ボラティリティーの再来: 株式市場の移行フェーズ

  • 7 May 2018
  • By Jesy Beeson and Erik Norland
  • Topics: Equity Index

株式市場にとって、2017年は特に穏やかな1年となった。主要な指標は、2008年の金融危機以前との比較でも、ボラティリティーが最低水準だったことを示している。また、2017年を通じて、ES(E-miniS&P先物)では一段と市場の厚みが高まる結果になっていて、より多くの大口の注文を、より長期にわたって市場に残しておくことに対して、取引参加者が安堵感を覚えていることが明らかとなっている。ただし、日常の取引を執行する上で、こうした市場の厚みは必ずしも必要ではなかった。典型的な通常取引のサイズは、もっと小さいものだからである。また、低ボラティリティーが長期化した市場環境で、市場の厚みが一段と高まるのは珍しいことでもない。

同様に、2018年1月末、ボラティリティーが急激に上昇した際には、長期的に市場に置かれる注文の数は減少し、そのサイズは縮小するという、通常の反応を市場は示している。こうした動きを反映した市場の厚みの変化は当初、参加者に市場流動性が低下したとの認識を与えた可能性もある。しかしながら、当時の売買高からは、提供されていた市場流動性が、取引参加者による注文執行やリスク・ヘッジに必要な水準をはるかに超えていたことを示している。

もちろん、2月のESで市場の厚みに減少が見られた様に、その他にも市場の厚みの変化に影響を与える要因はある。実際、この期間の市場の厚みに関する変化には、何か他の市場要因が影響していた可能性がある。ボラティリティーを含めて、以下では市場の厚みに影響を与える要因について考察する。そして、最終的に、こうしたデータは、ボラティリティーが市場の厚みの変化に影響することを示す結果となっている。

2月は、ボラティリティーの変化に対して市場がどう反応するのかについて、教科書的な例を提供する相場となった。そこに至る相場が歴史的にも低いボラティリティーであったことから市場の反応が極端に見えた一で、データからは市場の厚みが不十分だった形跡や、ボラティリティーが軽減した後に、市場の厚みが復元されない事例は見られなかった。

市場の厚みと限月取引最終日

通常、ESの市場の厚みは、四半期毎の限月取引最終日の循環サイクルに追随するパターンを示す。また、取引最終日のサイクルに従って増加、減少傾向を示す売買高でも、同様のパターンが指摘できる。実際には、売買高と市場の厚みでは多くの場合、取引最終日が近付くにつれて、売買高が増加傾向となる一方で市場の厚みは縮小すると言う、逆方向の関係性が観察される。

もちろん、この関係性が失われる期間もある。特に、市場がストレスを受けている場合、関係性は喪失する場合が多い。2015年末から2016年初め、この期間としては売買高が通常よりも高水準となる一方、市場の厚みは希薄化している。ここで示唆されているのは、市場の厚みの希薄化が取引機会を制限するものではなかった、と言うことである。

図 1.

市場の厚みに影響を与える要因はいくつかあり、その中には先物の限月交代に伴って発生する市場変動もある。

市場の厚みとボラティリティー

通常の四半期サイクルで発生する限月交代の他に、市場の厚みに影響を与える主要因として、市場のボラティリティーを指摘することが出来る。ボラティリティーが低かった2017年、市場の厚みと売買高に関する循環的な動向は明白となっていた。2015年を見ると、ボラティリティーが高かった期間では、両者の関係性が薄れる場面も見られる。しかしながら、ボラティリティーが高かった期間でも、市場の厚みはインプライド・ボラティリティーとの明確な逆相関の関係を維持していた。

図 2.

2015年末から2016年初め、インプライド・ボラティリティーが上昇した局面では特に、市場の厚みとボラティリティーは、ほんんど鏡で映したような逆相関となっている。図1で示した様に、この期間の売買高は非常に高水準となっている。市場の厚みが希薄化したこの期間においても、取引参加者には充分な流動性が提供されていたのである。

ボラティリティーが低い状況となった2017年には、注文をより長期にわたって市場に置いておくことに対して、参加者が安心感を一段と高めていたことが窺える。ただ、ボラティリティーが上昇し、相場が不本意な方向に動いてしまうリスクが高まったことから、注文を市場に置いておくことに対して参加者が警戒心を高める結果になったことから、売買高は非常に高水準となったものの、市場の厚みに関しては希薄化した印象を与える結果になった。

ボラティリティーが急上昇したより最近の例である2018年初めでも、市場の厚みには希薄化が見られた。2月以前で非常にボラティリティーが低い時期があったことから、直近でボラティリティーが急上昇した際に、市場の厚みは著しい希薄化を見せている。ただ、ボラティリティーが収束し始めるにつれて、市場の厚みも改善する兆しを見せている。

2018年とそれ以前のボラティリティーの違いでは、限月交代の時期に伴う循環的な市場動向の相対的なタイミングを指摘することが出来る。通常の循環的な市場パターンの下では、市場の厚みはこの時期に最低水準となる場合が多い。2018年初めの場合では、こうした水準から市場の厚みが回復期に入った初期の段階で、ボラティリティーが急上昇している。また、ボラティリティーが再び急上昇した2月の場合では、通常のサイクルに従って市場の厚みは希薄化を進めていた。こうした状況から、市場には一段と極端な結果がもたらされたことになる。しかしながら、売買高は市場の活動が非常に活発だったことを示していて、当時の市場の厚みは、取引需要を満足させるに充分だったことを表している。

重要なのは、ボラティリティーが急上昇したそれぞれの場面で、ボラティリティーが収束するに従って、市場の厚みが急速に改善していることである。ボラティリティーが非常に高い水準まで急伸したとしても、市場の厚みに対して長期的な影響を与える様子はないのである。

市場の厚みと建玉

市場の厚みに影響すると考えられるもう1つの要因は、建玉である。ただ、この推論は結果として、必ずしも正当化することが出来ない。以下のチャートでは、限月交代に伴って増減する、建玉の循環パターンを見ることが出来る。しかしながら、ボラティリティーが高い期間においては、例えば2015年末や2016年初めなどで、この循環パターンは例外的となっている。2018年初めにも、同様の乖離が見られる。

図 3.

この乖離がボラティリティーの高まりへの反応であることから、両者の相関性は低いと言える。データからは、建玉推移とボラティリティーは、実質的に無関係であることが示されているのである。下の図表は、先のチャートでの予測が正しいことを示している: ボラティリティーは市場の厚みと非常に強い逆相関関係にある一方、建玉推移との間にはほとんど相関が見られない。相関係数がマイナス0.51となっている売買高は、市場の厚みが希薄化する状況で増加する。従って、市場の厚みが希薄化する中でも、市場参加者は必要な取引を執行することが出来るのである。

表 1.

市場の厚みと価格変化

市場センチメントとボラティリティーの関係には、価格変化の頻度も尺度となる。価格変化の頻度が高いと言うことは、市場が活発に動いていることの証左であるものの、価格に対する不確実性が高い相場環境であるともいえる。ボラティリティーが高い場合、価格変化の頻度は高まると考えられる。実際、2018年にボラティリティーが急伸する場面では、それが証明されてもいる。

The charts below show a 23x increase in the frequency of price changes during the February market spike. As traders rushed to hedge their risk, trading frequency increased, leaving very little time for book depth to replenish.

図 4.

頻度に加えて、2018年2月にボラティリティーが急伸した際には、価格変化の度合いも非常に大きなものとなった。下のチャートでは、2017年10月1日から6日と2018年2月1日から7日の2週間について、日毎の平均的な価格上昇、下落の度合いを示している。2月5日周辺では、急激なボラティリティーの上昇が見られている。価格の日中変化を対比すると、高い局面では、2月の1週間は10月の12倍に達している日がある。

図 5.

興味深いのは、価格変化の頻度で23倍の場面と12倍の場面が、市場の厚みの平均変化が2.5倍に低減する場面に呼応していることである。これは、市場の厚みが、ボラティリティーの急伸を示すその他の指標に反応する一方で、歴史的に、その反応度合いは、該当するボラティリティーの急伸度合いを大幅に下回るということである。

結論

最終的には、2018年2月の相場は、急伸したボラティリティーに対する標準的な反応であったと言える。置かれていた注文がキャンセルされることで市場の厚みは希薄化したものの、新しい市場の力学に対応するために参加者がリスク・ヘッジを急ぐ局面で、売買高が増加した。ただ、2017年を通じてボラティリティーが低かったこと、そして限月交代の影響を受けて市場の厚みが循環的な希薄化傾向となっていたことから、2月の相場の反応は通常よりも多少は激しいものとなった。しかしながら、ここまでのところ、市場の反応として特に際立ったものであったとも思われない。実際、ボラティリティーが高い相場環境に再び市場が順応するにつれて、これまで以上に市場の厚みが増す傾向を見せていることは、CMEの市場の高い弾力性を示唆するものと見ることが出来る。


 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者

ジェシー・ビーソン:ダイレクター、ビジネス・インテリジェンス、インテリジェンス&アナリティック・チーム

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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