株式相場の深刻な下落局面でも経済成長を長引かせることはできるか?

株式相場の調整は、ほぼ10年間続いている米国の景気拡大を長引かせ、したがって景気後退の到来を遅らせることはできるのか?奇妙で直観に反した質問のように思えるだろうが、真実は、株式相場の大幅な反落局面は、米連邦準備理事会(FRB)が1回以上余分に利上げを行って不注意にも景気拡大を減速させないようにする必要がある場面とちょうど一致している可能性がある。

第一に、株式市場は常に、景気後退を示す優れた指標であるとは限らない。1987年の大恐慌と1988年の大不況は記憶にあるか?1998~99年の景気後退局面についてはどうだったか?あるいは、2011~12年の後退局面はどうだったか?こうした経済的な惨状を思い出せないとしても、あなただけではない。経済的な惨状までには至っていない。とはいえ、以下のように株式相場の急落は起こっている。1987年8月から1987年10月までに-36%、1998年7月から8月まで-20%、2011年夏に-22%それぞれ下落した。これらの下落局面に続いて、景気後退は起こらなかった。

図1:1987年の危機発生は、景気回復が腰折れしなかった。

 

1987年から1998年の場合、FRBは、一時的な金融緩和に踏み切り、短期的な成長が一層力強くなった。1988年は、景気がかなり好調だった年で、1989年はそこそこ良い年だった(図1)。同様に、1999年も米国経済が素晴らしかった年で、成長は2000年まで続いた(図2)。 

図2:1998年夏の株式相場下落局面も同様に、景気回復が腰折れしなかった。

金融業界の苦境に対応したFRBの一時的な金融緩和が功を奏して、混乱は収束した。1987年10月に勃発した金融危機から数カ月間、FRBは利上げに踏み切り、7.25%から6.5%まで金利を引き下げ、金融システムに流動性を提供した。1998年、FRBは同じ手段を活用し、5.5%から4.75%に利下げして、資産運用会社のLTCMの破綻の影響を着実に沈静化するまとめ役を担った。この両方の事例において、利回り曲線は一時的にスティープ化した。成長は勢いづいた。

図3:87年の危機によっておそらく、1980年代のFRBによるうかつな景気拡大の終了が先送りされた。

いずれの場合も、経済はいずれ景気後退を経験したが、数年後に過ぎず、FRBが金融引き締めを再開した後であった。たとえば、FRBは1998年第2四半期に金融引き締めを開始し、1989年まで利回り曲線は逆イールドになった。米国経済は、1990年から1991年にかけて景気後退に陥った(図3)。同じく、FRBは、1999年第3四半期にLTCM危機後の金融緩和の解消に着手し、n 2000年に逆イールドに転じた。2001年と2002年に、成長はついに徐々に止まった(図4)。

図4:1998年5月のLTCM危機後の金融緩和は、1990年の景気拡大期の最後の一息を長引かせた可能性がある。

1990年と2001年の景気後退期における注目すべき点は、株式市場は、景気後退が本格化した後に(いずれも1990年の景気後退の場合は穏やかに)唯一の売り局面を実際には予想されなていなかったことだ。また、2007年のサブプライムローン危機の勃発にも反応するのが遅かった。

2011年夏の調整局面後、FRBのジャネット・イエレン議長は、量的緩和第3弾(QE3)を練り上げ、これは景気回復の継続と一致した(ただし、おそらくその要因だったわけではないだろう)。株高は2014年終盤まで続き、その後調整局面が1年間続き、2016年から2017年にかけて株高が持続した。 

足元の株式市場の下落局面による経済への影響は、FRBの対応にほぼ左右されると思われる。当局者の金利見通しを示したFRBの「ドットプロット」は、12月に1回、2019年に3回、2020年に1、2回とFRBが現在から2020年までに5回か6回の利上げを計画していることを示唆している。FRBが株式市場の下落局面の直面するなかで、こうした利上げ路線を堅持すれば、FRBは短期金利を引き上げる一方で、投資家の資金は株式やクレジット商品から流出して長期国債の相対的な安全性に向かうため、利回り曲線が引き続きフラット化、または逆イールドになる可能性がある。株式市場とは異なり、相場の変動は、今後の経済動向を占うには信頼できない尺度であり、依然として不完全ではあるものの利回り曲線の形状がかなり強くなっている。

歴代3人のFRB議長は、プット・オプションのような役割を果たした。それぞれ、株式市場における混乱のシグナルに対応して、金融緩和策を講じた。FRBの新議長のジェローム・パウエル氏も同じことを行うだろうか?失業率が4%を割り込むなかでインフレ率が静止状態にあり、賃金の伸びが年間2.8%にとどまっていることを踏まえると、ボラティリティが急上昇するなかで確かに利上げの撤回を示す可能性があろう。ただ、政府高官から公然と批判されているなかで、独立性の構えを維持しようとした場合利上げの撤回はさらに困難になっている。 

図5:いまだ追加利上げを織り込んでいる。

今のところ、株式市場の下落局面に対して、FF金利先物市場は大した反応を示しておらず、いまだにFF気金利の追加利上げを織り込んでいる(図5) – ただし、FRBの「ドットプロット」が示すよりも回数が減ることを示唆してる。株式相場は大幅安を経験し、FRBが最近の利回り曲線のフラット化(図6)が反転させてしまった場合、景気拡大が再び長引くかもしれない。

図6:FRBは、2006年から2007年にかけてのように利回り曲線を逆イールドに反転させるつもりなのか?

図7:成長減速のなか、そしてサブプライム危機を無視して、株価は2005年、2006年、2007年に上昇。

結論

  • 1987年と1998年における株式相場の急落は、景気拡大を終了させる要因にはならなかった。
  • その代わりに、こうした調整局面に対するFRBの対応により、景気回復は長く続いた。
  • 株式相場の調整が続けば、パウエル・プットの存在を試す展開となろう。
  • 利回り曲線は、景気後退の先行指標となる傾向になり、株式相場は景気後退に反応する傾向にある。
  • FRBは、将来的に経済の成長をみずからの手で止めてしまうかもしれない。

 

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本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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