英国総選挙の行方、ヨーロピアン・ディスユニオン(EU離脱)そして金融市場

  • 16 Mar 2015
  • By Bluford Putnam and Erik Norland

今年5月7日、EU(欧州連合)とのこれまでの関係に変化を与え得る選挙が、英国で実施される予定となっている。両者間の交易関係に関する疑念が生じれば、英ポンドやユーロなどの通貨では、為替市場での推移パターンに大きな変化が発生する可能性も考えられる。このレポートでは先ず、英国における政治環境を確認するため、二大政党を見ていく。ただ、実際の選挙結果は、力を付けてきている小政党が握っているとも言える状況となっている。

労働党は、直近では1997年から2010年までの政権政党であり、概して親ヨーロピアンなスタンスをとっている。例えば、トニー・ブレア元首相(1997年~2007年)の下で財務大臣を務め、後に自身も首相となったゴードン・ブラウンは、英国のユーロ導入に熱心だった。さらに、成功しなかったものの、ブレア元首相自身もその後、EC(欧州委員会)委員長の座を目指した時期があった。英国の国益を代表して欧州の枠組みの中で交渉していく、というのが労働党のアプローチであり、欧州の統合についても概して好意的なスタンスをとっている。競合する保守党に比べて、労働党の対EUスタンスは比較的明解なものとなっている。

一方で、保守党 (トーリー)の対EUスタンスはより複雑なものとなっている。党内は長期にわたり、主導的な親ヨーロピアン派と、少数ながら発言力のある反ヨーロピアン派とに分裂した状況を続けている。1990年に失脚したマーガレット・サッチャー元首相は、反ヨーロピアンとの同調性が強かった。この時の失脚劇の背景としては、各国の通貨を後にユーロへと統合していくことになるERM(欧州為替相場メカニズム)への参加を、元首相が拒んだことが指摘されている。そして、これに続いたジョン・メージャー元首相やデビッド・キャメロン現首相はより親ヨーロピアンではあるものの、保守党党首は、党内の反ヨーロピアン派への対応に多くの時間を要する状況となっている。さらに、最近、UKIP(イギリス独立党)が台頭してきていることで、こうした対応には複雑さが増してきてもいる。UKIPの台頭は同時に、保守党の支持層流出がその他の政党に比べて顕著となっている、という状況も引き起こしている。こうしたなか、キャメロン首相は今回の選挙で政権に返り咲いた後には、結果に対する拘束力はないものの、英国のEU離脱に関する国民投票の実施を約束している。この投票が実施されれば、EU脱退が英国民の声として具現化する可能性は否定できない。さらに保守党は、ロンドンの金融サービス業界の脅威ともなり得るEUの金融規制案について、その緩和を支持している。

その他の政党の存在も、英国政界をより複雑なものにしている。UKIPはもちろん、EUに残留することには反対の立場をとっている。さらに、2010年の選挙では3.1%の得票率に過ぎなかったUKIPだが、以来、世論調査では支持を伸ばしてきている。例えば、2014年の欧州議会選挙における同等の得票率は27.5%と躍進した一方、キャメロン首相が率いる保守党は第3位と、惨憺たる結果に見舞われた。現在、迫っている総選挙に向けて、世論調査におるUKIPの支持率はおよそ15%(図1)となっている。多くの議席を取るには不十分だが、保守党の完全勝利を妨げるには十分と考えられる支持率である。

反対に、Lib Dems(自由民主党)は熱心な親ヨーロピアンであり、現政権では、保守党の連立パートナーとなっている。ただ足元では、著しい支持率の低下(2010年の選挙時点の23%から7%へ)に見舞われていて(図1)、次回の選挙では保有議席を最も減らすだろうと予想されている。従って、2015年5月の選挙を経て、Lib Demsが政権内に残ることは考えにくいことが指摘されている。こうしたなか、党首であり現内閣で副首相を務めるニック・クレッグは、保守党による単独政権はイギリス連邦の崩壊につながると主張していて、「英国がEUから離脱すれば、スコットランドは連合王国から即時、離脱すると考えられ、単独政権の下で英国は、2つのユニオンを失うことになる」としている。

図1

そして最後に、連邦からの分離独立を問うことになった2014年9月の住民投票で名を馳せた、SNP(スコットランド愛国党)がある。世論調査の結果を見る限り(図2)、スコットランドにおけるSNPは、労働党を凌駕する支持率を集めている。前述の住民投票を前に、キャメロン首相は自治権の拡大などの移譲を約束しており、SNPの国会議員(MP)数を増やすことによって、スコットランドはこの約束の履行を迫るかもしれない。この場合、この増加分が、スコットランドにおいて議席数が1つしかない保守党を犠牲にするとは考えにくい。どちらかと言うと、増加分は41議席を持つ労働党の減少となって結実する可能性が高い。支持率が現状のままで推移すると仮定するなら、スコットランドから選出される労働党議員の数は半減することになる。ウエストミンスターで多数派を構成するために、労働党としては失うことが許されない議席数である。しかし、保守党に勝る支持を全国レベルで集めたとしても、SNPに大敗を喫することで、労働党は英国国会での多数派となることを逸する可能性を残していることになる。

図2

現状、選挙見通しは拮抗しており、結果を予想するのは困難となっている。その上で、以下の主要シナリオを考察してみたい:

1) 保守党が勝利
2) 過半数に達しない与党
3) 労働党が勝利

各シナリオの下では、英国とEUとの関係は大きく異なるものとなる。ここから、シナリオ毎に検討してみたい。

シナリオ 1: 保守党の勝利

このシナリオは、それほど非現実的ではない。2010年5月の保守党/Lib Dems連立政権発足以来、世論調査でことごとく後塵を拝している保守党ではあるが、歴史的には、世論調査の結果を実際の選挙では覆してきたのも保守党である。逆に言うと、労働党には、あと一歩というところで勝利を逃してきた長い歴史がある。いずれにしろ、キャメロン首相の保守党は世論調査でも勢いを増していて、今回の選挙で勝利する可能性がある。

前述した様に、保守党が勝利した暁には、拘束力はないものの、EU離脱を問う国民投票の実施が公約されている。さらに、もしもこの投票が実施されれば、英国民はEU離脱を選択するであろうことが世論調査で示唆されている。従って、保守党が来る総選挙で勝利した場合、英国株式市場や英ポンドは下落圧力を受けやすく、短期から中期の英国債は買われやすくなるなどの市場変化が予想される。対ドルでは、ユーロも下落圧力を受けやすくなると考えられる。

英国がEUを離脱する可能性については、多くの議論が成されている。英国のビジネスや経済にとっては大打撃であり、ヨーロッパでの英国の影響力を低下させることになる、とも指摘されている。一方で、英国がEUを離脱したとしても大きな影響はない、と考える向きもある。離脱したとしても、ノルウェーやスイスがEUと結んでいる様な条約を締結すれば足りる、との考えである。両国はEUに加盟していないものの、両国民のEU内での移動は自由であり、その自由度は実際、英国民のそれを超えるものともなっている。さらに、両国のビジネスはEU各国と深く調和している。ただ、最終的には、最近のスイスの例が示す様に、EUに加盟していないという事実は必ずしも、EU規制当局や税務当局の支配からスイスの金融機関国が隔離されていることにはならないのも明らかとなっている。EUからの離脱に際してどの様な条約で合意するのか、また、離脱のプロセスがどの程度の混乱を引き起こすのかにもよるが、結局のところ、英国の状況は、離脱したとしても、現状と何ら変わらない可能性がある。覚えておきたいのは、ノルウェーやスイスなどの非EU加盟国と同様、英国は通貨を共有していないという事実である。

シナリオ 2: 過半数に達しない与党

結果として、この状況は小政党間で議席がどう配分されるかに依存することになり、見通すのが一番難しいシナリオとなる。保守党/Lib Demsの連立政権が続くのであれば、キャメロン首相はEU離脱に関する国民投票を実施するだろう。投票の結果とその後の展開は、シナリオ1で見た通りである。ただ、実際には、Lib Demsが次期連立政権に参加する可能性は低い。多くの国でそうである様に、連立政権における少数政党は次の選挙で、支持を大幅に減らすことになるからである。

与党が過半数に達しない場合で、労働党/Lib Dems、または労働党/SNPという連立政権が誕生した場合、この政権のスタンスはこれまで以上に親ヨーロピアンとなり、この政権下でEU離脱を問う国民投票が実施される可能性は低くなる。

現状の連立政権は別としても、多くの場合、連立政権は短命であることが証明されている。1974年に発足した連立は、同年10月までもたなかった。現政権でも、Lib Demsは連立の条件として、議会が任期を全うすることを保守党に求めた。実際のところ、議会の任期全うはその価値を失いつつあると考えられる。労働党を主体とした連立で、EUとの関係を維持する場合であったとしても、こうした政権に付きものとなる政治的な不安定さが背景となり、市場ボラティリティ―は上昇するものと考えられる。

シナリオ 3: 労働党が勝利

最近までの世論調査では、これが有力なシナリオだった。しかしながら、労働党完全勝利の可能性は現在、低下傾向となっている。それでも労働党が勝利した場合、EU離脱に関する国民投票は実施されないだろう。もちろん、金融サービスに関する規制など、英国がEUと対峙しなければならない案件は引き続き存在する。ただ、こうした案件に関しては、これまで通り、英国はEUの枠組みの中で交渉することになる。この状況下では、英国株については短期的に安心感が広がるかもしれない。ただ、長期的には、大きな市場変化には至らないものと考えられる。

実際のところ、英国とEUの関係は、必ずしも良好な状態が続いているわけではない。1967年、英国がEUの前身となったEEC(欧州経済共同体)への参加を求めたとき、シャルル・ド・ゴール仏大統領(当時)はこれを拒否している。英国はECCへの参加を1973年に果たすが、欧州大陸の同朋たちとの関係は結局、その後も常にスムーズだったとは言い難い。1980年代には、当時のサッチャー首相が、英国とEUの間にあった論争を反映して、(農業助成金問題で)「金返せ」発言や、(健康保険政策、国防政策、共通通貨創設に関するEUの関与拡大スタンスに関連して)「No, no, no」などの名台詞を残している。

ここ25年間、そして金融危機以降は特に、両者の関係が改善したとは言い難い。ヨーロッパに関する英国の問題意識は高まっていることから、総選挙の結果がどうであろうと、短期的には、金融市場に大きな影響が及ぶことになる。さらに、もしも国民投票が実施されるとすれば、それを前に、英国のEU離脱がもたらすことになるであろう長期的な影響に関する議論は、その激しさを増すことになる。

(1500年代から1600年代初めのスペイン、1600年代後半から1870年代までのフランス、1870年から1945年のドイツ、1991年までのソ連など)数世紀にわたって、欧州大陸における単一勢力を許さないというのが、英国の外交政策の根幹を成してきた。EU離脱によって英国は欧州大陸の政治の本拠地、ブリュッセルでの意思決定に対する直接的な影響力を失うことになる。しかしながら、防衛や外交情報などの分野で協力しつつ、金融サービス規制など、自国が関心を寄せる案件については、残りのEU加盟国を敵対させることで、英国はこれまでの分割統治の方針を遂行することが可能となる。一方で、EUには、連合王国というユニオンの中でスコットランドと英国を反目させることは難しいと考えられる。いずれにしろ確実なのは、面白い時代がやって来るということだろう。

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