トウモロコシ相場は過去5年、ほぼ規則的に展開しており、春から初夏に上昇している。今年も5月30日~7月15日にかけて天井圏を形成した。小麦相場も同様で、真夏に上昇している。特に今年は2015年、2017年、2018年に匹敵する急騰劇となった。天井圏を6月下旬から8月上旬にかけて形成している。どちらも上昇要因となったのは、北米の作付・生育状況に対する懸念だ。特に今年はそうだった。米中西部の天候が極めて不順となり、大規模な洪水が発生し、作付が遅れた。
しかし、いずれの場合も、生育期が経過するにつれて、作付面積も単収(単位収量)も恐れていたほど酷くないことが判明すると、トウモロコシ・小麦相場は崩落した。事実、それを裏付ける作柄報告が8月12日に発表されると、どちらの相場も1日で5%下げた。作柄報告では、サウスダコタ州南東部とミネソタ州南西部、イリノイ州北部の一部、オハイオ州北東部といった特定地域では深刻な被害がみられたものの局地的であり、他地域では平均に近い生産量を示していた。さらに、アイオワ州北部、カンザス州とネブラスカ州の一部といった地域では、例年よりも高い生産量を表していた。
また、トウモロコシが夏場の上昇を維持できないのは、南米と黒海地域の生産増が織り込まれるからでもある。両地域は世界的生産コストで決定的な力を持つようになった。この10年で南米のトウモロコシ輸出は世界生産量の2%相当から米国に匹敵する約5.5%にまで伸びた。他方、黒海地域は実質的に域内供給のために生産していただけから世界生産量の3%に相当するトウモロコシを輸出するまでになった(図1)。
したがって、トウモロコシ相場がブラジル・レアル(BRL)とロシア・ルーブル(RUB)と軌を一にしていても、ほとんど驚きはない(図2と図3)。2014年と2015年に両通貨が対米ドルで安くなったとき、米ドル建て視点では限界費用が低下した。限界費用は相場がそれを下回ると市場への供給が減りやすくなる下限となる。それが弱気に作用する形になったわけだ。また、南米・黒海産トウモロコシの輸出増は、世界生産を多様化し、米中西部の天候不順に対する市場の反応を鈍らせた。
小麦でも世界的な生産地の多様化が進んだ。今や黒海産の輸出(世界生産の7%)は北米産の輸出(同3%)を矮小化している(図4)。そのため小麦価格は、おおよそRUBに沿って変動するようになった(図5)。また、カナダ・ドルやオーストラリア・ドルのような他通貨も何らかの影響を与えている。どちらの通貨もBRLやRUB同様、コモディティ(商品)価格の対米ドル安と軌を一にしているからだ。これは米国の農家を競争上不利な立場に置くことになった。
これこそ貿易戦争で米国のトウモロコシ・小麦農家が受けている被害である。大豆農家のように米中貿易紛争から直接的な影響を受けたわけではない。だが、緊張の高まりは人民元(CNY)安・米ドル高を方向づけた。そして、CNY安はBRL・RUBを道連れに安くし、同様にトウモロコシと小麦も安くなり得るのだ(図6)。RUBとBRLはブラジルとロシアの年金改革によって押し上げられた。しかし、両国は今や景気後退の瀬戸際にある。そのため、貿易戦争の激化は、大豆生産者の場合と同じくトウモロコシ・小麦農家にとって逆風の兆しとなるだろう。
特に興味深いのは、オプション市場が最近のトウモロコシ・小麦相場をどれくらい見誤っていたかである。どちらの市場も上昇側に大きく歪んでいた。アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)コールのほうがOTMプットよりも、はるかに高く評価されていたのだ。トレーダーは下降よりも上昇の可能性が極めて高いと予想していた(図7)。
これまでの記事でも指摘したように、トウモロコシ・小麦市場には実際のところ日常的に極端な値動きが下振れよりも上振れのほうで起こる証拠はない。にもかかわらず、大概はOTMコールがOTMプットよりも割高になる。生産地多様化の進展による南米・黒海産の増加、さらには米中貿易戦争の深刻化で逆風が強まる可能性は、農産物オプション価格で変わらない上方への歪み(リスク・リバーサル)に疑問を投げかけている。
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Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。
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