ラジルとロシア: その乖離と収束

Sこれまでのところ、この10年で、ブラジルとロシアの通貨はほぼ同様のパフォーマンスを示しており、対USD(米ドル)でのスポット価格は、BRL(ブラジル・レアル)もRUB(ロシア・ルーブル)も、およそ55%の下落となっている(図1)。  

図1: 対USDのスポット価格では、ここ10年に、BRLとRUBは、それぞれおよそ55%の下げとなってる。

ただ、繰越の累積金利を反映しないスポット価格は、通貨動向という意味で、その全てを表しているわけでもない。例えば、ブラジルの短期金利は米国よりも平均で7.7%、ロシアは同6.9%、高い水準となっている。一方で、繰越金利を再投資した場合であっても、BRLとRUBのパフォーマンスはほぼ同様の結果となっている(図2)。ある意味、両通貨の収束性は理論的でもある。両国はいずれも商品の輸出国であり、その国家収入は商品価格の動向に大きく依存している。ただ、両国の財政状況が真逆の経緯を辿っていることなど、異なる観点からは、両国の通貨パフォーマンスが同様であることは驚くべきことでもある。 

図2: 先物の繰越(限月ロール)は、スポット価格が反映しない通貨の累積金利を表す

乖離している財政状況の経緯

ロシアは、非常に保守的な財政運営を行ってきた。 2011年以来の財政状況は、小さな赤字と時折の黒字を交互に織り成すものとなっている。反対に、ブラジルは2009年から2013年まで中規模の財政赤字を出計上し、2014年からはその水準が大幅に拡大している(図3)。その結果、ブラジルの公共部門の累積債務はGDP比で86%に達し、その比率は上昇傾向にある。一方、ロシアの公的債務はGDPの14.7%であり、減少傾向となっている。 

また、民間部門の債務に関しても、両国の状況は対照的となっている。ロシアの民間部門債務はGDPの64%(家計債務は17%、非金融企業の債務が47%)となっていて、ブラジルの同72%(家計債務は28%、非金融企業の債務が44%)を幾分か下回る水準となっている。 

ロシアのプーチン大統領は、男性の退職年齢を60歳から65歳へ、女性のそれを55歳から60歳へそれぞれ引き上げるなど、評判の悪い年金制度の改革実行について、議会の納得を得ている。改革に関しては反対も強く、政府はある程度の譲歩(原案では、女性の退職年齢の引き上げは、55歳から63歳とされていた)を許したものの、改革は実現の途に就いたのである。興味深いのは、政府財政が良好な状態にある間にロシアがこれを行実したことで、この改革が金融危機を背景に強制されたものではないことである。 

一方で、ブラジルの場合は、その真逆に位置する。公務員に対する過度に寛大な年金制度を改革することは、ボルソナーロ大統領の重要課題である。しかし、「統一ロシア党」が議会の大多数(450議席中の340議席)を占めるプーチン大統領の場合とは異なり、ボルソナーロ大統領の社会自由党(PSL)はブラジル議会下院で、513議席中の52議席を占めるに過ぎない。公正を期すために付け加えると、この事実はボルソナーロ大統領の影響力を過小評価したものでもある: ボルソナーロ候補は大統領選の第1回投票で46%、第2回投票で55%の投票を集め、他党ではあっても、多くの味方を議会に有している。それでも、年金改革法の議会通過や税収の増加などを含めて、ボルソナーロ大統領にとって財政赤字を削減するための措置を講じることは、ロシアよりもはるかに複雑であり、政党の枠を超えた支持を必要とする。さらに、年金改革は一般の公務員だけでなく、ボルソナーロ大統領の中核的支持層である警官や軍人にも影響が及ぶ改革でもある。そして、新大統領のここまでの成果は、象徴的なものに過ぎない。、投資家は引き続き、実質的な改革の実行を待っているのである。

図3:ブラジルの公的債務はGDPの86.3%、そして拡大中; ロシアは同14.7%で、債務は縮小傾向

もちろん、ブラジルとロシアで債務水準や財務動向、政治情勢が異なっていることは、市場も認識している。その一方で、投資家はナゼ、両国の通貨に差を付けないのだろうか?これに関しては、いくつかの答えがある:

  • ボルソナーロ大統領が意味のある改革を達成するという、本当の意味での楽観的(その根拠は乏しいが)観測
  • 経済制裁による悪影響を根拠としたロシアに対する悲観的な観測
  • 中国の影響と商品価格: 換言すれば、BRLとRUBの動向には、それぞれの国の債務水準や政局などの国内要因ではなく、もっと大きな力が作用しているという観測

その大部分で、ボルソナーロ新大統領が登場した際の市場の反応は、2014年にインドでモディ首相が誕生した際のそれに似ている。モディ候補の勝利を予想していた市場ではINR(インド・ルピー)が強い上昇を見せていて、新首相誕生後もおよそ2ヶ月ほどは、強気相場が続いた。ただ、その後は、新首相の実績に成功と失敗が混在する中、INRは大局的な弱気相場に転じている。もしも重要な改革を実行できず、必要な財政再建を達成できなければ、ボルソナーロ新大統領の下でのBRLも、同様のパターンを辿ることになると思われる。

もしも、ボルソナーロ新大統領がブラジルで成し遂げるであろうことに関して投資家が過剰に楽観的だったとすれば、投資家は同時に、ロシア通貨に対して過剰に悲観的だった可能性がある。堅牢で良好な財政運営となっているものの、ロシアには長期的な課題もある: 人口減少と天然資源に多大に依存した輸出である。ロシアの輸出の75%を占めるのは商品であり、原油だけでもその60%を占める。原油価格とルーブルの動向を比べると、ロシアの商品への依存度の高さは明確である。2011年から2017年、両者は完璧に同調していた(図4)。2017年以降、ウクライナ問題と米国大統領選への関与疑惑を背景とした経済制裁をEUと米国に発動され、その経済的な負荷を背景にルーブルは原油をアンダーパフォームする結果となっている。

図4: 数年に渡って原油市場に同調した後、ルーブルは最近、これをアンダーパフォームしている

経済制裁については、既に実施されているものであり、これが一段と強化される可能性は低い - 少なくともEUからの制裁に関してはそう考えられる。もしもEUが制裁の緩和を開始するとすれば、ルーブルにとっては強気材料となる。一方で、米国による制裁の将来的な動向は、見通しにくい。今年後半、米国による制裁が一段と強化されるとすれば、ルーブルの下落リスクは高まることになる。

一方、ブラジルの通貨に関しても、商品に対する独自の依存性が示されている。主要な原油生産国ではあるものの、ブラジルはその大部分を国内で消費し、主要な原油輸出国ではない。実際、ブラジルの総輸出に対して、原油輸出はそのおよそ10%に過ぎないのである。一方で、鉄鉱石などの工業用金属(輸出全体の20%)、また大豆やトウモロコシなどの穀物(同36%)で、ブラジルは主要な輸出国となっている。 

こうした観点からは、国内事情が大きく異なるブラジルとロシアではあるものの、それぞれの通貨がほぼ同調的な動きとなっていることが説明できる: 通貨は同じ収益源を反映しているのであり、その収入源とは: 世界市場における商品価格なのである。また、商品価格自体は、その大部分において、中国経済の成長変化に反応する。本稿のシリーズでは過去、原油、そして銅などの工業用金属、さらに農業製品などの商品相場の多くが、電力需要や鉄道輸送、銀行貸し出しなどのデータを集計した狭義の中国経済成長指標である李克強(首相)指数に対して、強い連動性を示すことを指摘している。ブラジルやロシア、豪州、カナダ、そして南アフリカなどの商品輸出国の通貨に関しても、同様の連動性を指摘することが出来る。

図5: 李克強(首相)指数は、BRLやRUB、そして商品価格の動きに先行する場合が多い

もちろん、中国向けの輸出が、ブラジルの場合で22%、ロシアは11%に過ぎないことも指摘できる。そうした事実があっても、そして最終的な買い手が誰であれ、中国の商品需要は米ドル建で取引される世界市場のほぼ全ての商品価格の設定に、多大な影響を及ぼす。

従って、中国における経済刺激策は、BRLやRUBにとって強気材料となる。実際、金融や財政などの政策運営を緩和的とすることで、中国は経済減速の影響を抑制している。年初来でも、中国人民銀行は、政策金利を記録的な最低水準で維持する一方、継続的に準備金準備比率を引き下げてきている。また、中国政府は、別の減税が間もなく実施されるとも発表している。これら全てが、中国の利回り曲線のスティープ化に寄与しているのである。そして、こうした利回り曲線の形状変化は過去12年間、中国の経済成長のペースの変化について、かなり正確な指標となっていることは証明済である。2019年には中国の成長が急速に回復する可能性があり、2019年から2020年には、商品価格とBRLやRUBなどの新興市場通貨の上昇が喚起されると考えられる。 

ただ、2020年代として見ると、BRLやRUBにとっては課題の多い10年になることも考えられる。短期的な景気刺激策の結果がどうであろうと、中国経済には長期的に、(短期的な景気刺激策によっても悪化している)過度の債務水準と人口構成の変化に対して、強い逆風が待ち構えている可能性がある。債務水準と人口構成の変化は、2020年代の商品需要にとって弱気材料になると考えられ、特にその供給が豊富であるという観点から、レアルとルーブルは大きな影響を受けると考えられる。ただ、同調した動きを示すこの2つの通貨に関して、その差異を見つけるとすれば、ロシアの場合には問題にならないものの、ブラジルの将来的な財政動向については、懸念を抱かざるを得ない。

結論

  • 過去10年、レアルとルーブルは同調的な動きとなっていた
  • しかし、ロシアとブラジルでは、財政や政治の状況が真逆となっている
  • 両国は、商品輸出への依存度が非常に高い
  • 両国の通貨は、中国の需要に強く連動する

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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