小麦: 欧米市場の記録的価格差

  • 22 Sep 2016
  • By Erik Norland

欧州の小麦農家にとって、2016年の夏は厳しいものとなった。フランスやドイツでは、例年以上の降雨による被害で、8月に発表されたストラテジック・グレインのレポートによると、小麦の収穫は前年ベースを4%から5%下回る可能性がある。それに比べれば、冬から春にかけて強度のエルニーニョに見舞われたものの、米国の小麦生産地は理想に近い天候条件だった。米国農務省(USDA)による2016年8月の収穫予想レポートは、6月1日から始まっている2016/17穀物年度の小麦生産量は、2015/16年度に比べて、12%から13%の増加を見込んでいる。  

こうした天候条件の違いを背景に、米国産小麦(CBOT=シカゴ・ボード・オブ・トレード上場の軟質赤色冬小麦)とパリのユーロネクストに上場されている欧州産小麦の価格差は、過去最大水準となっている(図1)。欧州産は現在、米国産を20%超上回っているのである。そして、この価格差は米国の輸出業者にとって、これまでにない事業機会を提供するものとなっている。また、世界的な商品の取引通貨となっている米ドルは2011年以降、高値推移を続けてきた。欧州市場との価格差拡大は、自国通貨高の重荷を負う米国農家に、数少ない好材料をもたらす結果ともなり得る。また、ロシア、カザフスタン、そしてルーマニアなどの東欧の国々にとっては、フランスやドイツでの生産が落ち込むことによって、通常よりも高い価格で、小麦市場のシェアを拡大する機会ともなり得る。

図1: 先物市場における欧米の小麦価格

市場見通し: 小麦、ボラティリティー、通貨、そしてマクロ要因

天候:米国における生育環境は良好であるものの、小麦生産者にとってこの状態が続くとは限らない。昨年来のエルニーニョが来年はラニーニャへと早急な転換を見せ、現状の生育条件は悪化する可能性がある。一方で、欧州の生産地については、エルニーニョとラニーニャによる影響は通常、限定的である。

太平洋の赤道付近では既に、帯状の低温海域が発生している(図2)。1972/73年、1982/83年、そして1997/98年に発生した強度のエルニーニョと同様に(表3)、直近のエルニーニョもここまで、足早にラニーニャへの転換を進めている様に見える(図3)。  

図2: 太平洋の赤道付近で拡大している平均温度を下回る低温海域

図3: 強度のエルニーニョは翌冬、ラニーニャに転換する場合が多い

過去に発生した12のエルニーニョは、米国産小麦先物の価格形成において、強気の材料となった。太平洋の海水温度が例年水準から摂氏1度以上上昇した後12ヵ月で、先物価格は平均で8%の上昇を見せている。一方、ラニーニャによる市場への影響は逆で、赤道付近の太平洋の海水温が例年水準を摂氏1度以上下回ってから12か月後の先物価格は、平均で12%程度の下落を見せている(図4)。一方、日中価格の先物データが1999年以来と限定的で、2つのエルニーニョしか反映されていないため、欧州市場におけるこうした影響については不明確と言わざるを得ない。しかしながら、両市場の連動性は高い。2000年1月以来の連動率は、通貨調整済みで、+0.54となっている。欧州と米国では、それぞれの市場の取引終了時間に隔たりがあるため、日中データが高連動していることは、実質的に見過ごされている部分も多い。

こうして見ると、その直接的な影響は、米国よりも欧州で軽微である可能性が高いとしても、ラニーニャは世界市場を介して、欧州産小麦の価格にもその大きなインパクトを与えることが考えられる。。平均すると、2015年と2016年における米国産小麦の価格形成に対して、エルニーニョはそれほどの上昇材料とはならなかった。実際、価格は前年ベースを下回ったのである。従って、2016年と2017年の市場がラニーニャに影響されたとしても、米国産小麦の市場価格は既に低位推移となっていることから、更なる押し下げ要因とはなり難いと考えられる。反対に、この夏の厳しい生育環境を背景に高値推移となっている欧州産については、天候要因としてのラニーニャの直接的な影響は軽微だとしても、米国産に比べて、市場の下値圧力となり易い。

米国小麦市場におけるラニーニャの主な影響については過去データから、通常以上に高まる市場ボラティリティーの水準を指摘することができる。強度のラニーニャ(摂氏1度以下)の期間におけるボラティリティーのピークは、強度のエルニーニョ(摂氏1度以上)の期間のピークに比べて、平均で1.5倍に達する(図5)。従って、世界市場が強度のエルニーニョの影響を受けるとすれば、欧米市場の市場変動は大きな高まりを見せると予想される。  

図4:  エルニーニョ/ラニーニャの農産物への影響

図5:  ラニーニャと例外的に高い実現ボラティリティーは連動している

通例では、ラニーニャが強度であるほど、市場のボラティリティーは高まりを見せる(図6)。そして現在、このリスクは現実性を高めている。2015/16年のエルニーニョは、その強度という意味で過去最高を記録した1997/98年のものと同程度だった。そして、1997/98年のエルニーニョにはその後、数年停滞した強度のラニーニャが続いたのである。赤道付近の太平洋の水温が、12月時点の摂氏+2.3度から6月時点の同+0.2度まで、急速に低下している現状は、単なるラニーニャではなく、特に強度なラニーニャへと状況が転換している可能性を示唆している

図6:  強度のラニーニャは、高い実現ボラティリティーと連動する傾向がある

強度のラニーニャが発生した場合、小麦先物のオプション価格は、大幅に上昇する可能性が高い。 欧米の小麦価格の動向に影響するのは、天候だけではない。中央銀行の金融政策や通貨動向も、市場要因として同様に影響する。

欧州中銀(ECB)が政策金利を0(ゼロ)%に引き下げ、積極的な量的緩和に踏み切ったことから、2014年5月から2015年3月の間に、通貨ユーロは対米ドルで1.40ドルから1.05ドルまで下落した。そして、ユーロ安で輸出価格が米国よりも低くなったことから、欧州の小麦農家は米国のライバルに対して有利な立場を得ることになった。

2015年3月以降、ECBが一段の金融緩和を模索する一方で、米国中銀(FRB)は引き締めスタンスに移行している。両者の政策スタンスが反対方向を示していることから、対ドルでユーロは更に下落するとの見方もある。ただ、ここ1年半、ユーロは主に1.05ドルから1.15ドルと、狭いレンジでの推移となっている。

ユーロが対ドルで一段安に至っていない理由には、恐らく以下の2つがあると考えられる。

  1. FRBは政策金利を引き上げたものの、市場が予想したほどの金融引き締めにはなっていない。フェッド・ファンド先物は過去2年、その間に積み上げられた市場の引き締め期待を積極的に調整し続けている。
  2. 2016年2月、ECBはマイナス金利を導入したが、実際にはこれによって、ユーロは下値を支えられている可能性がある。もちろん、マイナス金利は金融緩和の一環として導入されたものだが、銀行に対する実質的な課税として引き締め効果があり、貯蓄を助長すると同時に、支出と投資に水を差している可能性がある。ただ、この指摘は驚くに値しない。実際、日銀が同様の政策を導入した後、為替市場での日本円は急上昇を始めている。

こうした動きには、どこかの時点で変化が起きるかもしれない。実際、米国では、フェッド・ファンド先物でFRBの政策金利引き上げ期待が調整されているものの、その調整余地は限定的となって来ている。従って、その他の条件が変わらないとして、市場が予想する以上の引き締めが米国で行われれば、為替市場は米ドル高へ偏重し、米国農家の犠牲の上に、欧州のライバルに好条件をもたらすことになるだろう。一方、欧州サイドの要因は不明確である。マイナス金利の導入はECBが犯した大きな過ちであることは別にして、これを導入している日本を始めとする国々で、早期にこの政策を反転させる見通しはない。中央銀行とは、非常に行動が遅く、官僚的で、過ちを認めることに消極的な組織なのである。従って、ユーロが一段安となるのかを見通すのは、非常に難しい。同時に、2015年3月以来のレンジ相場を続ける可能性は乏しいと考えられる。

欧米の小麦価格差が、どの時点で通常水準に回帰するかは不明確である。ただ、これを決める要因としては、西ヨーロッパと南北アメリカ、そして旧ソ連の各国の天候、さらに金融政策や通貨市場の動向要因が主要なものとなる。


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저자 소개

에릭 놀란드는 CME 그룹 상무이사 겸 선임 이코노미스트입니다. 에릭 놀란드는 글로벌 금융시장의 트렌드를 추적하고 경제적 변수를 평가하며 CME 그룹과 그 사업전략 및 동 소속 시장의 투자자들에 대한 영향을 예측하는 경제 분석을 맡고 있습니다. 그는 또한 CME 그룹의 글로벌 경제 및 금융상황과 지정학적 상황에 대한 대변인 중의 한 사람입니다.

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