原油: インプライド・ボラティリティが急上昇する一方、不透明な相場見通し

  • 16 Jan 2019
  • By Erik Norland
  • Topics: Energy

2018年第4四半期、原油価格は44%の下げを演じた。劇的な下落相場ではあるが、2008年7月から12月の79%、2014年末から2016年初めの76%などに比べれば、その程度は軽微にも見える。一方で、WTI原油のオプション価格から算出される30日物インプライド・ボラティリティは、記録的な水準となった2008年の水準には届かなかったものの、2014年⁻16年の弱気相場で記録した水準まで急上昇する結果になった(図1)。長期のオプションでは、2015年‐16年と2008年‐09年の高水準に迫る結果ともなっている。さらに、原油価格が直近の安値から大幅な反発を見せる一方で、原油オプションのインプライド・ボラティリティは、2014年‐16年の暴落期に記録した高水準と同等の水準を維持している。

図 1: インプライド・ボラティリティは2014年‐16年以来の高水準 長期オプションでは2008年以来の高水準に肉薄するまで上昇

WTIのオプションがこうした高水準のインプライド・ボラティリティをこの先も維持するかは、リアライズド(実現・実際の)ボラティリティや先物価格の動向次第である部分が大きい。例えば、原油価格が再び下落し始め、直近の安値を下抜けるとすれば、原油オプションのボラティリティは記録的、またはそれに近い現状水準を維持することになるのかもしれない。

同様に、原油オプションで現状のインプライド・ボラティリティ水準が維持される、または一段高となる相場シナリオには、供給サイドのショックを背景とした原油価格の急騰が考えられる。ただ、こうしたショックを予想するのは、不可能ではないが難しいし、発生するとすれば非常に稀な出来事となる。それでも、1973年、1979年、1990年には大きな供給ショックが発生している。また、同様の事態には、米国がイラクに侵攻した後の2003年も該当すると考えられるし、小規模ではあったものの、リビアでカダフィ体制が崩壊した2011年も該当する。ただ、現状では、反体制ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害事件以来、中東の緊張は緩和しつつあり、イランに対する米国の経済制裁では、中国やインドなど、8か国が制裁協力を免除されている。また、こうした状況は2018年第4四半期、原油価格の急落とボラティリティ急騰に寄与したと考えられている。その意味では、中東問題の多くが未解決で放置される一方、米国がシリアやアフガニスタンでの軍事展開について終息方向を模索し始める中、原油市場が一段と不安定化する可能性は常に存在する。

可能性の高い原油相場のシナリオとしては、バレル当たり40ドル‐60ドルのレンジ相場だと考えられる。WTIのオプション相場から見れば、レンジ相場は弱気相場となる可能性が高く、過去のレンジ相場で見られた水準にインプライド・ボラティリティが回帰するとすれば、現状水準の半分まで低下することになる。もちろん、今後の相場展開にはいくつもの可能性があり得るが、レンジ相場にはこれを予想させる複数の背景がある:

  1. 米国の原油生産は今後数カ月、増産傾向が停止する可能性が高い。
  2. バレル当たり40ドル近辺は、米国の(需給の変化に応じて生産量を増減させる)スイング・プロデューサーにとっての限界費用に近いため、原油価格はこの水準で下げ止まる可能性が高い。
  3. 大幅な増減を繰り返してきたここ数年を経て、原油在庫の水準は安定してきていると考えられる。
  4. 直近、そして過去の原油相場暴落に先行する動きを示した植物油価格は現在、強気、弱気、いずれに関しても特に顕著な示唆を見せていない。

米国の原油生産:原油価格の暴落を背景に、米国のエネルギー・セクターは2015年と2016年、設備投資を縮小している。設備投資はその後、原油価格がバレル当たり40ドルを回復した2016年中頃、増加に転じる。原油相場はその後も回復を続け、2018年の夏までには、60ドル‐80ドルのレンジ水準まで上昇する。 現状の原油価格は50ドルほどまで下落しており、シェール原油については、期待したほどの量を生産できていない施設も散見されている。今後6ヶ月の間に、米国の原油生産は少なくとも短期的に、ピークを打つ可能性がある。その場合、原油市場にとっては主要な弱気要因の影響が軽減されることになる。

また、指標としては不完全であるものの、石油採掘装置(リグ)稼働数の増減データには、引き続き注意しておく必要がある。稼働リグ数が減少を始めた場合、その後およそ3ヶ月から5ヶ月後に、米国の原油生産量がピークを打つことの示唆となる。ここ数カ月では、稼働リグ数の変化が停滞気味となっていて、その意味では、米国の原油生産量は当面のピークを付けたのかもしれない(図2)。一方で、このデータの問題は、稼働リグ毎の生産能力の違いが考慮されていないことである。

図2: 稼働リグ数の変化は通常、生産量変化に平均でおよそ4ヶ月先行する

在庫:2014年と2015年に大幅な積み増しが行われた後、2017年と2018年には大幅な減少を見せた。現状の在庫水準は、前年ベースを数%上回る程度で安定してきている様に見える。この観点からも、今後の原油市場がレンジ相場化する可能性が見て取れる。その代償として、インプライド・ボラティリティは低下することになる。

図3: 原油在庫は現状、前年ベースで軽微な増加となっている。ただ、ここ数年間の動向に比較すれば、増減変化は比較的安定してきている

最後に、原油市場の将来的な動向に関して、過去15年に渡って優れた先行指標となっている植物油の価格動向は現在、特段の方向性を示唆していない。実際、2016年と2017年の原油価格上昇に先んじて上昇していた植物油の価格は2017年末、2008年や2014年の場合と同様に、直近の原油市場の下落を示唆する様に下落を始めていた(図4)。一方、ここ数週間の植物油の価格動向は、安定的であるものの、方向性に乏しい展開となっている。その意味では、原油相場も恐らく、短期的には同様の展開となると予想される。

大豆油価格のインプライド・ボラティリティは、記録的な低水準の近辺で推移している(図5)。

図4: 植物油の価格動向は多くの場合、原油相場の動向に先行してきた

図5: 大豆油のインプライド・ボラティリティは、植物油の価格動向についてタイトなレンジ相場を示唆しており、原油相場に関しても同様の示唆をしていると考えられる

【まとめ】

  • 2018年第4四半期の下落で、原油オプションのインプライド・ボラティリティは2015年/2016年の水準まで急上昇した。
  • WTIのインプライド・ボラティリティの水準は現状を維持するかもしれないし、大幅な価格変化が続くとすれば、現状水準を上抜ける場合も考えられる。
  • 一方で、原油オプションにとって、レンジ相場は弱気材料となる。
  • 中東での緊張緩和、米国での原油生産量や原油在庫量の安定化、さらに植物油の価格動向が方向感に乏しいことなどは、原油市場がレンジ相場となる可能性を強く示唆するものとなっている。
  • 結果として、原油オプションの現状のインプライド・ボラティリティは、維持不可能な高水準であると言える。

 

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本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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2019年のヘッジ戦略

2018年第4四半期の下落相場では、2014年‐2016年の下落相場に伴って見られた高水準までインプライド・ボラティリティが上昇したものの、原油市場はこの下落分を既に回復している。一方で、インプライド・ボラティリティの今後の動向については、不透明感が強い。先物とオプションを使うことで、ポートフォリオのヘッジは可能となる。

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