通貨市場の動揺は、FXオプションのボラティリティー上昇の前兆か?

欧州の政局は、崩壊の淵にある。7月第一週、メルケル独首相の連立政権は実際、崩壊寸前まで内部分裂の溝を深めた。イタリアの人民主義左派と同右派の連立政権は、減税と支出拡大を公約し、債券市場からの警告を受けている。スペインでは最近、選挙を経ることなく、連立政権の交代劇が起きている。英国ではメイ首相が、唯我独尊的なEU(欧州連合)離脱文書をまとめ上げたものの、これに対するEUの同意はもとより、自身の内閣からの支持も乏しい状況となっている。いわゆる「ハード・ブリグジット」の可能性が高まっており、ブリグジット自体の撤回もあり得る状況となっている。

こうした懸念に加えて世界貿易に関する緊張が高まる一方、通貨オプション市場の反応は、ほとんど見えてこない。USD(米ドル)に対する主要6通貨のオプション・ボラティリティーは、依然として歴史的な低水準で推移しているのである(図1,2,3)。

図1:問題山積とも思える欧州、一方でこれを意に介さない市場

図2:商品輸出国の通貨に対するインプライド・ボラティリティーも低位で推移

図3:CHF(スイス・フラン)とJPY(日本円)のインプライド・ボラティリティーは歴史的な低水準で推移

通貨オプションのプレミアムがこれほど低水準である状況は、リアライズド・ボラティリティーが低いと言う事実から、その大部分を説明することが出来る。価格変動が比較的緩慢な市場で買いポジションを抱えるのは、高コストだからである。ただ、新興国通貨などでは比較的急速な価格下落も見られ、こうした動きが一段と拡大するとすれば、それは主要通貨でのボラティリティー上昇の前兆となる可能性もある。具体的には、アルゼンチン・ペソやトルコ・リラの暴落であり、ブラジル・レアルやロシア・ルーブルの大幅下落である。最近では、中国・人民元が下落を始めており(図4)、同様の動きはコロンビア・ペソやインド・ルピーにも見られる。こうした動揺は、地震の前触れとも考えられる。

その可能性はある。  ただ、通貨オプション市場を見る限り、懸念が高まっているとは言い難い。また、貴金属や債券、株価指数先物など、通貨以外の資産市場でも、インプライド・ボラティリティーは過去最低、もしくはそれに近い水準となっている (図5-7)。  さらに、通貨オプションは、本稿のシリーズで過去に見てきた国債や株価指数、貴金属などのオプション市場、そして クレジット(与信)・スプレッド失業率とサイクルを共にしている様に見える。 

図4:新興国通貨では、危機が既に始まっているのか?

図5:商品市場の反発に続いて、AUDオプションのボラティリティーは再び、過去最低水準の近くまで低下

図6:原油価格の急落を受け、2015年‐2016年にボラティリティーが急上昇したCADオプションはその後、平静さを取り戻している

図7:EURUSDオプションは、過去最低水準で取引されている

株価指数や米国債、金などのオプションにおけるインプライド・ボラティリティーは、利回り曲線の変化に応じて、4段階のサイクルで循環する。クレジット・スプレッドや失業率における循環パターンは、著しく類似している。

  1. リセッション期:景気が後退期入りするに従って、利回り曲線の平坦化やインプライド・ボラティリティーの上昇、さらにクレジット・スプレッドの拡大が見られる。こうした背景から中央銀行は政策金利を引き下げ、利回り曲線がスティープ化することで、景気は早期の回復期に向かうことになる。
  2. 回復早期:低金利とスティープ化した利回り曲線による景気への癒しが始まるものの、クレジット・スプレッドは依然として拡大したままであり、インプライド・ボラティリティーは、最終的に低下するものの、通常は高水準を維持している。
  3. 回復中期:失業率の低下、そして債券や株式市場の安定的な推移を背景に、クレジット・スプレッドは縮小し、インプライド・ボラティリティーや失業率が低下、さらに、利回り曲線のスティープ化に誘発され、中央銀行は政策金利の引き上げに踏み切り、曲線を平坦化に転換させる。
  4. 回復晩期:景気拡大期の終焉に向けてFRB(米国中銀)は政策金利の引き上げを続け、利回り曲線は平坦化し、ボラティリティーは低水準となるが、同時に、反転上昇へのプロセスの中にあることになる。実際にボラティリティーが反転上昇するとき、その動きは突然で強い動きとなる可能性がある。クレジット・スプレッドも拡大し、失業率は底打ちから上昇に転じ始める。

現状は、本稿でトラッキングした全てのオプション市場において、回復中期から晩期へのシフトが示唆される状況となっている。インプライド・ボラティリティーは低位で推移し、クレジット・スプレッドは縮小しており、一段と低下する可能性もある失業率は既に歴史的な低水準となっている。同様に、政策金利引き上げ局面の真っただ中にあるFRBは、このサイクルで」既に7回の利上げを実施し、バランスシートの縮小も開始している。FRBはさらに、政策金利の引き上げを今年の下期に1回、出来れば2回、実施する方針であり、2019年に3回、2020年については2回の利上げを見込んでいる。将来的に見込んでいる計7回の利上げをFRBが全て実行しなかったとしても、ドットプロットに示された様な金利の上昇ペースが現実のものになるとすれば、2018年末、または2019年早々に、利回り曲線は完全に平坦化することになる。

ただし、利回り曲線が完全に平坦化したとしても、それを以て、FXやその他のオプション市場で、短期的にボラティリティーが急上昇する、という単純なものではない。1996年、そして2006年末/2007年初めには、利回り曲線が平坦化していたものの、ボラティリティーでは限定的な急上昇が、ときとして見られる程度で、市場は大方、平静な推移を維持する結果となった。しかしながら、FRBによる継続的な政策金利の引き上げは、2019年、または2020年、2021年、どこかの時点で市場を動機付け、インプライド・ボラティリティーの高騰やクレジット・スプレッドの急拡大、さらには失業率の大幅上昇など、金融市場のボラティリティーが大幅な上昇を見せると考えられる。

一方で現状は、主要な中銀で金融の引き締めに至っているのはFRBがほとんど唯一であることから、「今回は違う」との議論も聞こえてくる。実際、BOJ(日銀)やECB(欧州中銀)が置かれた現状は、金融引き締めからは程遠いものとなっている。EU離脱を決めた国民投票を受け、政策金利を0.25%に引き下げたBOE(英中銀)はその後、2009年以降のほとんどの期間を過ごす結果となっている0.5%に、金利水準を再び引き上げている。BOEはこの夏、政策金利を0.75%まで引き上げる可能性があるものの、実際に金融の引き締めサイクルに移行するまでには、長い時間を要するものと考えられる。その意味では、BOC(カナダ中銀)が、FRBのリードを熱心に追随している。カナダについては、負債水準が高いこと、さらに不動産バブルに直面している可能性があることなどから、利回り曲線がほとんど平坦化している現状が懸念ではある。

FRBを除いて、主要国の中銀が緩和的な金融政策を維持しているという現状は、そうでなかった場合に比べて、市場の安定をより長期化させる要因となるか?あまり期待できない、と思える。BIS(国際決済銀行)によると、外貨準備のおよそ60%‐65%はUSDが占めている。同様の比率で、国際貿易の決済もUSD建てとなっている。USDはグローバルな準備通貨であり、国際取引の決済において主要な役割を果たしている通貨なのである。さらに、米国の金利が低位で推移していたとき、実質的にゼロ金利でこれを調達し、高金利の国々でこの資金を運用する、いわゆるキャリー・トレードが大規模に行われていた。FRBの継続的な政策金利引き上げを経て、現在、こうした取引の巻き戻しが進んでおり、新興国通貨が広範囲に暴落する可能性がある。そうなれば、商品価格や株式、債券などの市場に大きな影響が及ぶことになる。

2006年以来、FXオプションのボラティリティーでは、その他のプロダクトのボラティリティーを比較的正確に反映する状況が続いている。AUD(豪ドル)、CAD(カナダ・ドル)、EUR(ユーロ)、GBP(英ポンド)、JPY(日本円)などは、その他の資産市場に見られる循環パターンを、大体において反映した動きとなっている。2015年と2016年に商品市場が暴落した際には、こうした通貨のボラティリティーが大幅上昇している。CBPUSDでは、英国で2016年6月に実施されたEU離脱を問う国民投票に前後して、一時的にボラティリティーが上昇している。こうした背景があるものの、ここでは、以下の2つのポイントに留意したい:

  1. インプライド・ボラティリティーに関しては、それ以来、ほぼ歴史的な水準まで低下してきている
  2. それぞれの主要通貨にとってインプライド・ボラティリティー上昇の極となった2016年の水準は、それでも、2008年‐2010年の水準には程遠く及ばないものでしかなかった

図8:EU離脱に関する不確実性がある一方、離脱を決断した英国の国民投票以来、GBPUSDオプションのボラティリティーは低水準に回帰している

図9:その他の市場と同様に、JPYUSDオプションの状況は、2006年当時とほとんど変わっていない

FXオプションのボラティリティー急騰が、早晩ではなく、早々に予想されるという議論には、説得力がある。ブレグジットのプロセスや欧州政局の不安定さに関して大きな不確実性が存在するだけでなく、懸念材料はアジアでも渦巻いている。 

負債からの圧力を受ける一方で、中国経済は失速を始めている。PBOC(人民銀行=中国中銀)と中国政府は、安定成長に向けた政策を進めている。貸し出しの拡大を誘導するため、PBOCは銀行の預金準備率を引き下げ、政府は減税の実施を9月に予定している。万一、中国政府が景気減速を阻止できなかった場合、商品価格は再び暴落すると考えられる。既に、銅価格は大幅な下げとなっているし、鉄鉱石も値下がりを続けている。2015年‐2016年の様な商品価格の下落と同時に、FRBの金融引き締めが行き過ぎの領域に達することで誘発される通常のボラティリティー上昇が発生すれば、2010年代末、または2020年代初めに、FXオプションのボラティリティーが大幅な上昇を見せる場合も想定される。この場合のFX市場のボラティリティーは、特にAUDやCADなど、中国の李克強首相の名を冠した代替え的なGDP指標への連動性が高い通貨で、爆発的に上昇すると考えられる。

図10:AUDUSDは大体において商品価格に追随し、中国の経済成長に遅行する

図11:AUDUSDは大体において、李克強首相の代替え的GDP指標に遅行する

図12:CADUSDは大体において、中国経済に遅行し、その成長失速はCADにとって弱気材料となる

図13:

要点:

  • FXオプションは、過去最低に近い水準で推移している。
  • 金、銀、債券、株価指数などを含めて、その他のほとんどのオプションも同様である。 
  • 長期に及んだ緩和的な金融政策によって、ボラティリティーは、リアライズドとインプライドが共に下押し圧力を受ける結果となっている。 
  • FRBが引き締めに政策を転換していることから、全ての資産クラスにおいて、ボラティリティーが爆発的に上昇するリスクがある
  • FRBを除く主要国の中銀は、その多くが、現状でも、緩和的な金融政策を維持遂行している。しかし、世界の主要な準備通貨は依然としてUSDであり、市
  • への影響という意味では、その他の中銀に比べて、FRBの動向が強く反映される。
  • 減速を始めている中国経済も、先々において、特にAUDUSDとCADUSDで、FXオプションのボラティリティーを上昇させる要因となる。

 

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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