米国の政策転換に伴い、インドは中国を超えられるか?

  • 16 Feb 2017
  • By Erik Norland

隣国であり、ライバルでもある中国とインドは、世界で最も人口の密集した国である。それぞれ13億人~14億人という人口を持ち、2国合計人口は世界人口の36.5%を占めている。しかし、中国とインドの類似点は概ねここで終わる。過去30年間でより優れた発展を遂げた中国経済は、今やインド経済の5倍規模にまで成長した。4%~8%というインドの着実な成長率に比べ、中国は過去20年~30年にわたり10% 以上という成長率を誇ってきた。つまり、インドは中国の猛烈な発展に遅れをとってきたのだ。         

しかしながら、この関係にも変化の兆しが見え始めてきた。2015年以来、インド経済は中国経済をリードし始めたのである (図1)。中国経済は地方都市変遷による生産性の向上と目覚ましいインフラ構築を原動力として発展してきたが、それも既に限界利益逓減というところにまで達している。更に、中国は借金にどっぷり漬かっている。中国の負債総額(官民合計)は今や、ヨーロッパと北米の負債合計額に相当するレベルにまで達し、中国経済における今後の停滞を予告する。 

一方インドでは、中国ほどではないが、順調に地方都市変遷が進んでおり、同国の今後の生産性強化の基盤を築いている。債務比率は中国のわずか半分であり、過去10年間殆ど増えていない(図2-4)。これもまた、インドにおける長期的かつ確固たる成長を促す要因となり、2020年に突入するに伴い、中国の経済成長を確実に超えることに繋がるであろう。しかしながら、CMEグループは、モディ首相により採られた、大規模なヤミ経済規制手段である高額紙幣廃止政策がインド経済に大きなダメージを与え、その結果、インドの短期的成長は中国に立ち遅れるであろうと予測する。 

通常、債務水準は経済成長そして金利レベルと強く関連する。しかし、いずれのケースにおいても、その関係は鶏が先か卵が先かという状況になりがちである。成長率が低く変動が少ない経済は、高い負債比率のサポートを可能にする。しかし、高い負債比率がやがて経済成長を遅らせることは否めない。低い金利により貸し出しは増大し、結果的に高い債務比率を促すことになる。そして、高い債務比率は、債務負担(官民合計)を賄うために、必然的に低金利を伴うことになる。  

債務比率 が低い場合、国は増大するテコ入れにより成長する。ある人の支出もしくは投資は、別の人のための収益となる。しかしながら債務水準が高くなると、更なる借入は既存ローンの返済に充てられるため、経済成長を減速させることになる。日本、ヨーロッパそして北米でそうであったように、最終的に金利は非常に低いレベルに追いやられる。中国は、既にその道を辿りはじめている。しかし、インドは未だそこに到達していない。 

図1:長年の遅れをとった後、インド経済は中国経済と並ぶ発展を遂げた。

図2:中国の債務比率はヨーロッパや米国と似ているが、インドの債務比率はまだかなり低いレベルにある。

図3:信用バブル ー 中国の負債は金融危機を受けて急増した。

図4:インドの債務水準は過去数10年間ほとんど変化していない。一般家庭の負債も殆ど存在しない。

中国、インド、トランプ大統領、そして貿易

過去35年間、中国の経済成長はインドを大きく凌ぎ、その経済モデルはワシントンのムードに非常に影響を受けやすいと言える。中国経済は、投資と輸出を介して奇跡的成長を達成した。輸出はGDPの21%を占め、輸出の18%(又はGDPの約4%)は米国向けである。中国のインフラ投資は主に輸出促進を目的としてきた。つまり、内陸で製造された製品を沿岸地域にある出荷地点に運ぶ輸送ネットワークの改善、そして港湾都市を改善するための投資であった。近年、中国は再び経済編成を実施して国内消費増大を図り、ある程度の成功をもたらした。しかし、その道はまだ長く、輸出に大きく依存している。 

インドの経済発展は、中国ほど輸出に依存していない。輸出はGDPの13%を占め、輸出の12%(又はGDPの約1.6%)が米国向けである。中央集権国家的である中国とは異なり、民主主義のインドでは、輸出促進を目的としたインフラ構築には困難が伴った。重要なインフラ構築が、民間の土地所有者や地方自治体により阻止もしくは遅らされ、土地改革は重大な障害となっていた。中国では決してあり得ない問題である。必然的に、内陸で製造された製品を容易にかつ安値で港に輸送することが困難になり、インドの産業発展を遅らせてきたのである。その結果、インドの経済発展は主にサービス分野においてであり、中国に比べて著しく国内に焦点を当てたものとなった。このような、スローペースの経済発展には欠点があるが、その一方で、インドが貿易において優位性を確立していないという事実は、より排他的な米国の怒りを避けることにも役立っているとも言える。

トランプ大統領は、貿易的関心事項として2国を挙げた:中国とメキシコである。貿易関連のコメントから判断すると、インドは未だトランプ大統領のレーダーにマークされていないようである。これはインドにとって良いニュースであり、中国にとっては厄介な問題である。中国の増大する債務を考えると、世界の2大経済である米国ー中国間の貿易戦争は、中国にとって是が非でも避けなければならない問題である。万一そのような事態になれば、中国経済は確実に不安定になり、累積債務危機や通貨切下げも避けられないことになるであろう。 

中国貿易は既に急速に減少している。最悪の貿易収支実績という現状を踏まえ、中国は6.5%~7.0%の成長率を主張しているが、それは誇張であると疑う批評家も少なくない。しかし、CMEグループは、誇張であるという意見に同意しない。輸出が急速に減少する一方、貿易はGDPの成長にポジティブな貢献をしてきている。数か月前まで、輸入は輸出より急速度で減少してきたからである。GDPの計算方法(政府の支出、投資、消費者支出・個人消費、そして輸出を足して、輸入を引く)の結果として、輸出が減少するとGDPを増大させることになるのである。  

商品価格暴落の結果、2014年中旬から2016年中旬にかけて中国の輸入は急速に減少した。原油および石油製品は輸入の15%を占め、鉄鉱石と銅は6%を占めている。石油及び金属価格が50%以上下がったことに伴い中国の輸入は縮小し、GDP成長を6.5-7.0%の範囲に安定化している。商品価格が回復した今、輸入は再び成長を始めているが、輸出は依然減少傾向にある(図5)。何か別の方法により貿易のマイナスの寄与を相殺しない限り、中国経済は今一度、そして批評家が予測する以上の速さで減速しかねない状況にある。   

図5:中国では輸出が減少する一方、輸入が再び上昇している。GDPにとっては最悪のニュースである!

万一、トランプ政権が中国に対して攻撃的な貿易政策をとり、中国製品に輸入関税を課し始めた場合、中国に防衛手段がないわけではない。 通貨こそが中国の強い武器となる。大統領候補者当時のトランプ氏は、選挙遊説の際に中国が為替を操作していると非難した。これは事実である。1998年から2013年にかけて、中国は通貨を人為的に低く抑え、外国為替予備金で4兆ドル蓄積した。2014年以降は逆向きに通貨を操作し続けてきた。予備金1兆ドルを売り、通貨を人為的に高いレベルに保ってきたのである。しかし、永久にこの手段を続けることはできない。韓国ウォンと米国ドル以外の殆どの主要通貨に対して価値を上げた今となっては(図6、7)、中国はいずれ人民元を適正値まで戻さなければならないであろう。  

図6:インドルピーを含む他のBRIC諸国通貨は、人民元に対して価値を下げた。

図7:人民元に対してユーロと円も価値が下がり、唯一ドルのみが上がった。

2015年8月、中国が通貨を数%切り下げると発表した際と同様、加速的な通貨切り下げは、金融・商品市場に衝撃的なニュースとなるであろう。トランプ政権 にとって皮肉とも言えるのは、中国通貨切下げは彼にとって最も重要な有権者グループ(農産物を中国に輸出する農村部の有権者、そして製造業が地域経済の重要な役割を果たす地域の有権者)に最大の打撃を当たることになるということである。  

月に500億ドルというペースで予備金を消費している状況を考慮すると(図8)、中国による通貨切り下げは、貿易における敵対行為というより、経済的必要性であると言える。  

過大評価された中国通貨に対して、インドルピーは概ね適正価格にあり、他の通貨に対する価値低下に先駆けて、2011年から2013年にかけてかなり価値を低下させた。人民元の防衛に予備金4分の1を支出した中国とは異なり、2016年初期の3260億ドルであったインドの外国為替予備金は、2017年初期には3370億ドルまで上がった。インドの予備金は、中国に比べて少ない額ではあるが、減少ではなく着実に増加傾向にある。 

図8:中国の外国為替予備金は急速に減少した。

今後の金融政策と金利

中国人民銀行及びインド中央銀行は、近年大幅に政策を緩和した(図9,10)。インフレーションは今のところ抑制されているが、中国に比べ、インドではまだ新しく一時的な状況である(図11)。インドの確固たる成長とインフレーション回復の見込みを基に、RBIの引き締めサイクルが始まることが期待される。金利引き上げサイクルは、高額紙幣廃止が経済にどれほどのダメージを与えるかに依存することになる。よって、第2四半期中頃になるまでは決定的な答えを出すことはできない。 

図9:中国は資本逃避を引き起こすことを怖れ、緩和対策を停止した。

図10:インドの緩和政策は、いつまで続くのであろうか?

中国人民銀行は2014年から2015年にかけて金利引き下げを実施したが、より大規模な信用バブルに火をつけること、あるいは通貨切り下げを引き起こすことを怖れて、その後の金利引き下げを控えた。債務水準から考えれば、中国は長期的には、ヨーロッパ、日本、そして米国のようにゼロに近い金利通貨を達成しようとするであろう。   

図11:インドに比べ、中国のインフレ率は低く安定している。

株式市場

株式市場の投資家には残念なことだが、「中国に比べ、インド経済の更なる成長が期待される」という考えは、既に株式市場に織り込まれているようである。近年中国のA50指数を大きく凌駕した(図12)インドのNifty50指数は、中国株の12.8xに対して、18.6xの利益で取引されている。   

図12:中国のA50指数は、インドのNifty50指数を大いに下回った。

図12:中国のA50指数は、インドのNifty50指数を大いに下回った。

又、評価比率の違いはこれら2つの指数の裏にある業界内訳に起因するようだ。中国株式時価総額のわずか4%がハイテク関連株であるのに比べ、インド株式時価総額のほぼ20%がハイテク関連株で占められている。  

人口統計データと農業

過去数10年間、農産物を含める全ての部門にわたり、中国が大々的に輸入を行う一方、インドの輸入はとるに足らないものであった。しかし、この状況は今まさに変わろうとしている。中国における一人当たりの消費量が3000カロリー以上であるのに対し、インドでは2500カロリーである。更に、インドの人口は今後25年間にわたり 30%の割合で増加することが予測されているの対して、一人っ子政策から二人まで子供が持てる政策へと切り替わったにも拘わらず、中国人口に大きな変化は予測されず、年間当たりの約0.1%の増加が見込まれるのみである。

インドにおける都市部の拡大とそれによる農産物生産の停滞を考えると、インドの消費ニーズを完全に国内生産で満たすことは無理なことである。従って、世界の農業従事者にとって、とりわけレンズ豆、エンドウ豆、ひよこ豆、アーモンド、そしてその他の主食を提供する農業従事者にとって、インドは将来的に素晴らしい機会を意味する。インドが更に経済成長を遂げるにつれ、乳製品および植物油の消費量も大幅に増大することが期待される。 

インドにとって唯一必要でないものは、動物の飼料である。インドにおける一日あたり2500カロリーという食生活の中で、動物性タンパク質はわずか9カロリー程度である。国が裕福になるにつれ、肉の消費は通常増えていくものであるが、文化的なハードルという大きな障害に直面することになるであろう。  

最後に、穀物消費は経済成長とともに減少するのが通常であるが、インドの食習慣にトウモロコシをもっと採り入れる可能性は大いにある。インドとは対照的に、中国の食習慣 はすでに成熟期にあり、食料消費ニーズが今後大きく変わることは期待できない。  


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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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