2019年のDr.(ドクター)銅の動向を探る

  • 29 Nov 2018
  • By Erik Norland
  • Topics: Metals

銅は工業製品に広く使われる金属であることから、一般に、その価格は世界景気の動向を反映するとも言われ、「Dr.銅」とも称される。2016年1月から2017年末、中国景気が一段の拡大を見せ、世界経済が活況を呈したことから、銅価格はこの期間に72%の上昇を見せた。ただその後、2018年11月までに、貿易戦争、米国の財政や金融政策、ブレグジット、イタリアの債務問題、さらには中国経済が失速する可能性などの懸念を背景に、価格は18%の下落となっている。ここでは、2019年入りを前に、銅市場の需給を見ていく。

中国:最も重要な銅需要国

中国は、世界で生産される銅の40‐50%を消費する、世界最大の消費国である。2018年の中国経済は堅調だった:公的発表では6.5%、電力消費や鉄道輸送、銀行貸し出しなどのデータを反映した李克強インデックスの様な代替え的尺度では、一段と大きな成長(およそ9%)が示唆されている(図1)。それでも、中国の銅需要は、将来的な懸念に直面している。先ず、米中間の貿易争議は中国経済に影響を及ぼし、先々、その成長率を0.1%の単位で下押しすると考えられる。 

図1:中国の公式発表は経済成長率を6.5%としているが、その他の指標では9%近い成長が示唆されている

さらに重要なのは、中国の2018年の経済成長が、その大部分において、継続的な景気浮揚策に依存していたことである。2017年には安定化していた対GDP比での債務は、2018年第1四半期に爆発的な上昇を見せ(図2)、人民銀行が低金利政を維持し、銀行の準備金率を緩和したことから、比率は年間を通じて上昇したと考えられる(図3)。その意味では、緩和的な金融政策が維持される限り、債務危機が発生する可能性は低いと言える。ただ、債務比率の上昇に伴って、新規の債務は、投資や消費よりも、主に既存債務を維持するために使われる様になり、金融政策による景気への刺激効果は非効率化していくことになる。

図2:2018年第1四半期に中国の債務は再び急拡大を始め、対GDP比(%)では、欧州や米国を超える水準に達している

図3:金融政策が引き締めに転じるまで、中国で債務危機が引き起こされることにはならないと考えられる

銅価格は、李克強インデックスが示唆するGDPとの相関性が最も高い(図4、5)。中国の経済成長が堅調さを維持する限り、銅価格が現状水準を維持することは可能と考えられる。ただ、中国経済の成長に失速の兆候が見られれば、銅価格では大幅な下落も想定される。2011年から2015年、中国経済が劇的な失速を見せたとき、ポンド当たりの銅価格は、4.50米ドルから、1.90米ドルの底値に至る下落を演じている。銅の平均的な生産コストは、おそらくポンド当たり1.90米ドル程度と考えられる。 

図4:中国の電力消費や鉄道輸送、銀行貸し出しにおける変化は多くの場合、銅価格の動向に先行する

図5:李克強インデックスは、3‐5四半期先行する形で、銅価格との相関性が高い

銅の供給量は引き続き増加

1994年以来、銅の供給量は倍化(図6)する一方、現状の銅価格は生産コストを上回っており、需要は2018年を通じて高まったと見られる。2018年の銅価格は、ポンド当たり、平均でおよそ2.90米ドルだった。平均的な銅生産者にとって、この水準は50%近い粗利率となる。ポンド当たり2.56米ドル程が年間の安値となったが、この水準であっても、平均的な生産者の粗利率は34%程であったと考えられる。こうした背景は生産者にとって、2019年、そしてそれ以降に向けて、生産量を拡大していく充分なインセンティブになる。銅生産が世界的に高まりを見せるとすれば、需要の拡大スピードが失速する事態に対して、生産者は神経質になる。

図6:需要が維持されなければ、銅の生産業者による供給が価格動向の機嫌を損ねてしまう可能性

銅市場の需要失速に関しては特に、中国の動向が代替えの効き難い要因である。その意味では、インドも7‐8%の経済成長を続けているが、規模は中国の5分の1程度に過ぎない。一方で、他のBRICS諸国(ブラジルとロシア)も、苦戦すると考えられる。原油市場が直近で低迷していることは、ロシアやブラジル、その他の産油国の銅需要にとって悪材料になると考えられる。さらに、ブラジルの新大統領は、積み上げ有られた膨大な財政赤字に対応し、政治リスクが高い年金制度改革にも取り組まなくてはならない。もちろん、こうした状況は、景気回復を遅延させることにもなり得る。

銅、米ドル、そして欧州

為替市場の米ドル(USD)高は、米国景気が堅調に推移する一方で、2018年の銅価格が下押し圧力を受けたもう1つの背景となっている。銅価格は通常、USDに逆相関する(図7)。2018年、FRB(米国中銀)による政策金利引き上げを受けて、為替市場ではUSDが堅調に推移し、主要通貨や新興国通貨が大きく値を下げる展開となった。 

図7:銅価格は米ドルに対する逆相関を一段と強めている

一方、2019年の米ドルの見通しは、不透明である。FRBの「ドットプロット」によると、FOMC(連邦公開市場委員会)メンバーの多くが、2019年中に3回、場合によっては4回の利上げを予想している。継続的な金融の引き締めを甘受できるほどに米国経済が堅牢であるとすれば、為替市場のUSDは一段と大幅な上昇を見せるかもしれないし、そうなれば、銅価格には下押し要因となる。一方、可能性と実現性が高いのは、FRBが政策金利の引き上げを一旦、停止する、または、引き上げのペースを鈍化させる場合で、これによって短期金利の上昇を背景としたUSDの押し上げ要因が欠落する場合である。同時に、米国の財政赤字は拡大しており、先々においては、これもUSDの負荷になり得る(図8)。USDの弱気材料は、銅価格の強気材料となる可能性が高い。

図8:大規模な財政赤字は通常、米ドルに軟調推移をもたらすことから、商品価格の上昇要因となる

投資家としては、FRBが過剰な水準まで政策金利を引き上げてしまう可能性について、特に留意しておきたい。行き過ぎた政策金利の引き上げは、意図しない景気の失速や景気後退を誘発する可能性があり、銅価格がそうした場合から受ける影響については、想定できないものもあり得る。米国での需要後退は弱気材料だが、為替市場で軟調に推移するUSDは強気材料となる。米国景気が大幅に失速したとしたら、少なくとも短期的に、そして、USD安の好影響は先々で現実化するとして、総体的には銅価格にとっての弱気材料になると考えられる。

最後に、欧州経済が直近で失速していることは、必ずしも銅価格にとっての好材料とは言えない。2018年末から2019年初め、銅価格にも影響を与える2つの重大な試練に欧州は直面する: ブレグジットとイタリアの債務問題である。もしも、ブレグジットが英ポンドの下落要因として作用する(ハード・ブレグジット)ことになるなら、為替市場は結果としてユーロ安/米ドル高となり、銅価格には弱気材料となる。同様のことは、イタリアの債務問題が手に負えなくなった場合でも想定できる。  そして、 イタリアの債務問題は、 ECB(欧州中銀)が既に法的に許容できる限界まで欧州債を買い込んでしまっている状況であり、二度目の欧州債務危機がこの段階で発生するとすれば、ブレグジットを凌駕する経済危機が懸念される事態となる。いずれの状況も穏便な対応が必要であり、同時に、そうした打開策が採られると考えられる。その場合、ユーロと英ポンドは為替市場で反発し、米ドル安がもたらされるものの、これは銅価格にとっての強気材料となり得る。

銅オプションは、インプライド・ボラティリティーが、歴史的な高水準というより、低水準お近辺で推移するなど、市場のリスクを意に介さない様相を呈している(図9)。  2019年は、どちらに振れてもおかしくない – 銅オプションに関する限り、スキュー(プレミアム動向の歪み)は現状、見られていない— ただ、振れるとすれば、それは市場参加者の予想を超えるものになる可能性が高い。

F図9:銅オプションのインプライド・ボラティリティーは、歴史的に見て、比較的低水準での推移となっている。

【まとめ】

  • 中国経済の成長が堅調を維持したことで、銅価格が一段と下落する事態が回避されて来た。
  • 一方で、銅市場の参加者にとって、中国の債務水準は懸念であるに違いない。
  • 米国での金融引き締めによって為替市場での米ドル高が促され、銅価格の上値を抑えられる結果ともなって来た。
  • 米国の財政赤字拡大は米ドルの弱気材料であり、銅価格の強気材料となり得る。
  • インドは高い経済成長を維持しているが、ロシアやブラジルでは成長が失速している。
  • FRBが政策金利を過剰な水準まで引き上げてしまう可能性は、米国経済と銅価格の主要なリスク要因となっている。
  • ブレグジットとイタリアの債務問題も、銅価格の動向に影響する

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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