4月5日発表予定の、そしてそれ以降の月例雇用統計を予想する

1月のNFP (非農業部門雇用件数)が前月比で31万1000件の増加となる一方、2月統計での増加はたったの同2万件に留まるなど、過去2回の雇用統計は市場に乱高下をもたらした。ただ、この2つを平均すれば、米国の雇用市場は年初来、毎月およそ16万5000件の新規雇用を生み出したことになり、これは我々のモデルが4月5日発表予定の3月分として予想する水準:同15万7000件に近い水準でもある。  

これほどの早い時期に3月のNFPを予測できるは、普通ではないと思うかもしれない。3月は(本稿の執筆時点で)その半分も経過していないし、市場予想のコンセンサスも形成されてはいない。そこにこそ、3つ(と半分)の単純なデータを使ったに過ぎない我々のモデルを使って、月毎のNFPの変化を見通すことの妙味がある:必ずしも最新ではない市場データが背景となっているこのモデルでは、NFPの月例変化の75%近くを説明することが出来る-市場予想のコンセンサスよりも優れたツールなのである。

図1:3月のNFPは、およそ15万7000件の増加と予想される

また、3月分のNFP予想よりも興味深いのは、このモデルが3月以降の2019年について、さらに2020年における雇用件数の増減変化を、その理由も含めて示唆してくれることである。このモデルは現在、FRBによる直近の引締めサイクルの結果として、米国の雇用増加ペースが徐々に減速することを示唆し –その一方で、クレジット・スプレッドが現状水準から大きく乖離することはない、という比較的楽観的なシナリオも示唆している。その意味では、クレジット・スプレッドが過剰に拡大する状況となれば、米国における雇用創出は、増加から減少に転じることになる。

モデルの背景となっている3つのデータは:

  • クレジット・スプレッド: クレディスイス・ハイイールド・インデックスのオプション調整後スプレッド(OAS)と、それに満期が対応する米国債の金利差である。このデータの2ヶ月分を平均化し、1ヶ月遅行させる。従って、1月分と2月分のOAS平均を用いる3月分のNFPは、発表予定日よりも1か月前にその増加件数予想が可能なのである。これが、このモデルの最大で最重要な側面となっている。この部分だけでNFPの月例変動の半分以上を説明しており、t検定がマイナス22、p値は0に近い水準となっている(図2)。クレジット・スプレッドが1%拡大する毎に、平均で、月例のNFPでは6万から7万の新規雇用件数が失われることになる。
  • 利回り曲線: ここでは、30年債と3ヶ月物政府証券の利回り差を用いる。米国中銀であるFRBの金融政策が雇用創出にその効果を及ぼすまでに、長いと言えば長いし波及速度には違いもあるが、およそ1年から2年と想定して、1年分のデータを1年遅行させる。従って、2019年3月分のNFPについては、2017年4月から2018年3月の間の30Y(30年債)-3M(3ヶ月物政府証券)の利回り差を平均化して、使用している。同期間は、平均化された利回り曲線のスロープが175bpt(ベーシス・ポイント)とスティープ化していたー60bptとなっている現状に比べ、はるかにスティープなスロープ形状だった。過去1年間に発生した115bptに及ぶ利回り曲線の平坦化は、来年の今頃までに、月毎のNFPを4万件程度、縮小させることになると考えられる(図4)。
  • 原油価格: 一般に、原油価格の上昇は雇用市場の拡大に対して、必ずしも好影響を及ぼさない。原油革命を背景に、米国のエネルギー関連が大きな成長を見せたのは事実である。しかし、フラッキング技術によるこの革命によって創出された雇用件数はそれほど多くないし、これによる経済的な成長、または損失は、著しく地域が限定されている。反対に、原油に対する支出は、直接的・間接的を別にすれば、全ての消費者、企業が負っている。原油価格には大きな動きがあったが、その水準は最近の平均値から大きく乖離しているわけでもなく、今後数カ月のNFPを増減させる要因ではないと考えられる。一方、原油価格が大きな下落を見せた2014年-16年、クレジット・スプレッドは拡大し、雇用創出には悪影響が及ぼされた。ただ、原油価格が安価だったことで、この影響は大部分が緩和され、雇用創造の失速は見られなかった。さらに、景気後退も回避された。しかし、クレジット・スプレッドが次に拡大するとき、こうした幸運な環境を期待することは出来ないだろう。実際、2008年には、クレジット・スプレッドの拡大と原油価格の急騰によって、景気は後退期入りする結果ともなっている。

このモデルに用いられるその他のデータは、例えば10年に1度の国勢調査実施に伴う雇用や解雇など、例外的な雇用件数の増加や減少を説明するためのダミー変数である。2020年の春と夏には、この変数が再び活躍することになる。

雇用市場の参加者が本当に心配しなければならないのは、単にイールドカーブの平坦化だけではない:イールドカーブの平坦化は、最終的に信用スプレッドの拡大をもたらす可能性がある。  1990年代や2006年-2008年には、それが現実化している。実際、クレジット・スプレッドと雇用市場は、利回り曲線と共に、同様の反復サイクルを辿るのである。

図2:雇用件数の増減に関して、クレジット・スプレッドは最大・最重要な要素

図3:FRBの金融引き締めと利回り曲線の平坦化は、将来の雇用拡大に関する悲観的な見通しを示唆

NFPの月毎の増減変動は過去のクレジット・スプレッド、利回り曲線のスロープ形状、そして原油価格の変動の関数であると仮定している我々のモデルとは異なり、クレジット - 失業 - 利回り曲線の関係は、まさに関係であり、機能ではない。数学的に言うと、関数は、往路を戻る形で回帰することが出来ない。紛れもなく有用であるものの、関数は変数間の本当の関係が何であるかを分析する際に、それを限定的にしてしまう場合もある。その関係にサイクル(循環)とフィードバック(回帰)ループが含まれる場合には、特にその傾向が強くなる。FRBの金融政策においては、クレジット・スプレッドと雇用市場は相互作用する関数であり、以下の様に展開する循環的なフィード・バック・ループの中に固定されているのである:

  • 景気後退期:利回り曲線が平坦化する期間を経てクレジット・スプレッドは拡大、失業率が上昇し始める。失業率の上昇と枯渇化したクレジット市場に押され、FRBは金融政策の緩和に転じ、利回り曲線はスティープ化する。
  • 早期景気回復期:緩和的な金融政策によってスティープ化した利回り曲線を通じ、クレジット・スプレッドの縮小、失業率の低下が始まる。
  • 中期景気回復期:失業率は低下を続け、クレジット・スプレッドは一段と縮小する。ここに至り、中銀は政策金利の引き上げに支障がない(また、インフレの台頭を回避するため、引き上げが必要である)と判断する。失業率とクレジット・スプレッドが低水準で推移する中、中銀は金融政策の引き締めに転換し始める。

晩期景気拡大期: 利回り曲線が一段と平坦化する一方、失業率の低下は停止し、クレジット・スプレッドの縮小傾向も行き止まる。最終的に、クレジット・スプレッドは拡大に転じ、雇用市場の拡大ペースは減速する。そして、このサイクルが新たに繰り返される(図5-6)。

図4:クレジット市場のサイクル 1996年-2005年

図5:現在のクレジット市場は、2006年当時に似ている:平坦化した利回り曲線/狭いスプレッド

図6:FRBの金融政策の観点からは、クレジット・スプレッドと同様のパターンを失業率は追随する

2019年初めの段階では、クレジット・スプレッドが最も縮小した時間帯が、既に過去のことである可能性もある。そうであるとすれば、雇用創出には悪材料である。FRBの金融政策引き締め(そして、それによって金利はニュートラルな水準に近付く、とする誤った認識)でクレジット・スプレッドの拡大が誘発され、雇用創出は急速に実質的なマイナスに転じる可能性がある。我々の見方では、4‐6%となっているハイ・イールド債と国債との利回り差がたった2%拡大するだけで、雇用創出は限りなくゼロに近付くと考えられる。2015年にクレジット・スプレッドが大幅な拡大を見せた際には、原油価格の暴落と例外的にスティープな利回り曲線によって、その影響は吸収された。もちろん、原油価格が安価であることによって、クレジット・スプレッド拡大の影響が常に緩和されるという保証はないし、FRBが迅速に政策金利を引き下げない限り、スティープ化した利回り曲線の恩恵に浴すことは期待できない。実際、クレジット・スプレッドを拡大させ、失業率を押し上げるこの循環サイクルに影響を及ぼすことが出来るのは、FRBだけなのである。

結論

  • 我々のモデルは、月毎のNFPの増減変化について、その70%超を説明でき、1か月前にそれを予想することも出来る。
  • FRBの金融政策と平坦化した利回り曲線は現在、2019年と2020年の雇用拡大を脅かすものとなっている。
  • ただ、利回り曲線では平坦化が進むと考えられ、特に2020年と2021年に向けて、クレジット・スプレッドが大幅に拡大するリスクと同時に、雇用件数の拡大スピードが急減する可能性がある。
  • 2019年3月分のNFPについて、前月からおよそ15万7000件の増加を予想する。 

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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