次のリセッション: 3つの決定的なシグナル

次のリセッション: 警鐘を鳴らしているサインは?次のリセッションは、どんなものか?市場の反応は?10年にも及ぼうとしている米国の景気拡大期は、長期的なものとなっている。ただ、その終焉は、単に古くなったという時間経過によってもたらされるものではない。景気拡大の終焉には、消費とビジネスをスパイラルな縮小に導く、何かの切っ掛けが必要なのである。米国経済に関して言えばこれまで、膨大な債務負担の中での金利上昇、または、生み出せるフリー・キャッシュフローを大きく超えた企業評価、そのいずれか、または両方が重なり、これを契機としてリセッションが引き起こされるのが一般般的だった。さらに、貿易戦争や地政学的リスクなど、グローバルな経済成長を妨げる要因を加えれば、リセッションの契機となる条件が現状には充分に揃っていると言える。

ただ、リセッションを引き起こす条件の全てが満されたとしても、それを以て、リセッションが不可避であると言うことにはならない。実際、2018年の株式市場は現状まで、大過のない推移となっている。1月には急上昇したものの、インプライド・ボラティリティーはその後、株式、その他多くの関連金融プロダクトや貴金属などの市場で、歴史的な低水準にまで落ち込む結果となっている。その意味では、市場も、そして雇用情勢や消費者信頼感などのマクロ指標も、米国経済に対して少しの懸念も見せていない。

本稿では今回、三段階で議論を進めていく。最初に、リセッションが発生するリスクの示唆を吟味し、今後1年から2年の間に米国景気が後退期入りする可能性を評価する。これに関しては、リセッション発生に関するリスクは上昇しており、今後12ヶ月から24ヶ月の間に景気後退が発生する可能性は現状、33%を超えているというのが結論となっている。第二に、その発生を促進する要因を理解した上で、実際に発生する可能性があるリセッションの特性を想定する。これに関しては、金融市場がパニック状態となり、住宅ローン危機や金融機関の破綻が引き起こされた前回のリセッションとは全く異なるものになる、というのがここでの結論である。次のリセッションは、金利上昇と新興国通貨の混乱に加え、過剰評価された企業価値が修正される段階で、消費者信頼感と企業投資が急速に、そして相互作用的に失速する結果になった1990年代末のリセッションに類似すると考えられる。最後に、市場の反応を予想する- 株価修正、大規模な債務の下で上昇する債券価格、商品市場の軟調、さらに、米ドルが軟調推移に転換する可能性もある。

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迫り来る決定的な3つのシグナル

1) 利回り曲線

緩和的からニュートラルへと政策スタンスの変更を図っているFRB(米国中銀)は直近、政策金利の引き上げを続けている。現状、FRBからは今後も継続的に政策金利を引き上げる方針が示唆されており、ニュートラルを超えて、金利水準が引き締めの域に達してしまう現実的なリスクが存在している。

ニュートラルを超えて、引き締めの域まで金利水準が上昇する可能性を明確に示唆するのは、利回り曲線である。これまでFRBが短期金利を継続的に引き上げてきた一方で、長期債利回りはほとんど動かず、結果として、利回り曲線は例外的な平坦化に至る状況となっている。ニュートラルな政策スタンスの下での利回り曲線は、経済学的な見地からは、緩慢な正の曲線になると考えられる。ニュートラルな利回り曲線では、短期金利よりも長期金利の方がインフレ・リスクが高いことから、期間が長期化するほどリスク・プレミアムが高くなるからである。ただ、長期金利に連動して短期金利が上昇する状況は、短期で調達した資金を長期で貸し出すという金融機関のビジネスモデルの収益性を損なうことになる。また、短期の与信に依存する企業では、金利負担が上昇する。一方、消費者債務は特別に金利敏感であると言うことはないが、住宅ローンは敏感である。短期金利の上昇は変動金利(フロート)型の住宅ローンの妙味を失わせることになり、ローンの選択余地を縮小させ、新築住宅の購入における負担を増加させることになる。さらに、こうした経済的な圧力は、短期金利が長期金利の水準を上回るなど、利回り曲線が反転した場合(逆利回り曲線)、状況を一段と悪化させる。同時に、12カ月から24ヶ月の将来時点でリセッションが発生する可能性に関して、逆利回り曲線は特に有効な指標ともなっている。

図1: 金利引き上げの継続と金利がニュートラルな水準を超えるリスク

現状、本当に重要なのは、利回り曲線が平坦、または逆利回りになっていると言うことではなく、それが正の傾きになっていないことである。経済を形作る要因 – 政府や企業、消費者など – が金利のコスト変化に直面し、金利上昇の原因とは無関係に、こうした変化に対応しなければならないことから、利回り曲線の形が変わる原因にはあまり意味がない。ただ、FRBによる短期金利の引き上げを別にすると、現状まで、利回り曲線が平坦化してきている背景の1つとして、FRBの利上げペースに呼応した長期金利の上昇が見られなかったことがある。中央銀行による資産購入(QE)を背景に、欧州や日本でそれぞれの債券利回りが低迷していることから、米国の長期金利の上昇余地は限定的となっているのである。確かにその通りだが、原因が異なるからと言って、結果が異なるとは限らない。

そして、債務問題がある。世界最大の2つの経済圏である米国と中国では、債務残高が拡大しているのである。, 一方、欧州はこの限りではない。そして、債務の拡大が迫り来るリセッションを不可避とするわけでもない。実際、ある程度の債務拡大は、景気に好調さを維持していく上で必要でもある。問題は、債務残高が膨大であることで、金利上昇に伴って、その負担が大きく増加することである。債務残高の拡大は、金利上昇の下での経済の脆弱性を高めることになる。米国に限って言うと、連邦政府が債務を大きく拡大させている状況で金利が上昇すれば、政府予算を急速に拡大させることになる。2007年‐2008年、消費者や住宅市場では、債務残高が過剰な水準に達していた。その後、消費者は残高を縮小したものの、現状では、2008年当時の水準まで残高を再び拡大させている。米国内で自動車売り上げが失速し、住宅販売が低迷傾向となっている現状は、ある部分、金利の上昇と高水準になっている債務残高が影響していると考えられる。 

2) 新興国通貨の混乱

現状、新興国通貨が低迷していることに、大きな驚きはない。FRBが金融引き締めに踏み切ると、これまでもほとんどの場合、新興国通貨で問題が露呈する結果になっている。最も有名なのは、FRBのポール・ボルカ―議長(当時)が1979年から81年の間、大幅な政策金利の引き上げを断行した際である。南米諸国はその後、数10年に及ぶ深刻な不況に陥った。FRBによる1994年の利上げでは、その直後にメキシコ・ペソが急落し、その数年後にタイ・バーツを始めとするアジア通貨、さらにロシア・ルーブルへと通貨の暴落が拡大した。もちろん、新興国にとって、自国通貨の混乱は経済成長の大敵である。米ドル建てやその他の主要通貨建ての債務を維持することが、著しく困難になるからである。国内企業や消費者が支出を縮小することで、相互作用的に消費が落ち込んでいくことになる。多くの場合、新興国では政治的な不確実性が高い場合が多く、自国通貨の暴落を背景に緊急避難的な政策が乱発され、金利水準は青天井となる。一方、ここ数10年来、世界経済で新興国が占める割合は格段に上昇してきており、同時に、新興国が世界経済に及ぼす直接的な影響、さらに、主要工業国に至る連鎖的な影響も増加している。

図2: 次の新興国通貨危機は始まっているのか?

2009年から2016年までの間、市場では、新興国通貨の買いポジションを、米国や欧州、日本などのゼロ金利通貨で賄う取引戦略が横行していた。一方、FRBが既に政策金利の引き上げを繰り返し、さらに今後も引き上げを続けると見られている中、こうした(キャリー・トレードの)ポジションには急速な巻き戻しが発生している。

さらに、高い債務水準が、新興国市場に追い打ちをかける。例えば中国の債務残高は、先進国と並ぶほど膨大な水準に達している(図3)。一方で、中国は現在、この債務に対するレバレッジの低減化を進めようともしている。ただ、中国にとっての問題は、この低減化政策が全く機能していないことである。中国のレバレッジ低減化計画は基本的に、A(シャドー・バンキング、ノンバンク、地方政府)にある債務をB(通常の銀行システム、中央政府、家計のバランスシート)に移管させるものに過ぎない。もちろん、債務を移管しても、レバレッジの低減化を実現することはなきない。ただ、債務の管理は容易になる。一方、2018年9月に予定されている減税で、中国政府は景気の失速を回避しようとしているし、中央銀行である人民銀行は法定預金準備比率を引き下げ、銀行に貸し出しの拡大を促している。ただ、債務の現状と米国との貿易戦争によるコストを考慮すると、こうした政策で成長の鈍化を回避するのは難しいと思われる。最後に、現状の中国の債務水準については、地方政府の分を勘案した場合、対GDP比で10%から20%、さらに拡大する可能性がある。

図3: 中国の膨大な債務残高に加えて、その他の新興国市場ではレバレッジが拡大している

新興国市場における経済的な混乱と成長の鈍化は、工業用金属の価格低下という形で、その影響が明確に表面化している。2018年6月と7月、銅価格は20%近い下落を見せた。原油需要は現在までのところ維持されているものの、新興国通貨が低迷する期間、概して、原油価格は下押し圧力を受けやすい。

#3) 貿易戦争

1700年代、そして1800年代初期、貿易戦争は重大事だった。重商主義者は関税による国内経済の保護を主張したものの、自由貿易が経済理論で勝利し、その後も実質的に支配的な議論となっている。貿易問題は、1930年代の世界恐慌でも、大きな注目を集めた。世界的な不況がその深刻度を深めたのは、米国がスム―ト・ホーリー法を発動したことが主要因であるとする意見は現在、支配的となっている。最終的な資金の供給者としての役割を果たさなかったFRBが負うべき責任がより大きいとも思えるが、現状の貿易戦争に関して世界恐慌から引用できる示唆は多くないと思える。あったとすれば、現在の貿易戦争が確実にリセッションを引き起こす、と言う様な誤ったものであろうと想定される。

本稿ではもう少し控えめな視点から、米国が主導する現在の貿易戦争に関して、リセッションに関する2つのポイントを指摘しておきたい。1つ目は、貿易戦争によって企業の事業計画に支障が生じ、サプライチェーンの管理コストが上昇する可能性である。結果的に、企業収益は低下することになる(もちろん同様の状況は、数は少ないものの、特定の企業にとっては恩恵となる)。2つ目は、貿易戦争が中国経済に悪影響を及ぼし、その成長鈍化を助長することである。

現在の貿易戦争が単体で、例えば、米国での金利上昇や新興国の通貨混乱とは別の時点で勃発していたとすれば、それほど悲観的になる必要はないのかもしれない。また、課題を分析する際、エコノミストには全ての要因が変動しない(同条件前提)ことを前提とする傾向が強い。その意味で現状の貿易戦争は、最悪のタイミングで勃発していることになる。過去実績で考えると、米国経済は極めて良好であると考えられ、多少の貿易課題なら克服可能と思われる。しかしながら、政策金利の引き上げや新興国通貨の混乱などから、リセッションが発生するリスクは既に高まっている状況であり、これにかかる一段の負荷が非常に重要となる場合も想定される。その意味では、端的に言って、貿易戦争がリセッションの決定要因となる場合も想定できるのである。    

中国の景気失速や負債残高、新興市場におけるその他の状況は、既に懸念となっている。貿易戦争に関する本稿の要点は、その経済的な影響は、米国よりも、中国で大きく示現すると考えられる一方、中国の政治環境がこれに対して即座に対応できる状況ではないと言うことである。中国の長期的な目標は、世界で最も威力と影響力がある国に、再びなることとされている。米国との関係で妥協することは可能であるものの、中国のリーダーには米国と渡り合ったというイメージが必要であり、一方的で不利益なものではなく、交渉による互恵的な合意の樹立に固執すると考えられる。米中の貿易戦争に関する懸念は、2020年代まで続く可能性がある。

ここで、下押し圧力を受けると考えられる、企業収益について見ていく。企業収益の失速は、少なくとも短期的には、必ずしも株式市場の下落要因とはならない。過去2回の強気相場では、二段階で上昇相場が形成されている。第一段階(1990年-1997年と2003年-2005年)では、企業収益と株価は一緒に上昇した。第二段階((1997年-2000年と2006年-2007年)では、企業収益が低下する一方で、株価は上昇している(図4)。企業収益は2014年に実質的なピークに達し、その後、法人税の減税効果を反映するに至っている。ただ、減税による押上効果を市場は既に織り込んでおり、2018年後半には、企業収益は失速し始めるかもしれない。そうであったとしても、株式市場が実際に高値を打つのは2019年、2020年、またはそれより後かもしれない。要は、リセッションが現実化するかどうか、である。

図4: 投資家は企業収益の失速を問題視しない… 少なくとも1年、2年は

企業収益の失速と金利の上昇に加えて、株式市場の強気相場が晩期に差し掛かっている状況には通常、以下の3つの特色がある: 1)ボラティリティーの上昇 2)クレジット・スプレッドの拡大 3)株式市場の上昇を主導する銘柄数の減少。1990年代の強気相場では、1997年にクレジット・スプレッドが期間最少を記録している。タイミングとしては企業収益のピークと同時期だったが、株式市場は2000年3月まで上昇を続けた。2003年-2007年の強気相場では、2007年5月にクレジット・スプレッドが期間最小を記録している。これは、株式市場がピークを打つ5か月前のことだった。クレジット・スプレッドの拡大は、債務を原資として自社株買いを行う企業の活動を抑制させると考えられる。従って、こうした企業の株価はアンダーパフォームする様になる。

ただ、リセッション以外にも多くの要因があり、株式市場の修正はリセッションを予測する上で、適切な先行指標とはならない。しかしながら、金利上昇と新興国通貨の混乱、さらに、貿易戦争を背景に株式市場が修正するなら、企業経営者は不安感を強めると考えられる。結果として、予定されていた設備投資は大幅に縮小され、リセッション発生の可能性を高めることになると考えられる。

迫っているのは、どんなリセッションなのか?

次回のリセッションは、直近のものとは全く異なると考えられる。先ず、次回のリセッションには、サブプライム・ローン問題が関係していない。さらに、米国の銀行は資本の充実度を高めている。また、米国の住宅市場では、その多くが極端な評価価値の水準に達していない。欧州の銀行にはいくつか課題が残っているが、ECB(欧州中銀)はゼロ金利政策を敷いており、銀行が破綻する可能性は低い。そして、米国や中国とは異なり、素晴らしいことに、欧州は債務のレバレッジを低下させる段階に突入している。次回のリセッションは、2008年の金融パニックとは異なり、企業と消費者による支出縮小が相互的に作用するものになると考えられる。

その意味では、1997年から2003年の間、新興国通貨の混乱を始めとする問題が連続的に表面化し、世界の金融市場がニックに陥った後、ITバブルの崩壊で終焉を迎えたときの状況に、次回のリセッションは類似すると予想される。現状でハイテク株が暴騰し、中国景気が失速していることを考えれば、1997年-98年のアジア通貨危機とロシア危機、それに続いた2001年のハイテク株暴落の様な下落相場を想像することは、それほど難しくないと思える。実際、新興国通貨の混迷は、既に始まっているのである。(図2)

図5: 足元の景気拡大が続く一方で、債務も増大している

次回のリセッションで影響を受ける主要な分野として、米国の財政赤字が挙げられる。もしも現状の債券発行額が膨大であると考えているとしたら、税収が落ち込む一方で、状況を打破するため、政府支出に対する圧力が高まることになる次のリセッションが始まったら、その水準感を切り替える必要に迫られることになる。1990年-91年のリセッションでは、財政赤字が対GDP比で3%拡大している。ITバブルの崩壊と2001年の減税で、2001年から2003年の間に、財政赤字は同6%拡大している。財政赤字は、2008年のリセッションを経て、同9%の拡大を見せてもいる。今後1年か2年で次のリセッションが発生するとすれば、米国の年間財政赤字は簡単に、同8%から12%の拡大を見せると予想される。

リセッションが発生した場合の市場の反応

株式市場    

前述した様に、先行指標として株式市場を用いるのは不適切であるものの、リセッションの発生は、ほぼ確実に、その急落を伴うものとなる。実際、政策金利の急速な引き下げなどの政策変更が成され、景気見通しが改善するまで、株価は下落するものと考えられる。

米国債     

債券市場の反応は、それほど明確ではないと思われる。連邦政府の財政赤字が対DP比で8%から12%の拡大を見せるとすれば、債券市場にとっては大きな売り材料になるのではないか? 債券利回りは急上昇しないのか? こうした期待は、恐らく、裏切られることになる。過去3回のリセッションでは、赤字が拡大する一方で、債券利回りは低下しているのである。次のリセッションも同様、と予想される。債務規模の拡大で皮肉なのは、緩和的な金融環境でのみ、その債務水準が維持可能となることから、これが債券利回りを低下させる要因として機能する傾向があることである。

ハイ・イールド債      

金利上昇と株式市場の下落修正は、信用力の低い社債にとって福音とはならない。現状、米国内のクレジット・スプレッドではタイトな状況が続いている。ハイ・イールド債の利回りは、米国債や投資適格級の社債を3.5%ほど上回っているに過ぎない。さらに、FRBが重ねて政策金利を引き上げる一方で、長期金利はほとんど影響を受けずに、低水準を維持している。長期的な資金の調達コストが低いことから企業の借り入れスタンスは非常に旺盛であり、調達資金の一部が自社株買いに向けられていることもあって、株式市場では9年半に及ぶ強気相場が維持され、S&P 500® 指数はこの間に300%、ナスダック100指数は600%の上昇を、それぞれ達成している。株価の評価は2000年以来の高いものとなっており、今後、さらに上昇することも考えられる。

FRB.    

ボラティリティーが上昇に転じ、クレジット・スプレッドの拡大や失業率の上昇などが見られたとすれば、過去の例を引くまでもなく、FRBは: 政策金利を引き下げ、利回り曲線をスティープ化することで市場を鎮静化し、景気回復を図ろうとするだろう。今後6ヶ月から9ヶ月で、政策金利が現状から50bpt(ベーシス・ポイント)、またはそれ以上引き上げられたとしても、FRBが再度1%まで引き下げることは想像に難くないし、もしもリセッション発生と言う事態であれば、2022年までに政策金利が0%まで引き下げられる状況もあると思われる。

主要金属      

テクノロジー銘柄の動向には余り影響されないとしても、主要金属にとって新興国市場は非常に重要である。従って、中国市場が混乱し、新興国市場が総体的に危機的状況となれば、商品価格は下落し、2016年の安値を試しに行くと考えられる。ここでは、中国の経済成長に関する先行指標とされる工業用金属が、最も脆弱となる。実際、こうした商品の価格は既に、大きく下落している。

農産物            

主要な輸出国であるブラジルやロシアなど、農産物価格は特定の新興国通貨の動向に左右される。もちろん、間接的ではあるが、中国も農産物価格に極めて大きな影響を及ぼす。例えば、中国景気の失速は、金属やエネルギーの市場で価格下落を引き起こす。これによってカナダやロシア、そしてブラジルを始めとする農産物の輸出国の通貨は下落することになり、こうした国々の生産者は国際市場で、米国のライバルに対して有利な立場に立つことになる。同時に、農産物の生産コストは世界的に低下し、ドル建てで取引されるトウモロコシや大豆、小麦などの下値余地を引き下げることになる。

エネルギー価格はワイルドカード    

原油市場にとって、アジア危機は悪材料となった。1997年-1999年に、原油価格はバレル当たり25ドルから12ドルまで下落したのである。新興国市場の失速は、原油価格の下落リスクになると考えられる。ただ、(産油国の国内、または産油国間を含めて)政治的なリスクは今後も、原油市場の上昇リスクとして作用すると考えられる。従って、供給サイドに問題が発生したとすれば、新興国市場が失速したとしても、原油価格が下落するとは限らないと考えられる。

そして、米ドルは?    

現状の米ドルは、2つの要因のバランス関係の上にあると言える。1つは米国で継続的な政策金利引き上げが行われていることであり、その対極には、米国の財政悪化がある。米国での政策金利引き上げについて市場が今後も継続を予想する限り、そして、海外の中央銀行がFRBに同調した金融政策に踏み切らない限り、米ドルは上昇を続けると考えられる。

しかし、米国の景気拡大が終焉を迎えたら、注意が必要となる。引き締めからニュートラルへと金融政策を進めたFRBが採用するべき方針は、金融緩和以外にないからである。米ドル上昇の阻害要因となっている連邦債務は、爆発的な拡大を見せることになる。現状で両極の材料となっている金融政策と財政政策は結託する材料となり、米ドルは暴落する可能性がある。一方で、FRBが政策金利引き下げに踏み切り、連邦債務が爆発的な拡大を見せる状況は、金や銀などの市場にとって非常に強気な材料となる。ただ、FRBが緩和に踏み切るまで、貴金属市場が大きな上昇を見せない可能性も考えられる。

オプション市場      

現状では平静な市場を、そして、突如としてボラティリティーが高まる市場環境を想定している。ここ半年の間に本稿のシリーズでは、金融政策とインプライド・ボラティリティーの間にある循環的な関係について、全てのオプション(通貨、金、株価、金利、クレジット・スプレッド)を通じて論じてきた。クレジット・スプレッドを加えたのは、社債が実質的にその企業の価値に関するプット・オプションの売りと同様だからである。

緩和的な金融政策の下では、一般的に、オプションのインプライド・ボラティリティーは軽減され、低い水準となる。少なくとも短期的には、金融の引き締めサイクルが低ボラティリティーの市場環境に及ぼす影響は限定的である。ただ、引き締めが続き、結果的に金利水準が過剰な域に達すると、市場のボラティリティー(そしてクレジット・スプレッド)は最終的に爆発的な上昇(拡大)に至る。過去の例からは、中銀の政策変更に対するオプション市場の反応の遅行度合いは、(6ヶ月程度の誤差を以て)およそ1年から1年半となっている。

その意味では、FRBが継続的に政策金利を引き上げる一方でオプション市場の反応が乏しいこれまでの状況は、全く驚くに当たらないと言える。実際、FRBの金融引き締めに市場ボラティリティーがもっと早い段階で反応していたとしたら、それこそ驚くべきことだったのである。その上で、およそ1年の誤差を以て2020年頃、FRBによる現状の金融引き締めが、市場のボラティリティーを一段上の水準に押し上げるリスクがかなり高いと考えられる。株価指数や通貨、有価証券などのオプションにおけるボラティリティーは平均で、簡単に現状水準から倍化する可能性がある。その意味では、クレジット・スプレッドでは現状の3倍(またはそれ以上)に拡大する可能性がある。現状の市場ではボラティリティーが低位で推移しているとしても、決定要因が揃った場合、こうした状況が続くとは考えにくい。

結論

  • FRBによる政策金利引き上げ、新興国通貨の混乱、米国 – 中国の貿易戦争などを背景に、リセッションが発生する確率は33%を超えてきている。
  • 迫っているリセッションは、2008年の金融パニックに誘発されたものとは異なり、1997年-2002年に経験したものに類似すると考えられる。
  • 市場の反応としては、株価の下落修正、ハイ・イールド債の暴落、国債利回りの低下などが考えられる。
  • 継続的な新興国通貨の下落によって、商品市場は軟調推移となる可能性がある。
  • FRBが政策金利の引き上げを継続する限り、米ドルは強気を維持すると考えられるが、リセッションへの対応としてFRBが突如として引き下げに踏み切った場合、弱気相場入りが予想される。
  • 金と銀は短期的に弱含むものの、米ドルの暴落が強気材料として作用すると考えられる。

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Bluford “Blu” Putnam(ブルフォード“ブル”パットナム)CMEグループ・マネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミスト。中銀の政策分析・投資調査・ポートフォリオ管理を中心に金融業界で35年を超える経験を持つ。2011年5月より現職。世界経済情勢に関する情報発信で中心的な役割を担う。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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ここ10年ほどに渡って、株価が最高値を更新し、2008年の金融パニックから商品価格が回復するなど、米国経済は拡大を続けてきた。主要資産クラスが網羅された先物やオプションを用いることで、不確実性とボラティリティーから投資ポートフォリオを護ることが出来る。 /p>

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