金/銀オプションの歪み(スキュー): 価格上昇リスク拡大の予兆か?

  • 7 May 2019
  • By Erik Norland
  • Topics: Metals

米国の金融政策は、通貨、金、銀のオプションの歪みに強く影響する。短期金利がゼロを大幅に上回る通常の金融環境では、投資家は金と銀の、価格下落よりも、急騰を懸念する傾向がある。結果として、こうした貴金属属におけるOTM(アウト・オブ・ザ・マネー)のコールは、同様のプットに対して、割高となる傾向がある。反対に、特に米中銀であるFRBによる第2次、第3次の量的緩和(QE)によってもたらされた様な、長期間に渡って金利がほぼゼロで推移する環境では、金と銀のオプションにおける歪みは反対方向への偏重を見せていた: OTMのプットは同様のコールに対して割高推移(図1、2)。

図1: FRBの金融政策が、金オプションの標準的な歪みに影響を及ぼす可能性

図2: FRBの金融政策が同時に、銀オプションの歪みにも影響を及ぼす可能性

金と銀のオプションの歪みに関しては、金融政策と通貨オプションの関係と強い類似性があることが分かる。本稿のシリーズでは過去、こうしたテーマを扱ってきている(下記参照)が、低金利通貨は価格上昇に偏重した(OTMのコールが同様のプットに対して割高となる)歪みを発生する傾向ある。一方、高金利通貨の偏重はその反対となる。ただ、類似性については、金利は発生しないものの、金と銀が実質的に 通貨であることを考えれば、驚くに当たらない。特に、金は何世紀にも渡って通貨の役割を果たしているものの、現代においても、その工業的な利用は限定的となっている。実際、通貨の発行体である中央銀行でさえ、準備資産として大量の金を保有するなど、価値を保存する資産としての金の役割を認めている。

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FRBが2007年と2008年に金融緩和に踏み切り、その後の3次に及ぶ連続的なQEを実施する一方で、政策金利をほぼゼロに据え置いたことから、オンス当たりの金価格は、600ドルから1900ドルに急騰している。銀の場合は、12ドルから48ドルの高値を記録するまで、オンス当たりの価格は4倍にもなった。ただ、市場価格がピークに近付くと共に、オプションの歪みは一段とニュートラル(均衡)化され、価格下落に対する懸念を色濃く反映する様になっていった。2011年9月に価格がピークを打った後、投資家の懸念はFRBが政策を引き締めに転換する可能性に偏重したことから、歪みはその後の数年間、ネガティブに転じる結果になった。

2009年から2014年まで、豪州やカナダの通貨もまた、対米ドルで例外的にネガティブな歪みを呈す相場展開となった。一方、日本円やスイス・フランなど、通常であれば金や銀と同様に、対米ドルでポジティブな歪みを示す通貨においては、その歪みがネガティブ、またはニュートラルに偏重し始めている。その背景ha単純に、米国の金利がほぼゼロとなった2009年、そしてその水準で維持されたその後の数年間に、USD(米ドル)は調達通貨となったからである。投資家は、実質的にゼロ・コストの資金を米国市場で調達し、より有望な投資先にそれを振り向けたのである。金融危機以前には、スイス・フランと日本円が主要な調達通貨であったが、ほぼゼロ金利導入によって、米ドルがこのグループに加わったことになる。

調達通貨であることは、その通貨の動向を不安定なものにする。1998年10月、日本円を調達通貨としていた投資家は、苦渋を以てこの事実を経験している。米国の著名ヘッジファンド、LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント社)が破綻したことに伴い、そのポジションを清算したことにより、対USDで、日本円は2日間に15%の急騰を見せたのである。2011年と2015年初頭にはスイス・フランも急騰を見せていて、こうした通貨で資金調達した外国人投資家には厳しい状況が続いた。2009年から2014年まで、外国通貨や金、銀の保有者、さらにUSDで資金調達している投資家にとっての最大のリスクは、FRBが金融の引き締めに転じることだった。実際、FRBが2013年にQEの漸減を発表したとき、米国の長期金利は急上昇(10年債利回りは1.38%から3.05%に上昇)し、米ドルがほとんどの通貨に対して急騰するなか、金と銀は急落している。他通貨に対する米ドルの急騰は、米ドルベースでの金と銀の価格を急落させたからである。

現状、FRBの金融政策は正常化、または、引き締め過ぎたと言うべきかもしれない状態に達している。そして、金や銀に対する投資家のリスク認識は、再び調達通貨となっている円やフランと同様に、価格上昇に対して主体的な偏重を呈す状況となっている。現状の主要リスクは、FRBが政策金利の引き下げに踏み切り、米ドルが他通貨に対して下落し始めることである。従って、ここで考慮するべき課題は、金と銀のオプションの歪みは、有効な投資指標となるか、である。結論を先に言うと、金と銀のオプションの歪み度合いは、先物しか、または現物しか取引しない投資家にとっても、興味深い情報を提供してくれているのである。

投資指標としての貴金属オプションの歪み

長期的には、歪みは一定ではない。米国の金融政策に連動していると考えられる長期的な動向に加えて、金と銀のオプションの歪みには短期的な上昇、下落があり、ときとして、こうした動きは極端なものとなる。ならば、極端にポジティブな歪みは価格上昇の兆候なのか、それとも、行き過ぎた価格上昇が修正する兆候なのか?同様に、極端にネガティブな歪みは一段安の兆候なのか、それとも、金や銀は売られ過ぎであり、その価格が反転・急騰する兆候なのか?

本稿ではこうした疑問に答えるため、歪み度合いを0から100までのスケールで、2年を周期として指数化し、これを(相場動向に関する見通しバイアスを回避するため)その後の3ヶ月間、先物で買いポジションを取った場合の結果と比較した。例えば、銀オプションの歪み度合いが過去2年間で最も価格の下落方向に偏重しているとしたら、歪み度合いの指数値は0(ゼロ)となる。反対に、銀オプション市場が過去2年間で最も価格の上昇方向に偏重している場合、指数は100となる。次に、2008年から2019年初頭までの間、限月が取引終了となる10日前にその先の限月にポジションを移行(ロール)させる形で得た先物のパフォーマンスを、3ヶ月毎に区分けしている。 

こうした検証では、オプションの歪みが多くの場合、有効な逆張り(コントラリアン)指標となっていることが示されている。直近2年間の平均を下回る歪度(OTMのプットが同様のコールに対して相対的に割高)は、その後3か月間における先物の買いポジションが平均を上回る収益となる場合が多いことを示している。反対に、平均を上回る歪度(OTMのコールが同様のプットに対して例外的に割高)は、それに続く期間の先物の買いポジションから得られる収益が、平均を大きく下回る場合が多いことを示している。  

ただし、こうした検証結果を将来的に用いる場合には、注意が必要となる。ここでの検証結果は時間依存的であり、2008年から2019年4月までに限って、金と銀の歪度とそれに続く価格変動の関連性を反映したものに過ぎない。こうした関連性は、過去10年間に比べて、将来的に大きく変容する可能性もある。

図3: 金に関して、オプションの歪みは逆張り指標となっている

図4: オプションが相場下落に極端に偏重した場合、それに続く銀市場は大幅な上昇を見せてきた

要点

  • 金と銀のオプションの歪みはFRBの政策に影響される
  • ほぼゼロ金利政策とQEによって、金と銀のオプションは下落方向に偏重した
  • より通常的な相場環境では、金と銀のオプションは上昇方向に偏重する傾向が強い
  • 金と銀では2008年以来、オプションの歪みが有効な逆張り指標となっている

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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