株式の期間リスク

2017年以来の米国株式市場では、先々の増配見通しと株価見通しの間に、顕著な差異が生じている。S&P 500®年間配当指数先物を10枚、4月末に購入したとすると、2030年末までの間に支払うことになるコストは、S&P 500®指数換算で、およそ500ポイントとなる。驚くべきなのは、このコストが、2017年当時の水準を下回っている事である。一方、COVID-19の影響を背景とした弱気な相場環境にも係わらず、S&P 500®指数は2,250ポイントから2,900ポイントへの上昇を見せている (図 1)。株式の増配見通しは新型コロナウィルスの感染拡大(パンデミック)前、株価が上昇する一方で、停滞気味となっていたのである。

図1: 株価が上昇する一方で、次の10年間の配当見通しは、小幅な増配/減配となっていた

ならば、増配見通しが停滞する(直近では減配に転じている)一方で、株式市場は上昇したのだろうか?これに対する答えは、2018年第4四半期以来、長期金利が継続的に低下していることを指摘できる。2018年9月末から2020年4月末までの間に、米国の10年債利回りは3.21%から0.58%まで低下している。さらに同期間には、年間配当指数先物が示唆するS&P 500®指数の配当利回り見通し(フォワード)も低下を続けたが、それでも2.5%から1.85%までであって、10年債利回りの低下には及ばない(図2)。パンデミックの影響を受けて多くの企業が減配に踏み切る中にあって、米国の株式市場は全体として、国債利回りを上回る配当利回りを提供しているのである。実際、米国30年債の利回りなどはわずか1.2%で、18ヶ月前の3分の1にまで低下している。

図 2: 国債利回りは配当利回り見通しに比べ、より大きく、より急速な低下を見せている

長期金利が一段と低下したことによって、先々で支払われる配当のNPV(正味現在価値)が相対的に増加した。図1のデータについて、次の10年間の配当をスワップ・レートで割引き、正味現在価値を計算すると、先々で払われる見通しの配当のNVPは、S&P 500®指数と連動してきたことが分かる(図3)。ここで示唆されているのは、将来的な株価の上昇は2つの要因に依存している、ということである:

  1. 将来的な企業のキャッシュルロー変化の見通し
  2. 長期金利の水準

図 3:将来的な配当のNVPはS&P 500®指数と連動している

長期金利が低水準を維持、または一段と低下するなら、その他の条件が同じだとすれば、株式市場の強気材料となる。逆に、もしも長期金利が唐突な上昇を見せるとすれば、株式市場のパフォーマンスは損なわれることになる。実際、GDPに対するS&P 500®指数の時価総額(%)の長期間な推移は、同期間の長期金利の動向と逆相関する傾向にあることが分かる(図4)。現在、株式市場の時価総額は、4月末時点でGDPの121%に達するなど、歴史的にも高水準の域にあり、国債との比較を別としても、決して割安であるとは言えない。

図4: 長期金利が低位継続、または一段と低下するなら、株式には好材料となる

ここまで、米国の財政赤字が肥大化する一方で、株式と債券は共に上昇してきた。直近の12ヶ月で、米国の連邦債務はGDPの5%に達している。今後の12ヶ月で、債務比率は20-25%のレンジに達すると見られており、議会が救済策/刺激策を採択すれば、その比率が一段と高まる可能性もある。2019年末、対GDP比で104%となっていた米国政府の債務は、2020年末、同130%かそれ以上に達するかもしれない。

ただし、そうだとしても、本稿のシリーズで過去、縦から (該当するレポートは、 こちら) そして横から (該当するレポートは、 こちら) 債務レベルと金利水準を検証してきた様に、高い債務水準は通常、債券利回りの上昇ではなく、低下を促すものとなっている。  従って、米国の財政赤字が一段と拡大したとして、それによって近々に長期金利が必ず上昇する訳ではないので、少なくとも株式投資には好材料となる。ただし、長期的な観点からは、現代貨幣理論(MMT)にも似た(これに関するレポートは、こちら) ここ数ヶ月における米国の金融と財政政策は、最終的にインフレを引き起こし、長期金利の上昇を招くものと考えられる。さらに、保護主義や製造業を国内回帰させる動きが強まれば、長期金利の上昇リスクは一段と高まる。例えば、2020年代後半、そうした事態になったとすれば、株式市場には厳しい状況になると考えられる。  1965年から1980年の金利上昇期、S&P 500® 指数の時価総額は対GDP比で、110%から、たった30%まで激減している。表面上、1966年から1982年まで、株式市場は方向感に乏しい展開でしかなかったものの、インフレ調整後の実質では、70%の下落を演じていたのである。

従って現状の株式市場は、2つの要因から動意を受けていると考えられる: 年間配当指数先物の価格動向(図 5)に見られる様な経済成長見通しの変化であり、長期債利回りの動向である。現状、エネルギー価格の下落と雇用市場の混乱を背景とする強大なデフレ圧力を目の前にして、インフレ懸念は遠い先の課題にしか思えない。ただし、期間リスクを懸念するべきなのは、長期債の投資家だけではない。

図 5:過去2ヶ月間、先々の配当期待は大きな変動を見せてきた

結論

  • 株式市場は、先々の配当見通しに対する変化と長期債の利回りから動意を受けていると考えられる
  • ここ数年、増配見通しは停滞気味となっている
  • 株式市場の上昇は明らかに、長期債の利回りが大幅に低下したからである
  • 財政赤字の拡大は、必ずしも利回りを上昇させるものではない
  • 短期的なインフレ・リスクは、大体において縮小している
  • 金融政策と財政政策の混合は、長期的に、インフレ・リスクを高める
  • 一段の保護主義/製造業のローカライズも、インフレ要因である
  • 株式は、長期債と同様に、多大な期間リスクを負っているのかもしれない

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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