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なぜ賃金と生産性の伸びが遅いのか?

厳しい労働市場にも関わらず、米国の賃金と生産性の伸びは依然として低いままである。賃金の伸びは2017年にわずか2.7%であり、不況後の業績と同水準であった。労働生産性の成長率は2007年から2016年にかけて平均でわずか1.1%であった。対照的に、1995年から2007年の間の平均成長率は2.5%であった。循環要因は部分的には責任があるかもしれないが、成長の減少に寄与する米国経済の主な構造的特徴はいくつか存在する。賃金と生産性の成長は、継続的な低インフレ期待、労働力人口統計、および低賃金セクターに有利な経済における給与分配のシフトにより抑制されている。

7月25~26日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録 は、賃金と生産性のデータに対する懸念を強調した。同委員会は、 “労働市場の緊張感はあるが...賃金圧力の証拠はほとんどない” と述べた。一部のFOMC参加者は、 “低賃金の経験の浅い従業員の採用” が貢献要因であると推測した。その他の人達は、低賃金の伸びは、生産性の伸びとインフレ率(どちらも遅く、最近)が示唆しているものと一致していると指摘した。事実、連邦準備制度理事会の賃金と生産性の上昇に関する懸念は、今後の利上げのタイミングと終了ポイントに関する議論の主要な要素となる可能性が高い。 更に少なく上昇から遠ざかり、連邦資金の1.50%から1.75%の範囲での終結ポイントについて議論するであろう。

FOMCの賃金と生産性の上昇についての不安は珍しくはない。アナリストや学者も同様に、低い数字を説明するために理論の盛り上がりを進めてきた。お気に入りの疑いとしては、見出しの失業数で掴めていない労働市場の低迷が続いている、下落する名目賃金の硬直性、特にサービスや技術関連分野における出力計測ミス、生産性を向上する技術的進歩の干ばつ、資本増強の減速や公的教育の質の低下が挙げられている。

これらの要因の多くは賃金と生産性の伸びを制限する役割を果たすかもしれないが、米国経済もいくつかの構造的変化を遂げている:1)継続的な低インフレ期待、2) 労働力ではベビーブーマーが出ていき、ミレニアルが入ってくることによる労働力人口統計のシフト、 そして3)業種別の給与分配の変化が低賃金セクターに有利となっている。我々の見解では、構造変化は2008年~2009年の大不況後の経済拡大における賃金と生産性の穏やかな成長に大きな原因があると考えている。暗に、連邦準備制度が、人口統計に関する構造変化や分野間の雇用の変化に対応するための金融政策を行うことはできない。

低インフレ期待

インフレ(生産性上昇と共に)は賃金上昇の重要な要素であるため、インフレ期待は賃金上昇を決定する役割を果たす。ミシガン大学の調査では、1980年のインフレ期待は10%を超えるピークから急激に低下している。

図1:

インフレ期待は、大不況からの景気回復の冒頭で上昇し、コンセンサスが急速な回復を見込んだ2011年3月には4.6%に達した。しかし、これらの希望は間違っていることが判明した。経済の実質GDPは安定したペースであったが、2%の緩やかなペースで成長しておりインフレ圧力はほとんどなくなっていた。早期見通しが徐々に修正されたため、インフレ期待は下がり、7月には2.6%となった。インフレの最近の2%以下の傾向を依然として上回っている。2011年以降のインフレ期待の低下は、その後の賃金成長を抑えた可能性がある。従業員と雇用主はインフレ率の低下を期待していた、そしてそれは低い昇給と伴う。

人口統計のシフト

インフレ期待が下がるにつれ、米国の労働力の構成も大きな変化を遂げた。米国には3つの主要な労働年齢世代がある:ベビーブーマー(第二次世界大戦後から1965年に生まれた、ピューリサーチセンターによる)、ジェネレーションX(1965年~1980年)、ミレニアル(1981年~1997年)。ブーマーは、1946年から1965年の間に生まれた7600万人と、ジェネレーションXの5500万人、ミレニアルの6500万人と比較して、異常に大きな世代を構成している。しかしながら、ブーマーのランクは、死亡率が移民を上回っているため近年減少し始めている。2015年、ピューは、7540万人のミレニアル、7490万人のブーマー、そして6600万人のジェネレーションXと、ミレニアルがブーマーを圧倒し、最も大きなジェネレーションとなっていたことが分かった。

この世代交代は労働力を変えている。ここ数年、大規模で高齢化しているブーマーコホートでは退職者数が増加している。一方ミレニアルは依然として労働力に入ってきている。

生産性と賃金上昇の波及効果は顕著である。ブーマーは高賃金の経験豊富な労働者である可能性が高い。その彼らが労働力から退職することは、賃金と生産性の成長にとって重要な要素である。労働者の新しい参入者である、ミレニアルは経験も少なく賃金も安くなる。彼らの労働力への参入は、賃金や生産性の伸びを引き下げるブーマーズの退職と同じ効果がある。

65歳以上の米国人口の割合をグラフ化すると、不況後の退職が急上昇していることが分かる。ベビーブーマーの退職時代が始まった2007年以降、65歳以上の人口は明らかに劇的に増加している。退職年齢人口は、2007年の全人口の12.6%から今日の15.6%に増加し、2030年まで増加が続く。

図 2:

図 3:

労働年齢人口自体の世代構成も測定することができる(労働年齢はここでは25歳~64歳と定義される)。

労働力人口の最も高年齢の部分(50~64歳)は、1992~2015年の労働年齢層の割合として25.19%から37.45%に増加し、高齢労働者の退職に伴い2017年には37.2%とわずかに減少した。最年少の部分の労働力人口(25~29歳)は、低かった2011年の37.16%から39%に増加した。労働力の割合として、若いミレニアルが目立ってきており、旧世代のブーマーは徐々に退職してきている。

非常に新しい労働者の概観を提供する25~29歳の人口も、2003年の12.33%から2017年には13.72%に上昇し、1980年代半ばから2000年代初期にわたった減少を逆転している。年齢が高く、退職間近の労働者のための基準を提供している55歳から64歳のコホートは、約24.66%で平準化しており、すぐに減少するだろう。

図 4:

図 5:

これらの人口統計の変化は、労働力に追加される若年労働者の増加、そして高齢労働者の増加の減少をもたらした。この世代交代は、賃金と生産性の上昇を抑えている。

セクターの変化

米国でも従業員分布の変更が行われている。多くがサービスベースの経済へと移行しており、1980年の55%と比較して、サービスは非農業セクターの給与総額の70%を占めている。一方、製造業は1980年の非農業従業員の20%から、今日では8%に減少している。

図 6:

教育と保健サービス、プロフェッショナル・ビジネスサービス、そしてレジャーとホスピタリティ、これら3つのサービスセクターは、サービスベースの経済への移行により大きく恩恵を受けた。これらのセクターは非農業セクター全体の従業員の割合として急速に成長し、1980年の24%、不況前の37%からアップして2017年には非農業従業員数の41%を占めた。最大のサービスセクター(貿易、交通と公益事業)は、かなりの数の雇用を追加しながら従業員のシェアとしては一部地盤を失った。一方政府は、2010年~2013年の間に州や自治体が積極的に職を減らしたことから、大不況の後に急速に落ち込んだ。

これらの変化は、今日の逼迫した労働市場において重要である。今年米国に100万人以上の雇用が加わり、2016年には200万のが追加された。2009年6月の不況が終わってから、非農業セクターの従業員数合計に対して合計1560万近くの職が追加された。労働市場が猛烈なペースで雇用を増やし続けているため、労働者の配分が変化しているならば、給与と生産性の成長に影響を与える可能性がある。

図 7:

不況後の従業員数の拡大は、主に低賃金の民間サービスに恩恵をもたらした。これらには、レジャーやホスピタリティ、貿易、交通や公益事業、そして教育と保健サービスがが含まれる。プロフェッショナル・ビジネスサービスは、唯一の高賃金セクターでかなりの拡大をみせている。低賃金の伸びは、高賃金の伸びを若干上回っているが、高賃金・低賃金セクターの伸びは共に中賃金セクターを上回っている。これらの拡大傾向は、賃金や生産性の上昇の減速に寄与している可能性がある。

ここでは、時間単位の収益データが入手できないため、政府セクターは除外している。しかしながら、政府セクターは回復期にかなり縮小した(回復初期から85万の雇用を失い、一部のみ回復している)。このセクターは通常、高賃金で最高の福利厚生を得ることができるため、この縮小は賃金と生産性の成長にマイナスの影響を与えていた。

全体で、3つの最低賃金の民間セクター(レジャーとホスピタリティ、貿易、交通、公益事業とその他のサービス)は、不況後の非農業の37%を占めた。これらの職業は全て“全従業員”平均を下回るため、この拡大は賃金の伸びを低下させる。教育と保健サービスが加わると(平均賃金程度では4番目に低賃金なセクター)、4つの最低賃金セクターが不況後の成長の60%を占める。

3つの最も高賃金セクター(財務活動、鉱業と伐採、そして情報サービス)は、不況後の雇用成長の3.7%に過ぎない。4番目に高賃金のセクター(プロフェッショナル・ビジネスサービス)を含めると、31%までに上昇する。全て平均以上の賃金である、これらのセクターの拡大は賃金の上昇に寄与していた。

2つの中賃金セクター(製造業と建設業、いずれも平均以上の賃金)は、不況後の雇用拡大の10%を追加したのみであった。

この不況後の拡大は、雇用が主に低賃金セクターと高賃金セクターに移行しているという、ますます偏向している雇用市場を描いている。低賃金セクターの拡大は高賃金セクターを若干上回るが、どちらも中賃金セクターをはるかに上回っている。

図 8:

賃金による分極は、上位4位、下位4位そして中間にある2つのセクターに割当てられた民間の非農場従業員の割合をグラフにすることによって観察することができる。4つの最も低賃金なセクターの成長率がトップ4を上回っている。両者の格差は、1980年の21%から不況の始まりに25%に上昇し、27%となった。一方、中賃金セクターは暴落し、不況後の約15.6%で安定している。このような従業拡大のパターンは、賃金と生産性の高い伸びに支障をきたす可能性がある。

政策への示唆

米国経済の構造変化は、賃金や生産性の低下がしばらく続く可能性があることを示している。第一に、観測されたインフレが2%を上回り、数四半期にわたって加速するまで、インフレ期待の低下は昇給についての職場での決定について示唆するかもしれない。測定されたインフレの物質的な上昇は、2017年~2018年の経済見通しには含まれていない。第二に、退職するブーマーズと新しいミレニアルの従業員の二重の効果により、米国の労働力は若干若く、経験の少ない、そして適度な低賃金の労働力となるであろう。この傾向は2020年~2025年の間にベビーブーマーが退職した後は逆になる。第三に、給与スペクトルのいずれかの終わりにあるサービスセクターへの従業員の再分配も、超低賃金部門(レジャーやホスピタリティ―等)に新たな雇用の大部分が加わることを制限する要素である。この傾向は安定しているが、短期的にも長期的にも逆転は見られない。

政策的含意としては、連邦準備理事会は金利の引き上げに非常に慎重になり続ける可能性が高い。そして、持続的に賃金と生産性の伸びが低い場合でも、構造的理由であっても、このレートサイクルの最終的なフェデラル・ファンド金利は1.5%~1.75%の範囲にある可能性がある。財政政策はまた別の話である。インフラへの支出と教育への投資は時間と共に変化する可能性がある。残念ながら、インフラに対する連邦政府の支出増加の見通しは夏にかけて大幅に薄れており、共和党がコントロールしているホワイトハウス、上院と下院は教育支援を削減する意向が強いようである。従って、賃金と生産性の伸びが増加するには、ブーマー世代の退職を待たなければいけないようだ。


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著者について

Bluford “Blu” Putnam(ブルフォード“ブル”パットナム)CMEグループ・マネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミスト。中銀の政策分析・投資調査・ポートフォリオ管理を中心に金融業界で35年を超える経験を持つ。2011年5月より現職。世界経済情勢に関する情報発信で中心的な役割を担う。

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