ブレント原油‐WTI原油スプレッドは、ヒューストン‐ミッドランドを追随しているのか?

  • 14 Feb 2019
  • By Erik Norland
  • Topics: Energy

ミッドランドとヒューストンの価格を反映した比較的新しい先物の価格差は、過去2年超にわたり、最も注目度の高い原油先物の価格差の動向を示唆する主要指標となってきた。その先物とは、WTI原油とブレント原油である。こうした関係の背景となっている経済状況は、先々の原油市場を見通す上での手がかりとなり得る。

これに関する議論を取り上げる前に、先ずは、WTI -ブレントのスプレッド、つまり価格差について簡単に説明する。2011年以前、WTI -ブレントは、相互に同調した価格動向を示し、価格差もあまりなかった。そして、2011年から2014年、アラブの春によってリビアの政権が倒され、原油供給に支障が生じたことから、WTI-ブレントのスプレッドは拡大した。シリアやイエメンなどの比較的小規模な原油生産国においても、内戦の勃発を背景に、生産量の減少が見られた。そして2015年から2016年、一転して供給が過剰状態になると、原油市場の指標となっている両先物の価格差は、再び縮小したのである。ただ、2017年以降、価格差は再度、拡大傾向となっている。今回の価格差拡大は、米国でシェール原油の生産が増大している事、そして米国市場の経済性に起因する部分が大きい(図1)。

図1:WTIとブレントの価格差は、いつもこれ程拡大きかったわけではない

過去2年間、特に2018年など、ヒューストン - ミッドランドの価格スプレッドは、主要取引であるブレント-WTIのスプレッドの動向を示唆する信頼性の高い指標となってきた(図2)。 本稿では、スプレッドの観察対象としてヒューストン原油(HCL)価格を参照する。この原油は、海路での輸出準備ができている米国原油の価格を最も良く反映している。過去データの計算値は、イースト・ヒューストンのマゼランで決定された、生産地をベースとするWTIヒューストン(Argus)の価格を使用する。 HCLとWTIヒューストン(Argus)の間には、過去3か月間で平均25セントの価格差があったが、最近のそれは70セントまで拡大している。いずれにしろ、マゼラン価格よりも、HCLは輸出価格をより良く反映していると考えられる。

図2:ヒューストン - ミッドランドの価格差は、WTI‐ブレントのそれを示唆するのか?

ミッドランド - ヒューストンとブレント -WTIのスプレッドの簡単な経緯:

2018年1月下旬から2月上旬、ヒューストンの価格はミッドランドの価格を約2ドル上回る水準だった。その後も拡大を続けた価格差は、5月下旬に19ドル前後でピークに達している。ブレント -WTIのスプレッドは、わずかな遅れを伴いながら、これに追随し、6月上旬にそのピークを迎えている。また、両組のスプレッドは6月に急激な縮小を見せたものの、ヒューストン - ミッドランドのスプレッドは再び拡大に転じ、9月下旬にピークを迎えている。これに遅れをとったブレント-WTIのスプレッドは、最終的に、10月下旬にピークを記録している。ヒューストンとミッドランドのスプレッドは 9月のピーク以来、縮小してきていて、より緩慢ながら、ブレントとWTIのスプレッドも同様の動きとなっている。2017年末の場面でも、ヒューストン - ミッドランドはブレント -WTIを先行していた様に見える。

図3:生産地域は、それぞれに輸送上の問題を抱えている

出展:EIA Drilling Report

図4:米国の各地域におけるシェール生産

ヒューストン - ミッドランド対ブレント‐WTI、その経済的背景

価格差動向で、ヒューストン- ミッドランドがブレント‐WTIを先行するとする経済的な背景は、その大部分で米国内のボトルネック状況が関係している。米国のシェール・ブームは日量で、2007年の約550万バレルから1200万バレル近くまで生産量を急増させており、米国は、世界最大の石油純輸入国から、世界最大の石油生産国に変容したのである。

米国の国内市場は7つの生産地域に分割され、そのいくつかは、生産原油を世界市場に出荷する上で、ボトルネック状況に直面しているのである(図3)。また、7地域のうちの2つ – (テキサス州の)パーミアンとアナダーコは、それぞれに異なる理由で、国内および世界の石油価格設定で特に重要な生産地となっている。パーミアンが重要なのは、ここが事実上のスイング・プロデューサーであること、そして、米国内で最速の拡大を見せている生産拠点でもあることである。日量は400万バレル近くに達しており、米国内で生産される総量の3分の1がここで生産されている(図4)。また、WTIミッドランドの由来となっているテキサス州ミッドランドは、パーミアンにある。 

アナダーコの生産量は、日量で60万バレルほどに過ぎないが、ここには世界で最も重要な原油貯蔵ハブがある:オクラホマ州クッシングである。そして、クッシングはWTI原油のデリバリー・ポイントでもあり、さらに、パーミアン盆地で生産される石油に加えて、バッケン、ニオブララ、アルバータなどの地域で生産された石油の貯蔵庫でもある。

パーミアンの原油はそれを市場に出荷するためのインフラの許容量を、しばしば上回ってきた。そのため、業界基準とされるクッシングのWTI価格に比べ、その価格は相対的に低位となっている(図5)。ミッドランド(パーミアン)原油をクッシングまで輸送するのには1バレル当たり0.80ドル、パイプラインでヒューストンに送る場合でも、同約2ドル程度でしかない。しかし、パイプラインには、全ての量を輸送するのに十分な容量がないのである。一方で、パイプラインに替わる選択肢は、それほど経済的とは言えない:ヒューストンへの鉄道輸送は1バレル当たりおよそ9ドル、トラック輸送なら1バレル当たりおよそ15ドルにもなる。

図5:2018年、ボトルネックが影響し、基準となるWTI原油に対してパーミアン(WTIミッドランド)原油は下落した

最後に、ヒューストンは主要な石油輸出の拠点であり、出荷されようとしている石油の価格を反映しているHCLは、ブレントの動向に、多かれ少なかれ同調する(図6)。ヒューストンからは、北海にあるブレントの歴史的産地からの石油とほぼ同じコストで、世界中に輸出することができる。例えば、欧州向けのブレント原油の輸送コストは、1バレル当たり約1.20ドルである。一方、欧州向けのヒューストンからの輸送コストは、同約2.50ドルである。従って、ヒューストン価格と業界基準であるWTIの価格スプレッドが、輸送費がわずかに高いことを反映してディスカウントされているとは言え、ブレント-WTIのスプレッドと同調するのは、驚くに値しないのである。

ヒューストンが直面する独自の課題米国の原油生産は、石油を輸出する米国の能力を上回って推移してきたが、ヒューストンの港は輸出能力を拡大中でもある。同様に、2019年9月から2020年1月の間に、総容量で207万バレル/日と、パーミアンの生産量の半分に及ぶ輸送能力を持つ3つの新しいパイプラインが開通するため、パーミアンの原油はこれまでよりも容易にヒューストンの港に到着し始めると考えられる。こうした背景は、ミッドランドの原油価格をクッシングに一段と近づけることになり、同時に、クッシングとブレントの価格差を一段と縮小すると予想される。

図6:ニューストン vs クッシング そして ブレントvsクッシング は同調する

現状の市場は、米国産原油が世界市場に大量に流れ込むことで、WTI‐ブレントのスプレッドが縮小するリスクを想定していない。2021年末までを見渡しても、市場はスプレッドが1バレル当たり6ドルほどで推移すると想定している(図7)。

図7:ブレント‐WTIのスプレッド縮小をあまり勘案していない市場

ボトルネックが解消されることで、パーミアンと他の地域の米国産石油が、市場予想よりも容易にヒューストンを通って輸出されとすれば、スプレッドは現状で予想されている先物カーブよりも縮小する可能性がある。実際、ヒューストン - ミッドランドがブレント-WTIのスプレッドの先行指標として機能し続けるとすれば、それは実現の可能性が示唆されているシナリオでもある。

米国の生産が減少し始めたとすれば、ブレント-WTIのスプレッドは縮小する可能性がある。パーミアンの生産拡大基調はここ数カ月で鈍化しており、2018年第4四半期にエネルギー価格が下落したことで、この流れが変わることはないと考えられる。パーミアンのリグ(石油採掘施設)数は1月に減少し、他の地域では2011年‐14年の水準を大きく下回ったままとなっている(図8)。

図8:パーミアンのリグ数増加基調は最盛期を過ぎており、原油価格に回復が見られなければ、減少に転じる可能性がある

パーミアンの生産コストは、アナダルコ、バッケン、イーグルフォードなど、他の地域よりも低い。2014年11月から2016年2月にかけて原油価格は70%の急落を見せ、多くの生産地域で生産が拡大から縮小に転じるなか、パーミアンでは拡大ペースが鈍化したに過ぎなかった。2018年第4四半期の原油価格の急落は、今後の米国の生産拡大を喚起する材料とはならないだろう。

  • 原油生産=リグ数xリグ当たりの生産量

稼働リグ数は要因の1つでしかない。2014年‐16年の価格下落は、リグの生産性改善と同時期に発生した(図9)。稼働リグ数が急減したものの、原油価格が回復を始めると、原油の生産量は軽微な減少期を経て再び、過去最高を更新する水準まで回復した。2018年第4四半期の価格下落を経て、リグの生産性が再度、一段の改善を見せるかは分からない。ただ、明らかなのは、原油価格が増産意欲を刺激する水準に達するなら、特にアナダルコ、バッケン、イーグルフォード、ナイオブララなどの地域を中心に、米国の原油生産量は一段の拡大を見せる可能性がある。同様のことは、リグにおける再度の生産性改善が発生した場合についても言える。 

もちろん、インフラの効用もある。例えば、バッケン原油を米国東海岸、またはクッシングへ輸送する場合のコストは、6.50ドルから7.00ドルとなっている。ヒューストンへ鉄道輸送するとすれば、そのコストは12ドルにもなる。こうしたコストを縮小するためのインフラ整備は、バッケンやその他の地域で、原油の生産量拡大に向けた動機付けとなる可能性がある。

もちろん、テキサスで進行しているインフラ整備は、ブレント‐WTIのスプレッドにだけ影響を及ぼすわけではない。ブレンド自体も、大きな変化の中にある。北海での生産は減少しており、指標としてのブレントは、幅広い原油を対象とするものに修正されることになっている。

図9:リグの生産性革命は終わったのか?

【まとめ】

  • 市場参加者が主に気にするのは、クッシングに対するヒューストンやミッドランドである。
  • ニューストン‐ミッドランドのスプレッドは、ブレント‐WTIのスプレッドの動向を示唆する有効な先行指標として機能してきた。
  • インフラの改善は、米国産原油の輸出に関して、国内にある輸送上のボトルネックを解消する可能性がある。
  • ブレント‐WTIの先物カーブは、スプレッドの縮小を全く想定していない。
  • 米国原油がより効率的に輸出されるようになれば、市場の想定以上にスプレッドが縮小する可能性がある。
  • 稼働リグ数の増加は、ピークを過ぎた様にも見える。
  • パーミアン以外の地域でも増産が動機付けられる水準まで原油価格が上昇することで、あるいはテクノロジーとインフラの改善によって、米国の原油生産は一段と拡大する可能性がある。

 

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本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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差金決済のWTIヒューストン先物(HCL)は、世界的な指標とされているWTI 原油とのスプレッドとして取引される。その意味で、HCLはCMEが提供する米国産原油の輸出価格の指標であり、ヒューストンの堅牢なインフラへのアクセスを背景に、メキシコ湾岸の原油をより広範に網羅し、より透明性の高い価格形成につながるものとなる。

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