在庫激増で、原油市場は次の暴落相場へ?

  • 4 Jun 2015
  • By Erik Norland

夏の需要期に生産が下振れするとすれば、原油相場の上昇と在庫縮小につながるかもしれない。原油市場における直近の暴落相場は、米国での劇的な生産拡大と市場シェアの確保を優先するOPECの政策スタンスがその背景となっている(図1)。一方で、先物市場が順鞘となっていることから、先々での売りを目的に市場参加者が低価格な原油を期近で買い込む動きを活発化させ、原油在庫の増加はこれを反映したものともなっている(図2)。さらに、原油と石油製品の価格差(クラック・スプレッド)拡大を背景として、夏の需要期を前に、業者サイドではガソリンなどの石油製品の精製を加速させる状況ともなった(図3)。こうしたことから、WTI原油の価格は現状、1月・3月の安値から30%ほどの反発を見せている。ただ、夏の需要期が過ぎれば、高水準に達している在庫を材料に、原油価格は再び暴落するのだろうか? これに対する答えは、米国の、その意味では世界の、自動車ドライバーが握っているのかもしれない。

図 1

図 2

在庫水準が非常に高いとしても、消費ニーズが反映されているのであれば問題にはならない。実際、ガソリンのクラック・スプレッドが拡大していることで、精製業者の原油ニーズは高い(図3では、バレル当たりのガソリンと原油のドル建て価格を比較している)。原油を買持ちにしている市場参加者は、この大きなスプレッドが維持され、先々において原油を精製業者に売り渡す段階で、適切な利益が得られるものと考えているのかもしれない。実際には、米国におけるこの夏のガソリン需要がどれくらいになるのかなどの要因が、このスプレッドに影響を与えることになる。

図3

これまでのところ、ガソリン価格の低下を背景に、米国内では、自動車の運転距離の長距離化が確認されている。連邦高速道路局(FHA)の統計によれば、総走行マイル数は、前年ベースでおよそ2.3%の増加となっている(図4)。ダイナミックさに欠ける数値かもしれないが、実際には2005年以来の高い増加率なのである。さらに、総走行距離は2007年から2011年まで減少した後、それ以前の高水準を直近で取り戻す状況ともなっている(図5)。

図 4

図 5

もちろん、総走行距離はガソリン需要の一部でしかない。さらに、自動車の燃費改善も考慮する必要がある。実際の需要は、総走行距離にマイル当たりに要したガソリンの量を乗じることで求められる。環境保護局の統計は、都市部と高速道路の走行を総合した自動車の燃費について、2014年モデルの自動車やトラックは、同様の2007年モデルに対して、17%の燃費改善が成されているとしている(図6)。この燃費改善スピードが続くと仮定し、加えて、ガソリン需要を安定的に推移させるとすれば、総走行距離は毎年、2.5%ほどの長距離化を必要とする計算になる。

図6

過去の例では、1985年から翌年に暴落した原油価格を受けて、1970年代末/1980年代初めまでに達成された燃費改善傾向が終焉を迎えている。1980年台、そして1990年台には、米国の消費者は高燃費車(ガズラー)への乗り換えを進めていったのである。同様のことは、ガソリン価格の安価な状態が長期化することで、これから再び起こるかもしれない。ただ、自動車の乗り換えが進展するには時間を要することから、短期的な影響に関しては軽微であると見られる。一方で、燃費の改善スピードは既に2013年と2014年、明確な減速を見せているのも事実となっている。

こうした背景から、高水準の在庫を背景とした上で原油価格を維持するには、総走行距離の長距離化について、年間で4%から5%のペースを維持する必要が生じてくる可能性もある。そして、こうした継続的な長距離化の実現を期待させる材料として、自動車販売が高水準を続けていることがある。足元の販売台数は、1999年から2007年に一般的だった水準を取り戻していのである(図7)。過去12か月における米国内の新車販売台数は、1600万台に上っている。今年の夏は、安価なガソリンを背景に、こうした新車が米国内を長距離走行するのかもしれない。安価なガソリンは、新車にとっても、中古車にとっても、福音となっている。

図7

原油価格については、年末までにどんな展開になるかを予想するのは難しい。ただ、この相場展開では、原油の在庫水準と総走行距離の推移が主要な材料となるのは明白である。エネルギー市場では現在、EIA(エネルギー省情報局)が発表する週間の石油在庫や生産統計に熱い視線が送られる一方で、連邦高速道路局のデータに対する注目度は低いように見える。将来的には、こちらについても、軽視できない材料となって来るだろう。

生産量も、原油市場には重要な材料である。これまで、価格下落と生産施設の縮小が背景となる一方で、米国内の原油生産量は拡大を続けている(図8)。実際、前年比での拡大ベースは若干の減速を示しているに過ぎない(図9、10)。夏の需要期に生産が下振れするとすれば、原油相場の上昇と在庫縮小につながるかもしれない。一方で、生産増が続いた場合、総走行距離がこれまで以上のペースで長距離化しない限り、原油市場が現状価格を維持するのは厳しいだろう。いずれにしろ、ここからの原油市場の動きに備えて、シートベルトは予め絞めておきたい。

図8

図 9

図 10

 

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