株式:強気相場の晩期を暗示する6つの示唆

9月中旬までに、FRB(米国中銀)が2度にわたる政策金利引き下げを実施する一方、米中の貿易戦争に激化の様相はないし、ナスダック総合やS&P 500®などの株価指数は再び、過去最高値を数パーセント下回る水準まで戻している(図1)。ただ、こうした表皮の下では、11年目に入った株式市場の強気相場を支える材料に、不安さも見えている。例えば、企業利益は株価の上昇スピードに後れを取っている。クレジット・スプレッドは拡大し始めており、ボラティリティーも上昇傾向となっている。さらに、株式市場の上昇相場には取引レンジに縮小傾向が見られ、小型株がアンダーパフォームしている。全体としては、足元の強気相場に疲労が見られるものの、相場が倒れこむ程ではない。

図1: 強気相場は10年以上前、2009年3月9日に始まった

基本的には、相場上昇の継続性に時間的な制限があるわけではない。従って、株式市場の上昇が10年半に及んだからと言って、その終焉が近いと言うことは出来ない(ただし、その可能性はある)。ただ、上昇期の終わりを暗示する、いくつかの示唆も指摘されている。こうした示唆には、以下がある:

  • 企業利益の失速
  • 大型株への上昇の集中
  • クレジット・スプレッドの拡大
  • 株価指数オプションのインプライド・ボラティリティー上昇

企業利益の失速

直近の2つの強気相場には、2つの段階があった。第1段階は直感的: 企業利益は拡大し、株式市場の上昇を伴った。第2段階はより複雑: 企業利益は失速し始めたものの、株式市場は上昇を維持した。1990年代、前述の第1段階は1997年までで、第2段階はその後3年間の不安定な相場期間である。次の強気相場では、第1段階が2003年から2006年まで、第2段階が2006年中頃から2007年10月のピークまでだった(図2)。

図2: 多くの場合、株式市場よりも相当前に、利益のピークが訪れる

足元の強気相場における第1段階は、2009年から2014年である。以来、米ドル建てで見た場合、企業利益は第1.5段階(第1と第2の間)に入ったと言える。急減したと言うわけではないが、株式相場が数年来の上昇を維持する一方で、企業利益は停滞し、低下気味となっている。実際、対GDP比の%で見ると、企業利益は2014年末以来、低下を続けている。そして、名目GDPの成長率が企業の増益率を大幅に上回る一方、株価指数であるS&P500は対GDP比の%で、2000年に記録した過去最高に迫っている(図3)。

図3: 2014年以来、企業利益は低下傾向

(2017年末の)減税が過去のものとなり、雇用市場が劇的にタイトな一方、短期金利がゼロ%ではないことを考えれば、企業利益に対する負荷は続き、今後、一段と強まるとも考えられる。一方で、直近の2つ強気相場は、企業利益の低下を以って株式市場が下落し始めるという、単純な話ではないことを示している。もちろん、どこかの時点で、株式市場の弱気相場入りは不可避的ではある。言えることは、株価上昇の一方で企業利益が低下する相場環境は、強気相場が晩期入りしていることを示唆している可能性があり、投資家としてはリスクのヘッジ、そしてその時が来た場合に備えて、逃避戦略を考えるべきなのかもしれない。

大型株への上昇の集中

1980年代と90年代の強気相場では、その前に発生していた景気後退期に続いた初期の上昇相場を、小型株がリードした。ただし、上昇相場の成熟期には、小型株が失速する一方、大型株が上昇をリードした。2001年の景気後退期には、その前にあった不安定期に続いて、小型株が再び上昇をリードした。2003年-2007年の強気相場が特異なのは、小型株が継続的に上昇をリードしたことである(ただし、2005年-2007年のピークに向かう期間を除く)。小型株は2013年に至るまで、足元の強気相場の最初の4年間、相場上昇をリードし続けたのである。2013年以来、特に直近の2年間、大型株が上昇をリードしている(図4)。この事実を以って、足元の強気相場が直ぐに終焉するとは言えない。ただし、この事実は、完璧ではないものの、現状の強気相場が、中期から晩期へと、成熟している示唆として注視するべきものであると言うことは出来る。

図4: 大型株が上昇をリードする相場は、多くの場合、強気相場の成熟を示唆してきた

業種の乖離

S&P500指数は、11の業種で構成されている: 一般消費財、生活必需品、エネルギー、金融、ヘルスケア、工業株、IT(ハイテク)、素材、通信、公益、そして不動産関連。弱気相場の期間には通常、多少の違いはあるとしても、こうした業種はいずれも下落する(ただし、低金利が好材料となる公益を除く)。同様に、強気相場の初期段階では、一斉に上昇することになる。また、業種間には高い相関性が維持される。しかし、その相関性は強気相場の成熟期に、崩れ始める。指数をアンダーパフォームする業種が多くなり、上昇は特定業種に集中する傾向が強くなる。さらに、全体としての動向は、業種毎でまちまちになる。1990年代、そして足元の上昇相場では、ハイテクが主力業種となっている。多くの場合、相場上昇が特定業種に集中すると、収益では正当化できない水準まで自分が選好する業種を買い上げてしまった投資家は、失望させられることになる。最終的に、選好した銘柄が利益目標を達成できない可能性を懸念した投資家たちは、売りに回る。弱気相場の始まりである。

足元の強気相場では、例外的に高い相関性が2009年から2012年に、より緩慢な相関性が2015年まで、それぞれ観察されている。市場が2018年のピークを迎えるまでに、こうした相関性は、2001年以来の水準まで低下している。2001年のケースでは、市場がその後、50%の下げを記録している。しかし、業種間の相関性は、不完全な指標でもある。その低下は1993年にも見られたが、翌(1994)年の株式市場は大体においてレンジ相場で終始し、1995年から2000年まで、急騰する展開ともなっている。さらに、2018年第4四半期以来、業種間の相関性は大幅な高まりを見せている。もっとも、その理由は主に、この四半期に多くの業種が急落したことの反動であるとも言える。相関性の回復は業種間で一様ではなく、次の3業種に集中している: ハイテク、ヘルスケア、一般消費材(図5)。

図5: 業種間の相関性崩壊は、時として、先々での問題発生を示唆する

クレジット・スプレッドの拡大

クレジットは、経済の血液である。企業や個人、政府が容易に資金を調達できる状況では、景気の拡大が不可避的となる。反対に、資金調達(クレジット)が厳しい状況では、景気が、そして結果的に株式市場が、多くの場合、失速する。1990年代と2003年‐2007年の2つの強気相場では、株式市場がピークを打つ相当前に、クレジット・スプレッドの拡大が見られた。数年来、株式市場の投資家が無視し続けたものの、市場には明確な示唆が示されていたと言える。そして、これへの市場の気付きは遅きに逸することになり、景気は既に後退期入りしていたし、株価は急落する結果になった(図6、7)。

図6: 2000年のピークよりも2年超前から、クレジット・スプレッドは拡大し始めていた

足元の強気相場でも、クレジット・スプレッドは2度、急拡大を見せている。最初は予算に関する議会とホワイトハウスの対立を背景に2011年、そして2度目は2015年、同様の背景だった。2015年の際には、商品価格の急落も同時発生している。2014年末、原油価格はバレル当たり、$100から$26まで急落した。これによって2016年初め、エネルギー業界ではクレジット・スプレッドが大幅に拡大する結果となった。それでも、株式市場全体の回復相場が阻害されることはなかったのである。当時、GDPの約1.5%を占めた原油生産は、この比率を最終的に0.5%まで低下させる。一時解雇が続出し、設備投資が激減するなど、エネルギー業界は経済的な痛手を負った。ただし、経済を構成する残りの98.5%にとって、エネルギー価格の低下は好材料だったのである。

図7:  2007年10月のピークよりもおよそ1年前、クレジット・スプレッドは拡大し始めていた

2018年10月、クレジット・スプレッドは再度、拡大し始めた。ハイ―イールド債と国債の利回りスプレッドでは、下値を切り上げる動きが続いている(図8)。ここまで、実際にハイ・イールド債のスプレッドが大幅に拡大した場面はない。ただ、国債との利回り差が6-7%に達したら、要注意である。この水準は、雇用件数が縮小に転じ、景気が失速に転じる水準と見られ、2000年と2007年の弱気相場の契機となったとも考えられる。

図8: 株式市場の足元の上昇相場では、クレジット・スプレッドは本格的な拡大に至っていないと考えられる

その大部分において、クレジット・スプレッド自体は、金融政策の影響下にある。緩和的な政策は、クレジット・スプレッドが狭い/タイトな環境を作り出す傾向にある。一方で引き締め政策は、結果として、クレジット・スプレッドの拡大をもたらす傾向にある。クレジット・スプレッドはまた、金融政策に影響を及ぼす: スプレッドが小さい環境は、結果として、FRBを金融引き締めに導き、スプレッドが小さい環境は多くの場合、FRBに金融緩和を強要することになる。

本稿シリーズにおける以下のレポートを参照する:

VIX-クレジット・スプレッド

クレジット・スプレッドの拡大

ボラティリティーの上昇

クレジット・スプレッドと同様にボラティリティーも、金融政策の動向を背景としたサイクルで推移すると考えられる。また、クレジット・スプレッドが拡大すれば株価オプションのコストが上昇(インプライド・ボラティリティーの上昇)し、多くの場合これも、株式市場が弱気相場入りする前兆となる。大概において、株価指数オプションには2つの状態がある: 低ボラティリティー状態(1993年-1996年, 2004年-2006年、そして2011年-2018年)は、景気拡大と強気相場の中期に位置する場合が多い。一方の高ボラティリティー状態(1989年-91年, 1997年-2003年、そして2007年-2011年)は、強気相場の終盤、そしてこれに続く弱気相場/景気後退期を示唆する状態である場合が多い。

低ボラティリティー状態におけるS&P500株価指数オプションのインプライド・ボラティリティーは、平均して12-14%となっている。通常、そのレンジは8.5%からおよそ20%台後半で、株式市場が下落する際には、30%台前半まで上昇する場合も見られる。一方、FRBが金融引き締めを行った後/利回り曲線が平たん化した際など、株式市場が高ボラティリティー状態であるとき、株価指数のインプライド・ボラティリティーは平均しておよそ23-28%であり、レンジは、およそ17-20%を底に、しばしば40-50%まで、ときにはこの水準を超えて上昇する。投資家にとって重要なのは、低から高へのボラティリティー状態の移行が、株式市場のピークに大幅に先立って発生することである。言ってみれば、株式市場の強気相場は、その晩期にボラティリティーが高まり、株価の上昇は続くものの、一段と不安定さが増す、ということである。

例えば、VIX指数は1997年(図9)に上昇を始めたものの、株式市場のピークは2000年まで待たなければならなかった。このギャップ期間は2007年の場合、より短期化している。一方、2007年2月に始まったボラティリティーの上昇は、相場がピークを打つ8か月前だった(図10)。

図9: インプライド・ボラティリティーの上昇は、2000年のピークより3年超前だった

足元の強気市場の問題は、株価オプションのボラティリティーには上昇パターンが発生しているのか、である。2018年1月に急上昇したボラティリティーは、同年第4四半期に大幅な下落修正に直面することを予想していたのかもしれないが、この上昇の前に記録した低水準まで修正することはなかった。2018年初め以来、株式オプションのボラティリティーは、下値を常に切り上げて来ている。

図10: 2007年のピークから8か月前、ボラティリティーは底打ちしていた

ボラティリティーの上昇はまた、強気市場の晩期において、クレジット・スプレッドの拡大を伴って株式市場が上昇するという、相場環境の矛盾を説明するものともなっている。株式とは基本的に、任意の企業に対する権利行使価格がゼロで満期なしのコール・オプション、と理解することが出来る。ボラティリティーの上昇はこのオプションの価値を高める。従って、オプション価値を上昇させる市場ボラティリティーの高まりは、投資家にとって、短期的には、潜在的な強気材料となる可能性がある。反対に、社債は任意企業に対するプット・オプションの売りとも考えられる: 全てが上手く行った場合、投資家は利益(元金と金利)を回収するが、社債に違約が生じれば、投資資金の一部、またはその全てを失うことになる。こうして、不確実性が高まれば、社債価格は低下し、その利回りは上昇する。結果、社債と国債の利回り格差は拡大する。

図11: ボラティリティーの高まりもまた、株式投資家への警告なのか?

結論

  • 株価は、過去最高値に迫る水準まで回復している
  • 一方で、強気市場は次第に、その堅牢さを失って来ている
  • ボラティリティーは高まりを見せ、クレジット・スプレッドは拡大している
  • 企業利益は失速している
  • 上昇する株式市場の取引レンジは、縮小している
  • 株式市場の上昇が続くとすれば、ボラティリティーは一段と高まり、大幅で急激な下落修正を、これまで以上に伴い易い相場になると考えられる

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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