利回り曲線 - 失業率のフィードバック・サイクル

本稿は i利回り曲線-VIX そして 利回り曲線-与信スプレッド サイクルに続くものであり、奇妙なチャートを付け加えて、(発生する可能性があるイベントを予想しながら)2018年という新しい年の到来を記念しようとするものである。  

図1: 3回続けて発生している「利回り曲線‐失業率の連動サイクル」

利回り曲線と循環的な連動性があるのは、与信スプレッドと市場ボラティリティーだけではない。1983年以来、失業率のフィードバック・サイクルは、4つのパートから成るサイクルが3度、発生している。

  1. 景気後退期: 利回り曲線の平坦化、その後に失業率上昇 
  2. 回復初期: 雇用市場の弱さに反応してFRB(米国中銀)は政策金利を引き下げ、これによって利回り曲線はスティープ化(長短の金利差が拡大)する。FRBの緩和的な金融政策は与信市場への資金流入を再び加速させ、上昇が緩和されると共に、失業率は低下し始める。
  3. 回復中期: 失業率は低下し、FRBは金融引き締めに動く。結果として、利回り曲線は平坦化する。
  4. 回復晩期: 利回り曲線は一段と平坦化し、失業率の低下傾向がそれまでに比べて減速、または終焉する。

図2: 1980年代のサイクル

1979年、カーター大統領はFRB議長にポール・ボルカ―氏を迎え入れ、インフレ撲滅という、あまり有り難くない使命を託した。そして、ボルカーFRB議長は、これを成し遂げる。政策金利が20%まで引き上げられた後、1982年までに、二番底まであった景気後退では失業率が10%を超えた。ただし、インフレ率が1980年代前の水準に戻ることはなかった。そして、実際には、1982年までの段階で、FRBは政策金利の引き下げに忙しい状況となっていた。(1982年から1988年、米国30年債は3カ月物政府証券を、利回りで200から250bpt(ベーシスポイント)上回っていた。好景気が訪れていた。そして、失業率は低下した。1988年から1989年、ボルカー氏を引き継いだグリーンスパンFRB議長は、景気の過熱回避を担保するため、政策金利の引き上げを開始する。1989年までに利回り曲線は平坦化しており、S&L(貯蓄型の金融機関)や投資銀行のドレクセル・バーナム・ランバート(1990年)が破綻し、ジャンク債市場は混乱の極に達することになる。

190年末から1991年初めにかけて米国景気は後退期入りし、失業率が5.4%から7.8%に上昇する一方で、FRBは精力的に政策金利引き下げを断行していく。1992年までに米ドルの利回り曲線はスティープ化しており、同年7月にピークを打った失業率は、再び低下し始める。1994年初めまで緩和的な金融政策を維持したFRBは、その後、再び引き締めを開始する。1995年までに、FRBは景気の「ソフトランディング」という、稀有なイベントを成功させることになる。その後しばらく、失業率は一段の低下を見せなくなる。一方で、生産性が大幅に向上し、賃金の上昇圧力が限定的となったことで、FRBは驚かされることになる。そこで、FRBは金融政策を若干ではあるが緩和したものの、利回り曲線は完全な平坦化には至らなかった。実際には、3か月物政府証券と30年債の利回り差は、140bptほどの隔たりを残していたのである。1997年には失業率が再び低下し始め、2000年初めにFRBが利回り曲線を完全にフラット化するまでに、3.9%の低水準に達することになる。

図3: 生産性向上によって延長された1990年代の好景気

利回り曲線の平坦化は企業の設備投資縮小も契機となり、2001年にはしつぎゅ率失業率も上昇する。これに対応するため、2001年末までに、FRBは政策金利を1.75%まで引き下げる。ただ、それでも景気が好転しなかったことから、FRBは2002年末までに1.25%、2003年6月に1%まで、政策金利を引き下げる。そして、もたらされた低金利環境を背景に、住宅市場と消費者信用残高は大幅な拡大を見せることになる。また、利回り曲線が一段とスティープ化する一方で、2003年下期には雇用市場もついに改善を見せ始める。

そして、状況は制御されているという自負を背景に、FRBは2004年6月、政策金利の引き上げに踏み切る。17回に及んだ引き上げを経て、2006年6月までに政策金利は再び5.25%の水準に達し、利回り曲線は再び平坦な形状に戻ることになる。2007年春に失業率が4.4%で底打ちするまで、米国景気は拡大を続ける。ただ、その後、緩慢ではあるものの、失業率は上昇転換を開始する。そして、サブプライム・ローン問題が危機への変質するなか、2008年、2009年には、急上昇することになる。2008年末、FRBは政策金利を実質的に0(ゼロ)%まで引き下げる。その1年後に失業率は10%でピークを付けるが、これを経て、年間で0.7%という緩慢な低下ペースの時間帯に突入する(図4)。FRBは2015年と2016年に1度づつ、そして2017年にはより積極的に3度、政策金利引き上げに踏み切った。2017年にはさらに、バランスシートの縮小も開始した。

図4: 利回り曲線は依然として十分にスティープであり、回帰の拡大期は(少なくとも)今後2年程度は続くと考えられる。

3か月物政府証券と30年債の利回り差(スティープ度)が134bptほどなっている現状は、1988年、1996年、そして2005年の利回り曲線と類似している - これらの年では、失業率の低下がその後の12カ月から24か月の間、続いたのである。こうしたことから、現状の景気拡大期においても、2018年、2019年のどこかの時点で、失業率が4%を割り込み、3.5%、さらには3.0%の低水準を記録する可能性がある。ただ、この低失業率環境には、欠けている要素もある。例えば、直近の失業率が4.1%という低水準である一方、賃金やインフレ率に対する上昇圧力は限定的なものとなっている(図5)。 

図5: インフレ圧力が見出せていない現状で、FRBには迅速に政策金利を引き上げる理由がない

契機の回復期がどの程度続くのかは、FRB次第である。政策金利の引き上げが加速的なら、2020年、もしくは2021年には景気後退期入りする可能性が高い。一方、引き上げが緩慢なスピードで実施されるとすれば、現状の景気回復期はさらに長期化することになる。2018年に3度、2019年に3度など、FOMCで示されたドット・プロット(金利予想)通りに早急な利上げが実施されるとすれば、2020年、2021年には失業率が上昇に転じる可能性があることに注意する必要がある。ただ、将来的な金利予測(フォワード・カーブ)は、緩慢な引き上げペースを織り込んだ水準で推移している(図6)。

図6: フェッドファンド先物は、2018年と2019年に、それぞれ2度から3度の政策金利引き上げを見込んでいる

要点:

  • VIX(ボラティリティー指数)や与信スプレッドと同様に、失業率も、利回り曲線に対する循環的影響に関わっている。
  • ドル金利の利回り曲線は現状、景気後退が直近で懸念されるほどの平坦化には至っていない。
  • 失業率は一段と低下する可能性が高く、FRBが性急な政策金利引き上げに踏み切らない限り、2010年代末までに、3.0%近くにまで達する可能性がある。
  • ドット・プロットが示唆する通り、FRBが2018年に3度、さらに2019年に3度、政策金利の引き上げに踏み切ったとしたら、2010年代末までに利回り曲線は平坦化し、2020年代始めまでに、米国景気は景気後退入りする可能性がある。
  • インフレ圧力が欠如している現状を考えれば、FRBが迅速に政策金利引き上げを続ける必要はないと思える。従って、インフレ圧力の台頭が差し迫っているという明確な理由がない限り、FRBの政策金利引き上げペースは、緩慢なものになると考えられる。

免責事項

CME、CBOTおよびNYMEXは、シンガポールではRecognized Market Operator(認定市場運営者)として、また香港特別行政区(SAR)ではAutomated Trading Service(自動取引サービス)プロバイダーとして、それぞれ登録されています。ここに掲載した情報は、日本の金融商品取引法(昭和23年法律25号。その後の改正を含む。)(金融商品取引法)に規定された外国金融商品市場に、もしくは外国金融商品市場での取引に向けられた清算サービスに、直接アクセスするためのものではないという認識で提供しています。CME Europe Limitedは、香港、シンガポール、日本を含むアジアのあらゆる裁判管轄で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けていませんし、また提供してもいません。CME Groupには、中華人民共和国もしくは台湾で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けている関連機関はありませんし、また提供してもいません。本資料は、韓国では金融投資サービスおよび資本市場法第9条5項並びに関連規則で、またオーストラリアでは2001年会社法(連邦法)並びに関連規則で、それぞれ定義されている「プロ投資家」だけに配布されるものであり、したがってその頒布には制限があります。また、本資料は、日本ではそれぞれ金融商品取引法または商品先物取引法(昭和25年法律239号。その後の改正を含む。)並びに関連規則で定義されている一定の要件を満たす投資家だけに配布されるものであり、したがってその頒布には制限があります。

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートを さらに見る