【中国経済】貿易戦争よりも注目すべきこと

中国の経済成長が鈍化している。債務が足かせとなるなか、貿易戦争という米国の仕掛けた一か八かの勝負に巻き込まれた。ところが、こうした問題があるにしては、中国経済は予想を超えて堅調に推移しているようにみえる。実際のところ、2019年には大胆な金融緩和策で加速する可能性さえあるのだ。もっとも、その金融緩和は2020年代に起こり得るリスクを膨らませてしまうだろう。しかも、そのリスクは人口構造の変化で、さらに悪化し得る。中国経済の変調は世界的に市場の大波乱要因となるだろう。その状況を分析するうえで私たちが注目しているのは、長期的な人口動態の相互作用、伝統的政策ツールの効果減少、そして現在の政治状況がもたらす影響だ。

2019年、そして2020年代に中国がどうなるか。それは、さまざまな市場、特にコモディティ(商品)やコモディティ輸出国通貨の動向を決定するうえで、大きな要因となるだろう。多くのコモディティやコモディティ国通貨が中国の経済成長と強い相関を示しているからだ。特に高い相関を示しているのが同国の産業活動を示す狭義の成長指標である。例えば、鉄道貨物量と電力消費と銀行融資残高の伸びを測定する李克強指数だ(図1)。  

図1 李克強指数は多くの通貨・コモディティの将来動向と高い相関がある

興味深いことに、対象の狭さにもかかわらず、李克強指数は中国の公式GDP(国内総生産)を補完してくれる。同指数には、大多数の通貨・コモディティと強い正の相関がある。しかも、2012年以降、毎四半期6.4〜7.2%に収まり、平均予測値を0.1%超えて驚かせたことさえない公式GDPよりも経済成長の変化を、はるかに大きなブレ幅で示しているのだ(図2)。中国の2019年と2020年の経済見通しを評価するとき、私たちは両方の数字に注目するだろう。しかし、その詳細に入る前に、まずは最も大きな全体像である人口統計を見ておきたい。

図2 公式GDPは2012年以降、成長にほとんど動きがないと示すも、李克強指数は別の話を語っている

人口的背景という決定的要因

背景は重要だ。政策や貿易戦争の展開という動学的問題に目を向ける前に、この決定的かつ長期的な問題を簡単に振り返ることから始めたい。中国の人口動態が示唆するのは2020年代に成長鈍化が起こり得るというものだ。それは少子化、高齢化、そして生産年齢人口の伸び悩みに中国経済がどう対応し、適応するかにかかっている。

1990年の中国で65歳以上の人口比率は5.5%だった。それが現在は11.3%に達している。2030年には17%に上昇するだろう。退職者人口の拡大は、それを支える若年層の負担が、より増えることを意味する。また、経済の成長性に極めて重要なのが生産年齢層(米国の国勢調査では15〜64歳と定義)の伸びだ。成長性を労働力の伸びと生産性の伸びの合計と考えると、労働力の伸びが鈍化すれば、生産性の変化次第で実質GDP成長率も同じ傾向になる。中国では1990年から2018年にかけて15~64歳の人口が30%余りに段階的に増加していた。ところが、米国勢調査局の2018~30年予測によると、中国の15~64歳人口がマイナス4.66%に段階的に減少する可能性がある(図3と図4)。

図3 中国で退職者人口が急増中

図4 中国の生産年齢人口は減少の一途となる公算が大きく、成長の妨げになる

人口動態は、この先10年以上にわたる実質GDPに関わる重要な問題だ。これが示唆する成長率の減速を反転させるのは、従来の政策手段では、まず無理であろう。これまで中国では農村から都市への劇的な人口移動があり、それが高齢化の影響を効果的に覆い隠してきた。都市部で非常に生産性の高い労働力が、まだ年3%増で伸び続けていたのだ。しかし、これから10年で農村から都市への人口移動は減少するだろう。そのため人口の急速な高齢化と生産年齢人口の実質的減少という関連する問題が、実質GDPに大きな打撃を与えるかもしれない(図5)。実際のところ2020年代の実質GDP成長率を平均3~4%で達成できれば、中国は人口動態の問題に適応して、うまくやったといえるだろう。ただし、人口増の鈍化と農村から都市への人口移動の減少によって、中国はもうひとつの難局に直面する可能性がある。債務だ。

図5 中国の経済成長率は2020年代にさらに減速する公算が大きい

自転車操業の不気味なリスク

人口動態という長期的背景は、政策決定者が期待するような成長率の達成は、このままでは無理だと示唆している。そこで実質GDPを上げるため、労働生産性を改善させる政策をいろいろと試みると思われる。その一環として挙げられる大型政策が政府・民間両部門で債務を大量に使用することだ。国際決済銀行(BIS)によると、2018年4-6月期に中国の非金融部門に供与された信用総額の対GDP比は253%であった。米国の場合、GDPの249%だ(図6)。

図6 中国は巨大債務国クラブに加入した

米国とユーロ圏では、債務が対GDP比で250%に達したとき、深刻な金融危機を経験している。中国が似たような債務水準に達したことで、今度は同国が先例に倣うかもしれないと懸念する人もいるだろう。しかし、西洋で大規模な債務危機を引き起こしたのは、高い債務水準だけではなかったことを覚えておくべきである。高い債務水準は危機を煽る燃料になった。とはいえ、初めに火をつけたのは中央銀行による金融引き締めだ。米連邦準備理事会(FRB)は2004年6月~2006年6月に17回の利上げを実施し、政策金利を1%から5.25%に引き上げた。欧州中央銀行(ECB)は2005~08年に政策金利を2%から4.25%に引き上げた。こうした金融引き締め策が経済成長を鈍化させ、債務負担を持続できなくしたのだ。 

今のところ中国は逆の方針をとっている。中国人民銀行(PBOC)は2014年と2015年に5回の利下げを実施した。さらに預金準備率を引き下げている(図7)。預金準備率の引き下げは本質的に、さらなる債務で債務問題を解決しようというものだ。今のところ中国でインフレが鎮静化しているため、PBOCは大して問題なく緩和策を実施できている。しかし、結局は引き締め策を始める。そうなれば、中国経済は著しいリスクに直面する可能性がある。

中国が利下げよりも預金準備率の引き下げを選んだ理由は単純だ。預金準備率の引き下げは、人民元の下押し圧力となることなく債務の創出を刺激できるからである。利下げは資本流出に圧力をかけてしまうだろう。

 同国の人口構成には問題があり、役に立たない。高い債務水準を切り抜けるには次の2つの状況が求められる。ひとつは極めて低い金利、もうひとつは高い経済成長率だ。前者で資金は確実に調達しやすくなる。後者で将来の債務返済に利用できる現金の増加が保証される。しかし、どちらかが、もはや当てはまらなくなると問題が生じる。 

図7 さらなる債務で債務の問題を一時的に解決している

つまり、中国は債務負担を持続できる限界に近づいているのかもしれない。もはや、さらに資金調達をしても経済成長が加速されることはないだろう。支出や投資でさらなる成長のために利用されるよりも、既存債務の資金繰りに利用されるだけとなり得るからだ。ここで押さえておきたいのは、中国お気に入りの経済政策ツール(新たな銀行融資を経済に流し込む)が次第に効果薄となっており、もはやかつてと同じように機能しなくなっていることだ。 

貿易戦争が大打撃に

高齢化と過剰債務が背景にあるなか、両国にとって大変な時期に米国は貿易戦争を仕掛けたと主張する向きもあるだろう。貿易戦争が始まった日を特定するのは難があるものの、私たちは2018年5月としている。5月末の報復関税が米国産大豆の価格に大打撃を与えた。また、米国が鉄鋼・アルミニウムに課す関税は5月末に発効した。開戦日をこのように判断したのは、実態が脅威よりも重要であるからだ。もっとも、開戦日を数カ月早く設定しても、貿易戦争で中国の成長が鈍化したという結論に変わりはないだろう。

 では、2018年5月1日から2019年1月25日までの貿易戦争で経済指標がどのように動いたか、いくつかみてみよう。米S&P 500®指数は、その間に何度か印象的な上昇と下落をみせてトントンとなった。一方、上海総合指数は16%下げた。中国の輸出伸び率は減速した。最新データである2018年12月が前年同月比4%減だった。2018年4月が前年同月比11%増だったのと対照的である。中国の最新実質GDP値は若干の減少を示しただけだった。しかし、実際は貿易戦争で大打撃を被っていると思われる。私たちの調査によると、開戦当初の直接的影響は中国にとっても比較的小さかった。ところが、貿易戦争の副作用による影響が出始めるにつれて間接的影響と応酬激化による影響が出始め、両国の状況を少し悪化させた。

圧力が高まるなか、米中両国は昨年末にアルゼンチンで開催されたG20会議で交渉の道を開くとアピールした。米国は交渉期限を3月1日に定めており、ここで進捗状況が分かるだろう。もっとも、進捗状況を最もよく反映する炭鉱のカナリアは、中国人民元(CNY)の価値だ。2018年10月31日の1ドル=6.97元で底入れして2019年1月25日現在は1ドル=6.74元に回復している。この指標によると、市場参加者は妥協の可能性を探るほど両国が貿易戦争で受けた痛みは大きいとみている。実際に緊張緩和が進展しなければ、株式市場は穏やかではいられないだろう。貿易交渉が決裂すれば、大豆や銅など他の市場も悪影響を受けるかもしれない

政策ツールは限界に

すでに述べたように、中国にとって主要な政策ツールは、新たな融資を経済にねじ込むことである。しかし、そのツールの効力は債務の爆増で相当落ちてしまっている。米国よりも少し大きな経済的打撃を被り続けているとはいえ、中国は貿易戦争の第1ラウンドを比較的うまく切り抜けた。中国の問題は、これから貿易戦争が激化すれば、2018年のように影響をうまく和らげられそうにないことだ。

とはいえ、最良の経済指標である利回り曲線(イールドカーブ)は活況の兆候を示している。中国の利回り曲線は2017年半ばに横ばいとなった。それは成長減速の見通しを告げており、実際に公式と代替どちらの成長率にも的中した。それが最近また急斜化している。したがって、PBOCの大胆な金融緩和策は、もう一度、結果を残すかもしれない。つまり、2019年の成長率を安定させ、さらには伸ばす可能性がある。とはいえ、それは2020年代に金融の脆弱性を高め、金融危機のリスクを増大させるという代償を払うかもしれない。コモディティ投資家は中国経済が改善したと喜ぶかもしれないが、実際は警戒すべきである。成長を煽る中国の金融緩和策は、自転車操業と同類かもしれないのだ。それは2019年にボチボチの経済的恩恵をもたらすだろう。しかし、次の10年間に大きな代償を払う可能性がある。

図8 利回り曲線が急斜化は、成長の一時的改善を告げているかもしれない

図9 利回り曲線が急斜化すると通常は9〜15カ月以内に成長指標が好意的に反応する

結論

米中貿易戦争は有害だ。しかし、2020年代の中国経済にとって、人口動態と債務水準のほうが、はるかに危険な脅威である。農村から都市への人口移動の減少と生産年齢人口の一方的減少は、増大する債務の負担をやりくりする力を削ぐだろう。ただし、中央銀行が預金準備率を引き下げ、さらなる融資を奨励している。この事実は2019年の成長率を支えるかもしれない。もっとも、2020年代に因果応報となるだろう。その前に最後の政策努力があるだろうか。リスクは増大している。中国では短期的な力強い成長に続き、2020年代には経済成長が急減速するかもしれない。それによってコモディティ価格とコモディティ輸出国の通貨が大荒れとなる可能性がある。


 

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著者について

Bluford “Blu” Putnam(ブルフォード“ブル”パットナム)CMEグループ・マネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミスト。中銀の政策分析・投資調査・ポートフォリオ管理を中心に金融業界で35年を超える経験を持つ。2011年5月より現職。世界経済情勢に関する情報発信で中心的な役割を担う。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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中国とコモディティ

米中貿易戦争で中国経済は大きな打撃を受けています。しかし、膨大な債務と人口動態の変化は、同国にとって、より大きな脅威です。それは様々なコモディティ価格やコモディティ輸出国の通貨に大きな影響を及ぼすでしょう。こうしたリスクを先物やオプションでヘッジして、ポートフォリオを守ることができます。

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