原油急落、主要産油国はどう反応するか

  • 21 Nov 2018
  • By Erik Norland
  • Topics: Energy

ここまで原油オプション市場が弱気に傾いたことは、めったにない。WTI原油価格が30%急落したのを受け、同プットは同等のコールに対して過去10年で数えるほどしかない歴史的超高値を付けた(図1)。これほどの弱気を正当化できるだろうか。今回よりもプットが同等のコールに対して高く評価された直近2回のケースでは、それから2カ月で原油価格は40%を超える上昇をみせている。もちろん、原油価格の続落がないという保証はない。それでも、世界3大スイングプロデューサー(生産調整国)の現状を垣間見ると、“黒い金”の変動要因や上方・下方リスクについて洞察が得られる。 

図1 ここまでプットが同等のコールに対して高くなることは、めったにない

原油市場には3大スイングプロデューサー(北米、サウジアラビア、ロシア)と2大スイングコンシューマー(消費調整国=中国と米国)が存在する。その他多数の国で起きた出来事が市場に影響することもあり得る。とはいえ、これらスイングプロデューサーとスイングコンシューマーにどのような相互作用があるかは、原油相場の見通しを決定するうえで大きな役割を果たしてきた。事実、こうした大国の動向が最近の原油急落(2014~16年の弱気相場以来となる急激な下げだ)をかなりの部分、説明している(図2)。そして、次に何が起こり得るかについての洞察をいくつか得られるのだ。

図2 原油の荒れ相場

スイングサプライヤー

スイングサプライヤー(供給調整国)とは、世界の原油市場に調和をもたらすため、生産を増減できる国である。これができるのは北米(米国とカナダ)、サウジ、ロシアであり、それぞれに独特の動機と制約がある。 

なかでも今や支配的なスイングサプライヤーが北米だ。米加の原油供給には、サウジやロシアと大きく異なる点がある。産油のほとんどすべてが競争市場の製品であることだ。供給は自由市場に左右され、国からの干渉は最小限に抑えられている。北米産が最も重要な地位にあるのは、世界生産量の推移から明らかだ。北米を除く世界の生産量は2005年末以降、わずか4.7%(つまり年0.35%)しか伸びていない。一方、北米の生産量は同期間で95%(つまり年5.3%)も伸びている(図3)。その内訳は米国で105%増、カナダで73%増だ。

図3 北米を除く世界の原油生産は足踏み状態である

とはいえ、米加の生産が国際価格の決定権を占有しているわけではない。ここ10年で2回、北米生産者・サウジ・地政学的事象の相互作用によって原油価格が長期にわたり均衡値をはるかに上回って推移したことがあった(2011〜14年と2017~18年)。そして、どちらの場合も、そのあとに突然の価格調整が起きている。

原油市場が北米産の増加を最初に無視したのは、アラブの春が始まってから3年半の間であった。エジプト、リビア、シリア、チュニジア、イエメンの土台を揺るがす抗議運動が始まった2011年4月から2014年10月までの間、北米の石油生産は日量1640万バレルから2200万バレルに増えた。にもかかわらず、原油価格は1バレル80~115ドル圏に浮上したのだ。北米産の増加が弱材料視されなかったのには多くの理由があった。まず、リビア産の急減である。日量180万バレルから50万バレルに落ち込んだ。また、リビアほど大事ではないとはいえ、シリアでも同様に原油生産量が日量41.6万バレルから2.9万バレルに減少した。さらに、少量ながらチュニジア産やイエメン産も市場から消えた。こうした減少が北米産増加分の約3分の1を相殺したのだ。

次に、こうした国々での暴動と動揺がイラン、イラク、湾岸諸国に波及するかもしれないという恐れがあった。これは杞憂に終わったものの、イランの核開発をめぐる緊張の高まりとともに、地域不安定化の恐れが煽られ、原油相場の上昇を支えたのだ。原油の限月間価格差は、かなりの逆ザヤであった。これは直物市場に恐れに対する相当な割増分(プレミアム)があると示唆していた。

最後に挙げられるのが、中国をはじめとする新興国の好調な需要であった。これについては原油の「スイングコンシューマー」に関する後続記事で改めて論じる予定だ。1

2014年秋、原油相場は天井を打った。世界的な緊張緩和のなか北米産が増加し、サウジで米国のシェールオイル生産者に市場シェアを奪われる懸念が強まったからだ。湾岸諸国が「アラブの春」の混沌をうまく阻止できたことが明らかになった。しかも、イランとイラクが生産を増やしていた。決定的だったのは、米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国とイランとの核をめぐる交渉が合意(正式名称は「包括的共同作業計画」=JCPOA)に向けて進展していたことだ。そのすべてが原油市場を一気に弱気に傾けた。

2014年11月、ベネズエラなど石油輸出国機構(OPEC)加盟国がサウジに介入と減産を要請した。ところが、サウジが試みたのは、ある実験であった。価格維持のため減産の調整をするどころか、そのまま汲み上げ続けたのである。米国産の増加に対し、市場シェアを維持しようと原油価格を暴落させたのだ。しかし、目論見どおりにはいかなかった。

サウジは原油価格が生産コスト以下に落ちることを覚悟していた。とはいえ、2016年2月までに1バレル26ドルまで下げるとは、思いもよらなかったようだ。しかも、さらなる誤算があった。北米生産者のしぶとさである。多くが金銭的損失に苦しみ、投資と人員を削減したものの、同時に生産コストを1バレル60ドル前後から40ドル前後にまで引き下げることができた。そのおかげで、米国産は一時、日量960万バレルから840万バレルにまで減少したものの、原油価格が40ドルに戻すや否や投資が再開され始め、2016年10月までに生産量も増加し始めたのである。原油価格がまだ2011〜14年の80〜115ドル圏をはるかに下回る50~80ドル圏であっても、米国産は再び増加したのだ。2018年11月は日量1170万バレルに達している(図4)。

一方、原油相場の底入れ後にサウジとロシアのとった路線は違った。サウジは2016年にOPEC加盟国とともに協調減産を始めた。驚いたことに、その合意をOPECは概ね守っている(比較的小さな違反はあるものの)。しかも、ロシアが初めてOPECとの協調減産に加わった。この決定は、これまでのところ、かろうじてうまくいっている。減産に合意して以降、原油価格は1バレル45ドルを下値に推移しているからだ。ただし、希望している60~70ドル圏を維持できなかった。問題は原油の高値が米国産の大幅増を誘発したことだ。

OPEC減産の直後、ワシントンで発足した新政権は、早速イラン核合意からの離脱に着手した。米国の離脱が広く予想されるなか、原油価格は1バレル60ドルを超えた。そして、米国がイランに新たな制裁を課すと70~80ドル圏に向けて進んだのである。  

 

1 JPモルガン・センター・フォア・コモディティーズ発刊『グローバル・コモディティ・アプライド・リサーチ・ダイジェスト(GCARD)』2018 年秋号でBlu Putnamが著した「Four Ideas to Consider when Analyzing Long-Term Prospects for Oil and Natural Gas(原油・天然ガスの長期予測分析で考慮される4つの着想)」を参照のこと(http://www.jpmcc-gcard.com/)。

図4 2014~16年の原油急落は米国の産出量を一時的に減らしたにすぎなかった

米国が決定したイラン核合意からの離脱は、国際社会に亀裂を生んだ。イスラエル、サウジ、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、イエメンの政府は公式に、この決定を支持した。一方、締約国(中国、フランス、ドイツ、ロシア、英国、イラン)を含む大多数の国が米国の離脱決定に反対している。例えば、トルコやヨルダンがそうだ。米国の決定を支持したサウジは、率先して米国の活動と対イラン制裁実施を支援するという意味で、その地域の核心軸となった。

そして、興味深いことに、原油価格が天井を打った10月3日は、サウジ人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がイスタンブールのサウジ総領事館に入ったきり行方不明になった次の日であった。カショギ事件はサウジ政府の首を真綿で締めている。トルコが不利な情報を小出しに発表しているからだ。事件から1カ月以上たった今も注目ニュース扱いである。トレーダーは、イランの原油生産・販売への制限を支援するサウジに逆風となる事件を、原油相場の弱材料と解釈したようだ。

また、2018年10月には「米国は市場参加者が当初認識していたほどイランに対して強硬ではないかもしれない」という兆しがあった。事実、11月5日に米国は、中国やインドなどの原油輸入大国を含む8カ国に対し、イランへの制裁措置を一時的に免除すると発表した。これはさらに効果的な原油価格の下押し材料となった。再度、明らかな緊張緩和は原油のリスク割増分が霧消する原因となった。そして、北米の生産増という経済的現実が再び視界に入ったのだ。

スイングプロデューサーの見通し

短期的には、米国の原油産出量は引き続き増加しそうだ。価格に6カ月ほど遅れて追随しているように見える。したがって、2019年春まで最近の原油急落は米国の生産に悪影響を及ぼさないだろう。となれば、日量1200万バレルまで伸びるかもしれない。

ただし、米国のフラッキング(水圧破砕)採掘では、急増しやすいのと同じくらい生産が急減しやすい。今のところ概して、新たな採掘による供給増がピークを過ぎた油井からの供給減を超えている。とはいえ、これから数年のうちに米国産が急減する可能性を排除できない。特に相場がさらに下げて、長期にわたり1バレル50ドル割れで低迷した場合はそうだ。

一方、サウジは非常に異なる問題に直面している。ムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子がカショギ事件で権力を失ったように見えない。だが、サウジ政府は問題が山積している。例えば、以下のとおり。

  • イエメン内戦への介入(国際社会からの批判が強まっている)
  • カタールとの断交(カタールはサウジ最大の敵国であるイランに、ますます接近するようになった)
  • アラムコの新規株式公開棚上げ(投資家の盛り上がりに欠けるため)
  • 最近の原油30%下落で予想される緊縮財政

今のところオプショントレーダーは上方リスクについて、さほど評価していない。石油オプションは下方リスクに大きく歪んでいる(図5)。

なお、ロシアはOPECとの生産調整に合意しない限り、石油相場に影響力を行使することはめったにない。同国をはじめ旧ソ連諸国は、ソ連邦崩壊後の90年代、うかつにもスイングプロデューサーとして行動し、生産に混乱をきたしてしまった。プーチンが権力の座に就いて以降、ロシアは石油相場をほぼ受け入れている。原油市場で影響力を行使することに慎重だ(天然ガス市場とは打って変わって)。

しかし、ロシアの影響力は将来的に増大するかもしれない。国内の生産が安定しており、莫大な埋蔵量を誇るからだ。しかも、米国で一大ブームを引き起こしたシェール技術が、まだ広まっていない。したがって、同国には今後10年にわたり生産を拡大する余地が大いにある。ロシアが引き続き主要石油供給国となる公算は大きい。

図5 原油オプション市場は上方リスクよりも下方リスクを評価している

【要点】

  • オプショントレーダーはWTI原油が30%下落したあとも依然として下方リスクに注目している。
  • 最近の下落にもかかわらず、米国の生産は数カ月にわたり増加し続ける可能性がある。
  • シェールオイルの生産ブームは、原油価格の50ドル割れが長きにわたって続いた場合、将来的に暗転する可能性がある。
  • サウジアラビアは国内外で大きな問題に直面しており、原油市場に驚きの強材料をもたらす可能性がある。ただし、今のところサウジは米国からかなりの恩恵を受けているとみられている。
  • ロシアは原油市場の価格設定者となることに慎重だ。しかし、将来的には変わる可能性がある。長期的見通しでは、世界原油生産でますます重要な役割を果たすと考えられる。

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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