米国の業種株を左右する経済的・金融的要因

2011年3月15日に上場したE-mini S&P業種別株価指数先物(訳注:エネルギー、金融、公益事業、ヘルスケア、生活必需品、一般消費財、素材、資本財、テクノロジー、通信、不動産の11業種)のこれまでの成績をみてみると、大きく2つに分けられるだろう。

  1. 上場来3年半:業種別指数は互いに強い正の相関を持ちながら上昇した。2014年後半まで、程度の差こそあれ、すべての指数が上昇している。
  2. 2014年後半以降:業種別指数は、ますます分散化していった。テクノロジー株、一般消費財株、ヘルスケア株が上位を占める一方、エネルギー株、資本財株、素材株は低迷した。業種間の相関が、かなり弱くなっている(図1)。

図1 距離が生じている(業種別指数がどう分散したか)

では、この相対的成績を説明しているのは何か。2014年までほぼ横並びで動いていたのが、それ以降、道を違えたのはなぜか。

こうした疑問に本稿では定量分析で答えてみたい。8年にわたる日次データをもとに、次に挙げる7つの経済的・金融的要因に対する11業種の反応度(ベータ)をそれぞれ計算してみた。

  • 短期金利1年先の政策金利を予想するフェデラルファンド(FF)金利先物の日次変化
  • 長期金利:30年債-2年債(しばしば2Y30Yと表現される)による利回り曲線の日次変化
  • インフレ期待:10年物米国債のブレーク・イーブン・インフレ率(=10年物米国債の名目利回り-10年物インフレ連動米国債の利回り)の日次変化
  • 米国株のボラティリティ:S&P500®オプションのインプライド・ボラティリティであるVIXの日次変化
  • 原油価格:WTI原油価格の日次変化
  • 工業用金属:銅価格の日次変化
  • 米ドル:ブルームバーグ米ドル指数の日次変化

今回の回帰分析では従属変数を各E-mini業種別株価指数先物の成績からE-mini S&P 500®株価指数先物の成績を差し引いたものにした。したがって、焦点となるのは各業種のS&P 500®に対する相対的成績をもたらしているものになる。今回の分析では、7つの要因はエネルギー株、公益事業株、生活必需品株とS&P 500®との間に相対的成績が生じた理由のおよそ半分を説明していた。また、金融株、通信株、不動産株で日々の相違の約3分の1、素材株で約4分の1の相違を説明していた。今回の分析では、ヘルスケア株、一般消費財株、テクノロジー株、資本財株での相違をうまく説明できなかった(図2)。

図2 マクロ経済的・金融的要因が、ある業種の成績が他業種の成績よりも良かったことを説明している

短期金利

2011~14年に各業種別指数が適度に同様の成績を出した理由のひとつは、短期金利がほとんど動かず、特定の業種がS&P 500®を上回る・下回る材料をほとんどもたらさなかったためである。それが2014年後半に変わり始めた。投資家が「結局のところ米連邦準備理事会(FRB)は引き締めをする」と予想し始め、2016年末に実際に始まったからだ。以降、1年先を予想するFF先物の動きは荒れた展開をみせている。2018年秋には「2019年後半までにFRBの政策金利は3%近くになる」と予想されていたのが、現在は「1年後までにFRBは1.75%周辺まで利下げを繰り返す」との予想に変わったのだ(図3)。

図3 要因として小さかったFF金利が2014年以降、かなり大きな要因となっている

短期金利市場での予想の変化に対する反応は、各業種で大きく異なる。金融関連株は高めの金利を好み、FF金利に対するベータ値が次第に増加している。銀行やブローカーは長期にわたる「ほぼゼロ金利」に苦労しており、FRBが政策の正常化を始めたとき歓喜した。FRBが間もなく利下げに転じるかもしれないという見通しをあまり歓迎していない。

逆の反応をみせているのが公益事業株、さらに不動産株である。公益事業株は高配当で、債券に少し似ている。つまり、低金利は将来キャッシュフローの正味現在価値を上げてくれる。高金利はその逆だ。不動産株については、低金利が消費者の借入を刺激し、不動産需要を高める。高金利はその逆だ。しかも、どちらの業種も、かなりのレバレッジをかけている傾向がある。生活必需品株と通信関連株は、短期金利と弱めの逆相関を示している。しかし、その他ほとんどの業種には関係性がみられなかった(図4)。

もしFF金利先物が来年にかけて100ベーシスポイント(bps)以上の利上げを予想した場合、ほかの条件が同じであれば、金融株はS&P500®を7%程度上回る成績を出すかもしれない。一方、公益事業株と不動産株は10%以上も下回る可能性がある。

図4 金融株は高めの金利を好むが、それは公益事業株と不動産株にとって弱気要因となる

長期金利

長期金利についても、かなり似たような話となる。説明変数の相関が高いことで結果が不安定になることを避けるため、長期金利を短期金利とのスプレッドにして観察した。具体的には、30年物米国債利回りから2年物米国債利回りを差し引いた(図5)。利回り曲線(イールドカーブ)の平坦化は、特にFRBが利上げを始めてからも金融株がうまくいかなかった理由をある程度説明している。短期金利の上昇は銀行やブローカーの収益にとって追い風であるが、利回り曲線の平坦化で長期融資による銀行の利ザヤが狭くなったのだ。資本財株にとっては、利回り曲線の急斜化が小さいながら強気要因となっている。利回り曲線の急斜化は将来的に力強い景気に向かう前兆となるからだ。利回り曲線の平坦化は得てして、その反対の前兆となる。

図5 長期金利も短期金利も金融株の弱気要因として重複した

公益事業株、不動産株、生活必需品株、通信関連株は、利回り曲線の急斜化を弱気要因とし、平坦化を強気要因としていた。これらの企業にとって、長期金利の上昇は短期金利の上昇と同じである。近年、ヘルスケア株も利回り曲線に対してマイナスのベータ値を示し始めている。その他の業種は、長期金利の相対的水準に、ほとんど無関係のようにみえる(図6)。

もし利回り曲線が100bps急斜化した場合、金融株の成績は5%以上もS&P 500®を上回る可能性がある。一方で、公益事業株と不動産株の成績は同じくらい下回る公算が大きい。

図6 金融株は利回り曲線の急斜化を好むが、公益事業株と不動産株はそうではない

インフレ期待

インフレ期待は、10年物米国債の名目利回りから10年物インフレ連動米国債(TIPS)の利回りを差し引いたもので測定した(図7)。

図7 10年物米国債によるインフレ期待は2011年以降1.3~2.7%で変化している

インフレ期待の変化も各業種別指数の相対的成績に影響を及ぼす。インフレ期待の高まりは通常、特に公益事業株、生活必需品株、不動産株に大きな弱気要因となる。短期金利が将来的に上昇する可能性を示唆するからだ。エネルギー株や素材株にとっては、因果関係がおそらく逆に働くだろう。原油・金属価格の上昇は、インフレ期待が広がる原因となる。その恩恵を受けるのはエネルギー株と素材株の保有者だけでなく、インフレに連動しない(名目利回りの)米国債の保有者に比べればTIPS保有者もそうである(図8)。

図8 公益事業株、生活必需品株、不動産株はインフレ期待の高まりを好まない

公益事業株、生活必需品株、不動産株は、インフレ期待の高まりに弱気の反応を示す傾向がある。インフレ期待の高まりは、将来の金融引き締め策(あるいは、それがなければ、長期金利の上昇)に対する期待の前兆となるからだ。もしインフレ期待が100bps高まった場合、公益事業株がS&P 500®を10%ほど下回る可能性がある。また、それよりも小さいながら不動産株と生活必需品株の足を引っ張る公算が大きい。

米国株のボラティリティ

S&P500®オプションのインプライド・ボラティリティ(VIX)は、かなり不安定である。2011年(米国の政府機関閉鎖と債務不履行が懸念されたころ)に大規模なボラティリティ急増があってからは、米国株オプションのボラティリティは大半の期間で極めて穏やかであった。しかし、2018年1月以降、事態が変化している。VIXがじわじわと上昇し始めているのだ(図9)。

図9 長年にわたる凪状態を経て、ボラティリティが再び目覚めつつある

各業種でVIXの変化に対する反応は、大きく異なる。一般的にボラティリティが低めの業種は、ボラティリティ急増中にS&P 500®を上回る成績を出しやすい。具体的には、公益事業株、生活必需品株、通信関連株、不動産株である。金利上昇とインフレ期待の高まりに弱気の反応をみせる同じ4業種である。おそらく、株価が崩落して、ボラティリティが急増すると、短期金利が低下しやすいからであろう。逆に、ボラティリティが減少すると短期金利の上昇期待が高まりやすくなる。奇妙なことに、エネルギー株も同様に、ボラティリティの急増中にS&P 500®を上回る成績を出す傾向がある。

金融株は金融危機がまだ記憶に新しい2011~13年のボラティリティ増加に弱気な反応を示した。しかし、ごく最近、金融株はボラティリティの急増に比較的(市場全体に対する相対ベースで)強気な反応を示すようになってきた。逆のことがテクノロジー株についていえる。さかのぼること2011年、どちらかといえばテクノロジー株が過小評価されていたとき、ボラティリティの急増は、それほど弱材料ではなかったようにみえる。しかし、ここ4年は、テクノロジー株の上昇にともない、特にボラティリティが急増したとき、大打撃を受けるようになった。ここで警告しておきたい。かつてあったように、もしFRBの金融引き締め策がボラティリティの増加を生んだとすれば、高評価されたテクノロジー株は特に株価下落の影響を受けやすいといえるかもしれない(図10)。

図10 テクノロジー株はボラティリティ急増の打撃をますます受けるようになった

原油価格

当然ながら、原油価格はエネルギー業株価指数がS&P 500®を上回る・下回る主な要因となる。2011~13年に原油価格とのベータ値は0.17周辺であった。つまり、原油価格が10%上昇すればS&P 500®に比べてエネルギー業株価指数が約1.7%上回る公算が大きかった。それが2014年に原油価格が暴落して以降、その関係は0.30近くにまで強くなっている。つまり、原油価格が10%動けば、今やエネルギー株はS&P 500®に対して約3%上回り・下回りやすくなったのだ(図11)。不思議なことに、エネルギー会社は、このリスクをヘッジで減らす能力もしくは意思がないようにみえる。

素材株も原油価格とわずかに強気に相関しやすい。他の業種はすべて、エネルギー価格の上昇に直面するとS&P 500®を下回る傾向がわずかながらみられる。

図11 原油価格の上昇は、エネルギー株には追い風となるし、素材株も当てはまるが、その他の業種には良いとはいえない

銅博士

原油価格の上昇がエネルギー株の追い風になるのと同じように、銅価格の上昇は素材株で支配的な鉱業株にとって強気要因となる。また、銅価格の上昇は資本財株にも強材料となっている。これは工業金属が資本財企業にとって投入原価のひとつとなるため、少し逆説的だ。しかし、銅にかかる費用よりも重要なのは、銅が反映する世界経済の状態である(訳注:そのためドクターカッパー=銅博士と呼ばれる)。銅価格の上昇は世界的成長(特に中国や新興国)の力強さを示している。資本財株にとっては、それがいかなるコストの問題よりも優先されるようだ。 

同様に、銅価格から送られる世界経済の方向性についてのメッセージは、公益事業株、ヘルスケア株、生活必需品株、不動産株にも衝撃を与えている。こうした業種にとって力強い成長は強材料とはならず、今後金利が上昇する可能性を示唆しているのだ。

図12 金属価格の上昇は素材株と資本財株に追い風となるが、金利敏感株にはそうではない

米ドル(USD)

ドル高はコモディティ価格、ひいてはエネルギー株と素材株に弱材料となりやすい。テクノロジー企業では、ドル高を気にしない傾向がみられた。その他の業種は米ドルの変動に対して複雑で一貫性のない反応を示している。

2011年以降、米ドルは強い通貨である。それが原油・銅価格の下落を、ある程度、説明している。しかし、米国財政赤字の拡大、経済成長鈍化の兆候、FRB緩和策転換の可能性が2020年代にドル安を導く可能性がある。もしそうなれば、エネルギー株や素材株への悪影響はいくらか和らぐだろう。

まとめ

公益事業株、通信関連株、生活必需品株、不動産株は、米長短金利の上昇、その上昇要因となり得るもの(インフレ期待の高まり、銅価格の上昇、ボラティリティの減少)に弱気の反応をみせる傾向がある。金融関連株には逆の傾向がある。長短金利が上昇し、今やますますボラティリティが急増するとS&P 500®を上回るようになった。

エネルギー株と素材株にとっては、原油・金属価格の上昇が追い風となりやすい。そして、どちらの業種もドル高の打撃を受ける傾向がある。

テクノロジー株は大部分、我が道を突き進んでいる。ただし、ドル高を気にせず、ボラティリティ急増中の株価暴落(そして逆にボラティリティが収まったときの平均を上回るボラティリティの増加)にますます脆弱になっている。

ヘルスケア株は、今回分析したようなマクロ経済的要因に、ほとんど影響を受けていないようにみえる。しかし、今回取り上げなかった、現在進められているヘルスケア改革を含む政治的要因から強い衝撃を受ける可能性がある。単に経済的観点からは、ヘルスケア株は他のマクロ要因(金利上昇、ドル安、インフレ期待の変化、素材・エネルギー価格)と距離を置いている。何があろうと人は医療を望むからだ。

一般消費材株は、今回分析したような経済的・金融的要因に比較的影響を受けていない。カネ持ちは金利上昇、ドル安、原油高、銅下落を気にしない。関係なく好きな商品を消費し続け、ほとんどがそれにローン払いを必要としない。

2011年から2014年前半にかけて全業種が一緒に動いた大きな理由は、こうしたマクロ要因がどれも強い影響を与えなかったためである。短期金利に動く気配がなく、利回り曲線は急斜化しており、エネルギー価格は高いながら安定しており、金属価格も同様で、株式市場のボラティリティは凪状態であった。しかし、2014~16年にエネルギー・金属価格が崩落し、続いてFRBが金融引き締め局面に入り、ボラティリティが増加し始めた。それは各業種別株価指数を多様な方向に導いたのだ。


 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートを さらに見る

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