エルニーニョ収束で天然ガス市場は上昇する?

  • 19 Apr 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CME Groupシニアエコノミスト兼エグゼクティブディレクター)

2015-16年のエルニーニョはその強度と言う点で、 1997-98年のものと並び、過去最高水準を記録した。いずれの場合も、赤道付近の太平洋では、その中央と東中央の海水の表面温度が、通常温度から最大で摂氏2.3度上昇し、米国北部やカナダに暖冬をもたらした。そして、電力や暖房需要が後退し、天然ガス市場が下値圧力を受ける冬になったことも、両者に共通している(図1)。

天然ガス市場にとっては、ここからの相場展開が喫緊の問題となる。実際には、1997-98年の相場展開を観察することで、2015-16年のエルニーニョ収束後の相場で市場が直面する可能性のある課題に関して、いくつかの示唆を得ることが出来る。

1997-98年のエルニーニョは1997年11月、12月にピークを打った。一方で、天然ガス市場は、1998年を通じて下押し圧力の強い相場となった。実際には、1997-98年のエルニーニョが1998年末にラニーニャに移行しても、相場は直ぐには上昇に転じなかったのである。この背景は単純に、「在庫水準」が高かったから、とも言える。1997-98年のエルニーニョ期を通じて天然ガスの在庫は積み上げられ、前年比で5000億立方フィート増に達する場面も見られた(図2)。そして、過剰在庫が解消され、相場が実際に上昇を始めるには、1999年、2000年を待たなければならなかった(図3)。

2015-16年のエルニーニョでも、天然ガスの在庫水準は突出していて、2016年3月までに1兆立方フィート増(図2)、前年比68%増まで積み上げられている。天然ガス市場が強気・上昇相場に転換するには、この過剰在庫が軽減される必要がある。実際、在庫水準が軽減されれば、相場上昇の可能性は充分にある。特に、同様に強度でしつこいラニーニャが発生した過去の場合((1972-73年, 1982-83年、1997-98年)を見ると、前述の相場シナリオの可能性が高いのが分かる。

図 1:  エルニーニョを背景とした市場の下値圧力  1997-98年と 2015-16(現在まで)

図 2:  天候は在庫に影響し、在庫は相場動向に影響する

図3:  1998-2001年の長期ラニーニャの下でのHenry Hub天然ガス現物先物

例えば、ラニーニャが長期化した場合、天然ガス市場の上昇は大幅なものになる。1998-2001年のラニーニャを背景に、天然ガス市場は10米ドル/MMBtu近くまで、1997-98 年のエルニーニョを背景とした安値から500%の水準まで、上昇している。もちろん、そこに至る段階では、大幅な在庫調整を要したのも事実である。

注意するべき要点

エルニーニョの収束を背景とした天然ガス市場の推移を見ていく上では、気候に関する材料、そしてそれ以外にも、注視するべき要点がいくつかある。

気象学上の観点からは、エルニーニョの収束スピードがラニーニャの発生を示唆する、「デルタ」と呼ばれる観察ポイントがある。1998 年にピークを付けたエルニーニョ(図4)から1999-2001年のラニーニャが当初の低温記録を記録する1999年12月まで(2000年、2001年には、この記録が更新されている)海水の表面温度は劇的な変化を遂げることになった(図5)。2015-16年のエルニーニョについても、同様の状況が発生している様に見えるが、今回については現在、つい数か月前にピークを打ったばかりというタイミングでもある(図6、7)。

図 4: 1998年1月3日, エルニーニョのピーク

図5: 1999年12月18日、ラニーニャのピーク

図 6: 2015年12月 エルニーニョのピーク真近

図 7: エルニーニョの急速な収束、この収束スピードはラニーニャ発生の示唆となる

気象関連の材料に加えて、それ以外の材料にも注視が必要となる。

  • 生産: 米国内の天然ガスの生産量は、数年来の大幅な拡大期を終え、ここ9ヶ月、前年比で同量のペースに落ち込んでいる。
  • 投資:  原油と天然ガスの生産施設はいずれも、その掘削リグの稼働数を大きく減少させている。これからの数年、新規に稼働する生産施設の数は限定的と予想される。
  • 輸出: シェニエール・エネジー社(Cheniere Energy)の メキシコ湾に面したサビン・パス(Sabine Pass)からは既に、米国産LNG(液化天然ガス)の輸出が始まっている。その他の積出港でも、整備が進められている。
  • 需要:  米国エネルギー省は、大規模な設備稼働を背景に、主要発電燃料として今年、天然ガス需要が石炭のそれを上回ると予想している(天然ガスを燃料とした発電設備は今後、さらに多くが稼働予定となっている)。
  • 代替エネルギー:  発電能力では、代替エネルギーでも格段の拡大が予想されている。ただ、これについては、2つの要因を覚えておく必要がある。1つは、発電能力と発電量は、必ずしも一致しないと言うことである。ソーラーパネルや風力発電装置は、太陽光が遮られていたり、風が吹いていなければ、意味を成さない。平均すると、天然ガスによる発電量がその発電能力にほぼ一致するのに対して、代替エネルギーでは4分の1程度となっている。2つ目には、ソーラーや風力分野の投資が、税制面の優遇策に大きく依存していることである。こうした優遇策の今後はワシントンでの政治劇の結果であり、先々が見通し難い。また、発電分野における天然ガスの主な競争相手は石炭だが、こちらは決定的な斜陽傾向に陥っている。

天然ガスへの需要を低減させる可能性があることから代替エネルギーを例外とすれば、全体として、こうした天候以外の材料は、先々における天然ガス市場の上昇を示唆している。生産や投資が低迷するなか、天然ガスへの需要が高まれば、1999-2000年にあった様な大幅上昇も予想できる。一方で、将来的に輸出が拡大する可能性は、最低でも、天然ガス市場の底値を引き上げる要因となる。こうなると、ラニーニャによって例年よりも寒い冬がもたらされ、電気や暖房需要が高まったとしても、それは相場上昇の追加的な要因に過ぎないのかもしれない。ただ、強気相場が本格的なスタートを切る前に、在庫は現在の(季節調整済みで)記録的な水準から、大幅に軽減される必要がある。市場参加者としてはその間、天然ガス市場に影響を与えるこうした伝統的ファンダメンタルズに加えて、アメリカ海洋大気庁(NOAA)のWebサイトhttp://www.noaa.gov/ で、海面温度のチェックを怠らない様にしたい。その他の材料に劣らず、このサイトのデータは、天然ガス市場の中期的な動向を左右する重要な要素なのである。

本資料に掲載の情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。本資料に記載されて いる見解は、筆者個人のものです。必ずしも CME グループならびにその関連機関の見解ではありません。本資料およびその情報を投資助言も しくは実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

免責事項

先物取引やスワップ取引は、あらゆる投資家に適しているわけではありません。損失のリスクがあります。先物やスワップはレバレッジ投資であり、取引に求められる資金は総代金のごく一部にすぎません。そのため、先物やスワップの建玉に差し入れた当初証拠金を超える損失を被る可能性があります。したがって、生活に支障をきたすことのない、損失を許容できる資金で運用すべきです。また、一度の取引に全額を投じるようなことは避けてください。すべての取引が利益になるとは期待できません。

本資料に掲載された情報およびすべての資料を、金融商品の売買を提案・勧誘するためのもの、金融に関する助言をするためのもの、取引プラットフォームを構築するためのもの、預託を容易に受けるためのもの、またはあらゆる裁判管轄であらゆる種類の金融商品・金融サービスを提供するためのものと受け取らないようにしてください。本資料に掲載されている情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。掲載された情報は、特定個人の目的、資産状況または要求を考慮したものではありません。本資料に従って行動する、またはそれに全幅の信頼を置く前に、専門家の適切な助言を受けるようにしてください。

本資料に掲載された情報は「当時」のものです。明示のあるなしにかかわらず、いかなる保証もありません。CME Groupは、いかなる誤謬または脱漏があったとしても、一切の責任を負わないものとします。本資料には、CME Groupもしくはその役員、従業員、代理人が考案、認証、検証したものではない情報、または情報へのリンクが含まれている場合があります。CME Groupでは、そのような情報について一切の責任を負わず、またその正確性や完全性について保証するものではありません。CME Groupは、その情報またはリンク先の提供しているものが第三者の権利を侵害していないと保証しているわけではありません。本資料に外部サイトへのリンクが掲載されていた場合、CME Groupは、いかなる第三者も、あるいはそれらが提供するサービスおよび商品を推薦、推奨、承認、保証、紹介しているわけではありません。

CME Groupと「芝商所」は、CME Group, Inc.の商標です。地球儀ロゴ、E-mini、E-micro、Globex、CME、およびChicago Mercantile Exchangeは、Chicago Mercantile Exchange Inc.(CME)の商標です。CBOTおよびChicago Board of Tradeは、Board of Trade of the City of Chicago, Inc.(CBOT)の商標です。ClearportおよびNYMEXは、New York Mercantile Exchange, Inc.(NYMEX)の商標です。本資料は、その所有者から書面による承諾を得ない限り、改変、複製、検索システムへの保存、配信、複写、配布等による使用が禁止されています。

Dow Jonesは、Dow Jones Company, Inc.の商標です。その他すべての商標が、各所有者の資産となります。

本資料にある規則・要綱等に関するすべての記述は、CME、CBOTおよびNYMEXの公式規則に準拠するものであり、それらの規則が優先されます。 取引要綱に関する事項はすべて、現行規則を参照するようにしてください。

CME、CBOTおよびNYMEXは、シンガポールでは認定市場運営者として、また香港特別行政区(SAR)では自動取引サービスプロバイダーとして、それぞれ登録されています。ここに掲載した情報は、日本の金融商品取引法(法令番号:昭和二十三年法律二十五号およびその改正)に規定された外国金融商品市場に、もしくは外国金融商品市場での取引に向けられた清算サービスに、直接アクセスするためのものではないという認識で提供しています。CME Europe Limitedは、香港、シンガポール、日本を含むアジアのあらゆる裁判管轄で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けていませんし、また提供してもいません。CME Groupには、中華人民共和国もしくは台湾で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けている関連機関はありませんし、また提供してもいません。本資料は、韓国では金融投資サービスおよび資本市場法第9条5項並びに関連規則で、またオーストラリアでは2001年会社法(連邦法)並びに関連規則で、それぞれ定義されている「プロ投資家」だけに配布されるものであり、したがってその頒布には制限があります。

Copyright © 2016 CME Group and芝商所. All rights reserved.

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートの一覧は、こちらでご覧いただけます。