ラニーニャを背景とした農産物市場のボラティリティー上昇はあり得るか

  • 26 Jul 2016
  • By Erik Norland

2015年‐16年のエルニーニョは、その強度と言う意味で、過去最大だった1997年‐98年のものと同等だった。中央・東央太平洋の赤道付近では、最大で例年平均より摂氏2.3度も海水温が上昇したのである(図1)。ただ、2015年12月にこの水準に達した海水温はその後、低下に転じている。今年5月までに、海水温は例年平均を同0.7度上回る程度にまで低下し、7月までには、アメリカ大陸の太平洋側で、赤道に沿って、例年を下回る海水温域が発生するに至っている(図2)。したがって、現在の最大の懸念は、収束したエルニーニョは強度のラニーニャに変わろうとしているのか、という事になる。ラニーニャは、米国とカナダの国境付近に寒冷・高湿な天候を、そして米国南部には温暖・乾燥をもたらすのを始め、世界各地の天候パターンに影響を与える。また、先のラニーニャの下では、穀物価格が乱高下するなど、農産物市場は荒れた展開となった。例外的に高いボラティリティーの下で、相場の多くが下落したのである。 

ラニーニョは市場に、大きなリスクをもたらす。過去3回のエルニーニョはいずれも、例年を摂氏2度、またはそれ以上上回り、いずれも収束後2年以内に、場合によっては(1972年‐73年)たった6ヶ月で、ラニーニャに転じている。 

図1:先のエルニーニョは1997年‐98年のものに匹敵する強度となったが、急速に収束している

図2: 例年よりも低温の海水域が中央・東央太平洋の赤道付近に発生している

1959年以来、世界では強度のラニーニャが8回、エルニーニョが12回、発生している。このレポートでは、「強度の」と言う場合、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の気象予報センターが発表するエルニーニョ指数(ONI)において、例年水温を摂氏1度、またはそれ以上下回る状態をラニーニャの、そして同1度、またはそれ以上上回る状態をエルニーニョの定義とする。

図3: このレポートの定義に基づく「強度」のエルニーニョ(過去12回)とラニーニャ(過去8回)における、農産物の平均的なスポット価格(インフレ調整済み)の変化は明確に、エルニーニョを背景に穀物価格が上昇する傾向、そして、ラニーニャを背景に下落する傾向を示している。他の農産物に比べて、大豆製品(豆、油、粕)はエルニーニョにより強く反応する傾向がある。 

しかしながら、過去8回においては、それぞれのラニーニャで、農産物毎に、市場価格の反応が大きく異なっているのも事実である。ただ、これに関する背景は、いくつか考察することができる。例えば、同様のラニーニャは2つと無い、という事である。ラニーニャはそれぞれに、強度や発生期間が異なる。また、世界の各穀物生産地において、それぞれのラニーニャが影響し得る気温や降雨にはばらつきがある。さらに、ラニーニャが発生した際の経済状況は、それぞれに特異なものだったことも指摘できる。例えば直近の2010年に発生したラニーニャの場合、米中銀のFRBは当時、ゼロ金利政策とQE(量的緩和)を導入したばかりだった。そして、2009年から2010年にかけて、商品価格や株価は暴騰している。ラニーニャの影響があったとしても、農産物価格の多くは、こうした市場環境の波に乗ったのである。 

図3: エルニーニョ/ラニーニャが上下摂氏1度の限界を超えた後の実質スポット価格(12

図4: 結果にはラニーニャ毎に大きな違いが見られる

ラニーニャはエルニーニョに続いて発生すると言う観点からは、ONIが例年水温を摂氏1度下回り、ラニーニャ発生から12か月の間に市場価格が下落するのは、単に、直前のエルニーニョによって上昇した相場の反落局面に過ぎない、とも考えられる。また、この見方は、農産物市場の更なる下落を危惧している向きには、福音に聞こえるかもしれない。実際、農産物市場の多くは既に、安値圏での推移となっている。大豆や大豆粕を除けば、農産物価格の多くは、直近のエルニーニョによって大きく上昇することはなかったのである。これについては、先のリポート(2015~2016年のエルニーニョを振り返る)を参照されたい

平均価格の下落傾向に加えて、ラニーニャの影響を受けた市場については、例外的に高い価格ボラティリティーも指摘される。ラニーニャの発生期間における実現ボラティリティーは、通常期間に比べて、またエルニーニョ期間中のトウモロコシや小麦などの価格動向に比べて、平均でおよそ1.5倍にもなっている。もちろん、この例においても、それぞれのラニーニャがもたらすボラティリティーの程度はそれぞれ、と言う結果は同様である。一般に、(ONIのマイナス値が高いなど)ラニーニャが強度であればあるほど、農産物市場のボラティリティーは高まる傾向にある(図5~10)。 

図5: トウモロコシ市場では、ラニーニャを背景に、ボラティリティーが例外的に高くなる

図6:強度のラニーニャを背景に、トウモロコシ市場の実現ボラティリティーは高まる傾向にある

図7:ラニーニャの発生期間においては大豆市場で、ボラティリティーが例外的な水準に高まる傾向がある

図8: 強度のラニーニャを背景に、大豆市場のボラティリティーは例外的な水準に達する傾向がある

図9: ラニーニャの発生期間においては小麦市場でも、ボラティリティーが例外的な水準に高まる傾向がある

図10: ラニーニャが強度であればあるほど、小麦市場の実現ボラティリティーが例外的な高水準に達する傾向も強くなる。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

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