原油と株式:市場相関の経済学

  • 17 Feb 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CME Groupシニアエコノミスト兼エグゼクティブディレクター)

S&P500種株価指数と原油価格(WTI)の日中価格の相関係数は、年初来で70%に達している。30日という時間軸(移動平均)で見た場合、両市場の相関性の高さは2012年以来の水準であり(図1)、さらに、年間(同12ヵ月)という時間軸では、2013年以来の高水準である。

 

原油と株式の市場相関に関する短史

株式と原油については、両市場の相関性が常に高かったというわけではない。実際、2009年以前の相関係数はゼロ(0)に近かったし、マイナス(逆相関)の期間もあった。両市場の間にあった前提は、原油高は石油会社の好材料となるものの、それ以外については、可処分所得の減少で個人消費を減退させたり、エネルギー消費の度合が高い輸送や工業などの産業セクターで事業コストを上昇させたり等、悪材料であるとするものが一般的だった。

図 1: S&P500種株価指数とWTI原油の市場相関性: 30日と12ヵ月の移動平均

しかし、2009年から2013年の間に実施された3次に及ぶ量的緩和(QE)を経て、原油と株式は正の相関を示すようになる。背景としては、(港の水位が上がる様に)QEによる全方向的な資産価格の上昇効果が指摘される。米国債などの(破綻)リスク・ゼロ資産や投資格付けがAAA(かなり低リスクと言える)の住宅ローン担保証券を中心に、FRB(米国中銀)が数兆ドル単位の資産購入を実行するなか、投資家は、例えば株式など、高リスク資産の積み増しを余儀なくされる結果となった。さらに、こうしたQEを背景とした資金の動きには、米国から新興市場への資金流出もあった。新興国はもちろん、原油を含めて、商品全般に対するニーズが高い状況でもあった。同時に、QEによってインフレ率の上昇が喚起される、という淡い期待も手伝って、原油と株式の両市場ではその後およそ5年間、傾向として正の相関を維持する状況が続いている。

ただ、FRBが第3次QEの終了方針を明らかにし、これを受けた市場での混乱が高まった(テーパータントラム)2013年5月・6月を経て、両市場の相関性には変化が生じる。2014年に実際にQEが終了すると、相関性は劇的に低下し、20%を下回ったのである。QEの終了は景気の回復基調が確固としたものであることの証左と認識され、両市場はそれぞれに、そうした経済条件の下での市場動向を独自に反映するべき、と考えられたのである。そして実際、それぞれが独自に展開する時間帯が、この時点の両市場にはあった。

一方で、2014年後半に始まった原油価格の下落相場を背景に、原油・株式の市場相関性は再び高まりを見せる。ただ、原油価格の下落はエネルギー関連の会社には悪材料だが、こうした銘柄の総時価総額は、S&P500指数全体の6.6%に過ぎない。また、工業用金属の価格も原油市場に連れ安となったが、主に鉱山会社を主体とする素材セクターの総時価総額は指数の3%以下であり、原油市場と指数の市場相関性を単独で高めるには、指数内の加重が低すぎる状況にある。

 

実際に両市場における相関性上昇の主要因となっているのは、WTI原油との関連度合を高めてきている金融株である。米国、そして海外でも、銀行によるエネルギー・セクターへの貸し出し額は大規模な水準に達している。銀行の貸出先破綻リスクの高まりを背景に、金融株と原油価格の変動は相関性を高めているのである。原油価格の上昇は貸出先破綻リスクを低減する一方、下落は同リスクを高めることになる(図2)。総時価総額で、指数の16%近くを占める金融株は指数の動向に支配的な影響力を持ち、同時に、エネルギーや素材などのセクターよりも高い相関性を原油市場に対して持っているのである。

図 2: 金融株は再び、原油市場との関連性を高めている

もちろん、原油市場との相関性を高めているセクターは、例えば生活必需品や一般消費財などの消費関連銘柄など、金融以外にもある(図3、4)。ただ、原油安は消費者にとって好材料であり、この2者の相関性が高いことは、理解しにくいかもしれない。さらに、原油関連企業に対して銀行が抱えるリスクについても、全般的な与信引き締めが喚起されるほど、または、家計やエネルギー関連以外の業種に対する貸し出し姿勢を銀行が過度に硬化させるほど、過剰な水準とは思えない。従って、消費者の可処分所得が増加することや企業の多くで資金の投入コストが軽減されること等、投資家が原油安の好材料に市場の視点を移行させ始めれば、両市場の相関係数は低下していくものと考えられる。

 

図 3:  原油市場との相関性を高めている工業株、ハイテク、一般消費財セクター

図 4:  生活必需品、ヘルスケア、公益などでも、石油市場との相関性が上昇

一方で、FRBによる昨年12月の政策金利引き上げが、原油と株式の市場相関性上昇に寄与した可能性もある。なぜなら、それまでのFRBの超低金利政策の下では、銀行の資金調達コストが低かったことから、貸出枠の拡大は容易だったのである。加えて、利回り曲線が平坦化している現状は、短期資金を調達して長期資金を貸し出す銀行にとって、厳しい収益環境を示唆するものともなっている。

まとめ:

銀行の与信懸念が市場で強まったことにより、通常に比べ、株式市場は原油市場との相関性を一層高める結果になっている。エネルギー関連の企業は(多くの石油輸出国と同様に)困難な状況に直面しているが、投資家はどこかの時点で、原油安によって経済的な恩恵が生じる業種、例えば生活必需品や一般消費財などの産業セクターに視点を向けることになる。もちろん、エネルギー消費の度合が高い公益や一部の工業株なども、原油安の恩恵に浴するセクターである。一方で、エネルギー関連を顧客としていた業種は、こうした投資家の視界から外れることになる。従って、S&P500種株価指数とWTI原油の市場相関係数について、年初来の70%という高水準を維持するのは困難であろうと考える。一方で、原油市場は今後しばらく、金融セクターの動向に影響を与える主要な市場要因であり続ける、と思われる。

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