高ボラティリティー相場の再来?

  • いくつかの資産クラスでは、長期の休眠状態にあったボラティリティーが、新たに始動している。
  • 金や銀のインプライド・ボラティリティーが上昇傾向を示す一方、銅の場合は依然として決定的とはなっていない。
  • もしも、ボラティリティーが大々的な復帰劇を演じるとすれば、FRBの政策金利引き上げサイクルがその背景なのかもしれない。

突発的な上昇は別として、ここ8年間のボラティリティーは、(エネルギーは別として)ほとんどの資産クラスで休眠状態にあった。2010年以降、株式、有価証券、通貨、金属、農産物などでインプライド・ボラティリティーが急低下し、さらに、直近の数年間では例外的な低水準に留まっていた。しかし、ここ数カ月、広範な資産クラスにおいて今後数カ月、または数年のうちに、インプライド・ボラティリティーが一段と高い水準に移行する兆候が見られている。

米国株式指数のオプションには、ボラティリティーがより高い水準へ転換する兆候を見せている。 2018年初頭に底を打ったS&P500指数のボラティリティーは、その後、下限水準を切り上げるパターンを形成しており、低ボラティリティーの状態からより高い状態への移行期となった1996年、そして2007年初頭の動きに、不気味なほどの共通性を感じさせている。但し、S&P 500オプションのインプライド・ボラティリティーが、歴史的な基準から見ると、依然として非常に低い水準であるのは事実である。例えば8月初めにボラティリティーが急伸した際であっても、VIX指数の上限は23%でしかなく – 

図1:株価オプションのインプライド・ボラティリティーは上昇トレンドなのか?

その他のほとんどの市場では直近、ボラティリティーが底打ちをしている。一方で、通貨などの市場では依然として、その水準が過去最低近辺を推移する結果となっている。但し、有価証券(図2)、穀物(図3)、そして金や銀(図4)では、ボラティリティーの上昇傾向が見られる。過去数か月でボラティリティーの上昇が見られたものの、これらの市場では、オプションのコストは過去の最高値よりも最低値により近く、2007年から2011年の間に達した水準の半分以下となっている

図2:債券オプションもついに、底打ちパターンを形成

図3:トウモロコシと小麦のオプションにおけるインプライド・ボラティリティーは上昇

図4:金と銀のインプライド・ボラティリティーは、歴史的低水準から上昇

米中貿易戦争の激化を背景に銅の米ドル建て価格が5%下落したにも関わらず、そのオプションでは、金と銀の場合に見られる様な一段と高いインプライド・ボラティリティーへの移行が見られていない。但し、銅オプションのインプライド・ボラティリティーは、2017年半ばに約12%で底打ちした後、20%に接近している(図5)。 

図5:銅オプションのインプライド・ボラティリティーは2017年に底打ちしたものの、依然として劇的な上昇には至っていない

同様に、通貨オプションのインプライド・ボラティリティーも、最近の低水準からわずかに上昇しているものの、主要通貨ペア間のインプライド・ボラティリティーの上昇傾向は、他の資産クラスほど顕著ではない(図6-8)。例外は(ブレグジットを背景に)英ポンドと日本円であり、他通貨よりも、これらの通貨のボラティリティーはより大きな

図6:米中貿易戦争が激化するなか、AUDとCADのオプションは些細な反応

図7:ブレグジットを背景に英ポンド・オプションのインプライド・ボラティリティーは多少の上昇を見せるが、EURオプションはほとんど無反応

図8:貿易戦争はJPYオプションのインプライド・ボラティリティーを多少上昇させたものの、CHFへの影響は見られない

高ボラティリティー期間に関する2つの共通性

  1. 近似化される原因:単体、または連続するイベントが、ボラティリティー上昇の原因とされる。
  2. 根底にある原因:低から高に、インプライド・ボラティリティーの水準が移行する本当の理由。

原因の近似化は、その時々で異なる。1980年代末には、株式市場のボラティリティー上昇について、プログラム・トレーディング、ポートフォリオ・インシュアランス、貿易争議、S&L危機/ドレクセル・バーナム証券の破綻などが、その要因として指摘された。1990年代には、ボラティリティーの構造的な上昇について、アジア通貨危機、ロシアのディフォルト、そして著名ヘッジファンドだったLTCMの破綻などが、その要因として指摘された。2000年代初めまで継続した高ボラティリティーについては、ITバブルの崩壊、それに続いた85%に及ぶナスダックの暴落、9・11同時多発テロからイラク戦争に至る一連の緊張などが、その要因として指摘された。サブプライム危機、それに続いた銀行破綻は、ボラティリティーが2008年に暴騰した背景ともされている。

指摘は適切である、と言える。こうした広範囲な背景がそれぞれ、ボラティリティーの上昇に寄与したことは間違いない。一方、こうしたイベントに共通しているのは、米国の金融政策である。こうしたイベントに数年先立つ段階で、FRBは金融を引き締め、利回り曲線を平坦化し、市場流動性を低下させ、米国と新興国、いずれの市場も信用危機に一段と脆弱な状況となっており、ボラティリティーが暴騰しやすい環境の下にあったのである。暴騰する要因はそれぞれ異なっていたが、常に、それに先立つ金融引き締めが、結果的に、ボラティリティー上昇に必用な環境を創り出していたのである。

FRBが緩和的な金融スタンスを維持する場合、大量の資金が金融市場と商品市場に流れ込む。安易な与信(クレジット)条件の中で、買い手と売り手はお互いを簡単に見つけることが可能となる。大口注文であっても大概、市場価格を大幅に動かすことなく執行が可能である。さらに、低ボラティリティーが長期間にわたって続く場合、ボラティリティーの売り戦略が有効となり、投資家は自得的になりやすい。リスクモデルは、しばしば近視眼的で過去実績に偏重しており、過去数年の平均的な動きに惑わされることで、金融システムが内在する現実的なリスクの規模を過小評価してしまう可能性がある。 こうして、FRBが金融を引き締める場合、または、低から高へボラティリティーが上昇に転じる場合、支障を生じさせるのである。

中央銀行が政策金利を引き上げる(現状で言えば、FRBがバランスシートを縮小させる)につれ、金融市場からは資金が流出していくことになる。最終的には、あるニュースが特定のトレーダー、または特定グループのトレーダー達に大口取引を執行させる、これが、緩和的な金融政策の下であれば、市場価格を大きく動かすハズがなかった大口取引となる。問題は、金融引き締めがある程度続いた後では、その時の市場価格に近い価格で、こうした大口取引の相手を受けて立つ投資家が、必ずしも存在しないことである。必用な取引量を達成するために市場価格が動けば、ボラティリティーが上昇することになる。こうした市場の動きは、特にボラティリティーの売りなど、既存建玉の整理を強要することになり、同時に、「リスク資産」の価格下落と共に、オプションのコストが上昇し始める。

ボラティリティーと金融政策の相互関係は、株価指数オプションで少なくとも過去30年、債券オプションで少なくとも過去20年、再三再度見られている4節のサイクルを突き動かしていくことになる(図9-11)。その他の資産クラスに関するデータはそれほど古くないが、同様のサイクルは少なくとも2007年以降、顕著となっている(図14‐18)。このサイクルは、以下の様に展開する。

  1. 景気拡大・晩期/リセッション前:金融引き締めの特徴である利回り曲線の平坦化により、市場ボラティリティーは格段に上昇し、その水準を維持する。
  2. リセッション期:極端に高いボラティリティーと脆弱な経済成長を背景に、中央銀行は緩和的な金融政策に移行し、これによって利回り曲線はスティープ化する。
  3. 景気回復・早期:金融緩和の特徴である利回り曲線のスティープ化により、景気が回復し始める。景気回復期の当初、ボラティリティーは高水準を維持するものの、次第に緩和される。
  4. 景気拡大・中期:ボラティリティーは低下し、中央銀行が金融政策を引き締め始めることで、利回り曲線は平坦化する。

現状のサイクルでは、2018年初め以来、株価指数のボラティリティーには明確な上昇が見られている。債券、金、銀、銅、そして穀物でも現在、ボラティリティーの上昇傾向が見られている。それでは、7月31日に実行された政策金利引き下げによって、構造的なボラティリティーの上昇は少しでも緩和されたことになるのだろうか?これには、否定的とならざるを得ない。1994年、政策金利を300bpt(ベーシス・ポイント)引き上げた後、FRBは翌95年に75bptの引き下げを行っている。そして、ボラティリティーは、上昇トレンドを開始した。ボラティリティーとの熾烈な戦いを経た1998年、FRBは政策金利をさらに75bpt引き下げる。ただ、政策金利が2000年の6.5%から2003年半ばの1.0%に引き下げられるまで、高ボラティリティーが続く結果となっている。 従って、政策金利が2015年の0.125%から2018年末の2.375%まで引き上げられたことを考えれば、広範な資産クラスで発生しているボラティリティーの上昇を鎮静化するには、3回以上の政策金利引き下げが必要になると推定される。

さらに、7月31日の政策金利引き下げ以降、それ以前に比べて、利回り曲線の逆イールド化が深度を増している。8月1日に米中貿易戦争が悪化したことで、長期債利回りが低下したことがその要因である。 今年後半、そして2020年に、広範な資産クラスでボラティリティーが大きく上昇するとすれば、その近似化原因は貿易戦争であるものの、根底原因はFRBの金融引き締めである。  貿易戦争と金融引き締めの組み合わせは、ボラティリティーを急騰させる可能性がある。

最後に、ヘッジファンドやリスク・パリティー、ハイ・フリクエンシー、アルゴリズム等、特定の取引主体に高ボラティリティーの要因を押し付ける記事や市場分析には、要注意である。彼らは、低ボラティリティーの市場環境でも存在したし、高ボラティリティー環境でも、依然として存在する。過去8年に及ぶ例外的な低ボラティリティー環境が彼らの仕業ではなかったのと同様に、今後の高ボラティリティー環境も彼らの仕業ではないのである。誰の仕業かと言えば、金融危機を受けて、2009年から2016年までの緩和的政策によってボラティリティーを低下させ、2015年から2018年末まで、9回に渡って政策金利を引き上げたことでボラティリティーの上昇リスクを高めるに至った、FRBの仕業である。

図9:1990年代の株価指数オプションのボラティリティー・サイクル

図10:ITバブル崩壊から金融危機までの株価指数オプションのボラティリティー・サイクル

図11:現状の株価指数オプション・ボラティリティー・サイクル – 直近でのボラティリティー上昇に注意

図12:債券オプション・ボラティリティー・サイクル(1999年⁻2008年)

図13:数年に及ぶ低下を経て、債券オプション・ボラティリティーは転機を迎えた

図14:トウモロコシ・オプション・ボラティリティーは上昇の可能性

図15:小麦オプション・ボラティリティーは、近々にも上昇に転じる可能性

図16:金オプション・ボラティリティーは底打ち、上昇開始の可能性

図17:米国の金融引き締めは、銅のボラティリティーも上昇させるか?

図18:唯一、通貨オプションにはボラティリティーの上昇が見られていない


 

All examples in this report are hypothetical interpretations of situations and are used for explanation purposes only. The views in this report reflect solely those of the author(s) and not necessarily those of CME Group or its affiliated institutions. This report and the information herein should not be considered investment advice or the results of actual market experience.

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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