、長期的な案件への資金のコミットが難しくなります。加えて、株または債券による市場での資金調達を望む企業にとって、価格の大幅なブレは資金調達をさらに困難なものとします。

以上のとおり、過去30年の景気後退局面において、FRBが金融緩和政策をもってボラティリティを抑制する傾向にあったことは、驚きに値しません。こうした手法は、金融システムへの流動性供給によるボラティリティ引下げと見受けられます。市場が流動性に富んでいれば、買い手・売り手双方とも取引が容易となり、大口注文の執行における価格の影響も抑えられます。注文執行のために価格を変更する必要がない場合、ボラティリティは縮小する傾向にあります。

図6:以前をわずかに上回る水準で推移するスイスフラン・日本円オプションのインプライドボラティリティ

図7:以前を大幅に上回る水準で推移する豪ドル・カナダドルのインプライドボラティリティ

過去30年間にわたり、株式指数オプションにおけるインプライドボラティリティの水準と金融政策との関係性において、完全なサイクルが三度見られました。このサイクルをより簡易に観察するため、インプライドボラティリティの2年移動平均と10年債イールドおよび3か月物国債の金利差の2年移動平均に着目します。4つの部分にサイクルを分割します。

  1. 景気後退:高水準かつ上昇傾向にあるボラティリティが特徴であり、例外的に平坦・反転したイールドカーブが最初に生じ、中央銀行の緩和政策に伴いスティープ化します。これは、1990年から1991年にかけて、2001年、2008年および2020年のケースです(図8から図10)。
  2. 初期段階における景気回復:こうした傾向は、金融緩和政策(スティープ化したイールドカーブ)および高水準にあるものの徐々に下落水準となるインプライドボラティリティによって特徴づけられる傾向があります。これは、1992年から1993年にかけて、2002年から2004年にかけて、および2009年から2012年にかけてのケースです。
  3. 中期段階における景気拡大:景気拡大の中期段階は、スティープ化したイールドカーブと低水準のボラティリティによって特徴づけられる傾向があります。こうした特徴は、1994年から1995年にかけて、2004年から2006年にかけて、および2013年から2016年にかけて見られました。
  4. 最終段階における拡大:ボラティリティが抑制され失業率が下落する中、中央銀行による金融引締めが開始します。最終段階における拡大は、フラット化するイールドカーブと低水準であるものの上昇傾向にあるインプライドボラティリティによって特徴づけられます。米国は、1980年代、1997年から2000年にかけて、2006年中盤から2007年にかけて、および2017年から2019年にかけて、拡大の最終段階にありました。

図8:1990年から2000年にかけて生じた最初のインプライドボラティリティのサイクル

図9:2000年から2008年にかけて生じた第2のサイクル

図10:2009年に始まった現在のサイクル

2020年の景気後退は、従来の景気後退とは異なり、過剰な緊縮政策や経済不均衡ではなく、パンデミックによる外因的なショックによって生じました。パンデミックの発生前であってすら、債券市場は明らかに懸念を呈していました。イールドカーブがさまざまなセグメントで逆転したことは、2018年第4四半期までさかのぼります。FRBは、金利上昇が行き過ぎであるとの市場の見解がある中で、2019年に金融緩和政策を実施しました。2019年には成長率が3%から2%に下落し、2020年2月には景気後退局面に突入しました。

市場にとってより喫緊の問題は、FRBの金融政策によってボラティリティの水準が堅調かつ持続可能な経済成長と合致する程度にまで回復するか否かです。ロックダウンの緩和に伴い景気の反発を期待する向きが大半であるものの、さらに成長を加速する上で金融政策は十分な役割を果たし得るでしょうか。これは幾分理解し難い質問に思えます。FRBは金利をほぼゼロにまで下げました。FRBは、国債や住宅ローンに主眼を置いたこれまでの資産購入政策と比して、信用の質の点でより優れた大規模な量的緩和計画を実施しています。今回は、地方債や社債も対象となっています。

こうした行動によってオプションのインプライドボラティリティとリアライズドボラティリティの両方が圧迫される理由があります。住宅ローン、地方債及び社債には、本来ショートプットオプションが備わっています。本来、これらの債券は住宅所有者、地方自治体または企業の債務不履行に対するショートプットオプションの点で、米国債に類似しています。したがって、FRBが債券を買い入れることはボラティリティの短縮と保険証券の発行、その過程での米国債プレミアムの徴収を暗示します。

しかしながら、FRBの金融政策は、他の措置によって緩和的とは見られていません。まず、公共・民間の両部門のイールドカーブは、もはや逆転しない中にあって、過去の景気低迷時のようにスティープ化していません。1991年から1993年にかけて、および2009年から2015年にかけて、3か月物と10年物の金利差は、300~400bpsとなることもありました。現在は、公共部門のイールドカーブは100bps程度、ICE LIBORとスワップの間では30bps程度となっています(図11)。これは景気回復に対する楽観的な見方を示すイールドカーブには見えません。

図11:過去の景気回復時と比較してとりわけ平坦な米国の3か月・10年物イールドカーブ

信用スプレッドからも経済成長に対する複雑な兆候を見ることができます。3月初旬には、米国債に対する高イールド債のスプレッドが世界金融危機以降の最大幅に達しました。以後、株式市場は損失の大半を回復しFRBはその資産買入計画に社債の買入を含め、スプレッドが縮小したものの、2001年から2002年にかけての景気後退局面における水準には程遠い状態にあります。2020年6月3日には、クレディ・スイス高イールド指数オプション調整済みスプレッドが同等の満期の米国債の5.6%の水準に達しました。これまでは堅調な景気回復ではなく、緩やかな景気拡大と歩調を合わせていました。

図12:縮小したものの未だ堅調な成長には至らない信用スプレッド

高イールド債券市場が過去25年間にわたり、株式指数オプションのインプライドボラティリティのように、米国の金融政策との循環的関係にあることは重要な点です(図13および図14)。景気後退は、平坦かつスティープ化したイールドカーブと幅広い信用スプレッドによって特徴づけられる傾向があります。景気回復の初期段階は通常、幅広いものの縮小しつつある信用スプレッドとスティープ化したイールドカーブによって特徴づけられます。中期段階では、信用スプレッドとスティープ化しているもののFRBの利上げを見越して平坦化しつつあるイールドカーブが縮小します。最後に、景気回復の最終段階は通常、平坦化したイールドカーブと縮小しているものの拡大しつつある信用スプレッドによって特徴づけられます。

図13:S&P 500®オプションのボラティリティサイクルに類似する信用スプレッドのサイクル

図14:FRBの量的緩和による投資適格社債の買入によって制限されるスプレッド拡大

今回、FRBは少なくとも当面の間、信用スプレッドを抑制している様相です。しかし、今回の特殊な景気後退の全体像は未だ把握しきれず、商品価格の下落や多くの従来型の店舗小売業者の苦境を考慮すると、信用スプレッド、とりわけ、3月以前には投資適格であったものの、以後格下げとなった「堕天使」–債券の買入を除いてFRBがこれまでのところ未踏である市場の高イールド部分の再拡大は排除できません。

他のさまざまな市場におけるオプションも同様のサイクルとなっています。米国債オプション、とりわけ30年物、金、銀について明白です(図15から図17)。

図15:S&P 500®オプションのサイクルに類似する30年物米国債オプションのサイクル

図16:ボラティリティ‐イールドカーブのサイクルをたどる貴金属オプション

図17:FRBの緩和によって近時の銀インプライドボラティリティの上昇は抑制されるか

FRBの金融緩和政策の実像が未だ不明瞭なままです。ゼロに近い金利政策と量的緩和はボラティリティ低下にとって十分でしょうか。ボラティリティを抑制する上で、過去に見られたようなスティープ化したイールドカーブは必要的な前提条件となるでしょうか。または社債、住宅ローンおよび地方債を含む多様な信用プロダクトの量的緩和買入は、米国において過去3度の景気回復局面が生じた1991年、2002年または2009年と同程度までイールドカーブがスティープ化したとしても、持続的なボラティリティ低下へと誘導する上で十分でしょうか。こうした疑問への答えを見出すには、今後数年間の動向を監視し、FRBの景気支援策がインプライドボラティリティを景気回復水準に戻す上で十分か否かを見極める必要があります。

結論

  • FRBの緩和政策によって2年、5年および10年債オプションのボラティリティは抑制されたと見受けられます。
  • 30年物債券オプションのインプライドボラティリティは、これまでの水準を大幅に上回っています。
  • 株式指数先物、貴金属及び通貨のインプライドボラティリティもコロナ以前の水準より大幅に上昇した状態にあります。
  • FRBによる緩和政策は持続可能な市場ボラティリティの低下に十分でしょうか。
  • ボラティリティ縮小のためにはスティープ化したイールドカーブが必要か、またはFRBの量的緩和は十分と証明されるでしょうか。

 

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本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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