財政政策に依存する欧州の景気回復

ユーロ圏の景気拡大は、停滞局面を迎えている。ここ4カ月、製造業では縮小傾向が続いている—ただし、景気後退を示唆するような、急減速ではない。一方、サービス業は拡大を続けているものの、2017年や2018年に比べれば、そのスピードは大幅な失速を見せている。フランスを除き、ほとんどの国々が脆弱な連立政権によって運営されるなど、政治的に断片化した状況が欧州では続いている。直近の欧州議会選挙では、右派やEU懐疑派の政党、さらにEU親派のリベラルが躍進する一方、伝統的な中道右派や中道左派が後退した。 

図1: 遅々とした改善: ユーロ圏の失業率は2008年以来の低水準

こうした背景から、欧州のプラス要因が見過ごされやすいのも事実となっている:例えば、失業率が11年ぶりの最低水準に達したこと(図1)、さらに、米国や英国とは異なり、ユーロ圏経済ではレバレッジの解消が進んでいる。債務比率(公的+民間)は、対GDP比で265%のピークを記録した2015年から、昨年末の段階で247%まで低下している(図2)。同期間には、米国の総債務が同248%から250%に増加し、英国では252%から257%に増加しているのである。 

図2:米国や英国とは異なり、ユーロ圏の債務比率は低下している

債務比率の低下はユーロ圏5カ国、特にアイルランド、ポルトガル、スペイン(図3)、オーストリア、ドイツ(図4)で顕著となっている。ベルギー、フィンランド、ギリシャ、イタリア、オランダでも債務比率は低下しているが、そのペースは緩慢なものとなっている。また、過去2年間に、フランスの債務水準は安定化してきている(図5、6)。 

図3: アイルランドとポルトガル、スペインでは、レバレッジの解消が大幅に進んだ

理論的には、極端に低い金利水準と負債比率の低下は、財政刺激策への扉を開く組み合わせとなる。問題は、適切ではない国が、それを試みていることである。家計負債や社債の水準が非常に低いことから、イタリアの全体的な債務水準はユーロ圏の平均を下回っている。ただ、政府債務は対GDP比で132%と、依然として非常に高い水準となっている。そのため、イタリアの債券市場は過去12ヶ月間、減税や政府支出拡大の可能性に対して、市場崩壊を示唆する動きとなって来た。一方で現在、イタリア政府は主要な税制改革を断行するスタンスを示しており、債券市場はこれに動じていない様に見える。

図4: ドイツとオーストリアの債務水準は低すぎると考えることも可能で、潜在的な財政刺激策の余地を多大に残している

財政刺激策を展開するのに最適な立場にあるドイツは、まだその動きを見せていない。ドイツの公的債務は2018年、対GDP比で65%から61%に減少し、おそらく2019年の上半期も減少を続けたと考えられる。それでも、減税や追加的なインフラ投資の示唆さえ見られないのである。最長15年間、マイナス利回りでの借入が可能なドイツ政府は、老朽化したインフラを刷新し、現行30%の法人税を、OECDの平均である23%に近づけようと、尽力しているのではないかと思うのが自然かもしれない。また、EUからの離脱を試行する英国からビジネスを誘い込むなら、ドイツが個人所得税率の引き下げを検討する可能性も想定できる。

図5: 債務水準は、ベルギーとフィンランドで低下、フランスで安定化している

図 6: ギリシャやイタリア、オランダでも、レバレッジの軽減が進んでいる

そして、その日が来るかもしれない。ドイツのメルケル首相が率いるCDU / CSU連合とその連立パートナーであるSDPは、両方共が支持率を低下させている(図7)。実際、地方選挙とEU選挙の両方で、悲惨な結果を残している。支持率を早急に回復させるには、グリーンエネルギーや道路、鉄道などの分野への政府投資を増やすことが考えられる。さらに、歴史を振り返れば、減税で評判を落とした政治家はいない。次回選挙が2021年10月24日、またはそれ以前に予定されていることから、ドイツの連立政権には、政権維持のための戦略を練る期間が28ヶ月もあることになる。政府予算は対GDP比で2%の黒字、最長15年間のマイナス借入コスト、老朽化したインフラ、そして競争力に乏しい税率、有権者の苦痛に対する政策的な回答は、明確ではないだろうか? 

図7: CDU/CSU/SDP連立政権は、減税や財政支出に踏み切れるか?

ドイツはユーロ圏のGDPの30%を創出している。そのため、同国の財政緩和はその国境をはるかに超え、広範で有益な効果を生み出すと考えられる。もちろん、ポピュリスト運動を受けて、ドイツがその財政スタンスを変えないとしても、他のヨーロッパ諸国は、それぞれの政府がスタンスを変更するかもしれない。こうした国々はどれも、ドイツが及ぼし得る影響には届かないものの、欧州の政府支出は総体として、過去10年間の抑制されたペースから、普通と言えるペースの公共投資拡大にシフトすると考えられる。また、景気回復に伴って、税率の引き下げが断行される可能性もある。

EBC:政策金利引き上げによる金融緩和?

驚くべきことに、ECBは、2014年から2017年の間にバランスシートを対GDP比で20%から40%まで拡大し、5年間のマイナス預金金利を経て、依然としてユーロ圏のコアインフレ率を1%以上に浮揚させることが出来ないでいる。実際には過去16年間、ユーロ圏のコアインフレ率は、ECBが目標とする2%を超えたことがないのである。

図8: ユーロ圏のコアインフレ率は15年間、目標水準を下回っている

ユーロ圏経済が低迷に転じたとしてECBに何が出来るのか、これを想像するのは難しい。恐らく、ECBの最初のステップは、最も直感に反するものとなる:政策金利の引き上げである。例えば、0%の貸出金利を大幅に引き上げることなく、マイナス0.40%の預金金利をゼロに戻すだけで、年間75億ユーロに上る域内の銀行に対する税額が削減されることになる。ECBに資金を預けることに課税することで銀行が本当に信用創造と迅速な経済成長に寄与したとするなら、負債比率はおそらく低下しなかっただろうし、成長率は現行水準を大きく超えるものとなっていたと考えられる。

ECBのドラギ総裁は、10月に任期を満了するまで、マイナス金利の実験を続けるつもりの様である。であれば、今後数ヵ月以内に、ドラギ総裁の後継者は、歴史的に最も奇妙な金融緩和を試みることになると思われる。 

米国でも、2015年末や2016年末など、当初数回の利上げが経済成長を阻害したという事実は乏しく、短期金融市場をより正常に機能させることで、恩恵をもたらした可能性さえある。ユーロ圏がマイナス金利から脱却した場合にも、同様のことが想定できる。 

結論

  • 米国や英国と異なり、欧州諸国は継続的にレバレッジを軽減している
  • ドイツなどの国々は、財政支出に傾倒する可能性がある
  • ECBには現行政策を継続する余地がない
  • マイナス金利はユーロ圏の銀行にとって、年間75億ユーロの負荷となっている
  • ECBによる政策金利引き上げは、実質的な金融緩和となる

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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