英国:コービン首相下で予想されること

  • 9 Nov 2017
  • By Erik Norland
  • Topics: FX

2017年6月に総選挙で議会の過半数議席を失って以来、テレサ・メイ英首相率いる保守党は風前の灯火で、閣外協力を合意した北アイルランドの民主統一党(DUP)に支えられている状態にある。最良の環境下であっても、連立政権で権力の座を維持するのは困難な任務であるまず、英国政府はブレグジット(英国のEU離脱)交渉を行わなければならず、DUPがアイルランドについて特別な取り決めを提唱していないものの既に複雑な様相を呈している。さらに悪いことに、欧州連合(EU)首脳らは、英国が「最初からやり直し少し努力するよう」忠告し、ブレグジットを巡る交渉は、英国に住むEU市民の残留資格、英国がEUを離脱する際に発生する費用の支払、英国の欧州との今後の商業面の関係、北アイルランドの国境管理、ブレグジット後の移行期間の協議などの問題に十分な進展がみられていないと述べている。英国が600億ポンドの手切れ金の支払いにまもなく合意するとの期待はいくらかあるとはいえ、交渉は出発点を超えていない状態にある。

メイ首相の災いには、タブロイド紙が好みそうな閣僚内の不幸和音も加わっている。アンドレア・レッドサム下院院内総務は、自身に対して「セクハラ的な性質を伴う見下した発言」をしたとしてマイケル・ファロン国防大臣を公然と非難し、同氏の辞任につながった。こうした議論は、議会内で別個の不適切行為の疑惑の生の引き金となった。これらの発生した諸問題は主要政党に及んでいるものの、メイ政権はその矢面に立っている。 

現政権の脆弱性を踏まえると、マーケットはおそらく、次期首相と英国の経済や通貨に与える潜在的な影響について慎重に考えるとみられる。現に、(順調に事が運ばない)議会でとんとん拍子に事が運んだとしても、マーケットは、それよりも次の選挙に関心が向くと思われる。民主主義のケースと同様に、英国の有権者は、現職議員に背を向ける傾向がある。過去1世紀において、総選挙は26回実施された。この26回の選挙のうち、与党や連立与党が一般投票で得票を伸ばしたのはそのうちわずか5回で、過去8回の選挙を含むそれ以外の21回は支持を失った(図1)。  

図1:政権獲得は政権の維持よりも簡単

平均して、与党は、野党に比べて票を約6%失っており、2017年6月の選挙でわずか2.4%差で過半数を獲得したことを勘案すると、保守党には余裕はない。労働党は、6月の総選挙以来、小幅ながら一貫して世論調査をリードしている。新たに総選挙が行われた場合、労働党があっさりと過半数獲得するか、またはどの党も過半数を獲得できずハング・パーラメント(宙吊り議会)に陥る可能性がある。判断が難しいのは、その選挙の時期である。2022年まで総選挙を行う必要はないが、保守党が議員の辞任を受けた補欠選挙で負けた場合、選挙時期が早まる可能性はある。こうしたあらゆる点は、労働党のジェレミー・コービン党首にとって朗報であり、次の選挙で同氏が率いる党が勝てば、首相になる立場にある。  

ニューレイバーではない

2002年、マーガレット・サッチャー氏は退任から12年後、自分が最も誇りに思う功績は、ニューレイバー(新しい労働党)とトニー・ブレアで、同氏は自分の政敵が考え方を変えて、自由市場経済への取り組みを余儀なくされたと指摘した。ブレア首相のもと、財政赤字はわずかにとどまり、所得税率は安定し、歳出は穏やかなベースで増えており、規制は軽く、ポンドはまずまず強かった。その当時はそうであった。労働党のコービン現党首は、1997~2001年、2001~2005年、2005~2010年の議会における党の方針で一致した票を投じた場面に居合わせた他の労働党議員よりも、ブレア氏とその後継者、ゴードン・ブラウン氏に反旗を翻した。コービン党首は、所得税増税、イングランド銀行が量的緩和で国債買い入れではなくインフラ支出への直接ファイナンスを実施、教育を中心とした公共支出の大幅拡大を提唱している。これらの政策の利点は別として、そのいずれもポンドを支える材料になるとは考えにくい。

類似する一連の政策を探してみると、ハロルド・ウィルソン(1974~76)、ジェームズ・キャラハン(1976~79)の労働党政権にさかのぼる。ウィルソン元首相は、賃金と物価の抑制に介入すると同時に、個人所得税の税率を75%から83%に、そして「不労所得」の税率を90%から98%に引き上げた。1974年11月から1976年11月までの間に、ポンドは対ドルで31%、対フランスフランで27%、対ドイツマルクで37%それぞれ下落した。ポンドは、1974~79年の労働党政権の終わりまでフランとドイツに対して軟調に推移し続けた(図2)。公平のために言うと、ポンドは、1974~79年の下落ペースのほんの何分の一であったものの、1979~1997年に及んだ18年間の保守党政権下にドルとドイツマルクに対して続落した(ただし、フランに対しては下落しなかった)。さらに、1970年代の英国経済は現状よりも極めて厳しい状態だった。特に、イングランド銀行は、当時はインフレ抑制に手を焼いていたが、今はインフレを生み出すのに苦労している。

図2:オールドレイバー(かつての労働党)とポンド

ブレグジットーコービンの結びつき

ブレグジットは、政界全般に支持者がいるものの、政治的に左翼よりも右翼側に支持者が多い。これは、YouGovが実施した2017年10月23~24日などの直近の世論調査で顕著に表れており、同調査では、保守党支持者は69%-31%の率でブレグジットを支持した一方、労働党支持者は67%-33%の率でEU残留を支持した。

保守党支持者側のブレグジット派による主な主張の一つは、英国は、税率が低く規制が軽いスイスに近い姿になることができるというものである。起こっていないが、コービン氏が勝利した場合。万一、英国が労働党の勝利を受けて「ハード」ブレグジット路線をとった場合、英国は、まさにEU圏外で起こっているように、より社会主義的な中央集権型の経済に転換する可能性がある。これは、ポンドにとって悪夢のシナリオである。9月後半以来、メイ首相の立場が弱まり、ブレグジット交渉が停滞しているため、ポンドは対ドルで4.5%下落し、ユーロに対しては小幅に下落した。メイ首相の手に負えない事象が連続的に発生し、ブレグジット交渉が一段と麻痺した場合、ポンドへの下落圧力が強まることが予想される。

むろん、その他のシナリオも存在する。一つの可能性として、保守党政権が崩壊し、労働党が、ブレグジット交渉の終わりを意味する2019年3月より前に政権を獲得することもあり得る。また、中間段階で交渉役が交代すれば、ポンドにとって短期的な弱気材料となりかねないが、何かの拍子にブレグジットが起こらなかった場合、現在の1ポンド=1.30ドル、1ポンド=1.13ユーロ近辺の水準から、あっさりとそれぞれ1.50ドル、1.25ユーロに戻る可能性もある。一部の戦略志向の保守党は、ブレグジット交渉を労働党にうまく押し付けて、その後コービン氏が政権を握り労働党の人気が低下した場面をうまく利用しようとさえ思うかもしれない。いずれにしても、保守党にとって、与党であるときよりもむしろ政権を掌握していない場合に、内部の対応が容易になるだろう。結局のところ、ほとんどの保守党議員は、「残留」派を支持した一方、一般大衆の保守党派層はEU離脱を支持した。 

ボラティリティが高まる可能性を踏まえると、オプション市場が楽観的になっているのが興味深い。90日間ポンドドル(GBPUSD)オプションのインプライド・ボラティリティ(IV)は最近、7.5%と低水準で推移している。公平のためにいうと、これは過去最低水準ではない。これまで、インプライド・ボラティリティは5%まで下がったが、この水準はボラティリティのレンジ上限である19%近辺よりも下限にかなり近い(図3)。

図3:議会とブレグジット交渉は停滞しているが、オプショントレーダーは無関心である

結論

  • テレサ・メイ首相の状況は悪化の一途をたどっている
  • 保守党は補欠選挙で負ける恐れがあり、既に不十分な議席数がさらに減ることになる。
  • ブレグジット交渉はうまくいっておらず、EUは、これまでの提起された一連の問題からより困難な領域への進展を拒んでいる
  • 英国の総選挙がまた実施される可能性は、高まりつつある。
  • 労働党が勝利すれば増税となり、よりインフレを誘発する政策をとるためポンドが下落しかねない。
  • オプション市場を中心に、マーケットは、政治リスクを織り込み、楽観的になりすぎている。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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