貴金属の生態系力学: 金と銀のミクロ経済

  • 10 Jun 2015
  • By Erik Norland

金と銀は、供給の変化によって動く市場である。もし機会があるなら、貴金属を保有したくないという人はおらず、需要は事実上無制限だ。そのため、価格に対しては鉱山生産量がひときわ大きな影響力を持つ。宝飾品の製造量、歯科用途、産業需要、投資(民間/政府)、二次供給といった市場のほかの要因は、すべて鉱山生産量に影響される。

……この二つを生態系の構成要素と見なすことで、両者をより良く理解できる。供給量の変化に対して、金と銀の価格は異なる尺度で反応する。また、金と銀の相対価格の変化に対しても、金と銀では宝飾品の製造量や投資需要が異なる反応を示す。これには二つの主因がある。一つは代替性、そしてもう一つは価格の違いだ。金価格が上昇すると、金の宝飾品の売上は大幅に落ちるが、その恩恵を受けて、銀の宝飾品は売上が伸びる。

金と銀は完璧な代替品ではないにしても、一貫して強い正の相関関係の下にあり、互いに強く影響し合っている(図1)。 そのため、この二つを生態系の構成要素と見なすことで、両者をより良く理解できる。本レポートでは、この生態系がどのように機能しているかを分析する。1978年以降、金と銀の相関は年平均で+0.35から+0.9の間で推移し、全体の平均では+0.7程度となっている。このように正の相関が生じる理由は、宝飾品、歯科用途、および投資の大部分において、金と銀の需要が一致しているためだ。

図1.

鉱山生産量と価格の関係

市場に新たな金や銀を追加するには、鉱山から採掘する以外に手段はない。過去に採掘された金や銀の供給、いわゆる二次供給と呼ばれるものも存在する。しかし、二次供給は価格に影響せず、逆に価格が上がれば上がるほど、より多くの二次供給が市場に加わる。金と銀の価格を動かす主な要因は、鉱山生産量だ。

金と銀の価格は、どちらも鉱山生産量の変化に対して、逆方向へ敏感に反応する。そして、金は銀よりもこの傾向がずっと強い。1977年から2014年までの年間データを用いて、簡単な回帰分析を行なった。この分析では、インフレ率を調整した金と銀の実質平均価格の年ごとの変化(目的変数 y)と、金と銀の鉱山生産量の年ごとの変化(説明変数 x)を関連づけている。分析結果の説明に移る前に、一つ注意点を述べておきたい。鉱山生産量の年ごとの変化において、金と銀の間の相関性はほぼゼロといって良い(図2)。 このことは、回帰分析の読み取りを困難にする多重共線性(Multicollinearity)の可能性を排除する意味で、統計学的に重要である。

興味深いことに、金の鉱山生産量の増加に対してだけでなく、銀の鉱山生産量の増加に対しても、金は逆方向に反応する。銀は、さらに興味深い結果となった。銀は、銀の鉱山生産量の増加に対するよりも、金の鉱山生産量の増加に対して、より大きく逆方向に反応する(図3)。

図 2.

図 3.

対数変換を用いた回帰分析では、1977年から2014年の期間において、金の鉱山生産量が1%増加すると、平均で金価格は2.15%下落し、銀価格は3.06%下落するという結果が得られた。一方、銀の鉱山生産量が1%増加すると、平均で金価格は1.88%、銀価格は1.72%の下落となった。(ともに対数変換を使用) この回帰分析の結果は、統計学的に大変強固なものである。なぜなら、金価格の対前年比変化の52%、そして銀価格の対前年比変化の47%が、金と銀の鉱山生産量の変化によって説明できるからだ。加えて、金と銀の鉱山生産量の変化に対する金価格の感応度(β)も非常に高くなっている。銀の生産量と銀の関係以外で、このような強い相関が偶発的に生まれる確率(統計のp値)は極めて低い(表1)。

表1:

鉱山生産量の増加が、インフレ調整後の金価格にマイナスの影響を与えることは、過去のデータから明確に読み取ることができる(図4)。1970年代には金の鉱山生産量が落ち込み、それと同時に金価格が大きく上昇した。その後、1981年から1998年にかけて、金の鉱山生産量は年間約3,000万トロイオンス(1トロイオンス = 約31グラム)から8,000万トロイオンス以上へと急増した。これは、金と銀の価格が長期に渡って下落していた期間と一致する。続いて、1990年代から2009年までの期間では、金の鉱山生産量が減少に転じるとともに、金の実質価格が急騰し、インフレ調整後の金価格は1980年に記録したピーク付近まで上昇した。しかし、2009年以降は鉱山生産量が再び増加し、金価格は2011年に頭打ちとなった。その後、ドルベースの金価格は下がり続けている。

図4.

図5.

金の鉱山生産が今後も増え続けるなら、金と銀の相場にとっては下落圧力となるだろう。しかし、たとえ金の価格が下がったとしても、それが金や銀の鉱山生産を減らすことには必ずしも結びつかない。金相場は1980年代前半に暴落したが、その後も名目価格は1998年の大底まで下がり続けた。しかし、この期間を通じて、鉱山生産量は大きく増え続けていた。金鉱山の運営会社は、ひとたび新しい鉱山に投資して採掘を始めると、たとえ金や銀の相場が下がった場合でも、運転資金が続くかぎりは多かれ少なかれ採掘の継続を余儀なくされるためだ。

金と銀の生態系では、金の方が明らかに優位に立っているが、銀の鉱山生産量も重要な意味を持つ。銀の生産は大きく伸び続けており、特に中国とペルーにおいて目立った増加が見られる(図5)。今後も銀の生産が増え続けるようであれば、銀と金の相場を押し下げる要因になるかもしれない。

銀の鉱山生産量(図5)と金の鉱山生産量(図6)に相関がないとすれば、金と銀の価格はなぜ強い相関を持つのだろうか? その答えは、需要サイドにある。これを説明する前に、資源の潤沢性と相関性に関する問題を扱う必要がある。

金と銀は正の相関関係の下にあるが、資源としての潤沢性と価格は著しく異なり、それが貴金属の生態系における両者の経済的関係に大きく影響している。地殻に存在する銀の量は、金の量に比べて60倍から65倍ほど多い。これを考慮すれば、金が銀よりもずっと高価であることも納得できる。1977年以降、金相場は銀相場の16倍から100倍で推移し、平均で約60倍となっている(図7)。平均倍率は、両者の資源量の比率に近い。

図6.

価格がこれほど異なると、消費者は銀よりも金の価格変動に対して、より敏感に反応するようになる。たとえば、金相場が1トロイオンス当たり300ドルから1,800ドルに上昇した場合(これは2002年~2011年の実際の相場であるが)、金の宝飾品に対する需要は著しく低下する。金相場の上昇と同時期に、銀相場は1トロイオンス当たり5ドルから50ドルへと急激に上昇したにも関わらず、銀の宝飾品の売上は横ばいを維持するか、逆に増える可能性さえある。そのため、金の宝飾品需要が大きく減る一方で、銀の宝飾品需要は相対的に増えることになる。

図8は、金と銀の平均価格の変化に対して、対前年比の二次供給、産業需要、歯科用途、電子部品需要、宝飾品製造(先進国と新興国)、および民間投資の変化が、それぞれどれくらいの相関を持っているかを示している。

図 7.

図 8.

項目を一つずつ見ていこう。

金と銀の価格が上昇すると、それぞれの二次供給は増加する。金や銀を溶融し、再利用することによって生じる供給は、基本的には価格を押し下げる要因とはならない。なぜなら、市場はこうした供給をすでに織り込んでいるからだ。逆に、価格の上昇に伴って二次供給が増加する。これは二つの金属に共通している点だ。

金の産業需要(電子部品以外)は、金価格の変動による影響をほとんど受けないが、銀価格が上昇した際には、製造業者が代替品やコスト効率を求めるため、銀の産業需要が落ち込む傾向にある。電子部品の需要は、どちらの金属も、価格の変動による影響が比較的小さいようだ。

歯科用途においては、金と銀の価格が上がると、歯科医と患者が代替素材を使って支出を抑えようとするため、需要の減少につながる。

宝飾品の需要は、金と銀の違いが顕著にあらわれる部分だ。金の宝飾品需要は価格の上昇によって大きく減少するが、銀の宝飾品需要は価格の上昇に対してそれほど影響を受けない。もし、今後も鉱山生産の増加が続き、金と銀の相場が下がり続けた場合は、金の宝飾品需要が大きく増える一方で、銀の宝飾品需要は小幅な増加にとどまることもあり得るだろう。図9と図10は、2000年以降の金相場の急騰によって、米国と西欧諸国における金需要が激減した状況を示している。今後も金価格が下がり続けるなら、これらの地域で需要の大きな回復が起こり得る。

図 9.

図 10.

民間の投資家は、金のトレンドをフォローする傾向があり、価格の上昇局面では上場投資信託(ETF)をはじめとする金の投資商品を購入し、価格が下落すると資金を引き上げる。一方、金と強い相関を持ち、安価な代替品でもある銀は、金に比べるとそれほど投資家を惹きつけていないようだ。

結論: 金と銀は、供給の変化によって価格が動く市場であり、価格の変化がほかのすべてに影響する。金と銀の生態系においては金が優位に立つが、金に対して、銀の供給も多少の影響力を持つ。消費者需要(特に宝飾品の需要)は、銀よりも金の方が、価格に対してずっと敏感に反応する。

 

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