主要イベント・リスクに対する効率的なリスク管理

現物商品に対するリスクを有する事業会社、そして、株式市場に対するリスクを管理する金融機関まで、先物やオプションは、リスク・ヘッジを希求する市場参加者にとって重要性の高いツールとなっている。例外的な低水準で推移していたボラティリティーは、政策の変更や地政学上の混乱に反応し、2017年以前の様なリスクの高まりを金融市場にもたらしている。もちろん、こうしたイベントを背景に生じているリスクは個別市場によって異なるが、それぞれに対応した先物やオプションを用いることで、市場の違いや地域を超えて、市場参加者はこれに対応している。

本稿では、こうしたリスクが個別市場に及ぼす、そして、市場参加者に及ぼす影響を理解するため、ボラティリティーをグローバルに高める結果になった典型的なイベントの例を検証していく。ここで取り上げた例は、特定の地域や市場に限定されたものではあったが、そこには、共通の特性も見られる。特に、大方の市場参加者が予想していなかった、または、事前の予想に反した結果をもたらしたことから、ここに例として取り上げたイベントは全て、市場を大きく動かすことになった。

こうしたイベントによるボラティリティーの上昇は、特定の個別市場から別の市場に拡大する場合もあるが、その大方は、市場全体のボラティリティーを上昇させるものではなかった。ただ、取引参加者にとっては、リスクが大幅に上昇する結果になった。FRB(米国中銀)が金融の引き締めを続け、2019年3月の期限を前に英国のEU離脱(ブレグジット)に関する交渉が難航し、来年にはECB(欧州中銀)が政策金利の引き上げサイクルに踏み切ると見られ、多額の債務を抱えた新興国の通貨が軟調推移となり、地政学的なリスクに収束が見られないなど、不確実性な市場環境が当面は続くと予想されるなか、市場参加者は信頼性の高いリスク管理ツールや市場データを必要としている。

建玉とイベント・リスク

本稿の検証では、売買高や市場価格の大きな変化は、記録的な建玉水準が続いた後に発生していることを証明されている。多くの場合、高水準の建玉は、市場参加者がイベント・リスクの高まりによる市場の混乱を予想していることの表れであり、市場価格が大幅に変化する可能性に対するヘッジ・ニーズの高まりを表している。通常の水準を超える建玉が債券市場で発生したなら、この市場の参加者は、市場価格に影響を及ぼすグローバルなイベントの発生を予想していることになる。こうした市場環境は、そのイベントの発生が事前に分かっている場合(例えば、選挙やFOMCでの政策金利引き上げ)、または、予定できないイベントに対する不確実性の高まり(例えば、継続的な国債関係の悪化)を背景として発生する。

こうしたイベントが現実のものとなったとき、 – 選挙の実施、または、貿易関係の一段の悪化など– が現実のものとなったとき、市場は売買高が急増すると共に窓(取引が行われない価格帯)を開けるなど、急速な価格変化で事態への迅速な反応を見せる。一方、こうしたイベントの最終的な結果に対するリスクのヘッジを希求する市場参加者は、イベントが現実化する前にオプションの建玉を積み増す傾向があり、オプション市場の建玉が増加することになる。

以下では、主要プロダクトが影響を受けた最近のイベントの例を見ていく。個別プロダクトの動きについては後述するとして、イベントの現実化が予定されている日を前に、各プロダクトでは建玉が大幅な増加を見せている。こうした市場の参加者が、イベントの現実化に際して、価格変化が大幅なものとなるリスクを意識し、予想外にリスクが拡大する可能性に対応しようとしたことが窺える。

米国債オプション

近年、長期化していたゼロ金利政策の終了に伴う金利の上昇など、米国債先物は新たなリスクに直面している。新しい金利水準と連邦債務の増加懸念を債券市場が織り込むなか、市場参加者は価格の急激な変化をヘッジするため、オプション市場を多用しているのである。結果として、ここ数年、10年債オプションの建玉は過去最高水準を更新し続けている。直近では、2018年5月29日、限月交代とユーロ圏での弱気材料が主要な背景となり、CME市場は過去最大の売買高を記録した。この売買高記録は、5月23日と同24日に年初来の建玉記録を更新した翌週の出来事となっている。

全体として、10年債オプションで年初来の建玉記録のトップ10は、前年の同ランクの記録水準を明確に上回っている。また、2018年のトップ10の多くは、2月と5月に記録されたものである。

Figure 1

銅オプション

銅は、世界的な景気動向を示唆する商品として、広く認識されている。この金属に関しては、世界の年間生産量の40%から50%を消費するなど、中国が旺盛な需要を抱えている。1 現状、追加的な措置の発動を示唆しながら、米国政権が中国製品に対して懲罰的関税の適用を続けていることから、市場参加者にとっては中国経済と銅需要の失速が懸念となっている。銅価格の下落リスクは、そのオプション建玉を2017年秋以来の高水準まで、劇的に増加させている。本稿では2018年4月に発生した市場の窓を検証しているが、市場参加者は銅の価格動向に再度、ストレスが生じることを予想していると考えられる。

2018年4月は、両国の政府高官が懲罰的な関税を追加的に、また、対象輸入品を拡大して適用するとした、米中の舌戦で始まった。同月5日には米政権が、1000億ドルに及ぶ中国からの輸入製品に対する関税の適用方針を発表している。この時、交易関係の悪化が中国経済に及ぼす潜在的な影響に対して既に銅市場は反応していて、市場参加者は貿易戦争に晒される中国経済のリスクの現実化を意識し、市場の下振れに対応するべく、オプションの建玉を一段と積み増していた。

Figure 2

英ポンド・オプション

2016年6月に実施された英国での国民投票に向けて、また、その結果に対する英ポンドの反応に対応するため、市場参加者は英ポンド・オプションの建玉を積み増していた。そして、この国民投票は長期化するイベント・リスクの第一幕でしかなく、離脱交渉での英国政府のあいまいな態度に加えて、何かしらの合意をすることなく英国がEUから離脱する(ハード・ブレグジット)リスクが高まるなど、一連のイベントを通じて英ポンドには不確実性が付随する結果となっている。英ポンドの動向に対するリスクと市場の不確実性をヘッジするため、市場参加者は継続的にオプションの建玉を積み増している。

Figure 3

2016年6月24日: EU離脱を決定した英国の国民投票

2016年6月の国民投票が近付くにつれ、投票結果は僅差であることが世論調査などから予想されていた。一方で、公人の多くは、英国がEUを離脱する可能性は低いとの見方を示していた。それでも、投票結果とは無関係に発生すると考えられた大幅な市場の動きに備え、金融機関は株式や為替などの市場で抱えるリスクを管理するため、夜間を含めてスタッフを配備してイベントに臨んでいた。ただ、イベント当日に関しては、投票時間終了を24時間後に控え、メディアが選挙報道を控えたことから、市場にはトレードの動機となる情報が乏しかった。しかし、現地時間の午後10時に投票所が閉められ、その直後から各選挙区の結果が判明し始めると、市場はその劇的な結果へ、そして、EU離脱を決めた英国のその後に対する懸念への反応を開始した。

英ポンド先物

そして、この投票結果に対して、大きな反応を見せた市場の一つが英ポンドだった。現地時間の午前2時頃、投票結果が明らかになると為替市場の英ポンドは大幅な下げとなり、同時に、GBP先物もこのニュースと英国通貨への影響を織り込む動きになった。この日、市場参加者は予想しなかった結果とその不確実性に対するリスク・ヘッジを模索し、売買高は高水準を続けた。

英ポンド市場のボラティリティー水準はこの国民投票に向けて上昇していたものの、英国が正式にEUを離脱するまでの長い時間に対するリスク管理の市場が準備を始めるなか、変動率は低下していった。

Figure 4

ユーロFX先物

英国が離脱を決めたことで、加盟国中で第2位の経済を失うことになったEUには、地域経済混迷の可能性が生じたことになる。共通通貨であるユーロに対するこうした懸念は、小幅な反発を見せるまでに4%超の下落を記録するなど、その先物にも反映された。欧州時間と米国時間を通じて売買高が高まったものの、価格は比較的通常のレンジ内に収まっていたことから、世界中から集まった市場参加者にとっては、この予想されなかったイベントの結果によって生じたリスクのヘッジを実行するのに、は比較的容易な市場環境でもあった。

Figure 5

関連市場

英国でのこの国民投票は、金や米国債などの古典的な安全資産への資金の逃避が見られるなど、その他の市場にも影響を及ぼした。その他、例えばWTI原油など、投資環境の指針とされる市場も、この国民投票の結果を受けて下落する状況となった。

CMEでは、上場プロダクトの多くで売買高の上昇が見られた。ただ、当初は急騰しせたボラティリティーが低下するにつれ、ほとんどの市場は通常の平静さを取り戻す結果となった。しかしながら、この国民投票は、予想されなかった政治的リスクによって、広範な市場でボラティリティーと不確実性が高まる取引環境の始まりでしかなかったのである。

2016年11月9日: 米国大統領選挙

2016年の米国大統領選の結果は専門家の多くに驚きを与え、同年11月8日の投票日に向けて世論調査が一層の僅差を予想していたことから市場の意外感も強かった。そして、こうした予想モデルの信ぴょう性に疑問が投げかけられる出来事ともなった。

そして、米国の政権交代という事態を市場が織り込むなか、先物市場の多くは、この日の取引が終わる前に、劇的な反転を見せた。市場は、選挙結果に関するニュースを反映し、新政権に対する期待を調整したのである。予想されなかった結果に対するこうしたダイナミックな反応は、市場環境の変化に対するリスクのヘッジを希求する市場参加者にとって、柔軟性と信頼性の高い機会が先物市場を介して提供されていることを意味している。主要プロダクトでは売買高の過去最高記録が更新され、米国の通常取引時間、そしてそれ以降も、この日を通じてタイトな呼び値が提供された。

EミニS&P先物

予想されなかった2016年の米国大統領選の結果を受けて、結局のところ上昇で終了するEミニS&P500指数先物が一時、6%超の下げを見せるなど、市場は大幅な変動を見せた。ショッキングなニュースに対する反応として市場価格は下落したものの、新政権がビジネスに寛容である可能性が高く、さらに減税を約束していたことから、例えば株式市場は、最終的に反転したのである。また、市場参加者がリスク・エクスポージャーの調整を続けたこの日、売買高は高水準で推移し続けた。

Figure 6

金先物

不確実性の高い市場環境で常に選好される金市場はこの日、その価格と場売買高の動向が、S&P500とはほとんど真逆のものとなった。結果が予想外ものとなる方向にニュースが集中するなか、金市場の価格と売買高は上向き始め、金価格は5%の急騰を見せた。ニュースは各市場のボラティリティーが高まる可能性を示唆するものだったことから、安全資産である金に市場参加者が集中したのである。しかし、新政権の政策スタンスに対する理解が進むにつれ、金市場は11月9日、前日とほとんど変わらない水準で取引を終了している。

Figure 7

2018年2月6日: ボラティリティーの再上昇

EミニS&P先物の1日目

好調な雇用統計を受けてインフレと金利の上昇に対する懸念が強まったことから、株式市場では、2016年以来となるボラティリティーの上昇が見られた。前回のピークには達しなかったものの、大統領選に影響されながらも2%に達しなかった価格変動率が7%に達するなど、株式市場は強い反応を見せた。低ボラティティー環境が長期化していたことから、市場は神経質な市場参加者の過剰反応が誘発されやすい状況にあったのも事実である。

この市場反応は、2日間に及んだ。1日目となったのは2018年2月5日で、米国取引時間の終了段階にこの日のほとんどの動きが集中するなか、市場は6%の下げで取引を終えている。

Figure 8

EミニS&P先物の2日目

翌日の2月6日、市場は総体的な反発を見せ、前日の下落分を挽回し、7%の上昇で終えている。予想していなかった高ボラティリティーの再来に対して、市場価格は安定性を取り戻していたものの、市場参加者のリスク・ヘッジ需要を背景に、売買高は前日に続いて高水準を維持した。

Figure 9

2018年4月4日: 米国の関税措置に対する中国の報復

2018年を通じて米中の貿易関係の緊張度が次第に高まりを見せる一方、これに対する市場の反応は限定的でしかなかった。実際、懲罰的な関税を発動する可能性を米国政権が指摘する一方、中国の反応は4月まで、米国のものに比べて抽象的であり、厳しさに欠けるものでしかなかったのである。そして2018年4月、500億ドルに及ぶ米国からの輸入品に報復的関税を発動する用意があることを中国が発表し、状況は次の段階に進展する。中国の報復案が具体的であったことから、市場参加者は中国が本気であることをくみ取り、関連性の高い商品先物の価格が下落したのである。

大豆先物

米国産大豆にとって中国は最大の輸出国であり、中国の報復案や提示された関税率は、大豆を含めて、米国に経済的な苦痛を最大限にもたらす物品を対象としていた。 2米国の懲罰的関税に対して中国が報復措置を発表した日、リスク・ヘッジを希求する市場参加者によって、大豆先物が5.5%の下落を記録すると共に売買高で過去最高を更新するなど、市場はドラマチックな展開となった。

Figure 10

銅先物

世界で生産される量のほぼ半分を輸入するなど、中国は銅の主要輸入国となっている。3 銅価格は経済指標に敏感に反応することから、世界景気の状況を反映する「Dr.コッパ―(銅博士)」として知られている。4貿易関係の緊張に対して売買高は明確な反応を見せなかったものの、銅の先物価格は継続的な下落を見せ、4月4日には3%超の下げとなった。それでも、CME市場は、一日を通じてタイトな呼び値を維持し、取引参加者が抱えるリスクのヘッジを容易にしていた。

Figure 11

2018年5月9日: 米国のイラン核合意離脱

WTI先物

実際に離脱を発表する数カ月前から、米国政権はイラン核合意から離脱し、同国に対する経済制裁を再稼働させる方針を示していた。それでも、実際の発表を受けて、市場は予想外の出来事に対する様な反応を見せた。米国が合意から離脱することは、世界第5位の原油生産国であるイランに5 原油輸出が困難な状況をもたらし、世界的な原油供給量を大幅に縮小させることになる。離脱に関する米政権の公式な発表はこの日、米国東部時間午後2時に予定されていたが、声明文はこれを前に、メディアを通じて同午前11時にリリースされ、市場価格が大きく値を崩す要因となった。

そして、当初、価格は3%の下げを見せたものの、結局は、当日の始値の水準に戻して終了している。市場が離脱決定のニュースを咀嚼する際に市場流動性が多少低下する場面も見られたが、この状況は早急に修正され、エネルギー市場へのエクスポージャーを抱える市場参加者は支障なく、そのリスク・ヘッジを執行することが出来た。

Figure 12

2018年5月29日:安全資産への逃避

イタリアでの国粋的政権の誕生は世界の市場に大きな動きをもたらさなかったが、財務相候補として指名を受けた人物がそのEUスタンスを指摘され、拒否されたことは予想外だった。これを受けて、通貨のユーロと地域における不確実性が一段と高まる結果となった。この懸念に対するエクスポージャーを管理し、全体的なリスクを軽減するため、市場では安全資産とされるプロダクトが選好された。

米国債先物

米国10年債先物市場には、四半期限月の限月交代が発生するタイミングで、また、政策金利の引き上げが予想される6月中旬開催予定のFOMC(連邦公開市場委員会)を前に、このニュースがもたらされたことになる。複数のイベントが絡み合ったことで、市場参加者には独特の、そして、予想不可能なリスクの組み合わせをヘッジする必要が生じた。世界中の取引参加者から売買を集めた10年債先物は、売買高の過去最高記録を更新してもいる。

劇的に活発化した市場は、米国の取引時間前であっても、タイトな呼び値を維持した。10年債利回りは3%を割り込んだものの、CMEの10年債先物の高流動性などが背景となり、先物価格が大きな動きとなったのはこの日の終わりの段階でしかなかったのである。

Figure 13

金先物

市場での質への逃避の動きは、金先物にも影響を与えた。不確実性に反応した金先物はこの日、日中売買高の年初来記録を更新したのである。激化する貿易戦争よりも予想が困難だったユーロ圏の不安定要因、そして、これに対する市場の大幅な反応は、比較的安全とされる金先物を市場参加者に選好させたのである。1%の上昇と同率の下落を経て、金市場はこの日、前日と変わらずの水準で取引を終了している。さらに、10年債先物の場合と同様に、この日1日を通じて呼び値はタイトさを維持し、市場参加者がリスクを回避するために必要な取引の執行を容易にしていた。

Figure 14

結論

  • 売買高と価格の大幅な変化は、記録的な建玉が続いた結果として発生する。
  • 市場全体のボラティリティーが低位を維持したとしても、個別のイベントが特定の市場に大きく影響する場合がある。
  • 地政学的リスクが温存され、中央銀行が政策転換に踏み切るなか、いくつかの市場では不確実性が高まっている。
  • 市場参加者にとって、リスク管理のツールや信頼性の高い市場データは引き続き、不確実性の高い市場環境を乗り切っていくために欠かせないものとなっている。
  • ここで、 CME流動性ツール では、市場流動性とトレードのコスト効率に関する情報を提供している。

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

ジェシー・ビーソンはインテリジェンス&アナリティック・チームに所属し、ビジネス・インテリジェンス部門のダイレクターを務めている

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