ラニーニャに農産物市場は嵐の前の静けさか?

トウモロコシ・大豆・小麦市場は、実に奇妙な組み合わせを目の当たりにしている。ラニーニャと極めて低いオプション・インプライド・ボラティリティが併存しているのだ(図1と図2)。これは非常に珍しいといえる。過去8回あったラニーニャ期のほとんどで、トウモロコシ・大豆・小麦市場は通常の約1.3〜1.5倍となる極めて高いボラティリティを何度も経験しているからだ(図3、図4、図5)。したがって、疑問に思う人もいるだろう――「迫りくる危機に対して市場は、どうして無頓着なのだろうか?」。

図1 トウモロコシと小麦のボラティリティは低いまま

図2 大豆商品のボラティリティも歴史的な低さ

図3 ラニーニャ期にトウモロコシのボラティリティは異常な高水準となることが多い

図4 大豆のボラティリティはラニーニャ期に異常に高くなる傾向がある

しかし、この疑問について説明するのは、2つの理由から非常に難しい。ひとつは、今回のラニーニャが、どれだけ激化していくか分からないからだ。もうひとつは、この数十年で農業生産の世界地図が大きく変化したからである。南米が米国に代わってトウモロコシと大豆の一大輸出地域となった。また、ロシアとウクライナが米国を抜いて主要小麦輸出国になった。つまり、米国が支配的な輸出国であると多くの市場参加者からみなされていた過去8回のラニーニャ期における相場の反応を、今回と結びつけるのは適当とはいえないかもしれないのだ。いいかえれば、かつてほど今回のラニーニャを農産物市場は弱気要因とみていないのかもしれない。

図5 小麦のボラティリティもラニーニャ期に異常に高くなる傾向がある

では、今回のラニーニャ期をどれだけ真剣にとらえるべきか。11月末までに太平洋赤道域の東部から中部にかけての海面水温は長期平均を0.9° C下回っている。以降は、さらに低下しているようにみえる。基準値-1° Cの閾値を割れば、私たちが「大規模」と認定するラニーニャに完全に相当する(図6)。とはいえ、現時点では史上最も穏やかなラニーニャに入りそうだ。これまでラニーニャがあったときは、その程度にほぼ比例して農産物市場のボラティリティに影響があった。穏やかなラニーニャは穏やかなボラティリティをもたらし、激しいラニーニャは得てして高いボラティリティをもたらしてきた(図7、図8、図9)。したがって、現在のラニーニャが著しく発達しない限り、最悪の(激動の)事態を恐れる理由は、ほとんどなさそうだ。

図6 直近のエルニーニョは1997~98年の水準に匹敵しており、急速に収束した

図7 ラニーニャの程度が激しいほど、トウモロコシの実現ボラティリティは高水準になりやすい

図8 ラニーニャの程度が激しいほど、大豆のボラティリティは異常な高水準となりやすい

図9 ラニーニャの程度が激しいほど、小麦の実現ボラティリティは異常な高さとなりやすい

現在ラニーニャがどこに向かっているか理解するため、米海洋大気庁(NOAA)の海面水温偏差図を確認できる。今のところ、赤道周辺の海面は冷たくなっているものの、カリフォルニア州沖合の北側の海ではそうなっていない(図10)。これは、米西海岸沖の何千マイルにもわたる太平洋の大半で海面水温が低下した2010年ラニーニャの規模とは大きく異なる(図11)。

図10 2018年2月5日現在のラニーニャ

図11 前回の激しいラニーニャで一番冷え込んだ2010年11月15日

1959年以降、世界では大規模なもので8回のラニーニャと12回のエルニーニョがあった。図12は、過去12回のエルニーニョと過去8回のラニーニャで上下1°Cの重要閾値に達してから12カ月間、農産物スポット価格(インフレ調整済)に平均して何が起こったかを示している。結果は明らかだ。エルニーニョは穀物相場の強気要因になりやすいのに対し、ラニーニャは弱気要因となりやすい。CMEとCBOTに上場する農産物のなかでも、ひときわエルニーニョとラニーニャに強く反応しやすいようにみえるのが、大豆製品(大豆油と大豆ミール)だ。

ただし、留意すべき点がある。過去8回のラニーニャを個別に見ると、また商品によっても、相場の反応に大きな差があると分かる。これを説明できる理由はいくつかある。まず挙げられるのが、ひとつとして同じラニーニャがないことだ。それぞれ程度が異なり、発生期間が独特だった。次に、ラニーニャによって世界各地の穀物生産地域の気温や降水量に与える影響が違ったことである。しかも、ラニーニャによって発生したときの経済事情が違った。例えば、前回ラニーニャが発生した2010年は、米連邦準備理事会(FRB)が(ほぼ)ゼロ金利政策と量的緩和策を導入したときだった。コモディティ(商品)価格と株価は2009~10年に急騰し、ほとんどの農産物価格が押し上げられた。たとえラニーニャの弱材料があったとしても、ものともしなかったのだ。

図12 エルニーニョやラニーニャが1℃の閾値超えをしてから12カ月の実質スポット価格平均変化率

図13 ラニーニャによって結果に大きな差がある

Change in Inflation Adjusted Spot Prices for 12 Months After a La Niña Passes -1°C Threshold
La Niña Episode Beginning In Corn Wheat Soybeans Soybean Oil Soybean Meal Rough Rice Live Cattle Feeder Cattle Lean Hogs Dairy
1: January 1971 -28.3% -5.7% -0.9%              
2: August 1973 6.7% -18.6% -22.1%       -28.5% -65.6%    
3: July 1975 -6.5% -14.2% 7.9%       -20.5% 17.5%    
4: December 1984 -10.7% -4.4% -15.6% -26.2%     -8.7% -7.7%    
5: June 1988 -15.5% -0.3% -31.3% -34.4%     -2.1% 8.9%    
6: September1988 1.1% 3.7% -8.7% -39.3% 10.1% -49.0% 8.6% 14.8% 10.5% -1.8%
7: October 2007 8.7% -45.2% -11.0% -14.3% -8.9% 26.8% -9.0% -14.0% -1.4% -16.8%
8: August 2010 10.8% -13.4% 0.3% 4.4% -5.8% 14.3% 17.5% 24.6% 19.7% 4.2%
Average -4.2% -12.3% -10.2% -22.0% -1.5% -2.6% -6.1% -3.1% 9.6% -4.8%
Source: NOAA, National Weather Service, Bloomberg Professional (C 1, W 1, S 1, BO1, SM1, RR1, 
LC1, FC1, LH1 and DA1, CPI INDX), Calculations Done by CME Group Economic Research

2010年ラニーニャ期における強気相場はまた、農業生産の世界地図が変化したことにも関係がありそうだ。南米がかつてなく巨大なトウモロコシ・大豆の生産地となった。そして、ラニーニャには、北米では理想的な生育条件に寄与する一方で、南米では天候悪化を引き起こす可能性がある。つまり、世界的穀物価格にとっては弱気よりも、むしろ実際には強気要因になる可能性があるのだ。

要点:

  • これまでラニーニャは穀物価格の弱気要因となることが多かった。しかし、それぞれの回によって市場の反応には大きな差が見られる。
  • 穀物価格はすでにかなり下げており、ラニーニャが発達したとしても、さらに値を下げる保証はない。
  • 南米のトウモロコシ・大豆生産ブームは、ラニーニャが北米の生産にもたらす好影響を相殺するどころか無効にする可能性がある。
  • ロシアとウクライナの小麦生産ブームも、ラニーニャが秘める影響力をいくらか弱め、市場を安定させるかもしれない。
  • ラニーニャには、農産物市場の異常に高い水準のボラティリティと相関する傾向がある。そのボラティリティは、エルニーニョ期と中立期(海洋ニーニョ指数=ONIが季節的標準温度の上下1℃間にあるとき)の実現ボラティリティをはるかに上回る。
  • 概してラニーニャが激しいほど、農産物市場のボラティリティは増加する。
  • オプション市場はラニーニャに無頓着なように見える。通常時よりも低い値付けをしており、ましてや異常なボラティリティなど考慮されていない。

 

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本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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