米国債オプションで米国株をヘッジする

米国株の強気相場が終盤に差し掛かっているかもしれない。序盤(1991~96年、2003~05年、2009~14年)であれば、企業収益と株価は、ともに上昇する。しかし、終盤(1997~2000年、2006~07年、2015年~)になると、企業収益は停滞・低下するのに対し、株価はお構いなしに上昇し続けてしまう(図1)。今のところ企業収益は比較的堅調だ。とはいえ、国内総生産(GDP)よりも大きな伸びではない。利上げ・労働市場の逼迫・貿易戦争に伴い、ある時点で90年代後半や2006~07年のように、企業収益が如実に減少し始める可能性がある。必ずしも企業収益の低下が株価の即時下落を意味するわけではない。だが、利上げに加え、2020年ごろ(1年程度前後するかもしれない)に景気後退の可能性があるとすれば、株式買い保持戦略の危険性が増しているといえるだろう。

図1 9年に及ぶ強気相場も6回、7回、8回あるいは9回裏に入ったか?

米国株が直面している問題は、それだけではない。評価の水準もそうだ。S&P500®は実績株価収益率の21倍で、ナスダック指数は27.7倍で取引されている。しかも、S&P500®の時価総額は現在、対GDP比で史上2番目の高さだ(図2)。史上最高の水準である1999年後半~2000年前半のあとは2002年まで続く50%安の弱気相場となっている。ただし、この大相場の絶頂を2000年とすると、当時のフェデラルファンド(FF)金利は6.5%、30年物米国債の利回りは約7%だった。一方、現在のところ、FF金利は2%突破の道筋をつけたところで(米連邦準備理事会=FRBは9月に利上げを進めると予想されている)、30年物利回りは3%に近づいたところだ。低金利、しかも一様に魅力的な選択肢がないことから、S&P500®は史上空前の企業収益と時価総額(対GDP比)を維持できると主張する向きもある。

図2 米国株の時価総額(対GDP比)は、めったにない水準まで上昇した

一見したところ、米国株価指数オプション市場に現状を不安視する動きはない。VIX指数をはじめ株価指数のインプライド・ボラティリティ(IV)は、少なくともアット・ザ・マネー(ATM)に関する限り、記録的に低い水準だ。しかし、アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)になるほど、大きな歪みが生じている(図3)。プットが相応するコールよりも極めて高い。これは株価指数オプションにありがちなこととはいえ、興味深いのは米国債オプションには逆の歪みがないことだ(図4)。米国株が急落に見舞われれば、米国債には異常に力強い上昇劇があると想像できる。これまで株価に下押し圧力がかかったときは、得てしてそうなったからだ。事実、株価指数先物と米国債先物の関係を1年ごとの限月交代で見た場合、1998年以降の大半で負の相関を示している(図5)。特に当てはまるのが株価の絶頂時だ。ここが株価指数先物プット、あるいは米国債先物コールの購入に最も効果的なときであったといえるだろう。

そして、次の疑問が生じる。株価指数先物プットが米国債先物コールに比べて、どれだけ非対称的に高く評価されているか考えると、米国株のリスクをヘッジする最も費用対効果の高い手段は何であろうか。その答えは複雑だ。 

図3 S&P500®OTMプットはOTMコールに比べて極めて高価である

図4 米国債OTMコールはOTMプットに比べて若干高価にすぎない

図5 1998年以降、米国株と米国債は負の相関となりやすい

米国株が売られたとき、米国債オプションが利益をもたらすかもしれない。ただし、そうなる保証はない。過去20年、米株価指数先物と米国債先物は総じて負の相関になっているとはいえ、完全に負の関係ではないからだ。しかも、投資家がデフレや金融危機の危険性よりもインフレを恐れるようになれば、正の相関に戻り得る。事実、1998年以前は正の相関が株式と債券の通常関係であった。

また、市場に下押し圧力がかかっている間、米国株が値を下げたとしても、株価の下落があまりにも極端で「質への逃避」反応が生じるまでは、米国債価格が上昇をこらえているときがある。例えば、米国株が転げ落ちた1987年暴落の10月1日から19日までがそうだ。続く固定金利商品の値上がりは10月20日まで始まらなかった(図6)。

同様に2008年危機でも、リーマン・ブラザーズが破綻したニュースであれ、暴落第一弾の間であれ、米国債の価格は著しく上昇していない。顕著に上昇し始めたのは10~11月になってからであった(図7)。

突き詰めれば、株価指数プットがあまりにも高い理由は、株価が突然下げやすいからである。しかし、株価下落と同時に米国債が反応して、必ずしも同様に突然値を上げるわけではない。しかも、インフレリスクがおそらく上下に対称的であろう世界では(上ブレにいくらかリスクが偏っていないとすれば)、なぜ米国債価格の上方・下方リスクが比較的均衡していると市場参加者はみているか簡単に理解できる。米政府の財政赤字が激増し、FRBがバランスシートを縮小すると、市中に流通する債券の供給は増加するだろう。したがって、市場は株価の下ブレ懸念にもかかわらず、米国債価格の下方リスクが上方リスクとほぼ釣り合っていると判断しているのだ。

図6 1987年の株価暴落に対して米国債先物の反応は遅かった

図7 2008年に米国株が最も売られたあとで米国債先物は最大の伸びを示した

結論

  • 米国株価指数先物プットはコールに比べて極めて高価である。
  • 米国債先物プットとコールのインプライド・ボラティリティのほうが、より対称的な「スマイル」を形成している。
  • 米国株が引き続き上昇するほど、下方リスクが増加するかもしれない。
  • かつては米国株の暴落が常に米国債とって追い風となった。しかし、その保証はない。
  • インフレリスクと米国債の流通拡大によって米国債オプションの対称的な歪みは維持されるかもしれない。

 

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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著者について

Erik Norland(エリック・ノーランド)CME Groupエグゼクティブ・ディレクター兼シニアエコノミスト。主に世界金融市場の経済分析を担当しています。新たな潮流を明らかにして、その経済的重要度を評価し、CMEグループや同社事業戦略への効果、各種市場参加者への影響を予測。また、同社広報の一員として、世界の経済・金融・地政学的状況に関する情報を発信しています。

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