原油相場の底入れと「超」順ザヤ

  • 6 Aug 2015
  • By Dan Brusstar and Erik Norland

現在、原油の限月サヤは2009年底値のときほど急斜化していない。これは、需要と供給が合致するまでに、原油価格にはかなり大きな下げ余地があることを示唆しているのかもしれない。

2015年6月4日付の記事「在庫激増で、原油市場は次の暴落相場へ?」で、米国に原油の過剰在庫を解消するだけのドライブ需要がなければ、原油相場は2014年の再来となる下落があり得ると述べた。そして、夏のドライブシーズンが終盤にさしかかるなか、その結果がかなりみえてきた。米国人は、昨年よりも5%ほど長く走っている。ところが、原油の在庫は、この時期通常みられるほど減っていない。在庫は依然として過去最高の水準である(図1)。在庫が前年比25%という記録的なペースで増加中なのだ(図2)。

図1 米国の原油在庫は依然として記録的高さに

図2 米国の原油在庫は記録的ペースで増加中で平年夏よりも落ち込みが小さい

在庫増だけが原油価格の下押し要因ではない。他にもいくつかある。

  • 最大の輸出国であるサウジアラビアで生産が過去最高を記録した
  • 価格の低下にもかかわらず米国で生産が伸び続けている
  • OPEC加盟国のイランが核協議で最終合意に達し、海上で備蓄されているという4000万バレルを含むイラン産が来年早々にも市場に出回り始める
  • 多くの新興国で需要の伸びが鈍化している

在庫の状況、そして多くの新興国(中国、インド、中南米諸国、中東諸国、ロシア)で需要の伸びが鈍化する可能性を考えれば、WTI原油とブレント原油が、今年1月と3月に付けた下値を試し、さらに割ったとしても驚くことではない。クッシングの原油在庫は、夏の強い需要にもかかわらず、高い水準を維持している(図3)。

図3 クッシングの原油在庫は夏の強い需要にもかかわらず高水準に

そこで当然ながら次の疑問が浮かんでくる――「どの指標に注目すれば、原油相場の底入れを教えてくれるのか?」。カギとなる要素は次の3つだ。

  1. 原油の在庫.
  2. 石油精製品(ガソリンや暖房油)の在庫
  3. 原油の順ザヤがさらに急斜化して「超」順ザヤとなる可能性

在庫

原油の在庫は急増中であり、これはWTIとブレントにとって弱気要因となるだろう。しかし、石油製品の在庫状況については、それほど明白ではない。ガソリン在庫は、需要がかなり活発になる夏のドライブシーズン中に、予想を超えて減少しているのだ。2014年7月の水準にかなり近い。また2013年の水準をいくらか下回り、2012年の水準をいくらか上回っている(図4)。

ガソリンの在庫が減っている理由のひとつに、米国人の走行距離が昨季よりも5%ほど長くなったことが挙げられる。そしてもうひとつの理由に、原油生産と異なり、精製施設は拡張していなかったことがある。米国の精製施設は、ガソリン消費の拡大に生産のペースを合わせただけであり、フル稼働に近い(96~98%)。米エネルギー省(DOE)によると、ガソリンの生産は前年比3.5%ほど増加している。

適度に低いガソリンの在庫水準と記録的に高い原油の在庫――この組み合わせは、いいかえれば「ガソリンと原油のクラックスプレッドが拡大し、精製業者のマージンが高くなっている」となる(図5)。

図4 米国のガソリン在庫

図5 クラックスプレッドの拡大で精製マージンが上昇

健全なガソリンの在庫水準に対し、気になるのが留出油(主に暖房油と軽油)の水準だ。7月中旬現在、留出油の在庫水準は2012、13、14年の同時期よりも10~15%高い(図6)。当然ながら、原油と留出油の価格スプレッドにとっては下押し要因となる。事実、NYMEXに上場するULSD(訳注:超低硫黄軽油)のクラックスプレッドは、2011年以降でほぼ最低の水準にある(図7)。さらに気になるのが、太平洋赤道域で勢力を強めているエルニーニョ現象だ。歴史的にエルニーニョは、暖房油の大消費地である米北部とカナダに平年よりも暖かい冬をもたらしてきた。この地域で暖冬となれば、スプレッドには弱材料となる。

図6 2015年7月中旬現在、留出油の在庫水準がここ4年で最も高い

図7 NYMEXのULSDクラックスプレッドは2011年以降で最低水準に

「超」順ザヤの可能性、そして原油価格の底値

在庫水準は原油市場で起きていることを理解する鍵となる。ただし、そのデータには限界がある。在庫データが更新されるのは唯一、米国の数字だけなのだ。それはWTI相場が世界の原油市場で「価格発見」という非常に重要な役割を果たしている理由のひとつといえる。他の国は、在庫と生産の水準に関して比較的不透明だ。

米国の在庫データ以外に価格の底入れ指標として注目できるのが、原油先物の順ザヤ形状である。原油相場の底入れと順ザヤの急斜化が一致しているという保証はない。とはいえ、過去に原油が底値を付けたときには、ある程度の指針となっているのだ。

例えば、2008年暮れから2009年初めにかけて原油価格が底入れしたとき、相場は急斜化した順ザヤ(つまり超順ザヤ)となり、いくつかの限月間スプレッドで1ドルを超える値幅をみせていた。2009年2月12日、原油が過去10年で最も安い価格を付けたとき、2009年3月限は1バレル33.98ドルで取引されていたのに対し、2010年3月限は55.95ドルで取引された。12カ月で21.97ドルもの順ザヤだ。大筋としては、過剰在庫がコスト安によって一掃されたとき、原油価格は底入れをしてV字回復をみせ、その後の上昇のお膳立てとなったのである。

現在、原油の限月サヤは2009年底値のときほど急斜化していない。2015年8月3日現在、2015年8月限の清算値は45.8ドルで、2016年8月限は50.88ドルである。12カ月で5.80ドルの順ザヤだ(図8)。これは、需要と供給が合致するまでに、原油価格にはかなり大きな下げ余地があることを示唆しているのかもしれない。

なお、現在の世界原油市場の底流にあるファンダメンタル要因は、2008~09年のものと異なる。中国など新興国による需要の鈍化、そして自動車の燃費改善が、原油価格の下押し要因に加わっているとはいえ、2015年の問題は、主に供給側にあるのだ。原油価格が急落した大きな理由は、米国とサウジアラビアの供給が増加し、さらにイランからの供給のおそれが出てきたことにある。それに比べると、2008~09年は需要崩壊のほうが大きな材料だった。金融危機のさなかでの需要急減である。したがって、2015年の底値指標としての順ザヤの信頼性は、2009年のときに比べて低いといえる。

図8 2015年の原油の限月サヤは2009年ほど急斜化していない

在庫の高さ、供給の増加、自動車の低燃費化、新興国での需要鈍化で、全体的にみて、原油相場は2009年の底値期にあったような反発の動きみせていない。これが示唆するのは「市場参加者は原油価格が長きにわたって低迷し続けると予測している」ことである。つまり、原油はまだ完全に底値を付けていないかもしれないのだ。

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