銅オプションのパラドックス

  • 18 Jun 2019
  • By Erik Norland
  • Topics: Metals

米中間の貿易戦争の激化も、米国の金融政策の方向性に関する議論の議論の高まりのいずれも、少なくとも今のところ銅のオプション価格に大きな影響を与えていない。COMEXの銅オプション(HG)のインプライドボラティリティは、めったに低下しない(図1)。銅オプションは、これに関してとても唯一無二とはいえない。原油オプションのボラティリティが急上昇して株価指数のインプライド・ボラティリティが小幅上昇しているものの、金、銀、通貨、米国債を含むその他ほとんどのオプション市場は、停滞したままである。その他の市場と同様に、銅オプションの一般的な水準は、米国の金融政策関連のサイクルを追随しているようにみえる。

図1:銅オプションのインプライド・ボラティリティは過去最低水準近辺にとどまっている。

ただ、銅オプション市場を掘り下げる前に、銅の経済学について手短に思い出してみよう。

銅の需給要因と銅オプションのパラドックス

銅オプションの総費用は米国の金融政策に密に連動しているものの、中国の成長は銅価格に最も直接的な影響を及ぼしている。より具体的に述べると、銅価格は、他の工業用金属、原油、農産物などの多くのコモディティや、チリ・ペソなどの新興国通貨と同じく、李克強指数と呼ばれる中国の成長を厳密に示す指数の動きを密に追っており、同指数は電力消費、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高といった3つの要素を用いて中国の成長を測定する代替的な指標である(図2)。 

関連テーマ

図2: 銅価格は李克強指数を約1年遅れで追っている。

中国の工業向けの需要の伸びは、2000年代初頭、2009~10年、そして2016~17年に再び加速したとき、銅価格は約1年遅れで急騰した。同様に、中国の成長が2007~08年と2011~15年に減速したとき、銅価格は約1年遅れで下落した。銅価格に関する良いニュースは最近、米政府が2018年5月に2,000億ドル相当の中国の輸入品に対して10%の追加関税を賦課した結果、中国の成長があまり鈍化しなかったことである。しかし、銅価格は、米政権が追加関税を25%に引き上げた後、過去1カ月間で約10%下落した。中国は関税引き上げがもたらすマイナスの影響を吸収するために多数の手段持っているが、その一部は、金融緩和などの銅の支援材料になった可能性があり、そのほかは人民元(RMB)の切り下げなど弊害をもたらしかねない。

中国が銅にこうした大きな影響をもたらす理由は、単純である。毎年、新たに採掘され、精製された銅の40~50%は中国に向かう。2つ目は、中国の需要は、1994年以来、倍以上に膨らんだ銅の供給を吸収するのに不可欠な存在であり、年間5%程度で増加し続けている(図3)。中国の成長が持続しなけければ、銅価格は、2012~2016年の間に起きた暴落が生じる可能性は高い。最近の調整後であっても、銅価格は、生産コストを約30%上回る水準で推移している。これは、銅の生産が2019年から2020年にさらに増加する可能性が高いことを示唆しており、そのため、中国やほかの地域で安定した需要の伸びを維持するかについては、銅価格が現在の水準を維持するか、あるいは上昇に向かうかが重要となろう。

図3:銅の供給の容赦なく続く伸び、2017年から2018年にかけて5%増加。

ここに銅オプションのパラドックスが存在する。中国の成長は、銅価格を左右する主な要因であれば、なぜオプション市場は、例えば米国の金融政策よりも中国の成長に強く反応しないのか。中国の成長率が大幅に減速し、銅価格が70%安と暴落したにもかかわらず(図2)、2013年、2014年、2015年に銅オプションの低ボラティリティがどうして再開したかに注目されたし(図1)。銅価格のその後の回復も、最近の下落局面のいずれも、共に中国の成長率の変動に反応したように見受けられ、銅オプションの価格に持続的な影響を与えておらず、銅オプションのインプライド・ボラティリティは平均して16%近辺と、金融危機前の期間の2007年に始まった状況に近い。

銅オプションのボラティリティ・サイクル

中国の成長は原資産である銅の価格を左右するものの、米国の金融政策は、株式、債券、通貨、貴金属、農産物など幅広い市場の全体的なオプションの総費用に強い影響を行使している。株式市場の場合、このサイクルは現在、30年間持続している。少なくとも2007年以来、アット・ザ・マネー(ATM)の銅価格のQuikStrikeのシリーズが始まって以来、銅オプションも同様にこのサイクルをたどっている(図4)。本質的に、以下の4つの部分に分類できる。

  1. 景気後退期:(利回り曲線のフラット化からも明らかのように)金融引き締めの期間後、ボラティリティが上昇に転じる。
  2. 景気回復初期:中央銀行による金融緩和に反応して、利回り曲線がスティープ化し、経済は回復し始めるが、信認の回復に時間がかかるため、オプションは、割高になったままである。
  3. 景気拡大中期:インプライド・ボラティリティが平均して低く、利回り曲線ががスティープ化し、中央銀行が金融引き締めに転換すると利回り曲線がフラット化し始める。
  4. 景気拡大後期:利回り曲線のフラット化から明らかなように金融引き締めと、低水準にとどまるインプライド・ボラティリティは、中央銀行が市場から資金を吸収すると、高ボラティリティに転換し始める。

図4:銅オプションは、株式、債券、金と似たサイクルをたどっている。

銅の需要は中国によって大きく左右されているかもしれないが、他のほぼすべてのコモディティと同様に、銅の価格は米ドル建てである。つまり、連邦準備理事会(FRB)の金融政策は様々な市場の流動性状況に強い影響をもたらしており、米国経済の規模で想定されるよりもその影響はもはるかに大きい。今でも、世界の取引の60%程度は米ドル建てであり、その残りはほぼユーロ建てとなっている。人民元建ては、取引全体のごくわずかにすぎない。

アウトルック

銅の見通しは、中国に大きく依存している。中国は高い経済成長率を維持できれば、銅は、かすり傷を負わずに貿易戦争を生き残れる可能性がある。しかしながら、これは、中国が人民元を過度に切り下げずに、金融政策を緩和して財政政策を行う意欲と能力にかかってくる。 

銅のオプションについては、最大の脅威は、中国ではなく、むしろFRBかもしれない。FRBが金融引き締め政策を維持すれば、クレジット・スプレッドの拡大が生じ、市場では全般的にボラティリティが高まる可能性があり、そして最もそうなりそうなのは銅である。他方、現在、短期金利市場で広く予想されているように、FRBが緩和に転じれば、ボラティリティが抑えられ、米国の景気拡大が当面続く可能性がある。

結論

  • 銅オプションのインプライド・ボラティリティは過去最低水準近辺で推移している。
  • 銅価格は、中国の成長に大きく左右される。
  • しかし、銅のオプション価格は、米国の金融政策のサイクルを追随している。
  • 米国の金融引き締めによって、銅のインプライド・ボラティリティがかなり高くなる可能性がある。
  • 対照的に、FRBが金融緩和に転じれば、銅オプションの価格は抑えられる可能性がある。

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートを さらに見る

標準サイズとE-miniの銅先物と銅オプションは、取引に欠かせない値付けの透明性と流動性を確保しており、景気変動型の金属商品としても注目されている。

取引を始める