Erik Norland(CMEグループ・シニアエコノミスト & エグゼクティブディレクター)
太平洋で海面水温が平均よりも1度高くなった1年前、強力なエルニーニョが展開する可能性があり、過去のエルニーニョは農産物価格に強い影響を与えたと警告を発した。当社が警告したエルニーニョは、発生しただけではなく、史上最強とされた1997/98 年に匹敵するものとなった。直近のエルニーニョは2015年12月に平均海面水温を平年値から+摂氏2.3度でピークに達し、その後勢力を落とし始めた (図1)。
過去11回のエルニーニョが発生(中部・東部太平洋の海面水温が米国海洋大気局(NOAA)の海洋ニーニョ指数(Oceanic Niño Index)の平年値を摂氏1度上回る)した後の12ヶ月間における市場の反応を対象にした弊社のリサーチからは、以下のようなことが明らかになった。
強力なエルニーニョが発生しつつあると気付いた当社は、2015/16年のエルニーニョが、もう一つの側面、つまり共に新興市場で深刻な危機が生じていたときに発生下という点で、1997/98年に似ている可能性があると警告を発した。1997/98年のエルニーニョ期は1997年6月に始まり、その当時、ドルペッグ制を採用していたタイバーツが暴落して、アジア金融危機が勃発してその影響が世界中に波及し、ついにはロシアの債務危機が発生し、1998年8月にヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメントが破綻した。1997/98年のエルニーニョは強度が史上最大であったものの、インフレ調整ベースで農産物のスポット価格が下落した唯一のエルニーニョであった(図3)。さらに、1997年と1998年のコモディティ価格は、原油の大幅下落を含め、全面安の展開となった。
Month El Niño Begins | Corn | Wheat | Soybeans | Soybean Oil | Soybean Meal | Rough Rice | Live Cattle | Feeder Cattle | Lean Hogs | Dairy |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1: Aug '63 | -3.2% | -24.0% | -3.6% | |||||||
2: Jul '65 | 6.6% | 23.2% | 19.3% | -5.7% | ||||||
3: Jan '69 | -3.0% | 1.7% | -9.8% | -0.9% | ||||||
4: Jul '72 | 58.5% | 61.5% | 89.8% | 25.3% | 33.2% | |||||
5: Sep '82 | 44.9% | 11.0% | 47.5% | 65.4% | -4.8% | -13.7% | ||||
6: Nov '86 | 3.3% | -1.6% | 8.8% | 11.7% | 1.7% | 16.2% | -18.1% | |||
7: Nov '91 | -17.2% | -0.7% | -3.3% | 2.8% | -3.0% | -31.0% | -2.6% | 0.0% | 1.5% | |
8: Dec '94 | 41.0% | 23.1% | 22.0% | -15.5% | 34.0% | 32.3% | -6.2% | -16.1% | 27.7% | |
9: Jun '97 | -10.8% | -22.0% | -29.2% | 9.1% | -53.9% | -11.0% | -0.2% | -5.8% | -29.5% | 11.7% |
10: Oct '02 | -13.9% | -14.8% | 27.1% | 23.2% | 25.1% | 61.3% | 28.0% | 23.8% | 28.1% | 27.1% |
11: Oct '09 | 37.5% | 31.9% | 17.7% | 25.3% | 8.5% | -0.6% | 13.8% | 15.1% | 27.1% | 21.8% |
12: Jun '15 | 11.3% | -9.4% | 16.1% | -5.7% | 21.5% | 11.6% | -26.7% | -44.5% | 7.3% | -19.1% |
Average | 13.1% | 8.1% | 16.9% | 17.4% | 2.2% | 10.2% | 4.8% | 6.6% | 6.1% | 20.2% |
出所:Bloomberg ProfessionalおよびCMEグループ・エコノミック・リサーチによる計算
明らかに、1997/98年のエルニーニョ期と直近のエルニーニョ期は、共通点が多い。 例を挙げると、2016年6月にスウエスト・テキサス・インターミディエート (WTI)原油価格は、前年同月の水準を平均19%下回った。1997年6月から1998年6月の間、WTIは27%下落した。原油価格の大幅安は、おそらく大豆油価格への下げ圧力の要因であろう。
直近のエルニーニョ期と過去のエルニーニョ期との間のもう一つの大きな違いは、直近のエルニーニョが発展したときに先物市場が順ザヤに大きく動いたことであり、先物のアウトライトのロングポジションの保有で得られる収益が削減されている。これは、トウモロコシにおいて明白であり、例えばスポット価格は11.3%上昇したが、2015年6月から2016年6月の平均終値を用いると、それを再投資した先物のリターン(期日の10日前に次の限月にロールオーバー)はわずか2.6%にとどまった。小麦先物は、エルニーニョの影響が顕現化しないことを織り込んでいたようにみえる。 スポット価格は9.4%下落し、再投資した先物取引のリターンは18.8%のマイナスとなった。 とはいえ、市場にもエルニーニョの影響が織り込まれていなかったことから、大豆先物は、それほど大きな差を示していない(図4)。大豆価格は、4月、5月、6月初頭に高騰したが、エルニーニョが収束したことによるアルゼンチンの大雨とブラジルの作物被害が一因である。
Month El Niño Begins | Corn | Wheat | Soybeans | Soybean Oil | Soybean Meal | Rough Rice | Live Cattle | Feeder Cattle | Lean Hogs | Dairy |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1: Aug '63 | 5.0% | -0.1% | 1.1% | |||||||
2: Jul '65 | 5.0% | 17.7% | 26.8% | 4.7% | ||||||
3: Jan '69 | -4.4% | -3.5% | -4.2% | 16.6% | ||||||
4: Jul '72 | 72.6% | 63.7% | 112.7% | 29.1% | 30.3% | |||||
5: Sep '82 | 45.2% | -8.8% | 36.8% | 59.1% | 10.3% | -15.6% | ||||
6: Nov '86 | -12.9% | -1.2% | 11.3% | 4.1% | 24.5% | 19.8% | 34.3% | |||
7: Nov '91 | -21.8% | 2.3% | -4.7% | -2.8% | -17.1% | -26.3% | 9.7% | 15.0% | 9.9% | |
8: Dec '94 | 30.7% | 21.6% | 14.3% | -3.0% | 22.3% | 15.7% | 2.4% | -10.8% | 24.0% | |
9: Jun '97 | -13.4% | -38.5% | -5.2% | 2.6% | -18.1% | -5.7% | -11.4% | -13.5% | -23.1% | 25.7% |
10: Oct '02 | -13.7% | -21.8% | 33.8% | 22.9% | 36.7% | 33.7% | 43.0% | 25.7% | -12.7% | -1.8% |
11: Oct '09 | 22.7% | 15.7% | 18.9% | 19.7% | 22.1% | -12.6% | 12.3% | 4.7% | 22.5% | 11.7% |
12: Jun '15 | 2.6% | -18.8% | 20.0% | -10.7% | 26.1% | -2.3% | -22.9% | -27.4% | 10.6% | -9.4% |
Average | 10.4% | 4.3% | 22.0% | 14.6% | 9.2% | 0.9% | 14.1% | 6.9% | 9.2% | 11.9% |
出所:Bloomberg ProfessionalおよびCMEグループ・エコノミック・リサーチによる計算
ボラティリティは、エルニーニョ期に過去平均水準に接近する傾向にあるが、一般的に言えば、エルニーニョの強度が高ければ、農産物の価格のボラティリティが大きくなる。直近のエルニーニョは、トウモロコシ、大豆、小麦のボラティリティは急伸したため、特に過去3ヶ月間においてこの経験則の例外ではなかった。先物価格の日次変動の標準偏差(年率)で測定した、過去1年間のトウモロコシの実現ボラティリティは平均26.27%だった(図6)。1959年以降に発生した12回のエルニーニョ期では、トウモロコシのボラティリティは平均20.04%にとどまり、平年(エルニーニョもラニーニャのいずれも発生無し)は平均20.68%であった。
同様に、2015年6月から2016年6月までの間の大豆の実現ボラティリティは24.09%で、エルニーニョ期と中立の期間の過去の水準より約2%高かった(図7)。これは、エルニーニョの強度を勘案した場合に予想される状況と、過去11回発生したエルニーニョ期における大豆市場の動向にきっちり沿っている。
小麦価格と小麦の実現ボラティリティはともに、トウモロコシや大豆のいずれかよりもエルニーニョからの影響が少ない傾向にある。そうとはいえ、直近のエルニーニョにより、2015年6月から2016年6月の間に26.69%と、平均をやや上回る小麦のボラティリティが発生した。これまで、小麦のボラティリティは、11回のエルニーニョ期と中立の期間において23%近辺で推移している。
エルニーニョが収束して強力なラニーニャに変化すれば、今後数年間において、高いボラティリティーは常態になるかもしれない。これまで極めて強力なエルニーニョは、12~24ヶ月以内にラニーニャに変化した。これは、1972/73年、1982/83年、1997/98年のエルニーニョの発生後の状況である。ラニーニャの発生には、穀物・大豆市場全般で極めて高水準のボラティリティを伴っている。一般的に、ラニーニャが強力であればあるほど、ボラティリティが高まる。これは、今後予定されるレポート:「ラニーニャが発生すれば、農産物市場が混乱するだろうか」 のテーマにする予定である。
本資料に掲載の情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。本資料に記載されて いる見解は、筆者個人のものです。必ずしも CME グループならびにその関連機関の見解ではありません。本資料およびその情報を投資助言も しくは実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。
先物取引やスワップ取引は、あらゆる投資家に適しているわけではありません。損失のリスクがあります。先物やスワップはレバレッジ投資であり、取引に求められる資金は総代金のごく一部にすぎません。そのため、先物やスワップの建玉に差し入れた当初証拠金を超える損失を被る可能性があります。したがって、生活に支障をきたすことのない、損失を許容できる資金で運用すべきです。また、一度の取引に全額を投じるようなことは避けてください。すべての取引が利益になるとは期待できません。
本資料に掲載された情報およびすべての資料を、金融商品の売買を提案・勧誘するためのもの、金融に関する助言をするためのもの、取引プラットフォームを構築するためのもの、預託を容易に受けるためのもの、またはあらゆる裁判管轄であらゆる種類の金融商品・金融サービスを提供するためのものと受け取らないようにしてください。本資料に掲載されている情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。掲載された情報は、特定個人の目的、資産状況または要求を考慮したものではありません。本資料に従って行動する、またはそれに全幅の信頼を置く前に、専門家の適切な助言を受けるようにしてください。
本資料に掲載された情報は「当時」のものです。明示のあるなしにかかわらず、いかなる保証もありません。CME Groupは、いかなる誤謬または脱漏があったとしても、一切の責任を負わないものとします。本資料には、CME Groupもしくはその役員、従業員、代理人が考案、認証、検証したものではない情報、または情報へのリンクが含まれている場合があります。CME Groupでは、そのような情報について一切の責任を負わず、またその正確性や完全性について保証するものではありません。CME Groupは、その情報またはリンク先の提供しているものが第三者の権利を侵害していないと保証しているわけではありません。本資料に外部サイトへのリンクが掲載されていた場合、CME Groupは、いかなる第三者も、あるいはそれらが提供するサービスおよび商品を推薦、推奨、承認、保証、紹介しているわけではありません。
CME Groupと「芝商所」は、CME Group, Inc.の商標です。地球儀ロゴ、E-mini、E-micro、Globex、CME、およびChicago Mercantile Exchangeは、Chicago Mercantile Exchange Inc.(CME)の商標です。CBOTおよびChicago Board of Tradeは、Board of Trade of the City of Chicago, Inc.(CBOT)の商標です。ClearportおよびNYMEXは、New York Mercantile Exchange, Inc.(NYMEX)の商標です。本資料は、その所有者から書面による承諾を得ない限り、改変、複製、検索システムへの保存、配信、複写、配布等による使用が禁止されています。
Dow Jonesは、Dow Jones Company, Inc.の商標です。その他すべての商標が、各所有者の資産となります。
本資料にある規則・要綱等に関するすべての記述は、CME、CBOTおよびNYMEXの公式規則に準拠するものであり、それらの規則が優先されます。 取引要綱に関する事項はすべて、現行規則を参照するようにしてください。
CME、CBOTおよびNYMEXは、シンガポールでは認定市場運営者として、また香港特別行政区(SAR)では自動取引サービスプロバイダーとして、それぞれ登録されています。ここに掲載した情報は、日本の金融商品取引法(法令番号:昭和二十三年法律二十五号およびその改正)に規定された外国金融商品市場に、もしくは外国金融商品市場での取引に向けられた清算サービスに、直接アクセスするためのものではないという認識で提供しています。CME Europe Limitedは、香港、シンガポール、日本を含むアジアのあらゆる裁判管轄で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けていませんし、また提供してもいません。CME Groupには、中華人民共和国もしくは台湾で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けている関連機関はありませんし、また提供してもいません。本資料は、韓国では金融投資サービスおよび資本市場法第9条5項並びに関連規則で、またオーストラリアでは2001年会社法(連邦法)並びに関連規則で、それぞれ定義されている「プロ投資家」だけに配布されるものであり、したがってその頒布には制限があります。
Copyright © 2021 CME Group and 芝商所. All rights reserved.
Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。
Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートを さらに見る