個人投資家の外国為替取引:規制強化にもかかわらず活況に沸く

  • 16 Nov 2016
  • By CME Group

CMEグループから始まった通貨先物の歴史

通貨先物は、世界で初めて売買された金融先物だった。かつて中央銀行、商業銀行、大企業など機関投資家の主戦場であった外国為替や通貨先物の取引は、個人投資家レベルの取引が盛んになっている。個人投資家による外国為替取引の歴史は、CMEグループの当時のレオ・メラメド会長が国際通貨市場(IMM)を創設した1970年代に始まった。

ブレトンウッズ体制に基づく国際金融システムが崩壊し、米国のリチャード・ニクソン大統領は、1971年8月に米ドルと金を交換する金本位制を終焉させた当時、あらゆる国は、自国通貨の価値を米ドルに対して調整する必要があった。これをきっかけにメラメド氏は通貨先物を導入し、そのアイデアは、長い間変動為替相場制度の採用を提唱していた、ノーベル賞受賞者の経済学者ミルトン・フリードマン氏が支持していた考えであった。

通貨先物市場は、1972年5月16日に取引開始された。取引初日の終了時には、英ポンド(GBP)、カナダドル(CAD)、スイスフラン(CHF)、ドイツマルク(DEM)、フランスフラン(FRF)が333枚が取引された。1972年末までには、14万4,928枚が取引され、目覚ましい伸びをみせた。

技術革新により、個人投資家による外国為替取引が急増

通貨先物市場は1980年代に発展を遂げたことから、様々な大手ブローカーは、通貨先物市場と店頭(OTC)先物のスポット市場間で活発に裁定取引を行い、個人投資家と機関投資家双方に潤沢な流動性をもたらしていた。

通貨先物市場は、先物取次業者(FCM)に口座を持つ個人の先物トレーダーに利用され、個人トレーダーの参加は、これらの商品が早期に成功した一因であった。

ここで留意すべき点は、個人投資家による外国為替取引は既に、1970年代から続いていたことである。本稿は、今日まで持続している個人投資家の外国為替取引の急増につながった技術革新である、為替の電子取引プラットフォームが1990年代に開発された後の期間に焦点を絞っている。

1990年代の個人投資家による外国為替取引の発展

1990年代より前は、外国為替取引は、金融機関の主戦場であった。インターネットの台頭により、やがて取引ソフトウェアが普及し、これによって個人の外国為替トレーダーの間で関心が高まることとなった。さらに、外国為替ブローカーは証拠金取引を提供し始め、これをきっかけに、世紀の変わり目に個人の為替取引の伸びが飛躍的に伸びた。

1996年頃、ウェブベースの外国為替の取引プラットフォームの第一世代が出現した。個人投資家は、外国為替市場にアクセスして、自分のコンピュータから通貨ペアを売買できるようになった。

当初、取引プラットフォームは、基本的なプログラムが使われており、自宅のコンピュータにインストールする必要があった。より優れたインターフェイスやチャート・ツールが開発され、さらに画期的なプラットフォーム・ソリューションが追随した。今では、個人の為替トレーダーは、自分の携帯電話からウェブベースのプラットフォームで取引することができる。

個人の為替トレーダーが増えるにつれ、機関投資家向けの外国為替市場は次第にそれに収斂されてきた。機関投資家のスポット為替取引の平均金額は、2000年代初頭の1取引当たり500万ドルから約100万ドルまで下がり、個人のスポット為替取引と重複するようになった。

図1:外国為替の取引金額が縮小

図1:外国為替の取引金額が縮小

図2:個人投資家の外国為替取引は大規模な市場

世界のスポット為替取引は1日当たり合計約2兆ドル

国際決済銀行(BIS)が3年に一度公表する調査では、2013年に初めて個人投資家を中心とする外国為替取引の出来高を別区分で報告した。今年9月に公表された2016年の同調査では、世界のスポット為替市場の1日平均出来高(ADV)が約2兆ドルから2.1兆ドルで安定推移していたことが明らかになった。

また、これは、主要銀行から選出された委員で構成される外国為替市場委員会による半年に1度の調査に基づきアナリストが試算して検証しており、図2に示されている。

個人の為替取引は1日当たり合計約2,000億ドルを突破

BISがまとめた3年ごとの調査に基づき、個人投資家による外国為替の1日平均出来高(ADV1)は、20162 年に2,380億ドルと、2013年の1,850億ドルから拡大し、その他の試算3 でも、個人投資家による為替ADVは2012年に4,150億ドルでピークに達したと推測されている。個人投資家の外国為替取引の上位10通貨は、その大半がドルに対しての取引であり、図3に示している。

個人の為替トレーダーのプロファイル

「個人」という分類にもかかわらず、このセグメントの取引の大半は、かつての取引所、銀行、ヘッジファンドのトレーダーのタイプにより遂行されており、今はコンピュータを介して自宅の事務所やサテライトオフィスで売買している。

図3:2016年4月時点の個人の外国為替取引の出来高

通貨

個人のADV(単位10億ドル)

USD

195,040

EUR

95,610

JPY

60,590

GBP

25,199

CHF

19,293

CAD

11,813

AUD

11,323

CNY

4,291

SEK

3,715

HKD

3,286

NZD

3,175

各国通貨合計

238,1524

出所:BISが3年に一度公表する世界の外国為替取引に関する調査

個人や一般のトレーダーは、外国為替市場における個人投資家の出来高のごくわずかを占めているに過ぎない。

個人の為替トレーダーは、主としてマクロ経済イベントに対して、相場の方向性を見定めようとする。裁定取引戦略は、数週間かかる可能性もある価格の収斂も待つ必要があり、その資金を動かせないため一般的に実践されない。個人の為替トレーダーは、圧倒的にデイトレードが多く、長期のポジションを保有しない。

個人の為替取引は通常、アジアのブローカー経由で売買される

単一の銀行ポータル、CurrenexやFXallなどの電子通信ネットワーク(ECN)は通常、個人顧客にプラットフォームへのアクセスを提供しない。個人の為替トレーダーは主として、個人投資家向けの為替ブローカー、つまり通貨先物の場合ではFCM経由で為替取引を行っている。個人向け為替ブローカーが採用する様々なコストモデルについては、別の調査で分析する予定である。

個人向けブローカーはスポット為替や通貨先物について差金決済取引(CFD)5 を提供

アジアで個人顧客を対象に提供される一般的な通貨商品は、差金決済取引(CFD)である。これは、顧客に呼値とビッド・アスク・スプレッドを提示するブローカーが手掛ける商品である。一般的に、ブローカーは、これらの小口注文をすべて積み上げて大口注文にまとめ、店頭(OTC)市場(EBS BrokerTec、ECNs、銀行ポータル経由)で大口注文として売買する。

eTrade やTD Ameritradeなどの個人投資家向けブローカーも、通貨先物へのアクセスを提供している場合がある。

先物とスポット – 個人トレーダーにとって違いはほとんどない

基本的に、先物商品は、将来の決められた日付に決められた価格で売買する契約のことである。同一の原資産に対して、2016年9月に満期を迎える商品を購入し、2016年12月に満期を迎える商品を別に購入することが可能だ。

対照的に、CFDは将来の価格も、将来の満期日も設定しない。実質的に毎日ロールされるスポット契約である。

比較的長期のポジションを保有することもある機関投資家による外国為替取引では、スポットと先物の取引の差と、満期日が異なる先物取引の差は、重要かもしれない。

ただ、個人の為替トレーダーは、ポジションを数分から数日間と比較的短い期間しか保有しない傾向がある。そして、一般的に流動性が最も高い限月を売買する。そのため、取引戦略に関する限り、CFDと先物との差は、個人トレーダーにとってほぼ無意味になる傾向がある。

しかし、通貨CFDの取引時には、双方向のリスクエクスポージャーを慎重に考慮する必要がある。

通貨先物はより確実にリスクを緩和できる

OTC商品と先物商品との主な違いは、リスク緩和手段として導入されているかという点である。 米国のドッド・フランク法(金融改革法)、消費者保護法、欧州連合(EU)の金融商品市場指令(MiFID) は、規制対象の取引所が扱うOTC商品の取引に対する中央清算を提唱しているという事実は、個人投資家を保護するために強固なリスク統制システムを導入することの重要性を立証している。

通貨先物取引の主なメリットは、清算機関経由による中央清算でリスクを緩和できることである。個人の為替ブローカーは、通貨CFDにおいて双方向の信用リスクに直面する。ブローカーと個人トレーダー両方にとって清算・決済されないという双方向の信用リスクに起因する潜在的な損失は、スイスフランのイベントにおいて以下に説明するように、十分に裏付けされている。

スイスフランのエピソードの影響

2015年1月15日、スイス国立銀行(SNB)は、EURCHFのレートに設定した上限を撤廃する決定を公表した6。ユーロが対ドルで下落したことを受けて、SNBは、自国通貨を1ユーロ当たり1.20スイスフランに設定した上限を防衛する根拠を失ったと結論付けたことが背景にあり、スイスフランは、その日に1ユーロ0.99スイスフランまでたちまち急落した。

図4:外国為替市場に影響を与えた「スイスフランのイベント」

ブローカーにストップロス注文を出していたCFDの為替トレーダーは、ストップロスのポイントでこれらの取引を執行できなくなった。個人の為替ブローカーは、スポット為替取引を提供する業者やプライムブローカーから、関連するレートを入手できなくなった。SNBがユーロに対するスイスフランの上限を撤廃する行動を起こしたために、多くの個人投資家向け為替ブローカーは、数百万ドルの損失を被った。

対照的に、通貨先物市場は混乱を乗り切り、決済や現物受渡の不履行は起こらなかった。USDCHFとEURCHFの先物市場は、その取引日に流動性を維持し、CME Clearing Houseを通じて清算された取引は全て決済された。

スイスフランのイベント後に強化された規制

スイスフランのイベントを受けて、一部の法域では、個人投資家保護を主目的として外国為替取引に利用できるレバレッジに上限を課した。

例えば、個人向け為替ブローカーは、自社のオンラインポータルで200倍のレバレッジを提供すると広告を出していても、現地の中央銀行により規制が課されることになる。つまり、アジアの多くの外国為替市場では、個人投資家に適用されうる実際のレバレッジの上限は、預け金のわずか20倍にとどまる可能性がある。

また、一部の国の金融規制当局は、この種の取引活動に関して、個人向け為替ブローカーに対して、健全性に関する警告を提示するように強制している。

アジアにおける個人の外国為替取引の繁栄

外国為替取引は、アジアにおいて、簡単に利益を稼げる手段として個人投資家に向けに宣伝されることが多い。しかし、個人の為替トレーダーは、機関投資家のトレーダーに適用されているような資金に関する保護手段を持っていない。米国では、ドッド・フランク法および消費者保護法の施行により、デリバティブ取引は、CMEグループなどの規制対象の取引所へのシフトが進んでいる。

米国では、個人の外国為替取引に対する規制厳格化により、オンラインポータルで通貨を取引する個人投資家の人数は、これまで比較的少なかった。しかし、規制強化については、アジアは米国ほど厳格ではない可能性があり、個人の外国為替取引は、アジアの外国為替市場では、いまだ盛況するセグメントである。

個人向け為替ブローカーの提供する商品は増えている

個人向け外国為替市場は、ボラティリティにほぼ主導される展開となっている。制限と規制強化が課されているなか、個人の外国為替取引はいまなお活気に満ちており、世界の1日当たりの通貨取引は、2,820億ドルを超えている7

市場規制の強化と厳しい監視を背景に、通貨CFDを提供する個人向けブローカーは、顧客に対して担保の引き上げを課し、個人の為替トレーダーに提供するレバレッジを引き下げた。

しかし、リスク緩和に対する意識の高まりを受けて、個人向けブローカーは、自社で提供する商品の拡充を一段と強めており、個人投資家向け市場ではかつてリスクが過剰に高いと認識された先物商品は、今ではリスク緩和ツールとしての認識が一段と強まっている。


1 個人向け外国為替取引の大部分は、差金決済取引(CFD)として取引されている。スポットで売買される傾向にあるものの、CFDは、3年に一度公表される世界の外国為替取引に関する調査ではスワップに分類されている。個人の外国為替取引の数値には、スポット為替取引と通貨スワップが含まれている。

2 参照: http://www.bis.org/statistics/d11_1.pdf.

3 2014年12月9日付けで発行されたRaymond Jamesの業界レポートと、 ニューヨーク、ロンドン、東京、シンガポール、カナダの外国為替市場委員会が実施した半年に一回の調査に基づく試算

4 留意すべき点は取引される通貨ペアの各サイドは別にカウントされるていることで、そのため、全ての通貨の合計は、つまるところ世界の合計値の2倍になっている(個人中心のスポット為替取引と通貨スワップの合計)。

5 「CFD」という用語は、コモディティの資産クラスに使用される傾向にある。 「外国為替証拠金取引」は、外国為替に使用される傾向にある。しかし、ここで使用している「CFD」は、プライムブローカーのモデルを通じて個人向け為替ブローカーが提供するスポット為替取引とそれを区別するために使用している。

6参照: http://www.snb.ch/en/mmr/reference/pre_20150115/source/pre_20150115.en.pdf.

7 BISが3年に一度公表する2016年度世界の外国為替取引に関する調査–個人投資家による外国為替取引の出来高

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