天然ガス:ラニーニャ発生を背景とする上昇・下落リスク

  • 25 Aug 2016
  • By Erik Norland

昨10月、天然ガス価格の上昇・下落リスクと題するレポートを公表し、以下のような結論に至った。

  • 天然ガス価格の弱気相場は、比較的すぐに終了する可能性がある。
  • 短期的には、特にエルニーニョにより米国北部とカナダが例年よりも暖冬になれば、天然ガス価格は引き続き下落圧力を受けかねない。
  • 天然ガスの先物とオプションは、2016年と2017年の価格高騰の可能性に関して、あまりに軽視され過ぎているかもしれない。
  • 天然ガスの供給は、天然ガスと原油の価格安による設備投資への影響を踏まえると、現在のペースで成長を続けることはできない可能性がある。
  • 天然ガスの長期の国内需要は、エルニーニョにより一時的に押し下げられたとしても、ほぼ確実に拡大傾向が続くと思われる。
  • LNGの輸出は、価格が低水準にとどまっているときのみ機能するが、米国の価格の下限が形成されそうだ。
  • 天然ガス価格が急上昇して、mmBtu当たり10ドル超を果たすというのは中心シナリオではないが、可能性を除外できない

過去10ヵ月において、これらの想定の多くは実現している。第一に、エルニーニョによる異例な暖冬により、天然ガスの価格は、1.61ドル/mmBtuと、1998~1999年の冬以来の安値水準まで押し下げられた。 3月に底値を付けて以来、天然ガス価格は、3.00ドル/ mmBtuとほぼ2倍に上昇した後、2.50ドルから3.00ドルのレンジ内に落ち着いている。 北米の大部分におけるエルニーニョ終息後の猛暑に起因する電力需要の高まりが価格反発の一因であるが、上述した要因とは異なる要因、つまり天然ガス生産量は減少基調にある、そしてエルニーニョ/ラニーニャのサイクルとは無関係の電力需要増の長期トレンドが存在することも影響している。 

そのため、天然ガス上昇の可能性は、数ヶ月前ほど圧倒的ではないと考えているものの、上昇を招く需給要因は、依然としてかなり多く根付いている。とはいえ、膨らみつつある在庫水準と、今後、北米の冬が発生しつつあるラニーニャが示唆するよりも寒くならない可能性を含め、下落リスクはいまだ残っている。

供給:成長なし

天然ガス価格の落ち込みと2014年終盤に本格化した近年の原油安局面が重なった数年を経て、天然ガス採掘への投資はほぼ干上がっており(図1)、むしろ米国の天然ガス生産量は、停滞に転じている。

図1:投資は、掘削リグ稼働数の急減を受けて投資は停滞状態

図2:天然ガスの生産量は小幅減といえども停滞し始めている

今春の天然ガスと原油の価格回復により、リグが少し再稼働したとはいえ、今夏これまでのところ価格は下落に転じており、米国の天然ガス生産量が伸び続けるかどうかは不明である。メキシコの投資解放により石油ガスセクターに対する海外からの投資が増加し、同国の生産量が押し上げられる余地はあるが、極めて大きな障壁が依然残っており、足元の価格を見ると、メキシコの産出量が今にも急増しようとしているとは考えにくい。(詳細については、「Mexico on the Cusp of an Energy Revolution」を参照)。需要の伸びが低迷した場合、生産量の停滞や減少は、今後の価格下落を意味するものの、需要の伸びの回復が持続する兆候が散見される。

需要:成長に向けた態勢は依然整っている

図3:天然ガスを燃料とする発電量は増え続けている

均衡の需要サイドについては、天然ガスを燃料とする発電は、引き続き増加している。住宅と商業向けの使用量は、 2015~2016年の暖冬で一般に落ち込んだが、特に今冬が例年よりも寒くなった場合には今年終盤におそらく回復するとみられる(図3)。

電力需要は、以下の2つの理由から増加し続ける可能性が高い。

  1. 石炭火力発電所は、2013年以降に新設されておらず、主たる代替先は天然ガス、風力、太陽光である(図 4)。
  2. 発電所については、天然ガスの設備利用率は上昇基調にあるが、石炭火力は低下基調をたどっている。必然的に、これは、天然ガス火力発電所の操業時間が初めて、石炭火力発電所よりも増えたことを意味する(図 5)。

基本的に、発電容量に対する天然ガスの構成比が上昇しているだけではなく、天然ガスの発電容量の高い構成比は、実際に用途にも現れている。

図4:天然ガスは、次世代の発電容量の最大の構成比を占めていた石炭の座を奪っている

図5:天然ガス火力発電所は現在、石炭より設備利用率が高い

図6:天然ガスの価格差は急激に縮小

Chenière Sabine Pass の施設は現在、天然ガスを積極的に輸出していることを踏まえると、カナダやメキシコに加えて、海外からの需要について新たなの道が開いている。Chenièreの容量は理論上、米国の日量生産量の約 2%となっているが、実際には稼働率は理論上の最大値をはるかに下回っている。天然ガスにとって短期的な悪材料は、米国と国際価格の差が急激に縮小していることである(図6)。 この差が逆方向に戻った場合、または施設の稼働開始が増えた場合、液化天然ガス(LNG)の輸出は、米国価格の下限になりかねない。他方、LNG輸出の可能性は、 米国の価格にごく穏やかな影響をもたらすに過ぎない見込みである。  

非弾力的であるが、高い在庫水準がバッファーになりえる

図7:在庫水準は上昇し続けているがペースは後退

天然ガスの需要と供給は共に、かなり非弾力的である。このため、需要と供給の変化が比較的小さいために、価格の振れが大きくなりうる。 たとえば、1999年2月にmmBtu 当たり1.60 ドル/だった天然ガス価格は、2000年10月に同10ドルへと上昇した。その後10年間は、mmBtu当たり2ドルから16ドルにレンジ内で推移していた。こうした規模での大幅な変動の余地が残っているものの、短期的に天然ガス市場のバッファーになりえる一つの要因は、在庫である。在庫水準は、季節調整後で記録的水準を保っており、在庫の前年比の変動率は上昇し続けている(図7)。

自己満足な価格形成

天然ガスの価格形成に関して注目に値することは、その自己満足ぶりである。 2017年10月限の天然ガス先物価格は、本稿の執筆時で2016年10月限をわずか40セント上回っているにすぎない。2018年10月限は、その2限月の中間で値付けされている。基本的に、天然ガス先物のフォワードカーブには、今後数年間の値動きの動向がほとんど反映されていない。おそらく、ガスの掘削リグが瞬く間に再稼働する可能性があり、これが米国の価格を抑えている要因であろう。また、高い在庫水準も減少するにはしばらく時間がかかりそうだがが、 ラニーニャが発生して冬を迎えれば急激に在庫が減る可能性がある。供給が停滞して需要の持続的な伸びを示す可能性が高いことを踏まえると、天然ガス先物のフォワードカーブにスティープなコンタンゴ(順ざや)が映し出されていないことは意外である。

図8:天然ガスのオプション価格は、ボラティリティの可能性を十分に織り込んでいるか?

また、オプション市場も、なぜか自己満足に浸っている。天然ガスのオプション・コストは、決して過去最低水準ではないが、オプション価格は、2015~16年のレンジの下限近辺で推移している。原油の場合は同じ状況ではなく、そのレンジの 中央から上限に向かっている(図8)。その理由の一つは、天然ガス価格が1.60ドルから2.50ドルを超える水準までに回復を遂げたことに関係している可能性がある。また、価格が高騰した場合にすぐに増える供給の前述の要因と高い在庫水準を背景に、オプションのインプライド・ボラティリティが抑制されるかもしれない。  

結論

  • 米国の天然ガス生産量は停滞しており、近い将来もその状態が続く可能性が高いとみられるが、実のところわずかに減少するかもしれない。
  • 発電向けを中心に、天然ガスの需要は米国とメキシコで伸び続けている。
  • LNGの輸出需要は、短期的に軟化する見込みであるが、長期的には潜在力がある。
  • 在庫水準は極端に高く、上昇の余地は限られているかもしれない。
  • 強力なラニーニャが発生すれば、例年よりも厳冬となり、在庫水準が激減する可能性がある。
  • 天然ガスの価格は、極めて無頓着になっており、フォワードカーブはフラットで、インプライド・ボラティリティは平均から平均を多少下回る水準で推移している。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

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