【米国債】オプションの歪みは兆候か雑音か?

  • 15 Apr 2019
  • By Erik Norland

ほとんどすべてのオプション市場で、ある意味、自然な歪み(スキュー、訳注:各プットとコールのインプライド・ボラティリティから示唆されるリスク認識の偏り)がみられる。例えば、株価指数先物オプション市場では通常、アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)プットのほうがコールよりも割高だ。投資家は普通、株価の急騰よりも急落を恐れているからである。そのため、相場の上昇よりも下降に備えて、さらに支払おうとする。一方、農産物オプション市場では、逆の歪みが出やすい。例えば、トウモロコシ・大豆・小麦のオプションでは通常、OTMコールのほうがOTMプットよりも割高になる。農家が稀にみる大豊作で、こうした作物の価格が急落するのを恐れるよりも、食品を仕入れる業者が不作で暴騰するのを恐れているからだ。

その点、米国債オプションの歪みは、株式や農産物よりも風変わりである。普段は均等で安定している。少なくとも金融政策に両方向のリスクがあるとみられている場合は、そうだ。ところが、ゼロ金利政策、そして量的緩和策(QE)による米連邦準備理事会(FRB)のバランスシート拡大が相まって、5年物・10年物米国債オプションは明らかにネガティブに歪んでしまった(OTMプットのほうがOTMコールよりも割高になった)。これは2009年からFRBがQEプログラムの縮小を発表した2013年まで続いている。その後、米国債オプションのトレーダーは上方・下方リスクが比較的均衡していると認識するようになった(図1と図2)。ただし、この関係は長期米国債オプションでは弱い(図3)。短期金利とさほど密接な結びつきがなく、QEプログラムの主な対象とはならなかったからだ。現在、FRBの金利政策は中立である。あるいは、著しく引き締められているのかもしれない。特にFRBが金融緩和策を始めなければならないとすれば、上方リスクが増加していく可能性がある。

図1 5年物米国債オプションの歪みはFF金利とQEを追った

図2 10年物米国債オプションの歪みもFF金利とQEに追随している

本記事ではまた、もうひとつの疑問にも取り組んでいる――「オプションの歪み(リスクリバーサルとも呼ばれる)は米国債相場が上昇・下降する可能性の指標として役に立つだろうか?」。例えば、OTMプットのほうが相応のOTMコールよりも極めて割高となれば、米国債相場が下降する公算が大きいという兆候になるだろうか。それとも、米国債が売られ過ぎで反発する公算が大きくなった兆候となるだろうか。同様に、米国債先物コールのほうが、それに相応するプットよりも割高になった場合、概して米国債相場が上昇する公算が大きくなった兆候となるだろうか。それとも、米国債が買われ過ぎで尋常ではなく下げやすくなった警告となるだろうか。結局のところ、およそ過去10年にわたり米国債オプショントレーダーの見解には耳を傾ける価値があると分かった。

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図3 長期米国債オプションの歪みにはFF金利とQEの影響は弱いように見える

投資判断のために歪みに注目する

歪みの変化は米国債投資の将来的見返りについて何か教えてくれるだろうか。極めてネガティブな歪みは売買サインとなるだろうか。極めてポジティブな歪みについてはどうか。 

こうした疑問に答えるため、5年物・10年物・長期債で日々の歪みを過去2年間における程度で0~100に指数化し、その後3カ月のリターンを出して比較してみた。したがって、そこには先読みバイアス(訳注:未来のデータを使用した分析)はない。例えば、米国債オプションの歪みが過去2年で最もネガティブに偏っていれば、指数は0となる。一方、米国債オプションが過去2年間で最もポジティブに偏っていれば、指数は100となる。その結果を10段階に分け、それから3カ月、当該先物で運用(満期日の10日前に限月を乗り換えて再投資する)した場合の成績(2008年から2019年初めまで)を出してみた。 

この11年間にわたる結果には特筆すべきものがあった。オプショントレーダーは米国債相場の短期的好不調について価値ある警告を何度も発していたのだ。米国債オプションの歪みが異常にネガティブなとき、その先物は得てして不調だった。この関係は償還期間が長い米国債で特に強い(図4〜6)。また、米国債オプションの歪みが異常にポジティブなとき、その先物は得てして好調だった。ただし、上記の結果は割り引いて考えるべきである。他のいかなる分析同様、時間的な制約があり、過去の平均的な関係が将来も維持されると期待すべきではないからだ。とはいえ、オプションの歪みは、特にどちらかが極端な水準に大きく歪んだ場合、米国債トレーダーが(先物・現物・金利スワップの取引を専門とする人でさえも)ポートフォリオを管理するうえで考慮しておきたいものかもしれない。

図4 5年物米国債オプションの歪みが異常にネガティブなとき先物の成績は最悪だった

図5 10年物米国債コールのほうがプットよりも異常に割高だったとき先物の成績は最高だった

図6 長期米国債とオプションの歪みには最強の関係がある

要点

  • 株式や農産物のオプションとは異なり、米国債オプションには標準的な歪みがない。
  • 米国債オプションの歪みはQEとFF金利によって変わる。
  • 歪みが極めてポジティブであれば、得てして向こう3カ月のリターンは平均よりも良いという指標となった。
  • 歪みが極めてネガティブであれば、得てして不調期に近づいている兆候となった。

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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