亜鉛の経済学:  ポートフォリオ価値の錆止め

  • 15 Jul 2015
  • By Erik Norland

錆止め効果が高い亜鉛は、真鍮、自動車や電子機器の部品、ゴム製品などで広く使われている。さらに亜鉛は、ポートフォリオ管理の観点からは、鋼や鉄などの工業用金属との価格連動性が予想以上に低いことから、資産としての魅力が高い金属でもある。

世界で生産される亜鉛のおよそ半分は、鋼のメッキ用に使われている。そして、鋼の需要は、ここ数10年に渡って2ケタ成長を続けてきた中国経済が、色濃く反映される状況となっていた。一方で、米国、ユーロ圏、日本、インドなどでの需要拡大予測を背景に、新しい需要動向が指摘される状況ともなっている。

ただ、鋼や鉄との連動性に乏しく、アルミニウムと銅の市場動向について先行指標の役割を果たしている亜鉛に関して明確なのは、既に金属を取り入れているポートフォリオにとって、この金属が利用価値の高い新規の資産になり得る、と言うことである。

亜鉛の工業的利用については、そのおよそ6分の1を占める真鍮は、亜鉛と銅の合金で、例えば酸化アルミニウムの透明なコーティングを施し、塩水などによる浸食の防止措置がされている。真鍮はまた、銅、亜鉛の単体よりも強度が高いと同時に、融解温度はいずれの単体よりも低いことから、造形しやすい合金でもある。 輝きと金に似た色合いから、真鍮は高価な貴金属の代替として用いられる場合が多い。加えて、摩擦係数が低いという特性から、鍵、ドアノブ、ジッパーなどでの用途に適している。さらに、起爆性ガスが溜まる可能性があるなど、引火性の高い製造過程などでも、真鍮の使用頻度は高い。もちろん、真鍮は楽器の素材として広く使われているし、主に銅とブリキの合金である青銅(ブロンズ)にも含まれる。 実際には比較的「もろい」亜鉛は、その他、多くの合金として用いられる。例えば:

  • 洋銀(ニッケル・シルバー) -- 一般的に銅が60%、ニッケルが20%、亜鉛が20%の合金。銀でメッキされる場合もある。
  • はんだ -- アルミニウムと亜鉛の合金; 電子部品や配管の接合などに使われる。
  • ダイカスト -– 亜鉛を主材料とし、少量の他金属、例えばアルミニウム、銅、マグネシウ ムなどと合金したもの。亜鉛、チタニウム、銅を組み合わせたものもある。
  • プレスタル -- アルミニウムと亜鉛の合金で、鉄に似た強度を持つ一方、プラスチックに 似た順応性を持つ。
  • カドミウム亜鉛合金 – 半導体特性を持ち、集積回路に用いられる。

(屋根や雨どい等)建設資材としても用いられる亜鉛は、輸送用機器、一般消費財、電子機器などの分野での用途も広い(図1)。

用途が広く、他の金属との適合性が高いということで、亜鉛は景気や経済的の様々な要素に反応し、特に鋼、鉄、銅など、他の金属の動向に連動すると考えられやすい。しかし、実際には、鋼との連動制はほとんどゼロ、鉄とは+0.2を上回るのが稀なほど、亜鉛は他金属との連動性が非常に低いのである(図2、図3)。

図 1.

図 2.

図 3.

鋼と鉄に対して、亜鉛の相関性と価格連動が低いという事実は、主に供給サイドの要因として説明できる。亜鉛と鉄鉱石、鋼の主原料となる両金属の世界的な産出量データを収集しているUSGS(米国地質調査所)の資料によると、1994年から2014年における両金属の生産量の拡大に関する連動性は+0.3で、低いものだった。実際には、この間の鉄鉱石の生産量は大きく増加したのに対して、亜鉛の生産量拡大は控えめなペースを維持するに留まったのである。2004年から2014年の10年間における世界的な亜鉛の生産量は、年間平均3.3%増であったのに対して、鉄鉱石の生産は同8.8%増となっている。また、同期間における生産量の増加率(単年度ベース)では、10年のうち8年で、鉄鉱石が亜鉛を上回る結果ともなっている(図4)。

図 4.

過去10年で鉄鉱石の生産量が亜鉛の2.6倍になったという事実は、鉄鉱石市場に過剰供給状態をもたらし、その後の相場下落の契機となった。一方で、亜鉛には同様の市場背景が存在しないことにもなる。さらに、鉄鉱石市場については、別途、「鉄鉱石価格が映す中国経済の健全性」で指摘した様に、中国経済の動向への依存度が比較的高い状況ともなっている。

一方で、アルミニウムや銅など、その他の工業用金属と亜鉛の連動性は、鋼や鉄に比べると、高まりを見せている。2003年以来、単年のローリング・ベースで、亜鉛は銅に対して+0.6、アルミニウムに対して+0.8の連動性を示している。実際には、図5に示すように、それ以前の連動性は+0.2~+0.6と、亜鉛とこうした金属との連動性は低かった。この時期、それに先立つ1997年から98年のアジア通貨危機を経て、中国を含めた新興国の経済成長が急拡大したことから、2002年から2008年まで、こうした国々の需要を背景にほとんどの工業用金属の価格に上昇が見られた。ただその後、中国を含む新興国の需要には変調も見られる様になったことから、アルミニウム、銅、亜鉛などの市場価格は概して連動する様になったと指摘されている(図6、図7)。

図 5.

図 6.

図 7.

ただ、銅やアルミニウムに連動しやすい亜鉛市場の日中価格は、実際にはこうした市場の動向から乖離する場合もある。例えば、2006年末に高値を付けた亜鉛価格は2007年に弱気相場入りするが、アルミニウムや銅などの市場が弱気相場入りするのは2008年になってからだった。また、金融危機を経て金属市場は上昇に転じるが、アルミニウムや銅の市場に比べ、亜鉛価格のここでの反発は限定的なものだった。そして、金属市場が世界な回復を見せる一方で亜鉛価格が限定的な回復に留まったことは、金属市場で2012年から始まる再度の調整相場の前兆だった、とも指摘されている。こうしたことから、工業用金属の相場傾向について、亜鉛市場が先行指標として機能している可能性もある。

貴金属に対する亜鉛の連動性は、アルミニウムや銅ほど高くはない。過去15年における銀、金、プラチナ、パラジウムなどの貴金属と亜鉛の価格連動率は、平均で+0.3となっている。その意味では、こうした貴金属を資産ポートフォリオの一部としている投資家にとって、亜鉛はポートフォリオ・リスクの分散効果に寄与する資産となる可能性がある。

亜鉛の経済見通し

鋼の過剰供給などが要因となって、近年においては連動制が低下しているものの、亜鉛市場の先を予想する上で、鋼市場のファンダメンタルズは引き続き重要な要素である。結局のところ、亜鉛の需要の半分は、鋼のメッキ需要なのである。その鋼については、引き続き中国の需要動向に左右されると見られている。WSA(世界鉄鋼協会)の調べによると、中国は2013年に生産された世界の鋼の47.3%を消費したとされている。一方で、その中国については経済成長の減速が指摘されている。その理由は多くあるが、例えば以下がある:

  1. 中国の人民元がここ1年、対米ドルを除いて、世界のほとんどの主要通貨に対して上昇する展開となっている。
  2. 中国の民間部門における負債比率が比較的高いことから、債務の削減によって国内消費が後退する可能性がある。
  3. 習近平国家主席が主導する汚職体質の払拭運動は、その長期的な恩恵は別にして、短期的には、新規建設プロジェクトに対する承認の遅れ等、鋼や亜鉛などの需要拡大を阻害する要因となる。

一方、中国以外では、米国、ユーロ圏、日本、インドなどの国・地域で、これまで以上の景気拡大が見込まれている。ただ、中近東や南アメリカでの成長は概して脆弱なものと予想されている。こうした中、特に米国の住宅市場については、強い成長が見込まれている(詳細は、「米住宅建設と販売が急回復する8つの理由」、ならびに米国の住宅市場と中国、日本、ユーロ圏、米国、南米などの景気見通しについては: http://www.cmegroup.com/education/product-research.html  を参照)。

掘削機器に多用されているわけでもないことから、原油市場の下落による悪影響が亜鉛価格に及ぶことは考え難い。一方で、亜鉛は石油精製の過程で使われている。その原油精製は現在、石油と石油製品の間の価格差(クラック・スプレッド)が例外的に拡大していることから、利益水準の高いビジネスとなっている。石油の精製需要が高まれば真鍮に対する需要にも影響が出て、亜鉛と銅にも恩恵がもたらされると考えられる。

こうして見てくると、亜鉛を取り巻くファンダメンタルズは、鋼需要の脆弱性を背景に相場の下落リスクが意識される一方、全体的には様々な要素が混在する状況だと言える。ただ、鋼や鉄との連動性に乏しく、アルミニウムと銅の市場動向について先行指標の役割を果たしている亜鉛に関して明確なのは、既に金属を取り入れているポートフォリオにとって、この金属が利用価値の高い新規の資産になり得る、と言うことである。

 

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