【農産物オプション】FRB金融政策の渦に巻き込まれたか?

トウモロコシ・大豆・小麦先物の実現ボラティリティが数年にわたり極めて低い。しかも、農産物先物オプションのインプライド・ボラティリティ(IV)がQuikstrikeが時系列データの蓄積を始めた2007年以降、最低の水準を推移している(図1、図2、図3)。

図1 トウモロコシ先物オプションが今以上に安くなることは、めったにない

農産物オプションだけではない。通貨・債券・貴金属・株式など他に多くの一見無関係な資産のオプションでも、最近は相場に実現ボラティリティが増加しているにもかかわらず、IVは過去最低水準のままである。しかも、これらあらゆるオプションのIVが米国の金融政策に関連しているようなサイクルで追随しているのだ。金融政策が緩和路線のとき、市場の流動性が拡大し、オプションにかかる費用は失業率や信用スプレッドとともに低下する。オプションにかかる費用が下がり、雇用市場が逼迫すると、中央銀行は引き締め政策を始める。引き締め政策は最終的に雇用の悪化、信用スプレッドの拡大、実現ボラティリティの急増を引き起こす。失業率の上昇、相場の激化を受けて米連邦準備理事会(FRB)が金融政策を緩和に転じると、利回り曲線(イールドカーブ)が急斜化する。そして、新たなサイクルが始まるのだ。

【関連記事】

図2 2007~09年以降、大豆オプションのIVが半減している

図3 10年前に平均37%だった小麦オプションのIVが最近は20%近辺で推移している

農産物オプションの動向をより詳しくみる前に、比較の観点から株価指数オプションについて検証してみよう。現在注目されるのは、株価のIVが依然として、いかに低いかである。10月の株価急落後でさえ、S&P500オプションのIVを反映するVIXは、かろうじて25%を突破したにすぎなかった(図4)。最も長期のIVデータがある株価指数オプションのIVをみると1990~2000年、2000~08年、2008年以降と3回続けて金融政策とサイクルを描いていると分かる(図5、図6、図7)。

図4 最近の調整後でさえ株価指数オプションは通常よりも安い

図5 90年代にあった金融政策と株価指数IVの第一サイクル

図6 2000~08年にあった第二サイクル

図7 現サイクルは比較的ゆっくりと動いており、安定に欠ける

奇妙なのは2007年以降、株式との相関はゼロ近辺であるにもかかわらず、農産物オプションが概ね同じパターンに追随していることである。ボラティリティは2007年から2009年にかけて増加し、2009年後半と2010年前半にかけてピークとなり、以来着実に低下しているのだ(図8、図9、図10)。

図8 利回り曲線が平坦化すると、トウモロコシのボラティリティは増加するだろうか

図9 大豆オプションのIVは2009年後半以降、半減した

図10 金融危機の最中に上昇した小麦オプションのボラティリティが、以降低下している

とはいえ、この農産物オプションIVのサイクルは、金融政策とは何の関係もなく、すべて天候に関係していると主張する向きもあるだろう。例えば、2007年はラニーニャ現象で特徴づけられるし、2009年にはエルニーニョ現象に変わり、2010年に再びラニーニャ現象があった。こうした太平洋赤道域での海面水温の変化が穀物の単収・価格・オプションIVに影響をもたらした可能性はあり得る。とはいえ、私たちの研究によれば、ラニーニャは歴史的に平均以上のボラティリティに関与しているものの、エルニーニョではボラティリティがむしろ平均的な水準になるという特徴がある。

【気象関連記事】

 しかも、2015年後半には世界に影響を与えた最強のエルニーニョを経ており、そこから2017年までに軽度のラニーニャに転じている。ところが、どちらも緩和政策時であり、ボラティリティの増加は、ほとんど見られなかった。

したがって、トウモロコシ・大豆・小麦オプションのIVは一般に理解されている以上に金融政策の状況に強い影響を受けるかもしれないと想定するのは理に適っているように思われる。2008年の金融危機では、ブラジル、カナダ、ロシアを含む主要農産物輸出国の通貨価値が大きく変動した。米ドルが2008年後半に急騰してから、2009~10年に揺り戻したからだ。さらに、こうした通貨レートの変動でトウモロコシ・大豆・小麦の生産にかかる相対コストが変動し、相場の現実ボラティリティを増加させている。しかし、それでさえ2007年から2009年にかけてのIV増加にどれだけの役割を果たしたかは、実際には説明できない。新興国通貨が最近急落したにもかかわらず、農産物オプションの費用に著しい影響を与えていないからだ。

それよりも、2008~09年のサブプライム危機時に市場が開店休業状態に陥っており、単にオプション市場の反対側でポジションを取ろうとする人があまりいなかったのである。マーケットメーカーは農産物保険(つまりオプション)の売買に躊躇しており、ブローカーや銀行がリスクテイクの主導権を握っていた。

現在、農産物オプション市場は、農産物価格との相関が通常ゼロに近い、一見無関係ないくつかの市場と運命を共にしている。長きにわたる緩和政策を経て、米国債・株価指数先物・通貨・貴金属オプションと同様、農産物オプションのIVは史上最低に近い水準のままである。しかし、FRBが流動性を減らしている。これまで金利を8回引き上げており、12月には9回目を実施する公算が大きい。2019年と2020年には、さらなる利上げがありそうだ。

すでにFRBの引き締め政策によって30年物米国債と3カ月物米国債の利回り格差が300ベーシス・ポイント(bps)から100bps周辺に平坦化している。かつてのサイクルでは、同様の金融引き締め政策がボラティリティの急増と持続的増加を引き起こすまでに1~2年ほどかかっていた。高ボラティリティ状態の相場には、低ボラティリティ状態のおよそ2倍の変動性がある。したがって、FRBの金融引き締め局面(サイクル)が結果的に同規模のボラティリティ増加をもたらすとすれば、トウモロコシ・大豆・小麦そしておそらくは他の農産物相場も、2020年代前半に進むにつれて、はるかに変動しやすくなっていると予想される。

コモディティ価格の続落、株価の急激な調整、信用スプレッドの突発的拡大に直面した場合、FRBが利上げの手を緩める可能性は常にある。もしFRBがそうすれば、相場はさらに長期間、低ボラティリティ状態にとどまるかもしれない。とはいえ、失業率が3.7%で、賃金が年3%超の上昇をみせていることから、明らかなインフレ圧力に欠けているものの、さしあたってFRBは引き締め政策をさらに全力で推進していきそうだ。  

【要点】

  • 少なくともQuikstrikeでデータの蓄積が始まった2007年以降、農産物オプション市場は、米国の金融政策とのサイクルで金・米国債・株価指数・通貨オプション市場に追随している。
  • 米国の金融引き締め政策がトウモロコシ・大豆・小麦を含むすべてのオプション市場を、かなり高ボラティリティ状態に移行させる恐れがある。
  • 金融政策が緩和路線の場合、市場流動性が豊富にある。買い方と売り方は互いを容易に見つけられ、実現ボラティリティは低くなる。したがって、市場参加者は保険(オプション)を安く売買できる。
  • 金融引き締めの期間が過ぎると相場の流動性が低下し、実現ボラティリティもIVも増加する可能性がある。トウモロコシ・大豆・小麦オプションのIVサイクルは、気象現象の観点からよりも金融情勢の観点からのほうが容易に説明できる。

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートを さらに見る

産物相場のボラティリティをオプションでヘッジ

私たちの調査から、トウモロコシ・大豆・小麦オプションのインプライド・ボラティリティ(IV)と米連邦準備理事会(FRB)の政策路線には相関があり得ると分かりました。FRBは現サイクルで8回の利上げを実施しており、12月にはもう1回、来る2019年にはさらに実施の観測が強まっています。それは農産物相場ボラティリティ急騰のお膳立てとなるでしょうか。オプションでポートフォリオをヘッジできます。

ヘッジを始める