メキシコにさらなる利下げ余地

メキシコ銀行(中央銀行)は同国内の重工業・観光業が新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的流行によって大きく落ち込んだのを受け、3月19日、4月21日、5月14日と立て続けに政策金利を50ベーシスポイント引き下げた。しかも、これらの利下げよりも前に、より小幅ながら5回にわたり利下げを実施している。にもかかわらず、メキシコ銀行のオーバーナイト金利は直近12カ月のコアインフレ率をはるかに上回ったままだ(図1)。 

図1 メキシコ銀行のオーバーナイト金利は依然として2009~16年に大勢だった水準のはるか上にある

しかも、メキシコ経済の適切な先行指標となっている利回り曲線(イールドカーブ)が利下げに対し、わずかに角度を上げたにすぎない。歴史的にみて比較的横ばいのままだ(図2)。おそらくメキシコにとって良い知らせは、2017年と2018年の一時期、そして2019年の大半でそうだったように、利回り曲線がもはや反転していないことであろう。同国は2019年に景気後退に陥っていた。新型コロナに襲われるだいぶ前である。メキシコでは短期金利が近年(2009~16年)の基準からみて高い水準にあり、インフレ率が低く安定し、利回り曲線が比較的平坦なうえに、景気後退が感染症の拡大前からあった。こうした事実は、メキシコ銀行に依然として、かなり大きな利下げ余地があることを示唆している。

図2 8回の利下げ後もメキシコの利回り曲線は比較的平坦なまま

一方、最近の利下げ実施を受けてもメキシコ通貨ペソ(MXN)には動揺がみられない。実際のところ、4月末以降、対米ドル(USD)で10%を超える反発をみせた。中南米通貨の中では堅調に好成績を維持している(図3)。

図3 MXNは3月の下落に追従した後、5月の反発を先導した

メキシコのペソがチリやコロンビアのペソだけでなくブラジルのレアルを上回っている一因として、メキシコの輸出品が圧倒的に工業製品であり(71%)、鉱産品は19%にすぎない点が挙げられる(図4)。対照的にブラジル、チリ、コロンビアではコモディティ(商品)が輸出の60〜90%を占めている。こうした国の通貨は原材料価格とともに安くなった。メキシコを石油業と関連づける人は多い。だが、2006年以降、同国は石油純輸出国でなくなった。同様に、世界一の産銀国であるにもかかわらず、金属の輸出は全体の4%にすぎない。

図4 メキシコの輸出は圧倒的に工業製品

メキシコの輸出先は、ほとんどが米国とカナダである(図5)。そのため、新型コロナの世界的流行で米加両国の経済が大部分停止したことは、メキシコに逆風となった。とはいえ、米加が供給網の分散を図り、中国から離れて現地生産化を選択した場合、長い目でみれば、メキシコは恩恵を受けると明らかになるかもしれない。メキシコには中南米最強の製造拠点があり、極めてコスト競争力の高い労働者がいる。しかも、メキシコが北方隣国への工業製品の輸出に依存していることは、MNXが他の中南米通貨よりも米国株相場に密接に関連しているようにみえる理由を教えてくれる(図6)。

図5 メキシコ輸出の4分の3超が米国とカナダ向け

図6 MXNUSDは他の中南米通貨よりも米国の小型株にしっかりと追随している

MXNUSD直物為替相場の大きな流れをみると、ペソ安ドル高のパターンが断続的にあると分かる。ただし、直物相場は国際間の金利差を無視している。例えば、米墨間の実勢金利差は現在5.3%だ。キャリー取引による金利差の累積は、時間の経過とともに結局のところ、成績に大きな違いをもたらすことになる(図7)。

図7 高金利通貨買い建てのキャリー取引で長期的に金利差を加算できる

さらに、メキシコには経済協力開発機構(OECD)で最も債務水準の低い国に入るという強みもある。同国の公的債務は2019年7‐9月期に対GDP比36.4%となった。これは大多数の国よりも低い水準だ。しかも、家計・非金融企業の債務水準は世界最低の部類に入る(図8)。これが示すのは、メキシコ銀行にはうれしいことに追加利下げにかなり余裕があるだけでなく、メキシコ政府にも経済成長を下支えするために財政赤字を拡大する余力があることだ。メキシコの低い債務水準はまた、同国の通貨が中南米のさらに債務水準の高い国の通貨よりも高く評価されている理由を説明しているかもしれない。ブラジル、チリ、コロンビアなどは総債務が対GDP比で2倍近くある。メキシコの債務は対GDP比で他国よりもはるかに低いだけではない。その増加速度もはるかに緩やかである(図9)。

図8 メキシコは世界で最も債務水準の低い国に入る

図9 メキシコの債務は多くの新興国よりも緩やかに増加している

とはいえ、メキシコに懸念がないわけではない。2007年以降、人口当たりの殺人発生率が4倍にも増えた(図10)。今や世界最高の水準だ。しかも、世界金融危機後に起きたように、その率が経済的圧迫で一層押し上げられてしまう危険性もある。ただし、メキシコの治安問題が観光客の足を遠のかせたり、製造業部門への事業投資を妨げたりしない限り、治安悪化はペソに直接影響しないかもしれない。

図10 メキシコの治安状況が観光や投資の妨げとなればMXNの下押し圧力となり得る

結論

  • メキシコ銀行の政策金利は依然としてインフレ率と2009~16年の平均水準よりも高い。
  • 8回の利下げにもかかわらず、メキシコの利回り曲線は比較的平坦である。
  • MXNは中南米通貨のなかで比較的好調である。
  • MXNには大口輸出先である米国の株式相場と正の相関がある。
  • メキシコは依然として世界で最も債務水準の低い国に挙げられる。
  • メキシコの金利は米国の金利よりもはるかに高いままである。

 

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本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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