株価オプションの歪み(スキュー): 何の不思議もないのはナゼか?

株価指数オプションは、数あるオプション市場の中で、最も驚きが少ない市場である。過去データによる本稿の検証では、株価指数オプションにおいて、OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)のコール・オプションが同様のプットのプレミアム(オプション価格)を上回ることはなく、この市場の懸念が、株価上昇ではなく、下落に対して強いことを反映している。もちろん、株式市場の投資家にとって、この事実は驚くに当たらない。例えば1929年や1987年、そして2008年に記録された様な株式市場の大きな動きは、いずれも同方向だった:下落である。株式市場の大きな収益機会は、前述の様な主要下落相場に続いて訪れる傾向があるものの、整然とした展開が通常は続くことになる長期的強気相場に、そうした機会は訪れない。緩慢な速度で構築される富は、瞬間的に消滅してしまうのである。

一方で、株価指数オプションが示す価格の下落懸念に対するスキューは、決して一様ではない。修正相場において株価下落に偏重するオプションのスキューは平均より極端になる一方、長期に及ぶ強気相場では、ときとして、スキューの度合いが均衡する場合もある(図1)。

図1: 価格の下落リスクを極端に意識するのは、株式市場に一般的な特徴

オプション市場のスキュー(リスク・リバーサルとも呼ばれる)は時間の経過と伴に変化するが、米国債、特定の通貨ペア、エネルギー、貴金属などの市場で観察された様に、その変化は有用な投資シグナルとなるのだろうか?例えば、極端にネガティブなスキューは、株式市場が今後、一段安となる示唆なのか、それとも市場は売られ過ぎとなっていて、反発・上昇に転じる示唆なのか?または、スキューのネガティブ度合いが平均以下であった場合、それは株式市場が今後、一段高となる示唆なのか、それとも買われ過ぎで、市場は下落調整に転じる傾向が強いのか?

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こうした疑問に答えるため、スキューの度合い(歪度)を0から100までのスケールで、2年を周期として指数化し、これを(相場動向に関する見通しバイアスを回避するため)その後の3ヶ月間、先物で買いポジションを取った場合の結果と比較した。例えば、ナスダック100指数オプションの歪み度合いが過去2年間で最も価格の下落方向に偏重しているとしたら、歪み度合いの指数値は0(ゼロ)となる。反対に、ナスダック100指数オプションの市場価格下落に対する偏重が、過去2年間で最低水準だとしたら、指数は100となる。次に、2008年から2019年初頭までの間、限月が取引終了となる10日前にその先の限月にポジションを移行(ロール)させる形で得た先物のパフォーマンスを、3ヶ月毎に区分けしている。 

オプション市場のスキューによって示唆される方向に相場が展開する傾向が強い米国債、またはスキューが逆張り(コントラリアン)指標として機能するエネルギーや貴金属などの市場とは異なり、過去10年、株式オプションのスキューはほとんど、有効な示唆とはなっていない(図2、3)。ただ、その上で言うと、ナスダック100の場合、限定的ではあるものの、オプションのスキュー度合いが過去2年間の移動平均値に最も近いときの示唆には有効性がそれなりに高く、極値に近づくほど低くなっている。

図 2: ナスダック100指数では、オプションの歪みが比較的平均に近い場合、その示唆の有効性は高い

図3:S&P500指数® では、スキュー度合いが平均を多少下回る場合、その示唆の有効性は最も高くなる

こうした、有効性が比較的低い示唆に関しては、その利用に際して注意が必要となる。ここでの検証は時間依存な結果であり、オプションのスキューとその後の株式市場の収益との関係は将来的に、これまでとは大きく異なるものになる可能性がある。

それでも、他の資産市場ではより有効な指標となっているスキューの示唆がナゼ、株価指数オプションでは有効性が低いのかという疑問が残る。これに対する答えは、資本市場独自のハイゼンベルグの不確実性原則にある、と言うことが出来る。つまり、何かを観察するという事実が観察対象を変化させてしまうという原則に、資本市場は則していると考えられる。当初のVIX指数が1986年に上場されて(この指数の計算方法が1993年に現在の方法に変更されて)以来、学者、投資家そして金融メディアによって、株価指数オプションは広く議論され、研究されてきた。こうしたことを通じて、ボラティリティのレベルとOTMオプションのスキュー度合いは、市場価格の形成プロセスに急速に組み込まれて来ているものと考えられる。反対に、商品や債券、通貨などのオプションに関する学者や投資家、金融メディアの関心は、昔からそれほど高くなかった。その意味で、こうした市場には、スキューに関して利用可能な情報が、株式市場ほど効率的に織り込まれていない可能性がある。一方で、株価指数オプションのスキューとその後の投資収益との関係に明らかな曖昧さがあるとしても、市場心理や投資スタンスに関する指標として、これに留意したい投資運用者がいるかもしれない。

要点

  • 株価指数オプションは(当然ながら)常に、下落相場懸念に偏重したスキューを示す
  • スキューの偏重(歪み)度合いは、時間と伴に変化する
  • スキューの度合いと将来的な投資収益との関係には、明らかな曖昧さがある
  • それでも、株価指数オプションのスキュー度合いは、市場心理や投資スタンスに関する指標として利用できる

 

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本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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