原油安が世界の政治経済に及ぼす影響

  • 15 Mar 2015
  • By Erik Norland

2014年6月30日以降、原油価格は半値近くにまで崩落した(図1)。しかし、価格の方向性はいまだ不透明だ。数年にわたる底練りが現実味を帯びてきた。代替燃料と省エネ技術の開発が進んでいるとはいえ、原油は依然として世界経済の血液である。輸送用燃料として唯一無二の存在だ。原油安は、世界各国の政治経済に、いろいろな形で大きな影響を及ぼしていくであろう。

図1

緩やかな伸びと激しい痛み

消費者にとって原油安は、減税に匹敵するといえる。貯蓄を増やし、債務を返済し、消費を増やす効果が見込めるからだ。大半の国で購買力は増すであろう。特に大きな恩恵をこうむるのが、自国に石油資源を持たない国だ。東欧諸国、そして日本・韓国・インドを含むアジアのいくつかの国などである。ただし、ほとんどの国で、原油安による経済の伸びは、かなり緩やかになるといえる。GDP(国内総生産)の0~2%増に収まり、3%近辺を超えることはないだろう(図2)。

図2

一方、産油国をみると、その大半には生産にほぼ相応した国内需要がある。例えば、アルゼンチン、ブラジル、デンマーク、エジプト、ペルーなどだ。こうした国には、全体的にみて、たいした影響がないだろう。また、カナダやメキシコのGDPに及ぼす「一次的」影響は、それぞれ1.0%と1.5%程度にすぎないとみられる。通貨安によって実質的な影響は緩和されるからだ。

世界の原油生産で大部分を占めるのは、たった二十数カ国にすぎない。原油安による一次的影響でGDPが10~25%引き下げられ、激しい痛みを感じるのは、その中の一部である(図2参照。なお、この図を見るときは、原油安による一次的影響でGDPが減少してしまう国は世界GDPの14%を占めるにすぎず、残り86%の生産を担う国にとっては原油安が恩恵となっている点に留意してほしい)。産油国でも国によって原油安による打撃の大きさは、非常に異なるのだ。その理由として次の3つが挙げられる。

1)   その国で生産した原油の輸出向けと国内消費向けの割合
2)   その国の経済の規模と多様性
3)   外貨準備などの資産規模がその国の必要に見合うか

主要産油国のうち米国・英国・中国は、実際のところ、差し引きすれば原油安の恩恵を受けている。原油の消費がその生産を上回っているからだ。それ以外の国のGDPには深刻な打撃があるだろう。しかし、実際の影響は巨額の外貨準備高とSWF(政府系ファンド)で緩和できる。これに当てはまるのが、サウジアラビア、クウェート、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)といった湾岸諸国の大半、そしてアルジェリアやノルウェーだ(図3)。

それとは対照的に、原油価格の長期低迷による逆風をもろに受ける石油純輸出国が、アンゴラ、アゼルバイジャン、コロンビア、イラン、イラク、カザフスタン、リビア、ナイジェリア、オマーン、ロシア、ベネズエラ、イエメンである。これらの国の外貨準備とSWF資産の規模はGDPの50%未満であり、各々の経済規模や原油安によるマイナス効果と比べると、非常に小さい(図3)。不安定化するおそれが最も高いのは、こうした国だ。場合によっては、不安定化が原油の減産を招く可能性がある(図4)。すると、それが原油価格の押し上げ要因となり得るし、ブレント原油とWTI原油のスプレッドを広げる原因となり得る。2011年にリビアでカダフィ体制が崩壊し、国内情勢が混迷を極めたときが、まさにそうだった。

経済的打撃の大きさは、コロンビアやロシアのように変動相場制をとっている国と、柔軟性に欠けた為替相場制度を敷いている国で、かなり異なる。変動相場制の国には、自国通貨の安定を保つため金利を非常に高く吊り上げるか、あるいは経済にそのまま大打撃を与えるよりもインフレの上昇に耐え忍ぶことを甘んじて受け入れ、選択自国通貨をそのまま下落させる2つの方策がある。

図3

図4

まずは原油安によって大きな恩恵を享受する地域・国について、それぞれどのような効果がみられるかまとめる。

1)   中欧:ルーマニアを除く中欧諸国は、自前で原油をほとんど生産できない。しかもこれらの国は、欧州の所得階層では下のほうに位置するため、石油輸入額の対GDP比が西欧諸国よりも高い。最大の恩恵をこうむるのがブルガリアだ。GDPに3%ほどの伸びをもたらすだろう。しかし、チェコ、ハンガリー、ポーランド、ルーマニアは1.0~1.5%の伸びにとどまりそうだ。

2)   ユーロ圏:共通通貨に参加している国は、自前で生産できる原油が微小である。したがって、原油安に微笑を浮かべることになりそうだ。GDPへの一次的影響は、イタリアが0.9%増、フランスとドイツが約1.0%増、スペインがほぼ1.5%増となる。最大の享受国はギリシャだ(ユーロにとどまるにせよ、ユーロから離脱するにせよ)。GDPが2.2%増える。ただし、実際のGDPへの影響は、はるかに小さなものとなるだろう。ユーロ圏の人々がデフレを予測するようになれば、実際のところ他のモノよりもむしろ自動車燃料に費やす必要のなくなったお金を節約する道を選ぶかもしれないからだ。しかも大半の西欧諸国で、自動車燃料には高い税金が課せられている。したがって、消費への影響は比較的穏やかであろう。高い税金が自動車燃料の消費に影響しているのは、個人当たりの消費水準が米国の約半分と低いことからも明らかだ。

3)   日本・韓国:ユーロ圏諸国と同様、日本と韓国には自前で生産できる石油が実質的にない。日本は原油安でGDPの1.5%増にも及ぶ恩恵を得られるだろう。一方、韓国は2.8%の増加が見込まれる。日本についての注意点のひとつとして、日本銀行の量的緩和政策がインフレ期待の上昇に結びつかなければ、原油安が消費の増加よりもむしろ貯蓄率の上昇につながりやすいことが挙げられる。もうひとつは、福島の事故を受けて日本では大半の原発が稼働を止めているが、原油安でエネルギーを安く輸入できることによって同国の貿易赤字が減ることだ。

4)   インド:原油安でGDPは約2.2%増となる。しかし、消費者への恩恵は、ほとんどないといっていいだろう。単に政府の燃料補助金が削減しやすくなるだけだ。したがって、原油安による大きな恩恵は財政赤字の減少といえる。これによってナレンドラ・モディ政権は、昨年春に就任してからの懸案であった岩盤規制の改革実現に向けて、ある程度自由が利くはずだ。すでに中央政府は、提唱する改革を受け入れてもらう下地作りのため、地方政府への大幅な権限移譲を進めている。

5)   米国・英国・中国:これらの国は、原油需要のいくらかを国内産で賄っている。恩恵が最も小さいのは英国だ。GDPへの一次的影響は0.3%増にとどまるだろう。次いで米国が0.7%増で、中国が1.1%増となる。英国では、消費の伸びが鈍いだろう。燃料税が非常に高く、また北海油田での投資と生産維持が減退するおそれがあるからだ。一方、米国では、消費者が原油安の恩恵を受けるのに対し、石油生産者はすでに採掘と投資をかなり控えている。原油安は、アラスカ州・ノースダコタ州・オクラホマ州・テキサス州にとっては逆風となるが、それ以外のほとんどの州にとっては順風となる。

6)   その他に恩恵を受ける国:ほとんどの国が非産油国である。豪州、チリ、イスラエル、ニュージーランド、トルコ、そしてアジア・アフリカの大半の新興国など、さまざまな国が原油安の恩恵を総じて受けることになりそうだ。0.5~3.0%の範囲でGDPにプラス効果があり、後発国ほどその恩恵を享受するだろう。

次に、どの国が原油安で傷つき、どれだけひどい状況に陥りそうかまとめる。

アルジェリア:このまま原油安が続けば、アルジェリアはGDPの8分の1近く(計算では12.2%)が削られることになる。同国では1991~2002年の内戦で6万を超える人命が奪われたが、近年は非常に安定している。近隣のリビアやチュニジアで政権が転覆した「アラブの春」には巻き込まれずに済んだ。好材料は石油業界が好調だったときに、同国が1920億ドルにも及ぶ外貨準備を蓄えたうえに、歳入調整基金と呼ばれるSWFに770億ドルを積み立てたことだ。こうしたファンドの合計額は、年間GDPのほぼ130%に当たり、原油安によるアルジェリア経済と政府への打撃をいくらか和らげてくれるはずだ。ただし、東側国境はリビアと隣接しており、その不安定化で治安が悪化する可能性を無視できない。

アンゴラ:石油ブームで、首都ルアンダは瞬く間に世界で最も物価の高い都市となった。しかしそれはまた、独立後ずっと内戦と貧困の泥沼にはまってばかりだった同国の少なくとも一部の地域に、経済成長と繁栄をもたらしたのも事実である。したがって、原油安でGDPのおよそ23%が失われるという知らせに喜ぶはずがない(世界で2番目に激しい打撃だ)。しかも湾岸諸国に比べて、アンゴラは外貨準備もSWFも構築できておらず、石油収入の減少に対して比較的弱い立場に置かれている。そのため政府や国と関係の深い石油会社のソナンゴルが、インフラの整備や沿岸部油田の開発に資金を投じ、また反体制派の住民を掌握していくだけの力を失うおそれがある。

アゼルバイジャン:旧ソビエト連邦構成共和国で原油安に苦しんでいるのは、ロシアだけではない。アゼルバイジャンはその北の隣国よりも大きな打撃を受けそうだ。GDPの18%近くが失われる可能性がある。残念なことに、その18%を穴埋めできるだけの外貨準備もSWFも同国にはない。そうした緩衝材はごくわずかだ。今のところ、原油急落が同国にどれだけの打撃をもたらすかは不透明である。90年代前半にナゴルノ・カラバフ地区の帰属をめぐり同国と争ったアルメニアとの関係、ひいてはアルメニアの友好国であるロシアとの関係があるからだ。この地域でロシアの存在感が失われてきている。2014年にウクライナ政府への影響力をロシアが失ったこと、そして原油価格が急落したためだ。原油安はまたロシアの地政学的問題からアゼルバイジャンが得ていた利益にも水を差している。アゼルバイジャンだけでなく、同国を含めた地域一帯で、不安定化のリスクが高まってきた。

コロンビア:中南米の産油国といえば、ベネズエラを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、隣国のコロンビアも石油に依存している(ただし、その度合いはかなり低い)。原油安の一次的影響で2015年はGDPの3~4%が失われそうだ。だが、好材料がある。大半の産油国と異なり、同国が変動相場制を採用している点だ。すでにコロンビアペソは対ドルで2014年7月に付けた天井から約25%下げた。この下落が原油安の打撃から同国のかなり多様化した経済を守るのに役立っているのだ(詳細はレポート『中南米の成長を妨げる3つの要因』を参照のこと)。

イラン:欧米からは疑いの目で見られ、貿易相手となりそうな国の大半からは制裁を受けている。それにも関わらず、イランは多くの人が考えている以上に多様化した脱石油依存型の経済を作り上げてきた。原油安の一次的影響で削られる同国の2015年GDPは6%ぐらいだろう。同国の景気低迷は、1979年の革命に始まり、イラクとの戦争(1980~88年)で悪化しており、かなりの長期にわたる。そう考えると、さらなる経済的打撃は弱り目に祟り目とはいえ、この国の耐性は極めて高いといえる。GDPへの打撃が約6%というのは、かなり小さい。しかし、イランには弱点がある。外貨準備高が極めて低い水準にあることだ。GDPのわずか26%にすぎない。国際社会から経済制裁を受けている状況では、活用は難しい。サウジアラビアが原油安を受け入れている理由のひとつとして、核開発をめぐる欧米との協議にイランがより真剣になるよう促す意図があるのかもしれない。原油安で同国が不安定化するとは考えにくいとはいえ、テヘランの目をこの地域の安定化、ひいてはサウジをはじめとする同盟国の望む方へと向けさせることにはなりそうだ。

イラク:原油安による不安定化の脅威がイラクほど明白な国はない。政府予算の95%を石油による収入に頼っており、政府の統治が及ぶのは、せいぜい首都バクダッドと南部の地域ぐらいだ。しかも同国には、逆風への備えとなる巨額の外貨準備高やSWFを構築するだけの時間がなかった。ハイダル・アバディ政権の課題のひとつは、同国北西部での統治の妨げとなっているISIS(ISIL)など過激派武装組織の制圧である。しかし、原油急落でその遂行が非常に難しくなっている。唯一明るい兆しといえば、原油下落はISISの資金源をも奪っている点だ。イラクの不安定化は、全体的には石油価格上昇の、具体的にはブレント―WTIスプレッド拡大のかなり大きなリスクとなるかもしれない。

カザフスタン:原油価格の急落による一次的影響で2015年のGDPは約10%が削られることになる。しかし、実際の影響は、さらに大きいかもしれない。ロシアに移住する多くのカザフ人が母国に送金をしているからだ。原油下落とそれに伴うロシアルーブル崩落は、この収入源が細くなることも意味する。アルマトイとモスクワとの間に緊張が生まれるかもしれない。好材料は、カザフスタンが2本のSWFを立ち上げ、合わせて約1550億ドルの資産を維持しているうえに、290億ドルの外貨準備を保有していることだ。これは巨大な緩衝材とはいえないものの、少なくとも数年間は、原油安の打撃が完全に表に出ずに安定を維持するには十分である。不確定要素のひとつとして、ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領が大統領選を前倒しで4月26日に実施すると発表したことが挙げられる。ナザルバエフ氏の立候補が広く予想されているものの、本人からの出馬表明はまだない。

クウェート:原油安の一次的影響でクウェートのGDPは22.5%ほどが失われることになる。しかし、好材料は対GDP比で世界最大となる外貨準備とSWF資産を蓄えていることだ。必要とあれば、かなり長期にわたり(おそらく10年の間は)原油安による逆風を乗り切るだけの安定感がある。もっとも、まったく危機が感じられないわけではない。目先、国内に不安定要素が見当たらないだけだ。

リビア:原油安でリビアのGDPは25%を超えるマイナスとなる。したがって、原油崩落はリビアの不安定化を助長するといいたいところだ。しかし、問題がある。それはこの国がすでにかなり不安定であり、これ以上は状況が著しく悪化すると考えにくいことだ。それどころか、原油安で石油利権をめぐる争いが収束すれば、逆説的に安定化がもたらされることもあり得る。それでも、リビアの原油生産は減少するかもしれない。もしそうなれば、ブレント―WTIスプレッドが再拡大するリスクとなる。

ナイジェリア:アフリカ最大の人口を擁するこの国は、原油下落による一次的影響でGDPの約7%を失うことになる。その打撃のいくらかは、通貨安と高インフレに吸収されるだろう。ただし、このGDPへの打撃は、最悪のタイミングで起きている。グッドラック・ジョナサン大統領は、武装組織ボコハラムに関連した安全上の理由から、接戦となっている大統領選を3月末に延期した。しかも、産油地帯であるニジェールデルタで、不安定な状況が長く続いている。原油安は、同国の貧弱な外貨準備とあいまって、不安定化リスクを増大させ、原油減産という結果をもたらすかもしれない。それは世界の原油価格、そしてブレント―WTIスプレッドを押し上げる要因となる可能性がある。

ノルウェー:国民一人当たりの所得が世界一であるこの国は、原油安による一次的影響でGDPの約5%が失われるとしても、びくともしないだろう。大部分は財政黒字の縮小に置き換わるだけだからだ。同国には公的債務がほとんどない。そしてGDPを1年以上にわたって完全に賄えるだけの巨額の外貨準備とSWFを保有している。トリプルAに相当する国があるとすれば、原油価格が下がろうが下がるまいが、それはノルウェーだ。しかもノルウェークローネは、対ユーロでいくらか下げており、対米ドルでは明らかに安い。それが原油安の猛威からさらに遠ざかる結果となっている。

オマーン:この静かなサウジアラビア・UAE・イエメンの隣人が注目されることは、ほとんどない。だが、原油安はオマーンのGDPに大きな一撃(一次的影響で16%減)を与えるだろう。しかも、湾岸の隣国とは異なり、同国は特に大規模な外貨準備を積み立てているわけでもなければ、それを補う巨大なSWFを保有しているわけでもない。オマーンの国内情勢は、隣国のイエメンに比べて素晴らしく安定している。とはいえ、イエメンの問題が国境を越えて広がるリスクがある。これから数年の間に何かしら問題の兆候がないか、常に監視しておくことをおすすめする。

カタール:原油安による一次的影響で、カタールの2015年GDPは約15%削減されることになる。しかし、実際の影響は、はるかに小さいだろう。他の湾岸諸国と同様、巨額の外貨準備とSWFを蓄えているからだ。合計でGDPの約150%に匹敵する。原油安がかなりの長期戦になっても耐えられるはずだ。ただし、経済規模で比べると、カタールの準備額はUAE・クウェート・サウジアラビアのそれよりも小さい点に注意しておきたい。原油安の衝撃を鈍らせるため、しばらくの間、赤字財政をとるかもしれない。その間、石油関連の投資が鈍化し、景気後退のリスクを伴いながら経済成長率が減速する可能性はある。

ロシア:2014年後半に原油価格の下落が本格化し始めたときから、欧米のメディアは、その下落がロシアに与える衝撃について、特に大きく取り上げてきた。しかし、GDPへの打撃は約6%と、かなり緩いだろう。これはロシアの中央銀行と政府による予測とかなり一致する。しかもそのいくらかは、ルーブル安で相殺されそうだ(図5)。ルーブル安でロシアの国内産業は海外の競合相手から守られ、ロシアの輸出競争力は増していく。もちろん、それはまたロシアのインフレ率を上昇させるという好ましくない結果をもたらすことにもなる(図6)。 

図5

図6

とはいえ、ロシアには90年代の長きにわたる危機を経て、かなりの耐性が備わっている。そして今のところ、原油安でプーチン大統領がウクライナのロシア語母語住民への支援を撤回せざるを得なくなるだろうという期待は、裏切られている状況だ。

伝えられるところによると、プーチン氏は側近の数を減らして、ロシアの超富裕層から聞こえる欧米寄りの意見を排除し、安全保障に強硬な意見を持つタカ派に絞ったという。だが、原油安とルーブル崩落がロシア社会に衝撃をもたらさなかったことはない。ベラルーシやカザフスタンといった、かつての忠実な同盟国が、モスクワと距離を置き始めた。プーチン氏はさらに孤立してしまっている。それどころか、原油下落が原因でプーチンとその取り巻き連中がウクライナの親ロシア派住民への支援を倍増し、その地域での衝突が激化するかもしれない。

ロシアの外貨準備とその他のファンドは、対GDP比で小さめといえる。しかも外貨保有高がかなり急激に減少してきた(図7)。さらに、ドル・ユーロ建ての債務を負う一部民間企業の返済コストが、原油安とルーブル崩落で急増している。ただし、ロシア情勢がすべて否定的というわけではない。公的部門の債務は非常に少なく(GDPの9%)、民間部門の債務もまあまあの低水準だ。もっとも、短期金利が15%なので、いかなる債務も、返済や借り換えにコストがかかることになる。

図7

サウジアラビア:1986年にサウジアラビアと米国は、イランとソ連を叩くため、密に連携して原油価格を下げたことがある。再度、サウジは一石でたくさんの鳥を落とそうとしているかのようだ。少なくとも4羽は狙っている。ISIS(石油の密売で収入のいくらかを稼いでいる)、イラン(核開発問題など地政学的リスクがある)、ロシア(アサドなど汎アラブ主義者を長く支持している)、そして米国のフラッカーズ(シェール開発業者)である。実際のところ、米国のフラッカーズよりもさらに厄介なのが、世界中にフラッカーズの現れる可能性だ。サウジには減産して価格を押し上げようというOPEC(石油輸出国機構)諸国からの要請を拒否できるだけの余裕がある。我慢比べに持ち込もうとしているかのようだ。同国の外貨準備とSWF資産を合わせるとGDPのおよそ200%にのぼる。GDPへの一次的影響は19.5%のマイナスとなるものの、これから何年も楽にしのぐことができる。しかも王国に負債はほとんどない。王位継承を慎重に進めながら、原油価格が5年以上低迷したままであったとしても、安定を維持できるだけの資源を手にしているようにみえる。もっとも、原油価格がいつまでも底練りを続ければ、王国の安定を脅かすリスクは増大するだろう。こうしたリスクには、湾岸のシーア派だけでなく、スンニ派過激組織との問題、そして巨大化し複雑化する王家内の亀裂が含まれている。また、サウジの石油会社であるアラムコが、すでに探査費の25%カットを含む経費削減に取り組んでおり、供給を絞ってきている。そのためサウジ経済の成長率が鈍化し、目先の景気が落ち込むリスクを招くおそれがある。

UAE:クウェートやサウジアラビア同様、UAEもまた原油安の猛威からうまく逃れている。アブダビとドバイは湾岸地域の金融・娯楽・交通の中心地となっており、経済は大半の近隣諸国よりも多様化し、石油に依存していない(少なくとも表向きは)。原油安によるGDPへの一次的影響は約11%のマイナスとなる。同国の外貨準備とSWF資産の合計額がGDPの233%にもなることを考えれば、かなり小さい。たとえ原油価格の低迷が続いても、何年にもわたり安定を維持できるはずだ。とはいえ、地域内の消費が原油安で鈍化すれば、アブダビとドバイの輝きに曇りが生じるかもしれない。慣れ親しんだペースよりもかなり遅い成長、場合によっては、景気後退を経験するおそれがある。

ベネズエラ:この国にとって原油急落は最大の悪夢だ。輸出収入の96%を石油に依存しており、対GDP比でほぼ20%にも及ぶ巨額の財政赤字を抱え、外貨準備の大半が吹き飛ばされてしまった。ほとんどの生活必需品が不足しており、今では店に並ぶ長蛇の列を写真に撮ることさえ違法だ。ニコラス・マドゥロ大統領の支持率は20%台であり、マドゥロ氏の支持政党は10月の議会選挙に直面している。逆説的だが、原油下落が原因で、ベネズエラ政府が補助金を減らさざるを得なくなれば、消費者のガソリンへの出費は増えるだろう。2015年は非常に難しい年となりそうだ。ハイパーインフレと政情不安となる可能性が高く、国営石油会社PdVSA(ペトロレオス)で生産悪化のおそれがある。不安定化を防ごうと、政府は首都カラカス市長のアントニオ・ レデスマ氏など反体制派を逮捕するといった強硬手段をとっている。

ベネズエラの苦境で、中南米の政治家の目はワシントンを向かざるを得なくなった。すでにベネズエラから大きな恩恵を受けていたボリビアとキューバが、この先カラカスから大きな支援は得られないとみて、米国との関係改善に熱心だ。中南米での影響力を広げようとベネズエラが熱心に応援していたアルゼンチンやエクアドルといった国も、将来を見越して米国への依存度を高めることになるだろう。

イエメン:GDPへの影響はかなり小さい(1.4%減)。また、これからこの国が混乱状態に陥っていくリスクはほとんどない。リビア同様、すでにそうなっているからだ。本当のリスクは、イエメンの問題が隣国のオマーンとサウジアラビアに広がることだ。

世界の資産市場への影響

原油価格が崩落したからといって、オイルマネーの流れが完全に止まることはないだろう。ただし、産油国から消費国への流れは、かなり緩やかになりそうだ。また、わずかながら逆流する場合もあるだろう。特に湾岸諸国からのマネーは、債券から株式、不動産(特にロンドンとパリ)に至るまで、ありとあらゆる資産クラスに流れている。この流れがかなり緩やかになるリスクは、高級不動産市場で下押し圧力となる可能性があるだけでなく、欧米の株式・債券市場で下値を支持する勢力が(かなり小さいながら)削がれるおそれがある。もっとも、その他の国にとっては原油安が恩恵であると考えると、依然として株式市場では、買いがかなり優勢となりそうだ(もちろん石油業以外で)。一方、原油安が先進国にとって経済成長の追い風であるかぎり、債券利回りがすでにかなり低く、原油安によるインフレへの下押し圧力は長続きしないと分かるまで、債券市場では我慢の展開が続きそうである。

通貨市場は、すでに原油安の影響を受けている。カナダドル、ブラジルレアル、コロンビアペソ、メキシコペソ、ノルウェークローネ、ロシアルーブルが売りさばかれる要因となった。産油国に不安定化がみられれば、原油価格の押し上げ要因となり、こうした通貨が高くなる可能性はある。一方、原油価格が安値にとどまる、あるいはさらに一段安となれば、こうした通貨は非産油国の通貨を下回り続けるだろう。

おそらく原油安が金融市場に及ぼした影響としてより重要なのは、ボラティリティの増加だ。原油安によってカギとなる産油国(特にアンゴラ、イラク、リビア、ナイジェリア、ベネズエラ)の安定が損なわれるような状況になれば、潜在的な地政学的リスクが突如として注目されるおそれがある。石油供給の混乱が結果的に石油価格の急騰を生み、それはまた世界の株式・債券・通貨市場に強烈な反動を生むかもしれない。

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