我々のモデルは、5月統計だけでなく、6月統計のNFP変化も予測する

ここで、少しの間だけ、6月1日発表予定の5月統計のことは、脇に置いておくことにしよう。それは、5月統計での雇用件数について、前の月から19万5000件の増加が市場予想の中心であること以上に、興味深いことがあるからである。たった3つの指標を使うだけで、我々の予測モデルは5月統計だけでなく、7月6日に発表予定となっている6月統計の暫定的な予想まで示唆するのである。このモデルは、NFPに関係する変数の先々について、そのおよそ70%を構成する要因の変化から、統計が発表される1ヶ月以上前に、予想を可能にするのである。

採用されている3つの指標は、過去25年に渡って、NFPの月次変化の70%を説明する要因となってきた(図1)。3つとは、1)ハイ―イールド社債と米国債の利回り差(スプレッド)、2)利回り曲線の形状、そして3)過去にした予想の誤りを踏襲した上での原油価格の変化である。これら3つを把握した段階で、次のNFPの予想に関する作業は、その3分の2が達成されたことになる。 

図1:クレジット・スプレッド、利回り曲線、原油価格と過去の誤り:NFPの月次変化の70%を決定する要素

クレジット・スプレッド

採用されている指標の中で、最も重要なのがクレジット・スプレッドである。NFPの月次変化の60%は、この指標に依存している。さらに、クレジット・スプレッドが雇用市場に及ぼす影響は、比較的早期に、およそ1カ月遅れで示現する。クレジット・スプレッドが今月、縮小したとしたら、翌月には雇用の拡大が見られるのである。反対に、クレジット・スプレッドの拡大は、雇用の拡大が唐突に失速する前兆となる(図2)。ただ、これに驚く必要はない。クレジット・スプレッドが縮小するということは、企業にとって投資や事業拡大のための資金を資本市場から調達しやすい環境だということである。こうした企業活動は人員の増強を意味し、それは、そうした企業のサプライヤーにおいても同様なのである。反対に、例えば1998年から2002年、さらに2007年から2009年の様に、クレジット・スプレッドが極端に拡大する場合、雇用の拡大は唐突に停止し、企業は事業規模の縮小を開始する。

我々の予測モデルでは、クレジット・スプレッドが1%拡大する毎に、平均で、NFPは7万件/月の減少となると示唆されている。例えば、NFPが20万件/月の増加を見せているとしたら、この増加幅をゼロとするためには、クレジット・スプレッドがおよそ3%拡大する必要がある。

図2:低水準なクレジット・スプレッドは雇用市場に好影響

クレジット・スプレッドは、労働市場の将来的な状況を予測する上で、重要な指標ではあるものの、決して問題がないわけではない。例えば、クレジット・スプレッドは2015年と2016年に拡大を見せたものの、景気回復の阻害要因とはならなかった。大体において、その拡大が特定の業種(エネルギー)に限定されていたからである。2014年11月から2016年2月までの間に原油価格が70%の下げとなる一方で、エネルギー・セクターに対するクレジット・スプレッドは極端な水準まで拡大した。同セクターはこれを受けて、厳しいリストラを経験することになったのである。ただ、原油価格の低下は、例えば個人消費などを背景に、その他多くの業種にとっては好材料だったのも事実である。こうして、雇用の拡大ペースは維持される結果になった。さらに、2015年と2016年にスプレッドが拡大した際には、利回り曲線がスティープ化している環境が背景にあった。利回り曲線が正の曲線(長期金利が短期金利を上回っている状態)である場合において、ほとんどの場合、景気の失速が見られることはない。

利回り曲線

過去50年に米国で発生した景気後退では、利回り曲線の平坦化や逆イールド現象がそれに先行して見られている。実際、利回り曲線の傾きは先々のGDPを示唆する、信頼性の高い指標であるだけでなく、NFPの変動の30%を担う指標でもある。これに関して特に重要なのは、利回り曲線が、2年先のNFPを示唆することである(図3)。換言すれば、足元の利回り曲線がスティープなものであるとすれば、それは実質的に、2年先の雇用件数の増加を示唆しているのである。反対に、2018年の利回り曲線が平坦なものであったとすれば、2020年における雇用市場の停滞、または景気後退を示唆するものとなる。

図3:利回り曲線の形状は2年先の雇用拡大に連動する

我々の予測モデルによると、利回り曲線が1%平坦化する毎に、平均で、2年先のNFPは3万件/月の割合で減少する。例えば過去2年で、3ヶ月物政府証券と30年債の利回り差は、260bptから130bptほどまで縮小(平坦化)している。これは、2020年になる段階で、4万件/月のNFPの減少を示唆していることになる。フォワードカーブが示す利回り曲線の様に、FRB(米中銀)が政策金利引き上げを継続し、2020年までに利回り曲線が平坦化したとすれば、 s2021年、2022年までに、NFPは最大で8万件/月の減少を見せることになる。 クレジット・スプレッドの拡大がこれと時を同じくして発生した場合、雇用市場は一段と脆弱な状況になると考えられる。

忘れるべきでないのは、ここで論じている利回り曲線の影響は、 それ自体の影響に加えて その他の要因から受けた影響を含めたものであり、単体の影響だけではないことである。これについては 以前のレポートで, 利回り曲線が、それ自体と失業率のサイクルに影響されていることを示した。利回り曲線の平坦化は、それに続く雇用市場の失速だけでなく、極端で継続的なクレジット・スプレッドの拡大を示唆するのである。結果として– 、雇用市場に二重の打撃をもたらす可能性がある。

原油価格

原油価格の変化は、単体で、将来の雇用拡大に対して7%の影響を与える。単体としての影響度がそれほど高くない原油価格を、どうして考慮しなければならいのか不思議に思うかもしれない。これに対する答えは、例えば2015年の際の様に、クレジット・スプレッドの拡大で示唆された失速が現実化しなかった場合がある。エネルギー関連に限定されたスプレッドの拡大は、経済全体に影響を及ぼすに至らなかったのである。経済全体としては、投入コストの低下による恩恵の部分が多かったことになる。さらに、エネルギー価格を考慮することで、2003年‐2007年の景気回復が、雇用拡大に関して非常に緩慢なものであったのに対して、これに続いた減速が、非常に加速的なものだったことが説明し易くなる。2003年から2007年に原油価格がバレル当たり35ドルから145ドルまで暴騰したことは、2001年の景気後退(リセッション)からの回復を阻害し、恐らく、2008年の金融危機を誘発する環境を形成したと考えられる。

我々の予測モデルは、2014年から2016年の間に発生した様な、70%にも及ぶ原油価格の下落は、NFPを15万/月ほど増加させるのに充分な条件であると示唆している。実際、クレジット・スプレッドの拡大によって同期間に予想された雇用拡大の失速分は、その半数が、原油価格の下落による拡大によって相殺されている。加えて、2013年と2014年に利回り曲線がスティープ化したことで、雇用件数の拡大スピード減速に対する緩衝余地が一段と拡大し、エネルギー・セクターの厳しい状況とは裏腹に、景気の拡大基調が維持されたことになる。

予測、そして利回り曲線とクレジット/雇用市場のサイクル

現在、3つの要素の中で最も重要な– クレジット・スプレッド -- は、雇用市場の継続的な拡大を示唆している。一方で、スプレッドにタイトさが維持されたとしても、原油価格が上昇し、利回り曲線が平坦化したとすれば、今後数年に渡って、雇用の拡大スピードは減速する可能性がある。

4月統計のNFPに関して、予測モデルは23万6000件の増加(標準偏差+8万8000件)を示唆していた。 ここで、 4月統計を脇に置いた上で、モデルの6月統計に関する f予測は 22万7000件の増加(標準偏差+8万9000件)を示している(図4)。この予測は、クレジット・スプレッド、原油市場の価格動向、そして、時差を考慮した4月末時点の利回り曲線の形状から導き出されたものである。予測としては、市場予想のコンセンサスに大方、近いものとなると考えられる。

図4:月時点の指標を使い、2018年5月統計における雇用件数の増加件数を示唆する予測モデル

Variable Coefficients Standard Error t Stat P-value Factor Value for June Labor Force Size in Thousands May Forecast Contribution Regression Statistics
Intercept 0.0028 0.000219 12.83 5.41E-30 1 148230 416 Multiple R 0.84552
Credit Spreads -0.0470 0.002753 -17.06 2.2E-45 3.33% 148230 -232 R Square 0.71490
Oil Prices -0.0011 0.000207 -5.21 3.72E-07 13.10% 148230 -21 Adjusted R Square 0.70886
Yield Curve 0.0205 0.004459 4.59 6.58E-06 2.24% 148230 68 Standard Error 0.00088
Residual 1 0.2471 0.058967 4.19 3.71E-05 -0.07% 148230 -27 Observations 290
Residual 2 0.2310 0.0596337 3.89 0.000124 0.08% 148230 27    
Residual 3 0.1396 0.059112 2.36 0.018865 -0.03% 148230 -5    
Source: Cme Economic Resarch Calulations My 2018 Forecast: 227 +/- 89 One Standard Deviation

Lより長期的には、失業率、クレジット・スプレッド、そして利回り曲線は相互に、深く関係していることを理解することが重要になる。利回り曲線は クレジット・スプレッド と、そして 失業率と、同様の関係性を持っているのである。 要は、利回り曲線が平坦化すれば、1年から2年先の将来において、クレジット・スプレッドを拡大させ、同様の時差で、失業率の上昇をもたらすのである。予想されている様なペースでFRBが政策金利の引き上げを続けるとすれば、2010年代末までに、利回り曲線は平坦化する。その意味では、2020年代初めに、クレジット・スプレッドが爆発的な拡大を見せ、これを背景に、雇用件数が大幅に減少する可能性がある。

雇用市場にとって、原油価格は二重のリスクとなるもしも、米国内の原油生産が拡大を続けることで、またはOPECの減産合意順守率が低下することで、原油価格が低下するとしたら、この事実は雇用の拡大を支援する要因となる。逆に、原油生産国が不安定化したり、中東での緊張が高まれば、原油価格は暴騰する可能性があり、これは雇用拡大の阻害要因となる。我々の予測モデルでは、原油価格が10%上昇する毎に、NFPは1万6000件/月の減少となることが示唆されている。減少幅としてはそれほどではないが、原油価格が2倍、3倍になるとしたら、雇用の拡大ペースは大きく減速することになる。

結論

  • 我々の予測モデルは、NFPの月次変化の70%を説明し、1ヶ月先の変化を予測する。
  • ここ数年、クレジット・スプレッドはタイトであり、利回り曲線はスティープな形状となっている。従って、米国経済は今後数カ月に渡って強健な雇用件数の拡大を続けると考えられる。
  • ただ、利回り曲線では平坦化が進むと考えられ、特に2020年と2021年に向けて、クレジット・スプレッドが大幅に拡大するリスクと同時に、雇用件数の拡大スピードが急減する可能性がある。

 

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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