原油:先物とオプションからトレンドを洞察

  • 27 May 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CMEグループ・シニアエコノミスト & エグゼクティブディレクター)

原油が2014年に1バレルあたり100ドルから今年これまでに同26ドルへと急落した後、原油先物カーブはほぼ完全に横ばいとなり、原油価格は見る限り1バレルあたり50ドルから離れていない。  

しかし、これは原油市場が伸び悩んでいるということを意味しているわけではない。先物カーブは、市場参加者が原油の長期均衡価格を50ドル近辺とみていることを示唆しているものの、オプション市場では、原油が実際にほとんど均衡水準で推移するとの見方はとられていないようだ。オプションのインプライドボラティリティは、2月に付けた高水準から低下しているが、5年平均を3分の1程度上回る水準となっている(図2)。

図 1:原油の市場価格は2020年まで1バレルあたり50ドルに近い水準にある

図2:2011年以来、90日物のWTI オプションのインプライドボラティリティは、平均30%であった。現在は、40%に達している

先物価格とオプション価格の組み合わせは、原油価格が、極めて幅広いチャネルでかなり長期的にレンジ取引となっている可能性を示唆している。WTI価格が1年間を通じて52ドル、インプライド・ボラティリティが40%として対数正規を仮定すると、これは今後1年間において、原油価格が1バレルあたり34~76ドルで推移する確率が68%、同23~116ドルで推移する確立が95%となる。これが取引レンジであれば、レンジとしては十分に幅広い。

原油市場では、幅広いレンジの先例は豊富に存在する。2014~2016年に原油価格は大幅下落したが、こうした急落は実際には初めてのことではない。1985年終盤から1986年初頭にかけて頂点に達した過去の原油価格の急落局面は、興味深い教訓を与えてくれる。1バレルあたり32ドルから12ドルにに急落した後、原油市場は、その後14年間にわたりレンジ取引に終始した(図3)。1986年1月から1999年12月まで原油価格は1バレルあたり平均19ドルであったが、レンジは1バレルあたり10~41ドルであった。1バレルあたり41ドルを付けたのは、サダム・フセインによる1990年夏のクウェート侵攻後であった。湾岸戦争を除くと、原油価格が1バレルあたり28ドルを超えたことは一度もなかった。

先物市場とオプション市場は、現時点で類似シナリオを織り込んでおり、取引レンジが上方にシフトしている。1980年代終盤から1990年代にかけての1バレルあたり平均19ドルではなく、原油価格は、現在から2024年までに1バレルあたり50ドルのすぐ上が平均となることを示唆している。 これが実現すれば、同様に幅広いレンジで推移するとの見方をとれるかもしれない。直近安値の1バレルあたり26ドルは、取引レンジの下限になる可能性があろう。そうなれば、レンジの上限は今後1バレルあたり80ドルをあっさり付けて、もしかしたら同100ドル超える可能性もあろう。

2) 鉱山の供給は、価格を左右する主な要因であり、価格は二次供給と消費を左右する。

図3:1985年の急落後、原油は1990年の湾岸戦争を背景とする急騰を除くと1999年までレンジ取引が続いた

図4:最近の急落は、1985年の急落と同様の度合いだった

どのような要因が、前述のような原油価格の幅広いレンジの変動を引き起こす可能性があるのか。第一に、原油の供給と需要はともに弾力性に欠けていることは周知であり、供給や需要の混乱がかなり小さくても、極めて大きな価格変動が引き起こされる可能性がある。原油価格には、上昇リスクも下落リスクも多数存在する。そのいくつかは以下の通りである。

下落リスク

  • 中国:コモディティ市場は最近、中国が懸念されたほど減速していないと活気づいているが、コルクを抜いてお祝いするのはまだ時期尚早の可能性がある。中国は、負債水準が極めて高い。公的債務に民間セクターの債務を加算すると、対GDP比で250%を超えており、中国は、債務を増やしながら過剰債務問題の解決を試みている。日本、米国、欧州の債務水準が同様に高水準に達したときは、金融危機、景気後退、成長減速が続いて発生した。さらに、政府の景気刺激策は、ごくわずかな効果しかもたらさなかった。中国の景気が減速すれば、原油を含めコモディティ相場はそれに伴い下落しかねない。
  • 新興市場の需要:ブラジルからロシアにいたる諸国は、景気後退に陥っている。さらに、多くの産油国は、国内の石油消費に対する補助金を含め、予算を削減している。これは、ナイジェリア、サウジアラビア、ベネズエラといった多様な国において、需要の伸びを阻害する要因になりかねない。
  • 貯蔵:石油の貯蔵量は増え続けて前年比約12%増に達しており、石油の貯蔵量は、依然として過去最高水準近辺で推移している。これが示唆することは、原油安の期間が長期化するなか、需要が供給ペースにいまだ追いついていないという点だ(図5)。

図5:原油在庫は前年比12%増、2014年比では38%増

  • 自動車の燃費効率向上:2016年に販売された自動車は、平均して2007年に販売された車両よりも距離単位当たりガソリン消費量が15~20%減少している。そのため、エネルギー価格の下落に反応して人々が走行距離を増やしたとしても、原油消費量は必ずしも、走行したマイル数やキロ数よりも速いペースで増えるということにはならない。
  • OPEC加盟国が協調するとは考えにくい:サウジアラビアとイランは、外交関係でさえも断絶しており、中東ではシリアからイエメンの範囲で多数の対立が生じている。サウジや湾岸協力会議のその友好国が世界の原油価格を支えるために減産する動機を見出せるとは思えない。減産に踏み切れば、イラン、(主としてイランの勢力圏内にいる)イラク、ロシア、ベネズエラ、米国の掘削会社のメリットになるだけである。

上昇リスク

  • 米国の生産量は減少基調をたどる:2008年の日量500万バレルから2014年まで同900万バレル超に増加した米国の生産量は、世界の原油価格の大幅下落に極めて重要な役割を果たした。同様のペースで生産量を増やした国は、他にはない。とはいえ、米国の生産量は現在、減少基調をたどっている。エネルギー情報管理局(EIA)のまとめたデータによると、5月20日終了週の米国の生産量は日量870万バレルと、ピーク期から9%減少した(図6)。

図6:価格安は影響をもたらしている:米国の原油生産者は減産している

  • 投資は落ち込んでいる:石油とガスの掘削リグ稼働数は、かなり急激に減少している(図7)。掘削リグ一基あたりの生産性の大きな伸びを考慮したとても、短期的に米国の生産減が続く可能性はかなり高いことがわかる。
  • 地政学リスク:アダム・フセインによる1990年夏のクウェート侵攻は、地政学リスクが原油市場にどう影響する可能性があるのかを示す典型的な例である。7年にわたるイラクとの消耗戦(1980~87年)の資金により巨額の債務を抱えたフセインは、1985~86年の原油急落を受けて資金をさらに引き締めて、得られる歳入の全てを必要とした。クウェートとの原油掘削の境界線を巡る争いで、フセインが満足のいくように解決できなかったとき、捨て身の賭けに出て、隣国への侵攻を決断した。こうした特殊な状況が繰り返されるとは考えいにくいものの、原油価格の急落により、アルジェリア、アンゴラ、ナイジェリア、ベネズエラなどの多様な原油輸出国では予算の逼迫に拍車がかかっている。サウジでさえも財政を緊縮している。これらの諸国のいずれかが不安定な状態に陥れば、原油価格は急騰する可能性がある。湾岸君主国は、さほど苦労もなく1バレルあたり50ドルで数年間は過ごせるほど、いまだ相当な資金力を有する。しかし、その他の国は、現金準備が不足し、大きな変動が生じればさらに脆弱になりかねない(図8)。

図7:石油の掘削リグ稼働数は70%以上減少

図8:原油安の経済的影響

結論

  • 1バレル50ドルでは、マーケットは、価格変動について、バランスは拮抗しているが上下両方に振れる余地が大きいリスクを見出している。
  • 原油価格が急伸すれば、おそらくすぐに米国からの供給が積み増しされかねない。
  • 実際のスウィングプロデューサー(需給の調整役)は米国であり、価格が下落すれば、米国の生産者は減産せざる負えなくなろう。価格が上昇すれば、すぐにリグを再稼働させて生産を増やし始める可能性がある。
  • サウジアラビアは、理論的にはスウィングプロデューサーになる余地はあるが、掘削技術の脅威により、イラクとの地域紛争により制約を受けており、実際はその力を価格の押し上げに行使しないだろう。そのため、おそらく短期・長期的に収入を最大化できるように原油を生産するだろう。
  • 原油価格が大きく振れる可能性を踏まえると、長期的な強気相場や弱気相場の期間のごとく、変動が激しくなりそうなレンジ取引の局面において、ヘッジは重要とみなせるだろう。  

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

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