ブレグジットが(ディス)インフレにもたらす影響

ブレグジットの最終的な結果について依然として確信が持てないことから、英ポンドは、ドルとユーロに対して2016~17年の安値を再び試す展開となっている。英国が合意なしで欧州連合(EU)から離脱すれば、ポンドはさらに大きく下落する余地があろう。対して、英国が合意ありで離脱すれば、ポンドは急騰する可能性があろう。投資家と消費者は、ポンドの方向性についてどの程度懸念すべきだろうか?

その疑問を解決するために、(英国のEU統一基準のコアCPIを用いて)英国の消費者物価指数の前月比の変動に関する回帰モデルを構築し、季節変動、原油価格の変動、付加価値税の変動、ポンドの貿易加重平均レートの上下を要因として考慮した。

分析結果は以下のとおりである。

  • 貿易加重平均ベースでポンドの10%上昇/下落は、インフレ率の低下/上昇に相応し、ポンドの変動が生じてから約4か月後にインフレ率の変動が始まる。
  • 付加価値税が1%上昇/低下すれば、インフレ率の約0.5%の上昇/下落が生じ、その影響の約半分は最初の月に現れ、残りの影響はその後の2~3カ月間で吸収されていく。
  • 原油価格が10%上昇すれば、消費者物価指数(エネルギー価格を除く)は約0.5%上昇し、原油高は輸送コスト、プラスチックと包装などの物価を押し上げる効果があるため、物価は原油価格が上昇の動きを示してから1~2カ月後から物価が上昇に転じる。

英国がEUと合意して離脱し、ポンドが3年前の国民投票実施前のレベルに戻れば、ポンドは、通貨の貿易加重平均バスケットに対して16%上昇するだろう。我々のモデルによれば、ポンドの上昇の動きをみせてから約3、4カ月後以降に国のインフレ率は2%近辺に低下する可能性があろう。インフレ率はゼロに向かう可能性もある。対して、英国が合意なしで離脱すれば、合意なき離脱の結果を市場が織り込んでからさらに10%下落することは容易に想像できる(図1)。その場合には、インフレ率は現在の1.9%の上昇ペースから3%に向かいかねない。良いニュースはいずれの場合でも、インフレへの影響は一時的なものにとどまる見込みであり、約1年間の間に影響が出現し、物価の上昇は、ポンドの下落の動きが生じてから当初3カ月間ぐらいは目立たないとみられる。

我々のモデルは、合意なき離脱の結果となっても、インフレ率の一時的上昇にとどまることを示唆しているものの、インフレ率の上昇は、それに伴い生じる貿易障壁によりさらに定着し、商品の非効率な生産と流通がいつまでも続き、生産性が低下する可能性がある。

図1:2019年に合意なき離脱が生じる確率はわずか22%、それが実現すれば、市場には衝撃が走ると思

1994年から2019年の月次データに基づく調査結果は、以下のように過去数十年間の経験値とおおむね一致している(図2)。

  • 貿易加重平均ベースでポンドは、1996年終盤から1998年初頭にかけて30%急上昇した。コアインフレ率は、1996年終盤の2.2%から2000年初頭に-0.1%に低下した。
  • 貿易加重平均ベースでポンドは、2007年7月から2008年11月にかけて30%暴落した。コアインフレ率は、失業率の急上昇と原油価格の下落にもかかわらず、2008年初頭の約1.2%から2011年初頭に3.7%へと上昇した。
  • 2013年3月から2015年7月にかけて、貿易加重平均ベースでポンドはほぼ22%上昇し、コアインフレ率は2.3%から0.8%へ低下した。
  • 2015年終盤から2016年10月にかけて、ポンドは22%下落 – その大部分は国民投票の結果が判明してから数日間の下落に下落した。コアインフレ率は0.8%から2.7%へと上昇した。

2017年、英国の輸入額の対GDP比は23.5%であった。そのため、為替変動のベータ係数が- 0.1に近いことを踏まえると、これはほぼ為替変動の最終コスト(または利益)の半分は結局、英国の消費者に転嫁されるとの考えに概ね一致する。残りの半分は、サプライヤーと業者が吸収しているように見える。ただ、ポンド下落時の物価上昇は、ポンド上昇時の物価下落よりもすぐに英国の消費者に転嫁される傾向にあることに注目したい。小売業者は、約3カ月前に商品の価格を確定しているようであり、そのため短期的には、為替変動が生じても価格に対する影響はほとんどない。

最後に失業率の水準は、インフレ率に全く影響を及ぼしていない模様であり、少なくとも識別できる影響はなく、これは、英国のインフレ率と失業率の逆相関の関係を示すフィリップ曲線は、米国や北欧の大部分のようにまさにフラットであることを示唆している。インフレ率が失業率と連動しないという概念が正しい場合、イングランド銀行(BOE)は、ポンドの更なる下落とインフレ率の一時的上昇を伴う合意なき離脱の場合か、ポンド高とインフレ率の一時的低下につながる円滑な離脱を終えた場合でも、金融緩和の維持についてほとんど懸念しない。ただ、ブレグジットにより非効率な状況が続き、賃金の伸びが生産性の伸びを凌駕した場合は、この状況が変化する

図2:ポンドが10%上昇すると、約4カ月後に一般的にインフレ率が約1%押し下げられる

結論

  • ブレグジットの結果は、英国のインフレ率に影響を及ぼす可能性は高い。
  • 合意なき離脱ともなれば、ポンドは10%以上下落しかねない。
  • 合意あり離脱か、またはブレグジットの撤回となればポンドは15%を超える上昇を示す可能性があろう。
  • 貿易加重平均ベースでポンドが10%上下に変動すれば、インフレ率は1%ほど低下/上昇する可能性があろう。
  • 物価は、ポンドの変動に約4カ月遅れで反応する。

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートを さらに見る

通貨オプション

受賞歴のある当社の通貨オプション取引プラットフォームには、オプション戦略を最大限に生かすために欠かせない板情報、望ましい商品、必要なツールが備わっており、31種類の通貨オプション商品をほぼ24時間取引できます.

さあ、取引開始